月に吠える   作:光政

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ボツにした2話の一部から引っ張ったのでやや短いです。


17話 日々のかけら

「後悔したことってある?」

 

 澤村に先日のお礼にと誘われて喫茶店に来ていた俺は突然そう言われて言葉に詰まる。さっきまで笑っていた顔だったのに今は真顔で悪いことをしたわけではないのにバツが悪い気持ちになる。

 

「あるよ、澤村は?」

 

「あるわよ」

 

「突然どうした?」

 

「……時々夢に見るのよ」

 

 そう言って澤村は窓の外を見てから視線を紅茶の入ったカップに落とす。

 

「いつも同じ夢なのよ。まるでお前はその出来事を忘れたらダメだって言われてるみたい」

 

「……」

 

「小学生のときってさ、男の子と女の子が仲良くしてたら冷やかしってあったじゃない?」

 

「あったな、バカじゃないかって思ってたよ」

 

「私もそう思う。でもあのときの私は……ううん、今でもそう、その周りの視線に耐えられなくて逃げたの。相手の男の子のことは見て見ぬ振りをして」

 

「それを今でも夢で見るのか?」

 

「ええ。みんなに後ろ指差されて、バカにされて……そして自分だけ一般人に溶け込んで。その男の子は私のことを恨んでいて。そんな夢よ」

 

「それは……澤村の実体験か?」

 

「おおむね合ってるわよ、その男の子が今何を考えているのか……それが一番怖い」

 

 自分も同じように姫野の夢をたまに見るので澤村の気持ちが痛いほどわかった。

 

「澤村はどうしたいんだ?」

 

「……謝りたい。でも関係が壊れるとか色々考えて、結局何も出来ないでいるっていうのが現状ね。全部自分が悪いのに結局自分のことを考えている……本当嫌になるわ」

 

「全部澤村が悪いってわけではないでしょ。それに小学生の頃の話だろ? 正しい行動が何かはわからないけど……自己防衛で行動したようなものだろ」

 

「それでも倫……男の子を一人にしてしまった、その事実は変わらないわ」

 

 この話を聞いて俺はどうするべきだろうか。ただ相づちを打って同調すればいいというものではないというのは明らかだった。

 

「話したくないのならいいんだけど……須藤の後悔してることってどういうの?」

 

「……好きな子がいたんだよ。小学生のときに」

 

「うん」

 

 俺は加藤に話した内容を澤村にそのまま話した。終始相づちを打ちながら真面目な顔をして、自分のことのように聞いていた。

 

「──っていうのが俺の話だ。今でも思うよ、何で無理に遊びに誘ってしまったんだって」

 

「須藤は……今でもその子のことが好きなの?」

 

「好き……とは違うかもしれない。けど姫野に対して何らか思うところはある」

 

「そう……お互い大変ね」

 

 テーブルの上の紅茶を口にし少し考える。澤村のこと、そして姫野のこと。

 

「倫也から何か言われたのか?」

 

「……どうして倫也なの?」

 

「さっき名前を言いかけたってのと澤村が悩むことっていったらあいつくらいかなって」

 

「……別に何を言われたわけではないわ。ただ今朝夢で見たのよ」

 

「そっか」

 

「ゲーム作ろうって誘われて嬉しかったな……、アニメとかの貸し借りとかはしていたけどあの日以来まともに話していなかったから」

 

「うん」

 

「今さら謝っても遅いよね、それに恨まれてるだろうし……この関係も終わっちゃう」

 

「倫也に言ってみたらどうだ?」

 

「簡単に言わないでよ」

 

「そうしないと進展も何もなく負い目を感じたままだぞ?」

 

「でも今の関係が壊れたら──」

 

「壊れたっていいんだよ、また関係を築けば。ダメだったら俺も手伝うから」

 

「ダメって決めつけないでよ。……だけどそうね、打ち明けなきゃ何も始まらないわよね」

 

「倫也だから大丈夫だろ。いやわからんけど」

 

「そこは大丈夫って言い切ってよ」

 

 そう言いながら澤村は笑った。その笑顔は俺が今まで見てきた中で一番のものだった。

 

 

 ──

 

 後日澤村からメッセージでピースサインの絵文字が送られてきた。どういうことだよと聞くと多少の言い合いにはなったものの無事に和解が出来たとのことだった。

 澤村の報告に背中を押されたような感覚を覚えつつ、よかったなとだけ送り携帯を閉じベッドに横になる。

 目を閉じていると携帯が震えたので手探りで引き寄せて確認すると加藤からのメッセージだった。

 

『月曜日までの宿題って何だったかな?』

 

『英語のワークだけじゃない?』

 

『そうだった、ありがとう』

『今何かしてた?』

 

『ベッドに横になって目を閉じてた』

 

『もしかして寝るところだった?』

 

『いやボーッとしてただけ』

『加藤は何してたの?』

 

『お風呂上がって色々と手入れしてる』

 

『へぇー』

『女子って大変だよね、化粧水して乳液やらなんやら』

 

『菜緒ちゃんいるから知ってるんだもんね』

 

『でも保湿って大事だよな』

『俺も化粧水だけはしてるし』

 

『そうなんだ』

『美肌男子って増えてるもんね』

 

『美肌ではないと思うけど』

 

『肌に気を遣ってる男子のことだよ』

 

『ああ、そういうこと』

 

 返信を待っていると突然加藤から電話がかかってきたので通話ボタンを押す。

 

「絶対間違えて押しちゃったやつだよね」

 

「あ、やっぱりわかる?」

 

「脈絡無さすぎたし一発でわかったよ」

 

「そっか~」

 

「間違えた割には落ち着き過ぎな気がするけど」

 

「そうかな? いつも通りだよ」

 

「いつも通り過ぎるんだよなぁ。まあメッセージ打つより話したほうが楽だしいいけど」

 

「そういえば英梨々が言ってたよ。須藤君に相談してよかったって」

 

「女子の連絡網ってすごいな、ていうかいつの間にそんな仲良くなったの?」

 

「色々とあってね」

 

「電話してるけど肌のお手入れとかは終わったのか?」

 

「うん、ばっちし」

 

「それはようござんした」

 

「その言い方おじさんぽいね」

 

「まじで? 家で結構使ってるよ」

 

「どんな時に使うの?」

 

「菜緒とかと適当な会話してるときかな」

 

「そうなんだ。菜緒ちゃんは元気?」

 

「それなりにね、受験生だけど頭いいから大丈夫だろうし」

 

「そっか」

 

「家での服装ってやっぱりシャツとかラフな感じ?」

 

「そうだね、今もそうだよ」

 

「どこの家も同じなのかな? 菜緒もそうだし」

 

「どうなんだろ? 須藤君はどんな格好なの?」

 

「灰色のスウェットだな。冬は上下それで怠惰に過ごしてるよ」

 

「ビデオ通話にして見たいな」

 

「見たところで何もないぞ? あと部屋汚れてるし」

 

「菜緒ちゃんから綺麗好きって聞いてるよ?」

 

「俺にプライバシーはないのか。実際は特に散らかってはいないけど恥ずかしいからやめとく」

 

「そっかぁ、残念」

 

「加藤も見せてくれるならいいよ」

 

「え~それこそ恥ずかしいからダメ」

 

「だろ?」

 

「そういえば球技大会の打ち上げ兼テストお疲れさま会行くの?」

 

「いや行かないよ。加藤は?」

 

「行こうかなってちょっと考えてたけどやめとくかな~、須藤君もいないし」

 

「もったいないし行きなよ、せっかくの集いなんだし」

 

「うーん……須藤君が行くなら行こうかな?」

 

「……じゃあ行くか」

 

「えっいいの?」

 

「俺が行くなら来るんでしょ? 一緒に出ようぜ」

 

「……ありがと、楽しみにしてるね」

 

「あーでもどうせカラオケで駄弁ったりとかだし何となく面倒くさいな」

 

「そんなこと言わずにさ、ね?」

 

「まあ言ってしまった以上は出るけどさ。……そうだ、途中で抜けてどこか行くってのは?」

 

「えっ?」

 

「いや加藤さえよければだけど、たぶんクリスマスの時と一緒で基本加藤と話してるだろうしどこか行っても変わらないかなって」

 

「行く行く、集まりには一時間くらい出ればいいよね」

 

「めっちゃ乗り気だな」

 

「そりゃあね」

 

「行きたいところとかある?」

 

「うーん……色々調べてみるね」

 

「来週の土曜だからそんな急がなくてもいいよ」

 

「須藤君も何か考えてね」

 

「あっ雑貨屋行きたい。リードディフューザーの液なくなりそうだし」

 

「あの高いやつをまた買うの?」

 

「そうそう……って何で加藤が知ってる?」

 

「あー……前に話してくれなかったっけ?」

 

「いや話してない気が……会話の内容結構覚えてるし」

 

「もうこんな時間だね、お肌に悪いし寝ようかな」

 

「このタイミングでそれを言うのか」

 

「それじゃあ雑貨屋さんの他に行くところ考えておくね。おやすみ」

 

「おやすみ」

 

 そう言って加藤は通話を切る。おそらく前に家に来たときに俺の部屋を見たのだろう。部屋に入ったこと自体は全然構わないけれど机の上に加藤とのツーショット写真を飾っていたのを見られたとしたら相当に恥ずかしい。

 とりあえず菜緒が先導して部屋を案内したのは確実なのでコーヒーでも飲ませて夜寝れなくしてやろうかなと俺は小さく笑った。

 

 

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