「あんた霞ヶ丘詩羽に何か吹き込んだでしょ」
「俺が? なんで?」
「なんでって……サークルでの様子を見たらわかるでしょ」
「ああ、今までと倫也に対するアプローチが変わったよな」
先日に俺との会話があったおかげか、2学期からの先輩の倫也への対応がガラリと変わった。
直接的、もっと言うならば肉体的なアプローチはあるものの、手と手が思いがけず触れてしまい、赤面するなどのいじらしさを出してくるようになった。たぶんあれは演技などではなく先輩の素なんだろうなと先日の会話を振り返り思う。
「それがどうして俺のせいになるんだよ」
「あんただけ驚いた様子もなく普通に過ごしているからよ」
「ポーカーフェイスなんだよ。知らなかった?」
「本当にポーカーフェイスだったら恵と話すときに表情が柔らかくなるはずないじゃない。他の人と話すときとは全然違うわよ」
「えっそんなに違う?」
「少なくとも私は気が付いたわよ。雰囲気が何となく違うわ」
「まあ……そうかもな」
「一旦それは置いておくとして霞ヶ丘詩羽の件は私が考えている通りで間違いないわね」
「吹き込んだというよりは先輩が勝手に変わったというか……」
「やっぱりあんたなんじゃない」
地団駄を踏むように澤村は憤慨した。
「いやでもさ、俺悪くないよ? というか誰も悪くないよ?」
「そうだけど、だとしたら私のこの行き場のない気持ちはどこに吐き出せばいいのよ」
「元々一歩リードしてたんだし、これでイーブンだろ」
「リードしてたなんてこれっぽっちも思ってないし、何なら今まさにリードされてるんですけど」
「たぶん先輩もリードしてるなんて思ってないと思うけど。だから必死なんでしょ」
「そんなの……わかってるわよ」
「というか何で買い物に付いて来てるの? 俺はそっちの方が気になるんだけど」
「だって恵に渡すプレゼントについて聞いてきたじゃない」
もうじきやってくる加藤の誕生日のためにプレゼントを用意しようと思ったが、何がいいかよくわからなかったので澤村に聞いたのが間違いだったろうか。
「たしかに聞いたけど付いてくるなんて思わないじゃん」
「私も恵にプレゼントを買おうと思ってて色々と見たかったのよ。それに失敗したくないでしょ?」
全部わかっているという風なにやけ顔で顔を覗き込んでくる澤村に俺は敵わないなと溜め息をつきそうになる。
「直に見て色々と判断してあげるから。といってもそれほど心配はしていないんだけど」
「どうして?」
「恵がよく被っているベレー帽、あんたが選んだんでしょ?」
「そうだけど……なんで知ってんの?」
「恵が言っていたからよ」
「その他には何か言ってなかった? お気に入りだとかなんとか」
「秘密」
「そうか」
俺が去年渡したのをよく身に付けているので気に入ってもらえているとは思うが……。
「それにあんたオシャレだしね」
「親が服を選んでるのに見る目はあるんだな」
「あんた殴られたいの?」
「あはは、ごめんごめん。頼りにしてるよ」
澤村はまったくと言いながらショッピングモールの案内図を見始める。
「どういうのを渡したいかは決まってるの?」
「安過ぎず、高過ぎず。身の丈にあったもの」
「値段以外は決まっていないってことね」
「そういうこと」
「そうね……アクセサリなんてどう?」
「ネックレスとかブレスレット?」
「そうそう。宝石が埋め込まれてたり、よっぽどなブランドものでもない限り高くならいし」
「たしかに。でも今澤村がつけているやつは絶対高いだろ」
「たぶんそれなりにね。ママが買ってくるから自分でもあまりわかってないの」
「今度加藤と一緒にショッピングに行ったら? 澤村より服について詳しいしコーディネートしてくれるだろ」
「今着ている服がまさに恵が選んでくれたやつなんだけど」
「やっぱりな。通りでオシャレだと思った」
「あんた適当に喋ってるでしょ。ていうかそう思ったなら今日最初に会ったときに言いなさいよ」
「俺にそういうことは求めるな」
「私にはともかく恵にはちゃんとしなさいよ」
「……わかってるよ」
目的の雑貨屋に着くと季節の変わり目だからか夏物がセールで何割か引かれていたので思わず見てしまう。来年の夏に備えて買うのもありだな。
「ほらほら先にプレゼント選ぶわよ。それから自分の買い物をしたほうが楽だし」
「澤村は俺のお母さんか」
「時間は限られてるんだし、善は急げって言うでしょ?」
「それはその通りだけど。勝手に付いてきている人に言われるのは釈然としないな」
いいからいいからと澤村に背中を押されつつ売場に向かう。心なしか楽しそうに見えて、六天馬モールに行ったときとは全然違うなと笑みが溢れる。
「結構リーズナブルな値段ね」
「よかった。金銭感覚は麻痺していないみたいで」
「あんたやっぱり喧嘩売ってるでしょ」
「澤村相手だとそこまで気を使わなくていいから楽なんだよ」
「ふーん。じゃあそういうことにしといてあげる」
学校でのお嬢様のような振る舞いより、サークル活動のときなどの方が魅力的に見えるのを本人はわかっているのだろうか。
「あ……これ」
丁寧に見やすく並べられたアクセサリの中でひとつだけ目が留まるものがあった。
「へぇ~、ネックレスにもブレスレットにもなるんだ」
「これ、いいな」
「シンプルでどんな服装にも合わせやすそうだしいいと思うわよ」
「じゃあこれにするよ」
「他のお店も見なくて大丈夫?」
「いや、これ以上の物はない気がするし大丈夫」
これだけが唯一加藤が身に付けているのを想像できた。ただの直感で選んだ物だけど澤村のお墨付きだし、たぶん大丈夫だろう。
目当ての物も買えたので店を出る。腕を伸ばして、それに続くように体全体を伸ばす。
「俺は目当ての物も買えたし特に用もないんだけど、澤村は?」
「私も付いてきただけだし何もないわよ。強いて言えば家に帰ってゲームのイラストを描かなきゃいけないくらいね」
「そうか。じゃあこれ」
「なにこれ?」
「お礼。もっと言うとレジの前に売っていたハンカチ」
「私はなにもしてないわよ。プレゼントだって須藤が自分で選んでたじゃない」
「店を決めたのは澤村だし……、俺がお礼したいんだよ。それじゃダメか?」
「じゃあ素直に受け取っておくわ。ありがとう」
「こちらこそありがとう。何か相談があったら聞くよ」
「だったら聞きたいことがあるんだけどいい?」
「俺に答えられることなら」
「恵の誕生日に告白するの?」
澤村の言葉に心臓が大きく打つのを感じた。そして俺は静かに、決意を固めるように口を開く。
「うん。そうだよ」
「でもさ、想いを伝えて関係が終わったらどうしようとか考えない? 怖くないの?」
「怖くないって言ったら嘘になるけど、それ以上に加藤のことが好きだから」
「でも突然どうして……」
「たぶんずっと好きだったんだよ。キッカケというか……ふとした瞬間に好きだなって思って」
「そうなんだ……」
「俺にあげられるものなんて心くらいしかないから、加藤に渡そうと思ったんだよ」
「そっか。──恵にもちゃんと伝えてあげてね」
「当たり前だろ。そのためにはまず加藤を誘わないとな」
*
「──とは言ったものの……」
いつも通り加藤と帰っているがいまだに切り出せないでいる。
「ねえ? 聞いてる?」
「ん? うん、ちゃんと聞いてるよ」
聞いてはいるが頭にあまり入ってこないというのが正直なところだった。
話の話題が終わったからか少し間が空いた。言うならば今しかないと思い、意を決して口を開く。
「あのさ」
「なに?」
心臓の音が加藤に聞こえているのではないかと思うほどに強く打っている。
「今月の23日って空いてる?」
「……うん。空いてるよ」
「その日、一緒にどこか行かない?」
「……何の日かわかってるの?」
「うん。加藤の誕生日だろ」
「その日に誘う意味って何かあるの? 期待していいの?」
「意味はある。期待は……してもいいけど、され過ぎるとプレッシャーになるのでほどほどに……って感じで」
「ふふっ、なにそれ」
加藤が笑ったおかげで心がほぐれるのを感じる。それと同時にやっぱり好きだなと思った。
「楽しみにしてるね。何が何でも行くよ」
「よかった。断られたらどうしようかと思ったよ」
長く溢れそうになる溜め息をグッと堪える。
恋をすると女の子は綺麗になるって言うけど……男はダメだな。カッコ悪いばかりだ。
LoLのランクでキリの良いところまでいったので執筆時間が確保できました。