月に吠える   作:光政

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26話 ボタン

「今日はここら辺で切り上げてどこかに行かない?」

 

 放課後、倫也がそう言うと4人は一斉に言葉を発した本人に注目する。

 

「倫理君、今なんて?」

 

「だからどこかに行かないかって」

 

「倫也、あんた進捗状況をわかって言ってるの?」

 

「たしかに若干の遅れはあるけど……根詰めて作業を進めてクオリティが落ちたら元も子もないだろ?」

 

「遅れている原因が何を言ってるんだか」

 

「グハッ」

 

 英梨々に即座に言い返されてリアクションをとる倫也を見て須藤は苦笑する。

 

「まあでも倫也が言うことには一理あるよ。学園祭の準備と平行してゲーム作りをやってるわけだし早めに切り上げるのはいいんじゃない?」

 

「そうね、確かに一理あるわ。それで倫理君はどこに行くつもりなのかしら?」

 

「そうだなぁ……マックとか」

 

「ありきたりだし、人が多いし嫌よ」

 

「じゃ、じゃあ喫茶店で駄弁るのは……」

 

「駄弁るなら場所変えなくてもいいんじゃない?」

 

「じゃ、じゃあ──」

 

「安芸君って遊びのというか出かけるレパートリー少ないよね~」

 

「やめろ加藤、言ってやるな」

 

「やめてくれ二人とも、その口撃は俺に効く」

 

「でもこのメンバー全員で放課後に出かけるとかあんまりないし……ありきたりもいいんじゃない?」

 

「……そうね、須藤君の言う通りだわ」

 

「そうよね、友達がいないボッチの誰かさんは放課後に寄り道なんてしたことないものね」

 

「あら澤村さん? 突然自己紹介なんてしてどうしたの?」

 

「あんたに言ったのよ!」

 

「ねえ待って? どうせみんな行くつもりなら俺のことディスる必要あった?」

 

「いつも通りだしいいんじゃない? 嫌よ嫌よも好きのうちって言うし」

 

「それで結局どこに行くの?」

 

「駅のショッピングモールをぶらつくのでいいんじゃない? ゲーセンもあるしマックもあるし」

 

「じゃあそれで。須藤が遊園地と言い張る施設もあるしね」

 

「いやいや言い張ってはいないから。ただお化け屋敷と観覧車っていう二つの組み合わせはもはや……──」

 

「それ言い張ってるよね?」

 

 

 ──

 

 

「そういえば恵のクラスの学園祭の出し物は何?」

 

「私達のクラスはコスプレ喫茶だよ」

 

「へぇ~そうなんだ」

 

「倫也と俺たちは同じクラスだよな?」

 

「ゲーム制作の進捗とかタイムスケジュール組み直したりでホームルームの時間の記憶がない」

 

「あーそういうこと。倫也はたしか小道具班? だかだったからちゃんと働けよ。ていってもそんなに仕事はなかったはずだけど」

 

「英梨々のところは?」

 

「占いの館よ」

 

「タロットとか?」

 

「うん。だから私のところも内装を作る以外やることがほとんどないから暇なのよ。準備の時間は占いの練習して時間を潰してるわ」

 

「詩羽先輩のところは?」

 

「知らないわ。寝てたから」

 

 そう言い切る詩羽を見て、4人は相変わらずだなと溜め息混じりに笑う。

 

「そういえばみんなは買いたいものとか見たいところはあるの?」

 

「男性陣は特になーし」

 

「勝手に決めるなよ」

 

「じゃあ倫也はどこかあるの?」

 

「いやないけど」

 

「やっぱり」

 

「今やっぱりって言った! オタハラだ!」

 

「何だその造語」

 

「俺がオタクだからってお洒落なところや遊ぶ場所を知らないって言いたいんだろ」

 

「いやいや倫也はオタクとか関係なくそういうの詳しくないだろ」

 

「なんだ、オタクをバカにしたわけじゃなかったのか」

 

「倫理君自体を貶してるから尚のこと悪いと思うのだけれど」

 

「いやー実際詳しくないから反論できないんだよ」

 

「オタクはお洒落じゃないっていうなら霞ヶ丘先輩か澤村を引き合いにだせば論破できるしな」

 

「須藤君、私は?」

 

「ん? 加藤は普通にお洒落だよ。てかオタクじゃないし」

 

「須藤、俺は?」

 

「何でそこで張り合ってくるんだよ。無難かな、強いて言えば服の色が鈍い」

 

「うーん……そう言われてもわからないなぁ」

 

「じゃあこの後は倫也を着せ替え人形にするっていうのはどう?」

 

「あら澤村さんにしては良い意見ね」

 

「磨けば光るところありそうだしな」

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

「別に予定があったわけじゃないんだしいいんじゃない?」

 

「加藤まで乗ってきちゃったよ」

 

「氷堂も近くにいるらしいし呼ぼうぜ」

 

「美智留も来るのか……」

 

 自分がどうなるか予想がついた倫也は深く溜め息をついたがその顔は態度とは裏腹に明るいものだった。

 

 

 *

 

 

「それでトモは着せ替え人形にされたってわけね」

 

 遅れて合流した美智留は倫也が持っている紙袋を見て納得したように頷いた。

 

「トモがそんなお洒落な店の紙袋を持つなんてちょっと前までは考えられなかったなー」

 

「失礼な、俺だって持つときは持つぞ」

 

「嘘だー、自分で選んで買った服なんて数えるくらいしかないのに」

 

「誰かが買ったお土産をこの店の紙袋に入れたときとか」

 

「結局買ってないよね? それで誰のが一番良くて買ったの?」

 

「それは──」

 

「もちろん俺だ」

 

「須藤君めっちゃドヤ顔じゃん。もちろんって言うからには勝算あったんだ?」

 

「勝算も何も加藤以外の女性陣が遊びに走ってたから」

 

「あーなるほどね。でも加藤ちゃんに勝つなんてやるじゃん」

 

 そう言って美智留は須藤を肘で小突くがすぐに何かを思い出したかのようにやめた。

 

「あんまり距離近いと加藤ちゃんのこと怒らせちゃうかもね」

 

「何で加藤が怒るんだ?」

 

「「「え」」」

 

「え? なに? 何で俺こんなに見られてるの?」

 

「安芸君に言ってなかったの?」

 

「いや、あれだけ学校中に広まってるんだから知ってるはずだよなって」

 

「甘いわ須藤君、倫理君がいかに普通じゃないのかを理解してないわね」

 

「そうよ。倫也は現実よりもアニメキャラのカップリングの方が大事なんだから」

 

「いや二人ともひどくない!? それでどういうこと?」

 

「俺と加藤付き合ってるんだよ」

 

「えー!」

 

 驚く倫也とは裏腹に他のメンバーは小さく溜め息をつき呆れた。

 

「加藤……約束したじゃないか!」

 

「なんか今のラピュタのパズーみたいだな」

 

「おっ須藤も成長したわね」

 

「えっと、安芸君と何か約束した覚えはないんだけど……」

 

「少なくともゲーム作りの間は誰ともそういう関係にはならないって約束したじゃん!」

 

「そうなの加藤?」

 

「ううん、してないと思うけど」

 

「倫理君、その約束は原作の方じゃないかしら?」

 

「詩羽先輩はメタ発言しないで!」

 

「でも私がゲームのヒロインになる条件として須藤君も一緒にって言ったよね? そのときから私が須藤君に気があるって気付いててもいいんじゃないかな」

 

「あれってそういう……」

 

「逆に安芸君は何だと思ってたの?」

 

「てっきり目の保養にするつもりなのかなって。ほら、須藤ってイケメンだろ?」

 

「倫也ってやっぱりどこかずれてるのな」

 

「いいじゃんトモ、男と女がいて何も起きないなんてありえないんだから。それに恋するヒロインの方が魅力的でしょ」

 

「おっ氷堂良いこと言うね。てことで倫也、俺と加藤は付き合ってるから」

 

「……美智留の言うことも正しいし、俺が口出すことじゃないんだけど何か釈然としない」

 

「これって何て言うんだっけ、NTRだっけ」

 

「違うわよ、BSSのほうが近いわよ」

 

「いや二人とも冷静に分析しなくていいから」

 

 

 *

 

 

 

「えー! 霞ヶ丘先輩買い食いしたことないの!?」

 

「そんなに驚くことかしら」

 

「見てくださいよ、みんなの反応を」

 

 詩羽が須藤の指し示す方向を見ると英梨々を除いた全員が目をぱちくりとさせていた。

 

「しょうがないじゃない須藤、霞ヶ丘詩羽はぼっちなんだから」

 

「澤村さん聞こえてるわよ」

 

「聞こえるように言ったからよ」

 

「そういうあなたは経験があるのかしら?」

 

「当たり前じゃない。これでも学校では猫被ってるんだから」

 

「猫被ってるのを言い張ってもカッコよくはないな」

 

「ちょっと須藤は黙ってて」

 

「まあまあ英梨々、誰だって経験があるわけじゃないんだし……」

 

「倫理君はあるの?」

 

「え、俺?」

 

 どう答えるのが正解なのか須藤に助けを求めるかのように目を合わせようとするがそれは叶わなかった。すぐに目を逸らされたからだ。

 

「あ、あー……あります」

 

「そう……私だけないのね……」

 

「でも先輩、学校帰りによく喫茶店に行くじゃないですか。それは──」

 

「それは買い食いじゃないわ……」

 

「あーあ、澤村が霞ヶ丘先輩を傷つけたー」

 

「なによ、みんなも買い食いの経験がある時点で共犯みたいなものじゃない」

 

「盗人猛々しいな」

 

「じゃあ詩羽先輩、今行きましょう!」

 

「……そんなに良いものなの? 買い食いって?」

 

「え、買い食いのプロの須藤的にはどうなの?」

 

「いやプロではないけど。……そうですね、喫茶店でみんなと過ごすのとは違う良さがありますね」

 

「だったら試してみたいわ」

 

「放課後もいいですけど学校祭の準備中に抜け出していくのなんて最高ですよ」

 

「へぇ、なら今日で良さを知ったら明日倫理君を連れて行ってくるわ」

 

「俺強制なの!?」

 

「いいじゃん。どうせクラスの方の手伝いは大体終わってるし」

 

「そもそも安芸君はカウントされてない節があるしね」

 

「トモ可哀想~」

 

「その分ゲーム作りに還元できてるからいいの!」

 

 

 ──

 

 

「須藤君は何を買ったの?」

 

「ん、ソフトクリームと菜緒へのお土産。加藤は?」

 

「私は無難にチョコ味のアイスかな」

 

「外れないしね」

 

「コンビニでの霞ヶ丘先輩見た?」

 

「見たよ」

 

「安芸君に教えてもらいながら買ってて……なんか子供みたいで可愛かったよね」

 

「いつも一番大人なのにな。チョコといえばオレンジピールが入ってるの苦手なんだよね」

 

「へぇ~意外、美味しいのに」

 

「なんか後味が嫌であぅ~ってなっちゃう」

 

「ふふっ須藤君も子供みたいだよ」

 

「ちょっとコンビニの前でイチャイチャしないでもらっていいかしら?」

 

「別にいつも通りですよ」

 

「全然違うわよ、なんかこう二人の間がキラキラしてたもの」

 

「どういうことですか。それで何買ったんですか?」

 

「氷菓のアイスよ、倫理君のオススメらしいから」

 

「やっぱアイスですよね。冬はおでんなんていいですよ」

 

「あなたは華の女子高生に外でおでんを食べろと言うの?」

 

「華の女子高生だったら買い食いなんて当たり前ですよ」

 

「……これで勝ったと思わないことね」

 

「勝ったも何も勝負してないんですけど」

 

「おまたせ~……みんなアイスにしたのか」

 

「だってまだ暑いし」

 

「とりあえずここじゃなんだし移動するか」

 

 倫也に続いてコンビニの裏にある公園に移動し、主役とも言うべき詩羽がベンチに座りそれを囲うように全員が封を開けてアイスを口にする。

 

「あ~生き返る~」

 

「美智留はなんかおっさんみたいだな」

 

「なに? 文句あるの?」

 

「いやないけどさ。それで詩羽先輩どうですか?」

 

「これは……いいわね」

 

「ですよね!」

 

 笑みを押さえきれないのか詩羽は手で口許を押さえていた。そんな嬉しそうな彼女を見て各々目を合わせる。

 

「ということで倫理君、明日の学祭の準備中にも行くわよ」

 

「いいですよ」

 

「楽しみにしてるわね」

 

「倫也、私も付いていくから」

 

「澤村さんは別に来なくていいのよ? クラスのお友達と色々と忙しいでしょ?」

 

「まあまあ詩羽先輩、みんないた方が楽しいし。須藤達も来るよな?」

 

「加藤どうする?」

 

「うーん……私達はパスで」

 

「ねー私はー?」

 

「美智留は学校違うだろ」

 

「そうだけど一人だけ声かけられないのは寂しいでしょ」

 

「またこうして放課後にみんなで集まればいいだろ」

 

「それもそっか」

 

「まあ、私は来年の三月に卒業だけれどね」

 

「あと半年もないのかぁ」

 

「倫理君寂しいの?」

 

「当たり前ですよ、詩羽先輩を始めとしてサークルを中心に日々を送ってるんですから」

 

「そ、そう。だけど大学に行ったらこうして集まることもなくなるのかしらね」

 

「何言ってるんですか先輩、『blessing software』は永久不滅ですよ。だから先輩や他のメンバーが嫌って言ってもずっと一緒ですよ」

 

「……そうね。ありがと倫理君」

 

「らしくないわね、霞ヶ丘詩羽」

 

「容姿端麗成績優秀な私だって人間だもの、不安にもなるわ」

 

「その前置きいらないよね?」

 

「霞ヶ丘先輩らしいよね」

 

「別に男と女だからって付き合わないとずっと一緒にいれないってこともないしな。仲良くずっとやっていけば大丈夫でしょ」

 

「「「……」」」

 

「え、俺変なこと言った?」

 

「良いこと言ってるけど恋人いるお前が言ってるんじゃねえってみんな思ってるんじゃないのかな」

 

「それを加藤さんが言うのも癪ね」

 

「恵、彼氏いるからってちょっと調子に乗ってるんじゃない?」

 

「女性陣目が怖いから! 俺は素直に須藤の言うことに感心してただけだから!」

 

「まあそれは置いておくとして、倫理君に言い忘れてたことがあるの」

 

「え? 何ですか?」

 

「ミスコンに出るから絶対に見に来なさい」

 

「詩羽先輩が? どういう風の吹き回しですか」

 

「……最後くらい学園祭を楽しもうと思ったのよ」

 

「それにしても珍しいですね」

 

「倫也、私も出るから見に来なさいよ」

 

「英梨々も!? 二人ともどうしちゃったのさ!」

 

「別に。何もないわよ」

 

「何もないなら出ないよね!?」

 

「つべこべ言わずあんたは私と霞ヶ丘詩羽を見に来ればいいの!」

 

「は、はい」

 

「トモ~私のライブもよろしくね」

 

「時間が被ってなかったらな」

 

「安芸君クラスの方には顔出さなくていいから絶対に行ってね」

 

「加藤? 言い方に棘ない?」

 

「俺すごいこと思い付いたんだけど」

 

「須藤はどうした?」

 

「霞ヶ丘先輩が留年すれば来年も学校生活一緒に送れるじゃん」

 

「須藤君、それは無理よ」

 

「まあそうですよね」

 

 ふぅと小さく溜め息をついて顔をあげて詩羽は言い切った。

 

「だって私、容姿端麗成績優秀だもの」

 

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