さてどうしたものか。来るべき9月23日、つまり加藤の誕生日にプレゼントをあげようと考えたのだがその内容が決まらない。
菜緒から雑誌を借りてパラパラと捲るがめぼしいものが見つからず、閉じて、またパラパラと捲るという動作を繰り返す。
ふぅと小さくため息をついて、リビングから二階にある妹の部屋へと向かいドアが開いているが念のため3回ノックをする。
「入っても大丈夫だよ~」
「マナーですから」
「そうなんだ。でもノックって三回なの? 二回じゃなくて?」
「二回はトイレらしい。マナーだかなんか授業で先生が言ってた」
そうなんだと納得した面持ちの菜緒にありがとうと雑誌を手渡す。
「何か良い物はあった?」
「特に。強いて言えば高過ぎたり、指輪だとかネックレスはNGだってことがわかった」
「その辺は色々と気を使っちゃうからね。でもある程度常識的なものだったら何もらっても嬉しいと思うよ」
「そうかなー」
「例えばお兄ちゃんがもらって嬉しいものをあげたら?」
「今一番欲しいのはドラえもん秘密道具大事典だけど……それもらって嬉しいか?」
「うーん……女の子的には微妙かも。私は少し気になるけど」
「あー何も思い付かない」
「アロマとかはどう? 部屋で使ったり出来るしお手軽じゃない?」
「加藤が好きな匂いじゃなかったら微妙じゃないか? それに匂い物をプレゼントする男って独占欲があるみたいで嫌だ」
「じゃ、じゃあシンプルにお花は? 部屋に置いたりとかお洒落じゃない?」
「送るものによっては花言葉とか色々と勘繰られて面倒くさくなりそう」
「もう、考えすぎだよ。貰う側は素直に嬉しいはずだよ」
「菜緒は今何か欲しいものとかないのか?」
「私? えっとねー……あっヘアピンかな。ほら今つけてるこれの色違いが欲しいかも」
「色違いでいいの? 違うものじゃなくて?」
「その日の気分だったり、コーデに合わせて変えたりできるし、このシンプルなデザイン気に入ってるんだ~」
そう言ってヘアピンに触れながら笑う妹を見て、そんなもんなのかねと思った。
「とりあえず色々参考にさせてもらうよ、ありがとう」
「特に何も言ってないと思うけど……どういたしまして」
お礼を言って妹の部屋を後にする。そもそもプレゼントをあげるのを提案してきたのは菜緒からだったなも思い返す。
祭りの帰りに気まずい雰囲気を察知してくれたこの良くできた妹は積極的に話題を振ってくれたりしてくれたのだ。そんな菜緒に無事に仲直りというか気まずさは解消したと報告したところ、自分のことのように大層喜んでくれた。まじ天使。それで加藤の誕生日が近いことを話の流れで行ったときに何か送ったらどうだろうかということになったのだ。
ともあれ特に何も進展しなかった会話の内容を振り返り、俺は呟いた。
「どうしたもんかな」
*
既に9月に入り二学期がスタートして2週目の土日を迎えている。つまり加藤の誕生日まで十日も残されていないのだ。
家にいても埒があかないと考えた俺は休日にショッピングモールを見て回って、ピンと来たものを選んでプレゼントにしようと思い立った。これで何もなかったらいよいよ最終的に本人に何が欲しいか直接聞こうと思う。
「それにしても……」
小さく漏らしながら改めて思う。何をプレゼントしたらいいのだろうか。
最初に入った雑貨屋で多種多様な物を見ながら、この感覚の既視感が何となくわかった。夏休みの自由研究に似ているんだ。
自由と言いつつも出来ることは限られているし、プレゼントもまた然り。これはあれだ、選択のパラドックスってやつだ。
「何かお探しでしょうか?」
ボーッと商品を見ていたからか店員に声をかけられてしまったが、せっかくなので専門家に話を聞くことにする。
「仲が良い女子に誕生日プレゼントをあげたいんですけど……オススメとかってありますか?」
「そうですね……小物をプレゼントされる方が多いですよ。香水ですとかハンカチであったり」
「小物ですか」
「はい。高過ぎず、かといって安過ぎず、プレゼントには最適だと思いますよ」
「なるほど……」
そういえば菜緒が言っていたのも小物だったなと思い出す。店員に軽く頭を下げ、店を後にする。
それからも雑貨屋を始めとした色々な店を廻ったが、良いものはなかった。本当はあったのかもしれないが俺自身が選択から外してしまっていたと思うが。
何の気なしに案内板を見て、ふと一つの店名に目が止まった。それはいつだったか加藤が好きだと言っていたブランドの店だった。気付かぬ内に女性向けの店を選択から外していたが、よくよく考えると女性にプレゼントをあげるのだからそれらの店に向かうべきなのは当然だった。
良い物があればいいなと俺はまず始めにその店に足を向けた。
*
女性向けの店に男一人で訪れ、店内を物色するという中々にハードルの高いことをこなして購入したプレゼント。ハードルは高ければ高いほどくぐりやすいとはよく言ったもので、逆に吹っ切れたおかげで苦を感じることなくプレゼントを選ぶことが出来た。
あとは加藤に渡すだけ。これに関しては何も感じなかった。喜んでもらえるだろうかといった多少の緊張はあれど、渡すことに抵抗は何もなかった。いつも通り一緒に下校しているときに手渡せばいいだけ。
放課後の特別教室の掃除を手早く済ませ加藤が待つ教室に向かうと、窓際から外を見ていた。絵とか写真を切り抜いたような風景だなと思い、ポケットから携帯を取り出しカメラアプリを起動してシャッターを切ると、シャッター音で加藤がこちらに気がついた。
「須藤君写真撮ったよね?」
「外を見る加藤が絵になってたものでつい」
「ホントかなぁ? 見せてみて」
「ほら」
「……うーん、普通だよ」
「そうかなぁ。何かドラマとかのワンシーンみたいじゃない?」
「ここで須藤君が愛の告白とかをしたらそうなるんじゃないかな」
「ドラマで教室を舞台にして告白してたら大抵フラれてない? 少しでも成功する確率が上がるようにするよ、俺なら」
「へぇ~、どうやって?」
「えーと……とりあえず帰ろうぜ。歩きながら話すよ」
「そうだね、忘れ物はない?」
「大丈夫」
──
「それで須藤君はどうやって確率をあげるの?」
「うーん……良い雰囲気にするとか?」
「疑問系なんだ」
「正直あまり深く考えてなかった」
「じゃあ例えばでいいから」
「例えばかー……メールとかじゃなくて面と向かい合って告白するかな」
「あっそれいいね~」
「それでしっかりと好きだってことを相手に伝えるかな」
「実際に言われたら好きじゃなくてもドキッとするかも」
「おー加藤のお墨付きだ」
「須藤君って今まで告白したことある?」
「ないなー」
「好きな子とかいなかったの?」
「小学生のときはいたかな」
「その子とはどうなったの?」
「中学上がる前に引っ越したから、それっきり」
「ふーん、ちょっとした失恋エピソードだ」
「えっなに、加藤の裁量一つで失恋させられたの?」
「うん、ちょっとした失恋じゃない?」
「えぇ……」
「それはそうと須藤君が持っている紙袋は何? いつも持ってないよね」
「ああ、これは加藤へのプレゼント」
「プレゼント?」
「うん。誕生日近いし、仲直り記念にあげたらって菜緒にも言われて……ってどうしたの? そんないつも以上にポカーンとして」
「須藤君が私に対して言った失礼なことは置いておくとして……単純にビックリしたからだよ」
「そういうことね。それでは少し早いけど……おめでとうございます」
「ありがとうございます。……中身見ていい?」
「なんか恥ずかしいから家で一人で見て」
「え~女の子にプレゼントを渡す以上に恥ずかしいことってあるかな?」
「みんなの前で親と先生を間違えて呼んじゃうとか」
「確かに恥ずかしいかも」
「でしょ?」
「でも私はプレゼントのほうが何か照れくさいけどな~」
「どうした加藤、いつもよりテンション高くなってないか?」
「そうだよ」
短く言い切った加藤に目を向けると悪戯に笑っているような顔で言葉を続けた。
「今私、すごく嬉しいんだ」