月に吠える   作:光政

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前後編なので2日連続で投稿します。
後編は14日0時に上がります。


8話 長く短い祭り 前編

 高校の学園祭というのは、中学までとは規模が大きく異なり豊ヶ崎学園も例外ではなかった。

 例えば、実行委員という学園祭の運営、果てには学校装飾まで学園祭のありとあらゆることを管理する委員会なんてものは今までなかったし、学園で一番可愛い女の子、カッコいい男を決めるコンテストもなかった。

 知識の深まりが学園祭に反映されているのか、それとも年齢を重ねたが故の行動範囲などの拡張が反映されているのかはわからないが今まで以上に楽しいだろうということは確実だった。

 

「実行委員からの連絡はありませんか?」

 

「……」

 

「須藤君?」

 

「あ、ああ、ええと暗幕の貸し出しが各クラス2枚までだそうです。連絡はそれくらいです」

 

 実行委員になった俺がそう告げるとクラスではそれぞれの担当係に分かれ始める。

 黒板の隅っこに、授業の邪魔にならないように、けれども自己主張をするかのように白いチョークで書かれたお化け屋敷という文字を見た俺は中学の時よりは規模を大きくしたいなと誰に言うでもなく誓った。

 

 

 ―

 

 

「うちのクラスから誰かミスコン出るのかな?」

 

 お化け屋敷の外観作りを担当している男子グループの内の一人がふとそんなことを呟いた。

 

「出なくないか? 澤村さんがいたら出にくいだろ」

 

「たしかに。それに出たら出たで出る杭は打たれちゃうだろ」

 

「出る出る多いなお前」

 

「でも実際俺達のクラスで一番可愛くて可能性があるっていったら誰だ?」

 

「うーん、それは……」

 

「加藤じゃねえか?」

 

「たしかに」

 

「異議なーし」

 

 おめでとう、加藤。装飾グループ男子一同からお前が一番だと認められたぞ。

 

「でも絶対出ないだろうな」

 

「何で?」

 

「そりゃあね、性格もあるけど……」

 

「澤村さんと霞ヶ丘先輩がいたらなぁ……」

 

 結局そこに落ち着くのか。

 

「すどーはミスターの方でないのか? 俺は結構いい線いけると思うんだけど」

 

「あーそれなんだけどね、実行委員会のときに出てくれって言われて出ることになった」

 

「「「まじで?」」」

 

「まじまじ」

 

「うわーそれ最強の理由じゃん」

 

「最強?」

 

「だってよ、推薦で出場ってことだろ? 自分で出ますってのじゃなくて」

 

「まあ、そうだけど」

 

「その時点でカッコいいと別の誰かに認められてるわけだ」

 

「ジャニーズとかアイドルの志望理由と一緒だよ、親とかが勝手に応募しちゃってみたいな。くそ、羨ましい……」

 

「ついに俺らのクラスからも澤村さん以上の有名人が生まれるのか……」

 

「いや安芸がいるだろ。あいつは?」

 

「安芸はなー、良い意味での有名人じゃないからな」

 

「そういえば学園祭で何かやりたいらしくて職員室に連日通ってるらしいぞ」

 

「「「へ~」」」

 

「おーいすどー、実行委員長が呼んでるぞー」

 

 声がした方向を見ると教室の入り口で実行委員長が軽く手をヒラヒラと振っていた。特に手を振り返すこともなく、まだ委員会の時間じゃないよなと思いながら委員長の元に向かう。

 

「やっ! やってるねぇ!」

 

「まだ委員会の時間じゃないですよね?」

 

「そうだよ、今は各クラスを個人的に見回ってて須藤君が目に入ったからね。呼んでもらったんだよ」

 

「ということは特に用はなく呼んだってことで?」

 

「そうそう」

 

 あっけらかんと言い切る委員長に二の句を継げないでいた。

 俺はこの委員長に何となく苦手意識を持っている。実行委員自体は望んでやっているが、ミスター豊ヶ崎に出ることになったのはこの委員長が原因だった。ハッキリと断りきることができなかった俺にも非はあるけども。

 

「委員会の準備とかは忙しくないんですか? もてなすにしてもぶぶ漬けしか出せないですけど」

 

「それほど忙しくないよ。それと君は京都のほうの生まれだったのかな?」

 

 ちゃんと意味はわかってるよと言いたげに笑う委員長を見てやはり苦手だなと思った。

 

「あはは、ミスター豊ヶ崎に推薦したことを根に持ってるのかな? というよりそれしかないよね」

 

「まあ、それなりに。前ほど嫌じゃないにしろ乗り気ではないです」

 

「大丈夫だよ、後悔はしないから。終わった後に振り返れば大抵のことは笑い話になるもんだよ」

 

「そんなもんですかね」

 

「そんなもんだよ。それじゃあ僕は別のクラスにも顔を出してくるから」

 

 最初と同様に手をヒラヒラと振りながら去っていく委員長。俺はまた手を振り返さなかった。

 先ほど委員長が大抵のことは笑い話に変わると言っていたが、なるほどと納得がいった。やっぱりやっておけばよかったと後悔するより、そういえばあんなこともやったなと振り返る方が良いに決まっている。

 

「須藤君」

 

「わっ加藤か、どうした?」

 

「衣装班で放課後に買い出し行くんだけど須藤君も一緒に行かない?」

 

「俺が? どうして?」

 

「衣装班って女子しかいないからさ、荷物持ちとして。……どうかな?」

 

「荷物持ちって言い切るのか……。うん、いいよ」

 

「本当? じゃあよろしくね」

 

「あっそうだ加藤。やっぱりミスコンとか出ないのか?」

 

「私が? どうして?」

 

「いや、さっき装飾班でそういう話になってさ。加藤ならいい線いけると思うんだけど。受付もまだしてるし」

 

「そう言ってもらえるのはありがたいんだけどね。須藤君は出ないの?」

 

「ミスターは出るよ、ミスコンは出ないけど」

 

「本当? 須藤君だったらうっかりグランプリ取っちゃうと思うな」

 

「うっかりってなんだよ」

 

「望んでないけど選ばれちゃいました~みたいな?」

 

「それ同性のみならず全員に嫌われるやつじゃん」

 

「その感じを出さなきゃ大丈夫じゃないかな」

 

「まずそこまでいけるかわからんし……どんな感じかも知らないからな」

 

「恵~ちょっといい~?」

 

「はーい。呼ばれたから行くね? 買い出しのときにまた声かけるね」

 

「ハイよ」

 

 そう言って衣装班に戻る加藤を見るといつもと髪型が違うことに気がついた。横の髪を耳の後ろにやっているだけだが、こう……ギャップがいいなと心の中で褒めた。

 

 

 *

 

 

「買い出しって普通それなりの人数で行くもんじゃないの?」

 

 校門を出てすぐに不思議そうな顔をして須藤君が口を開いた。

 

「そのはずだったんだけどね、なんか思ったより進行が芳しくなくて。あと思ったより買い出しのものが多くないからってリーダーの子が言ってたよ」

 

「あーなるほど、それでか」

 

 納得する須藤君を見て安堵する。今言った理由は嘘ではないけども全てではないから。

 買い出しに誘えたということを衣装班に伝えたところ、二人きりにしようと女子全員が結託してこのような結果になってしまった。

 高校生という恋に多感な時期ということと、文化祭マジックで異性の仲が急接近するという二つの事柄が合わさると当然作業中は恋に関する話が大部分を占める。

 私と須藤君は普段から一緒に帰ったりなど行動を共にすることが多かったので恋バナの標的──もとい話題の中心になることが多かったことが今回の意図的な二人きりという状況に繋がったのだ。

 

「それにしても二人で歩いてると店に寄るのを忘れてそのまま帰っちゃいそうだな」

 

「そうだね。いつもと変わらないもんね」

 

 ──そう、いつも通りだ。

 

「多少買い食いしてもいいよな?」

 

「実行委員がそんなこと言ったらダメだよ? 学園祭の説明のときに買い出し中の買い食いはダメって言ってたよね?」

 

 ──だからすぐに言えるはずだ。

 

「二人だけの秘密にしようぜ。共犯になろう」

 

「うーん……それならいいの……かな?」

 

 ──学園祭を一緒に回るくらい、いつもの私達と同じだ。

 

「決まりだな、今から行く店の入り口のとこにアイスの自販機あるんだよ」

 

「そういうことだけはしっかり覚えてるよね」

 

「いやいや、それ以外もちゃんと覚えてるから。勉強とか……ほら、加藤の誕生日もしっかり覚えてただろ?」

 

「……たしかに。帽子ありがとね、私の持ってる服に合わせやすくていい感じだよ」

 

「おーそれはよかった。結構選ぶのに時間かかったから気に入ってもらえて嬉しいよ」

 

 そう言って少し照れたように笑う須藤君を見て、私も自然と口許が緩む。選ぶのに時間がかかったということはいつものように眉間の辺りに指をやって私のことを考えてくれたのだろうか。

 

「あのね……学園祭当日って実行委員って忙しいの?」

 

「あーたしか学園祭の写真取ったりとか色々あるらしいんだよね、見回りとかもあるって言ってたような……。なんかあった?」

 

「ううん、実行委員ってやっぱり忙しいよなーって」

 

「でもちゃんと回る時間もくれるらしいから。あっでもミスター豊ヶ崎あるんだった」

 

「そっかぁ」

 

 一緒に回れなさそうだということがわかって残念な気持ちのすぐあとに、安心の気持ちでいっぱいになって自分がよくわからなかった。

 

「えっと……ミスター豊ヶ崎見に行くから」

 

「えっいいよ、なんか恥ずかしいし」

 

「クラスの女子みんなで行くから」

 

「ああ、クラスでか。俺に投票よろしくな」

 

「どうしようかな? 確実に私の一票が手に入るいい方法があるんだけど」

 

「ほう、いい方法とは?」

 

「このあとアイス、食べるんでしょ?」

 

 私がそう言うと須藤君はそうきたかと笑った。

 今はこの距離感が、この距離感でいい。そう思った。

 あと一歩を踏み出せない自分に対しての言い訳だけど、この気持ちに偽りはないから。




感想をいただいていたのに返信せず申し訳ないです。
単純に気が付いていませんでした。
感想は全て読まさせていただきまして、読者の方からの声はやはりモチベーションが上がりますね。

感想で加藤メインのSSが少ないとあったので私も調べてみたんですが本当に少なくてビックリしました。
数多くあるアニメキャラの中でも加藤が一番可愛いと言っても過言ではないのに不思議ですね。

ここからは小説の話ですが、1話で須藤君の台詞で同じクラスの安芸君から~というものがあるんですが、原作では安芸と加藤は1年生のときに違うクラスなんですよね、たしか。
小説の今後の展開には影響がないので変更はしないですが、設定を忘れていたのが少し悔しいです。
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