Kyo After   作:エリミサ号

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遅れてすみません…!これからも遅くなるかと思いますが読んでくださると嬉しいです!


社会人編
第11話 新生活


「おはようございます!新入社員の岡崎朋也です、今日からよろしくお願いします!」

 

 

桜坂電気株式会社の扉を開け放った瞬間、俺は既に居た社員に向かって大声で挨拶をして礼をする。

今日から社会人としての日々が本格的に始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が桜坂電気社長の坂本だ。よろしくね、岡崎君」

「よろしくお願いします!」

 

朝っぱらから大きな声で挨拶をした後、俺は近くにいた社員に社長室まで案内をしてもらい再び大きな声を出す。

こんなにも朝早い時間に起きるのもずっと声を張り続けるのも何もかもが新しい。今日からずっとこんな日々が続くと思うとぞっとしてくるが生きていくためにはこの生活を続けていかねばならないので耐え抜くしかない。ちなみに今日は仕事が終わった後杏が家で夕飯を作ってくれるらしいのでそれを糧に頑張ることにする。あいつも専門学校に行っていて決して暇ではないだろうにわざわざ来てくれるというのは素直に感謝だ。

 

「今日のお前さんの仕事内容は聞いてるか?」

「はい、しばらく先輩方が付き添って業務に取り掛かるって聞いたんすけど……」

「ああその通りだ。ちなみに先輩方っていっても1人しか付き添わないけどな。ーー鈴木!こっちに来てくれないかっ」

 

はい!と社員さんたちが集まっていた方向から声が聞こえ足音がこちらに向かってくる。

さっき入社したばっかりなのだろうーーその人はやはりスーツ姿がビシッと決まっており、いかにも『仕事ができる女』の象徴だった。

この俺でも分かるほどさらさらした長い黒髪がなびいてより一層女性という印象を強くさせていた。俺の目の前を通り過ぎようとした時にふと目が合う。その時微かに微笑みを浮かべ社長の前に行く時には既にその笑みは消えビシッと真顔で向き合っていた。

 

「岡崎くん紹介するよ、こちらが今日から教育係をしてくれる鈴木美耶くんだ」

「あ、は、はい。今日からお世話になります、岡崎朋也です」

 

自己紹介だけして礼をし、しばらくして顔を上げるとそこには彼女がさっきみたいに微笑んで立っていた。

正直、この前会った時思い切りタメ口で話したり偉そうな口調をたたいていたのでこうして上司になった途端コロッと態度を変えるっていうのはあまり向こうからしても気分がいいものではないだろうのでこっちからすればなかなかに気まずい。まあ向こうからすればそもそも俺の事を覚えているのかどうかもあやふやかもしれない。そんな考えをよそに鈴木……さんは俺の方に近寄ってきて手を差し出してきた。

多分握手をするつもりなのだろう、俺はその手を握る。

 

「初めまして、岡崎くん。……まあ、正式には初めましてじゃないと思うけど改めて。とりあえず暫くは覚えることもいっぱいだし大変だろうけど頑張ってね」

「は、はい!」

「よし、じゃあ早速2人には作業を初めてもらおうかね。鈴木、頼んだぞ」

「はい!」

 

彼女はこの社長さんにとって信用に値する人材なのだろうか?社長は何も心配ないみたいな満更ない表情で去っていった。

確かに見た感じはできる女みたいな印象を持ってしまうが見たところまだまだ若いだろうし俺ともそこまで年齢の差はないはずだ。ふと鈴木、と呼ぶ声が聞こえてきたので声のする方に振り向くと彼女よりは上司だろうっぽい人が鈴木さんの所に向かい何かを細かく教えて貰っていた。

いや……普通鈴木さんの方が教えてもらう側だよな?なに、実は童顔で実際はもっと年齢超えてるとか?いやでもこの美貌からしてもそれはなさそうだな……。

つまり、この人は正真正銘できる人なのかもしれない。そしてそんな人が教育係になった=これからは鬼畜な仕事業務に耐えなければならない!

果たして俺は杏の元へ無事帰れるのだろうか…。。

 

「ちょっと、ぼーっとしすぎ。何考えてたの?」

「あ、いや。何もねえっすっ」

「そ?見るからにこれから自分はどうなるのだろうか……みたいな不安な顔してたけど?」

「……鈴木さんってなんか、怖いですね」

 

やばい、鬼畜生活に加えこれからは心の中で思っていることは全部この人にバレてしまうかもしれない。

途端に俺は何を考えているか分からないように真顔で見つめるようにすると鈴木さんはぶっと吹き出した。

 

「……なんすか」

「いや……意外と面白いよね、君?」

「流石に心の中まで見られるのは勘弁なんで」

「そんな心理的な才能は一切持ってないから大丈夫よ、しかも岡崎くんはあんまり思ったこと態度に出す人じゃないしね」

「はあ」

「あんまり私にプライベートなことは話さないでおこうとか思ってるでしょ?まあいいけどね。とりあえず仕事始めよっか」

 

歩き始める鈴木さんに俺は後ろから付いていきながらこの人に関しては本当に心の中を見透かされてしまいそうだなと考える。

確かにそういう心理的な才能を学んでいたりなどしていなかったんだろうが、並の人以上の洞察力をこの人は持っているのではないだろうか。まだ何もこの人のことを知っていないが、逆に俺のことに関してはこの短時間である程度知られているような感じがした。そう色々考えていると鈴木さんは無人のデスクワークの前で立ち止まったので俺もそこで立ち止まる。

 

「ここが岡崎くんが使うところね。ま電気会社って意外とデスクワークないのかなって思いがちだけどバチバチあるからPCはちゃんと使いこなしといてね」

「俺、パソコンはあんまできないっす」

「基礎のことだけ出来てればなんとかなるわよ。ExcelとかWordとか分かるでしょ?」

「……いや、初めて聞きました」

 

鈴木さんは流石にそこ辺りの知識は流石に持っていると思っていたのだろう俺の予想外の答えにはっきりと驚きの顔を見せる。

確かに授業内でパソコンの授業はあったりしたが3年間ろくに授業を受けていていないのでこういう基本的な事も分かりはしなかった。今の俺に唯一パソコンで出来ることと言えばタイピングだけだ。

 

「岡崎くんがどんな高校生活を送ってきたのか少し分かった気がするわ……。いいわ、とりあえずWordは必要不可欠だからそれだけ後で教える。て言ってもタイピングに応用を交えたみたいな感じのものだからそんなに構えなくていいわよ」

「すみません、ありがとうございます」

「こういう場面になったときに助けるのが今の私の役目だからみっちり教えてあげる。あと岡崎くん、私があなたの教育係……いや専属上司となった以上甘ったるい精神ではやっていけないと思うからそこんとこ宜しくね」

 

鈴木さんはまるで面白いことを言うテンションかのようにウインクをしてそう言った。

もしかするとこの人はSの気質が入っているかもしれない、まあ初めて見た時から変わっている人とは認識していたが。

そしてそこからまずどこに何室があるか、絶対にこれだけは覚えておかなければならない仕事内容など色々教えてもらった。

ある程度の説明や作業の仕方などを教えて貰っているといつの間にか昼をとっくに過ぎていたので一旦研修は中止して昼飯の時間を取る。

 

「じゃあまた1時間後に始めるから。食事はきちんと持ってきた?」

「いや、コンビニで買おうと思って買ってきてないっす」

「あ、そうなの?じゃあ私もコンビニ食だし一緒に行く?」

 

明らかに一緒に行きたくないですという意思表示が顔に出ていたのだろう鈴木さんはまた俺の顔を見てぷっと吐き出す。

正直俺はこの人が最初に会った時から苦手だ。初めて会った時の印象から少しは変わるかもしれないと思ったが逆に関わりにくさも生じてしまっている。確かに仕事面にしては凄く助かる上司だろう、研修の時も1度の説明で理解できるほど丁寧にしてくれた。だがいくら上司でも休憩時間まで一緒にいる必要もないため丁重に断ることにする。

 

「すみません、少し1人でいたいんでやめておきます。せっかく誘ってくれたのにすみません」

「あ、別にご飯までは一緒に食べるつもりじゃないわよ?ただ一緒に買いに行かないかな〜って。これからは一日の半分くらいは一緒に過ごすことになるんだしさ」

 

鈴木さんは多分俺に断る権利を下さないつもりだろうさっさと小さめのカバンから財布を取り出して外に出ようとするので俺も仕方なくその後に着いて行った。最初から上司の命令を断りまくるのは流石に印象が悪くなるので着いて行くが次からはこういう機会に出くわしそうな時はできる限り避けるようにしよう。社会人というのはこういう自分が乗り気ではない場面でも何とかやり過ごさなくてはならないのかと思うとやはりこれからの人生に気が重くなった。

 

「今のところどう?覚えられそう?」

「まだ何とも。ていうか覚えること多すぎません?」

「まあ、そうね。なかなか大変な仕事なのは確かかもね〜台風とか起きて停電とかになった時はもう大変大変」

「やっぱいきなり出勤とかなったりするもんなんすか?」

「夜中とかに停電とか不具合が起きたら可能性はあるかな。でもここの電気会社って本当に小さな規模の会社だからね、広範囲の停電とかはもっと大きな会社がしてくれるわ」

「確かにここの会社鈴木さんが名刺渡してくれた時に初めて知りました」

「でしょーね。だからそんな身構えなくて大丈夫」

 

プライベートの話をする間柄でもないので適当に仕事話を交わしすぐにコンビニにたどり着いたので一旦昼食を買うために1人で移動する。

帰ったらきっとかなりの量の料理を杏は作っている可能性があるので沢山食べるためにも軽食程度におにぎり2つだけを買うことにする。

レジで精算を済ませるともうとっくにコンビニから出ていた鈴木さんの所まで歩いた。

 

「待たせてしまってすみません」

「全然、私いつも買うもの決まってるから。ていうか、それだけで足りるの!?」

「……足りはしねえっすけど、多分帰ったら大量に食うことになると思うんでそれを見越してって感じで」

「え、なに。それって作ってくれる人がいるってこと?」

「まあ」

「ええいいじゃない!そういう人いたんだ、岡崎くん」

 

これで母親が毎晩ご飯をきちんと作ってくれるんです!てへっ☆みたいな回答が返ってくるかもしれねえのに何勝手に解釈しているのだろうか。ここで肯定的な返事をしてもこの人の性格からしてどんな子なの?やいつから付き合ってたりするの?など色々質問攻めにされそうなので敢えてスルーしておく。

だが、ここでこの話題を止めるような人でもなかった……。

 

「わざとスルーしないっ、で?高校生の時から付き合ってた子なの?」

「………別に誰だっていいじゃないすか、他の話題しましょうよ」

「なんでよー?別にいいじゃない話して気分悪い話題でもないんだし」

「それを鈴木さんに話したところでお互い何も無いでしょ」

「だからこれから同じ職場なんだから親交を深めるんじゃない!」

 

だからといって会ったばかりの人にこんなにも俺のプライベートを露出するのはどうかと思うぞ……。

職場に戻るまでずっとこの話をし続けるという展開は避けたいので無理やり他の話題にへと移そうとする。

 

「じゃあ親交深めるためにもってことで鈴木さんは何買ったんですか」

「無理やり感すごいわね……しかもそれ話したところで親交深めるのと関係あるの?」

「ていうかまず話してる時点で深めてるでしょ。いきなり突っ込んだ話ばっかしてると逆効果っすよ」

 

いかにも正論な言葉を投げてやったので当の本人は何も言い返せず俺の質問には律儀に答えてくれた。

といっても俺からすれば全く興味のない質問の答えだったので適当に相槌を打ってそこからは色々なことを話した。

そして職場に戻り自分のデスクワークで軽めに空腹を満たし午後からはまた研修が始まる。

まだ一日目なのにしっかりと覚えることがてんこ盛りなので帰る頃には既に体力を消耗しきっていた。

しかも鈴木さんにパソコンのやり方は一通り教えて貰ったのだが家でWordなどのそういう類は練習しておいてと言われ何枚か練習プリントみたいなのを渡されてしまったので仕方なくそれを持ち帰り家のパソコンでまた練習しなければならない。正直初日からそんなに忙しくはならないだろうと考えていた自分を殴りたくなりそうだ。

 

(杏とあんまりイチャつくことできねえだろうな……せっかく疲れて帰ってきてるのに最悪だ)

 

既に重い足取りがさらに重くなったのを感じながら俺は自分の家に帰宅した。

 

 

 

 

 

 

 

「悪い、ちょっと遅くなった」

 

家の扉を開けた瞬間、ぶわっと美味そうな匂いが広がりキッチンの方を見るとそこには味見をしていた杏がエプロン姿で立っていた。

この新鮮な姿をずっと見ておきたい気も確かにあるがそれより以前にこの匂いのせいで更に空腹度が増しているので俺はさっさと家の中に入り適当な場所にカバンを置いてすぐそこのキッチンの方に向かう。

 

「おかえり、朋也っ」

「ああ、ただいま。早速だが味見させてくれないか」

「もうちょっとで出来るんだからもう少し我慢しなさい。ていうか食べる前にさっさと着替える!」

「杏、エプロン姿可愛いぜ」

「えっ……?あ、ありがとう。最初に言いなさいよねそれ」

「悪いな、ってことで味見させてくれないか?俺はお前が貴重なエプロン姿で作っている時にその肉じゃがを食べたいんだ」

 

そう言いながら近くにあった箸を手に取り肉じゃががたくさん入っている鍋に手を向けたが一瞬でそれは吹き飛ばされた。

今の言葉で味見を許されるかもと思った俺が馬鹿だったらしい、次は腹を蹴られ居間の方までまた吹き飛ばされてしまった。

 

「いってえ……」

「変態にあげる味見はないわよ。しばらく喋りかけないでね、変態エキスがご飯にかかっちゃったら最悪だから」

 

最初は照れてたのになんでいきなりそんな急変するんだてめえはっ。

これで言い返すとしばらく喧嘩状態になってしまう(大体は俺が殴られたり蹴られるだけ)ので我慢して死角のところでさっさと服を着替えてしまいまだ肉じゃがが完成するまで時間がかかりそうなので今のうちに少しでもパソコンに慣れておくために鈴木さんから貰った練習プリントを取り出した。1LDKある部屋の端っこにパソコンは置いてあり電源ボタンを押してまず初めにWordを開いた。

ちなみにパソコンはこの会社に受かった時点で家に1台は必要だからと予め言われていたのでなるべく安めの容量がたくさんある機種を出社前に買っておいたのだ。

それプラス家賃代や光熱費など社会人になると学生時代にはなかった出費が数多くあるので金に関しては今の俺には全然余裕が無かった。

そしてしばらくWordの練習をしていると杏が食器を机に並べているのが見えたので途中で中断し手伝うことにする。

 

「何持ってけばいい」

「いいわよ、何か作業してたんでしょ?私がやるわ」

「別に急ぎでもねえし大丈夫だ。そこにあるものを持ってけばいいか?」

「そ?じゃあそこにあるやつ全部持ってって」

 

お茶や箸などそういうのを運んだ後肉じゃがを入れた食器を受け取り机に並べる。

全部並び終え食べる準備が整うと俺と杏は机に向かい合って手を合わせた。

 

「じゃ、いただきますっ」

「いただきます。あと朋也、さっきみたいな気持ち悪いこともう二度と言わないでよね?……その前言は別に良かったけどさ」

「OK、やっぱエプロン姿の杏は可愛いぜ」

「もう言わなくていいわよっ!」

「けど事実だから仕方ない。俺が思ったことを口に出すタイプってのは昔から知ってんだろ、あと肉じゃがもすげえ美味いぜ」

「実は今日味付け少し変えたのよ」

 

待ってましたとでも言わんばかりに料理のことを話題にすると杏は塩を多めにしたやだしを多く入れてみただの語り出したので俺は頷きながらひたすら箸をすすめる。

高校の時も料理には自信があったらしいが最近は色々な味付けや調理方法を試したりしているらしく本人曰くそれが今の趣味らしい。

 

「アンタちゃんと聞いてんの?」

「あん?聞いてるって。ってかお前、これからも俺ん家来て作ってくれるのか?」

「そうしてほしいんだったら作ってあげてやらないこともないわよ」

「そうか、じゃあこれ持っといてくれ」

 

俺は元々から杏にあげようと思っていた物をポケットから取り出しそれを杏に渡した。

渡した瞬間、一瞬固まった表情だったが自然とそれは崩れていきいかにも嬉しそうな顔で俺の方に目線を向けた。

 

「ちょこれって……合鍵……!?」

 

 

 

 

 

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