Kyo After   作:エリミサ号

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もっと文章表現上手くできたらなあ…。自分の文章を見返してるとつくづくそう思います。笑
この度は大変お待たせしてすみません!


第12話 幸せ

「ああ、今日みたいにポストの中に入れるってのもいいがそっちの方がいいだろ」

 

そう、今日こいつが俺が家に帰ってくる前に家に入れることができていたのはあらかじめポストに鍵を入れて置いていたからだった。

流石にずっとそういうわけにもいかないしそれだったら元から合鍵を渡していた方が楽だろう。それに部屋を借りた時から合鍵を渡したいとは思っていた。しばらく手のひらにある合鍵を杏は嬉しそうな顔で見つめているので自然とこっちも微笑ましくなり頭を撫でる。

やっぱりこいつのこういう顔を見ていると、なんでも頑張れそうな気がしてしまう。大袈裟かもしれないが、今の俺は杏がいるからこうして頑張って行けてるのだと思う。もしこいつが隣に居てなかったらきっともっと堕落した人生を送っているだろう。

 

「……ほんとにいいの?」

「ああ、お前しか渡すやついねえしな。ていうか今日ポストに元から鍵入れてたから既にそっち持ってたんだよな。まだ持ってるんならそれ使ってくれ」

「ん、ああ……ちょっと待って!」

 

杏はいきなり立ち上がり何故だか部屋の隅っこに置いていたカバンから既に持っていた鍵を取り出してそれを俺に渡してきた。

その謎の行動に疑問を抱くが別にどちらの鍵も変わらないのでとりあえず受け取っておく。

 

「やっぱさ」

「あん?」

「あんたから直接貰った合鍵の方貰っておきたいでしょ?それにその鍵返さなかったのも私からその鍵持ってていいか聞聞きたかったからカバンの中に入れておいたの」

「あ、ああ……そうか」

 

……やけに最近思うが、だいぶこいつ素直にこういうこと言うようになってきたな。

勿論暴力で解決するところはまだまだ変わってないが高校生の時には恥ずかしさの方が勝ってしまいなかなか言えなかったりするようなことも最近になってはスラリと言えている。

その理由は簡単で、ただ単に俺と恋人同士になってからの日常に慣れてきたからだろう。

現にキスだって数え切れないほどしてるしなんならついこの間も一日で数え切れないほどのキスを交わした。

だからキスのことに関しても最初はお互い恥じらいが生じていたが今ではもう“普通のこと”となってしまっている。

正直俺からすると恥じらいを見せなくなったことについては少し落胆の気持ちがあるが。

 

(ちょっとこの辺りでもう少し進展してみるか……?)

 

付き合いだしてから約1年が経とうとしている今、俺と杏はそういう面に関しては異常なほど進んではいなかった。

高校の頃も何度かそういう感じのことをしようかという話もしたことがあったが時期が時期だったので自然と何も進展しないまま卒業してしまい今に至ってしまっている。

流石にこれだけ何も無いというのもおかしな話なのでさりげなく今日そういう感じの雰囲気出してみようか?

逆にこれだけの長期間ほぼ何もしていない俺も褒めて欲しいものだ。

 

「朋也、もう食器片付けていい?」

「ああ。サンキューな、美味かったぜ」

「この私が作ってんだから当たり前でしょ」

「やっぱ少し腕上がったな、肉じゃが以外も味付け変えたろ?」

「まあね。ま、家で練習したりとかしてるから当然のことよ」

 

口ではこう言ってるがやはり褒め言葉は嬉しいのだろう食器を片付ける杏は機嫌が良さそうだった。

俺も立ち上がって自分の食器を台所に持っていき洗うのを手伝おうとしたがゆっくりしててと断られてしまったので仕方なく居間に戻ることにする。

またパソコンの練習をする気力もないのでしばらくテレビを見ることにして電源をつける。今までテレビというのは必要最低限の時しか見ずこの時間は何の番組をしているのか全く知らないので適当にチャンネルを押して静かに見た。

 

「そういや、杏。今日は何時くらいに帰る?」

「んー8時くらいには帰りたいかな、明日も朝早いのよ。あときょうっていう言葉2回連続で言われると紛らわしいからできるだけわけて」

「お前の名前は色々と面倒だな」

「アァ?」

 

台所から背筋が震え上がるほどの何かを感じ取り俺は咄嗟に黙り込んだ。

やばい、テレビを見ながら話してたもんだからつい口が滑っちまった……杏と話す時はできるだけ会話に集中するようにしよう。何も言わずに黙っていると、ふと向こうから失笑するような馬鹿にするような声が聞こえてくる。

 

「……あんたもつくづくヘタレよねえ?こんな事で怖気付いちゃうなんてさー。ひょっとするとあの陽平よりーー」

「アァ?」

 

流石に俺にも言ってはならないワードってもんがありそれが例え杏だとしても許されない。

険しい表情で杏のいる台所の方を見つめているとぶっと吹き出されてしまった。

 

「……んだよ」

「いやっ……あんたってほんと、陽平と比べられるのだけは嫌なのねえ?正直どっちも変わんないと思うんだけど」

「お前それ本気で言ってるのかっ」

 

もしかすると他の奴らから見たらあのバカ原と俺は同類に見えてしまっていたのか………??いやまあ確かに同類だったからこそ高校生活を共に過ごしてきた訳だが性格とかそういう方向ではあいつとは同類にされたくない。

全く関わりのないやつらから見てそう思われるのは仕方ないが思うがある程度仲の良かったやつからも一緒に思われてたかもしれないって考えると凄いショックだな……。

 

「馬鹿、冗談よ。あのヘタレと変わんないんだったら今朋也の隣になんかいないわよ」

「お前っ冗談きついぞ!」

「はいはいごめん、あんたにとっては1番比べられたくないことだもんね〜?ていうかあいつ今何してんの?」

「さあ、連絡取ってねえから分からん」

「あんなに一緒にいたのにあいつのこと心配にならないの?」

「じゃあ聞くがお前はあいつがどうしてるか心配になるか?」

「ならないわよ」

 

こいつも一応かなりの時間は春原と過ごしているはずなのに即答でこの答えだ、つまり今春原のことを心配していたり考えていたりする奴はきっと皆無だろう。

……なんだかそう考えるとすごいあいつが惨めに見えてくるな、仕方がない友達(仮)だったしな気が向いたら電話でもしてやろう。

適当に雑談を重ねていると片付けが終わったのか杏は居間にやってきて俺の隣に座る、しかも距離感ほぼゼロで。

ちらっと時計を見ると8時までは約1時間くらいの余裕があった。

 

「ねえ」

「あん?」

「今日初出勤、どうだったの?」

「あぁ……まあ、覚えることが多いな。俺パソコンとかできねえからまずそれからやってる」

「パソコンの授業とかろくに出てなかったでしょ?また教えてあげよーか?その代わりきちんとお礼をして貰わないといけないけど」

「いや、遠慮しとくぜ」

 

 

そのお礼というものはきっと恐ろしいものに違いないからな。

あっそ、とつまんなさそうに返答をした杏は近くにあったテレビのリモコンを取って違う番組に変える。ちなみに何故この家にテレビがあるのかというとちょうど杏の家庭がテレビを買い換えたらしく古い方のテレビが使わないということなので譲ってもらった。

俺自身テレビっ子というわけではないのでテレビがあろうがなかろうが生活に支障をきたすわけではないので最初はどっちでも良かったのだが譲ってもらえるというならばせっかくなら貰っておこうと思いその結果この貧乏な暮らしには珍しいテレビが設置されたというわけだ。

 

「お前の方は学校どうなんだ?」

「ん〜?まあまだ1年だからね、座学ばっかりの普通の授業よ。周りを見れば女の子ばっかりだからさ少し新鮮よ」

「じゃあ男からしたら最高の学校だな」

「そうでしょうね。あ、男といえばねえ朋也っ、椋ね彼氏出来たのよ!」

「えっ……??」

 

その言葉に、俺は一瞬体が固まってしまう。

 

「………そう、か。どんな奴なんだ?」

「結構優しそうな感じだったわよ?ちょっと変わってる人だとは思うけどね」

「あいつのこときちんと守ってくれる奴だったらお前も安心できるだろ。ーー良かったな」

 

本当に、良かったと思える。

椋の彼氏という役目を果たすことができなかった俺が唯一思っていても許される感情が溢れ出てきた。

少し見ない間にあいつも新しい人と出会い、恋をしていたんだ。

ふと椋と付き合っていた頃のことを思い出す。

とても少ない時間だったが、デートもしてキスもした。その中での椋の遠慮がちな表情、照れた時の表情、楽しそうな表情、どれもこれも覚えている。

あいつは俺と付き合っていた時少しでも幸せだと思っていてくれていただろうか?もし、幸せと感じていたなら。

彼氏とこれからずっとあの表情でいてくれたらと。今度は友達として願った。

そしてこの事を聞いた俺は自然と頬が緩んでしまい、杏は横目で俺を見る。

 

「……嫉妬とかしてない?」

「ん?なんでするんだよ」

「いや、だってあんただって椋と付き合ってたんだからさ。やっぱそういう感情はどうしても湧いちゃうのかなーって」

「ねえな。それに、普通の別れ方ならそう思うのも仕方ねえかもしれないが俺は違う。そんな事思ったら最悪だろ」

 

ふと、杏の顔が険しくなる。きっとこうなってしまったのは自分のせいだとかどうたら思ってやがるのだろう。

こう見えてもこいつは妹思いで面倒見もいい。だからこそ余計に責任や罪悪感といったものがまだ心の隅っこにあるのだろう。

当然俺もそういった気持ちがまだ残っている。むしろ責められるのは俺の方だ。でもこうして椋に彼氏ができたことで少し心が軽くなったのも事実だった。

 

「おい杏、椋は今幸せなんだろ?だったらお前もそんな顔すんな。あいつもお前がまだあのことを引きずっていることなんか願ってないはずだ」

「そんなこと分かってるわよっ。私だって椋に彼氏ができたことは本当に嬉しいの、あの子最近本当に幸せみたいだし」

「じゃあこれからの日々は、姉妹揃って幸せじゃねえか。違うのか?」

「………そう、ね。うん、私も椋も、今とても幸せよ」

 

そう言って杏は俺の肩に寄りかかり安心した表情を浮かべている。

無性にその顔が可愛く見えて、ふいに俺はキスをする。

予想していたのか、すんなりと受け容れてくれそのままだんだんと深いキスに変わっていく。

しばらくキスをし続けてお互い呼吸がキツくなってきた頃、俺は優しいキスをしながらゆっくりと杏を押し倒す。

いつもだったらキスで終わってしまっていた二人の関係。それ以上のことをする時間も場所もなく今まで未遂で終わってきたが、一人暮らしを始めた以上そういうことをする条件というのは完璧に揃っていた。

押し倒した時少し杏の身体はびくっと反応するが反抗もなにもなかったのでまたしばらく深めのキスをする。

所々聞こえる杏の漏れる声は、俺を徐々に興奮させていった。

やがて呼吸も限界になってきてしまったのでキスをやめお互いほんのり蒸気した顔で見つめ合う。

 

「はあ……はぁ…朋也………。私もう、帰らないとーー」

「まだ30分くらいあるだろ?少しくらいダメか?」

「少しって……ま、また今度にしない!?時間ある時にさっ」

「嫌だ。悪い杏、俺今すげえ興奮しちまってる。最後まではしねえからさ、いいか?」

「だからその途中までってのが嫌なのよ……」

「あ?なんて?」

 

いつの間にか顔面を真っ赤にしている杏の言葉はとても小さく、聞き取ることが出来なかったのでもう一度言うように促そうとする。

全く視線も合わせてくれないので両手で杏の顔を押さえ込み視線を合わせた。

 

「なんだって?」

「っ……!は、離しなさいよっ!」

「じゃあ何を言おうとしてたんだ?」

「だからっーー」

 

とまた、直前で恥ずかしくなったのかまた言うのをやめた。

………そこまで言い難いことなのだろうか?

もしかすると、俺とするのが嫌でその事を言いたいけど流石の俺でもショックを受けるのではないかという思考が杏の中で繰り広げられているのかもしれない。だから今の今までこういうことが全くなかったのではないか?

……1度そんなことを考えてしまうと全部が正しく思えてくるので考えるのをやめ、言葉の続きも聞きたくなくなってしまったので抑えていた手を離す。

 

「なあ、杏。俺のこと好きか?」

「ーーは?」

「いや、やっぱ俺とこういうことするのは嫌なのかと思ってな。もし嫌なら無理やりしたりはしないよ」

「あ、うん……別に嫌とかではないからね?」

「じゃあなんで」

「だ、だから今はっ」

「ん?」

「……別にしていいけど、さ。……途中で止められちゃっても、そこで止まれる気がしないのよ……!」

「…………………………へ?」

 

思ってもいなかった予想外の言葉に素の声を出してしまい、次にじわじわと顔が赤くなってくる。

こんな事を言わせるために俺はさっきまで粘っていたのかと考えると恥ずかしくなった。まあ、こういった本音を聞けるのはこっちからすればたまったもんじゃないが……。だが向こうはきっと俺の恥ずかしさとは比べものにならないくらいの羞恥を感じているだろう、そして俺が再び話しかけようとした瞬間には既に顔面を殴られていた。

 

「いってえ……!お前、少しは加減しろよっ」

「ごめんねえ?私加減ってのを知らないの。それに自業自得よ。これだけじゃ足りないでしょもっとしてあげましょうか?」

「遠慮しておきます」

「じゃあそこ、どいて」

 

未だに真っ赤になっている杏の顔を今みたいに近くでもっと見つめておきたいがこのままだと本当に殴られ続ける末路が待っているので仕方なく杏の上から退いた。

正直途中で終わりたくないんだったら最後までやればいいじゃないかと思ってしまうがそれ以上にやはり今は学業の方を優先させたいのだろう。俺は利己的な考えを押し込めちょうど8時の針を指した時計を見た。

 

「もう時間だぞ。送っていくよ」

「いいわよ、別に。あんたも今日初出勤で疲れてんだから大丈夫」

「じゃあせめて途中までは送る。ほら、手を貸せ」

「自分で立てるからいいわよっ。先に行くからちゃんと戸締りしておきなさいよっ」

 

おい、と声をかける隙も与えてくれず杏はせっせと玄関を出て行ってしまった。きっとさっきの言葉を発したせいで杏のプライドはズタボロになっているのだろう、まだ顔を合わせるのは恥ずかしいってところか。

ほんと素直じゃねえ奴……しかも自分の行動が他の人にとって不利益となるのであれば自分の欲をも封じ込めてしまう。

表面だけ見れば遠慮なしの喧嘩っ早いただの暴力女に見えがちだが本当は全然違う。

何故杏が女子たちにあんなに人気があったのか、今ではとても分かるようになった。

 

「はあ……。お前が先に行くんだったら、俺が送る意味ねえだろ」

 

戸締りをして杏に追いつくために早歩きで道路を歩く。少しもしたらすくに姿が見えたので俺は走って横に並んだ。

お互い話しかけることもしなかったのでしはらく無言で歩き続け、俺はチラリと杏を見る。

 

(もう怒ってはなさそうだな)

 

それだけを確認すると、俺は杏の手を握り無言で前を見つめた。

一瞬睨みつけられたが、結局ため息をつきながら手は握り続けていてくれたのでまあ良しだろう。

 

「……明日、寝坊しちゃダメよ。学校じゃないんだから、寝坊なんかしたらあんたの人生終わりだからね?」

「そんなヘマやらかすかよ。今まで散々だらしない人生送ってきたんだ。これで仕事もダメになるのはカッコ悪すぎだろ」

「そうねえ、その時はちゃんと私から振ってあげるから安心しなさい♪」

 

こいつ、安心っていう言葉の意味ちゃんと分かって言ってんのか?

でも、高校時代の俺の成績で内定を取ってくれた今の会社には感謝しなければならない。内定を取ってくれたということは多少は俺をあてにしてくれてるんだよな……。

そう思うと自然と、仕事に対しての熱量が変わってくる。

もっと、今の仕事に慣れて少しでも役に立てれば。

まだ出勤してからたった1日しか経過してないが、そう本気で思えた。

 

 

 

 

 

 

 


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