Kyo After   作:エリミサ号

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第2話 帰り道

「おっそーい!どんだけ待たせんのよ!」

「春原が俺とどうしても帰りたいってわめくからさ時間がかかったんだよ」

「普通あんな奴ほっといてすぐ彼女のとこに来るべきよ!」

 

相変わらずの春原、言われようが凄い。

あとわめかれたっていうのも嘘でただ単に授業中爆睡してしまいチャイムがなっても気づかずに放課後になっていたからだ。

……ん?待て、春原のやつなぜ俺を起こさなかった?

6限目の時は確かいたよな、隣に。

 

「杏、今度春原に会ったら思う存分しばいていいぞ。あいつ何気にお前に殴られんの楽しんでんだよ」

「は??あいつそこまでいっちゃう気持ち悪さなの?次しばく時は私に殴られたという記憶を失くすくらいには殴らないとダメね」

 

おい春原、まじで気持ち悪がられてんぞ。まあこれも嘘だけど。

とりあえず俺を起こさなかった罰としてあいつには殴られる権利を与えよう。

 

「今日も陽平んとこ?」

「ん?あぁ、そうだな」

「いつもあいつといて気狂わないの?」

「狂う狂う」

 

俺は適当に返しその話を流そうとする。

正直あんな家にいるのならば春原の部屋にいるほうがよっぽどマシだ。

杏には俺の家庭事情というものを話しておくべきなのだろうが今は話す気にはなれなかった。まずあんな奴のことをなぜ話さなければならない?そんな話をするならばもっとイチャついたり他愛のない話をしたい、ずっと杏と笑いあっていきたい。

だからわざとこれ以上この話を続けるなと拒否反応を示し伝わったのか杏は違う話題に変えた。

 

「思うんだけどさー、あんた前髪切ったらもっとかっこよくなるわよ」

「あ?なんだいきなり」

「だって結構長いじゃない?せっかく顔は整ってるんだから絶対切った方がいいわよ!そうね、もう切りましょ!私の彼氏なんだからかっこよくないと困るわ」

「なんでお前の判断で俺が髪切らないとーーー」

「なにかなトモヤクン??」

「なんでもないです近いうちに切ります」

 

分かったからその右手に持っている辞書を早く治してくれ。

本当いつも思うが毎回それはどこから出てくるんだ。気づいた時にはもう投げられているからなそれ。

こいつ実は勉強家なのか?家に辞書専用の本棚とか置いてんのじゃねえのか。とにかく春原みたいに辞書を頭にぶつけられて気絶はしたくないので言うことを聞いておくに損なことはない。

あいつはわざと歯向かっていくからダメなんだよ。

 

「決まりね!じゃあ私が切ってあげる!前髪だけで美容院行くなんて勿体ないでしょ」

「お前が!?切れるのかよっ?」

「当たり前じゃない!普通切れるでしょバカにしてんの?」

「いやしてねえけど……」

 

いや普通に怖いんだが。

だって想像してみろ、杏に髪の毛切られんだぜ?それこそ丸坊主とかしそうじゃねえかよ。

いやそれだけじゃ済まないかもしれない、切っている最中に杏を怒られせたりでもしたら、、、、

いや、想像するのはやめようとにかく絶対にしてはいけないことは杏を怒らせてはならないことだ。

怒らせてしまうと俺は意識が一生戻らなくなる可能性もあるからな……これ程怖い散髪は初めてだぜ。

 

「じゃあ明日の放課後切りましょ!袋とハサミがあれば教室でもできるしね」

「……分かった」

 

これは今までで1番したいとは思わない散髪だな。

杏は機嫌が良いのだろう笑顔で今日あった出来事などを話してくる。

そういえば、椋から預かってた弁当箱返さねえといけないな。

俺はカバンを漁り可愛らしい弁当箱を取り出して杏に渡した。

 

「ほら、弁当」

「ん?ああありがとね。で、どうだった??」

「……今まで通り仲良くしようぜってことにはなったよ」

「ほんと!?やっぱ私がいなきゃ話しかけることすら無理だもんね〜これで解決ね!」

 

いやお前がいなくてもいずれ解決することだと思うぞ。

俺だって気まずいまま椋と同じクラスっていうのは嫌だしな、何しろずっと俺の事を想ってくれていた人なんだ、自分の勝手でこの事はうやむやにするということは絶対に出来なかった。でも、今日で本当に解決したと思う。もう少し時間がかかるかなとは思ったが、確かにこの短期間で椋との関係が改めて良くなったのは杏のおかげだろう。こいつの手助けがなかったらしばらくは気まずいままだ。

 

「でもこれで、お前と遠慮なくイチャイチャできるな」

「な、何言ってんのよ!アンタ椋と前までみたいな友達に戻ったってなってもしばらくはそういうのは自粛するもんよ!」

「じゃあいつかはイチャイチャしていいんだな?」

「あーもうっ、そういうのは別に聞かなくても分かるでしょ!!男の子って常にそれしか考えることできないの?」

「健全な男なら普通のことだろ」

 

逆に付き合っているのに何も考えない奴がいたほうがおかしいだろう。今の年齢からしてみると男というのは常にそういうことを考えている奴が多い。俺だって普通並みに性的な興味はある。

好きな女の子だからこそもっと知りたいし一緒にいたいし触りたくなる。言ってしまえばこの感情が出てきたからこそ好きという感情を認識できるのだろう。その好きという感情が溢れ出すと、その人のことを触れたくて仕方がない、これは健全な人だと思ってしまう感情ではないだろうか?

 

「私だってもっと朋也の傍にいたいわよ。でも今アンタと恋人らしいことをしたら絶対に椋の事が浮かんじゃう……。だから学校でそういう事するのはしばらく待って」

「元はと言えば俺があやふやにしてしまったことが悪いんだ、お前が悪いわけじゃない。それにお前、これで良かったんだろ?遠慮しすぎってのも悪いんじゃないか?」

 

かえって俺たちが遠慮しすぎてしまうと常に遠慮がちの椋からすればもっと遠慮させてしまうだろう。

こうなることを分かった上で付き合ったんだ、ある程度は割り切っていかないと俺たち二人も上手くいくか分からない。

 

「お前が1番あいつのことを分かってやってるだろ。だったらどうすればいいかはお前が1番分かってるはずだ」

「……まあね。とりあえず私は朋也より椋優先で考えることを忘れちゃダメよ?」

 

そう当たり前みたいな口調で杏は言う。

たった今、俺は彼女の妹に優先順位が負けてしまった。

そう思っているのは勝手だが口には出さないで欲しい、何しろ俺だってプライドというものがあるからな妹でも負けてしまうのはなんだか悔しいじゃねえか。

そんなこんなで分かれ道になった。

 

「明日の散髪楽しみにしてなさいよー!」

「気が変わって春原を丸坊主にするってのもありだぜ」

「なんで陽平の髪を切らなくちゃいけないのよ。朋也優先よ」

 

お、なんだか春原相手だが優先されたことがすごい嬉しいぞ。

今虫でもなんでも何かに優先されたら多分すごい嬉しい。こいつからして俺という存在はどれくらいの程なのだろうか?

……と、こんなにも人に興味を持っているんだなと感じた俺は鼻で笑った。

髪を切られることに関しては全然切らないで結構だが杏と一緒にいられる面に関しては大歓迎だ、だから前までだったら本気で拒むところを今は拒んだりしない。帰る間際の少し空いた距離から杏に伝える。

 

「杏」

「んー??」

「好きだ」

「なっ……!!」

 

なんてこといきなり言い出すのよ…!!と言わんばかりの真っ赤な顔の杏を見て俺はぶっと笑った。

最近思う。人と関わることでこんなにも人は変われるんだと。

俺がこんなにも相手のことを知りたいと思うのも杏と椋のおかげだろう。

 

「俺から好きって言ってなかったからな。んじゃまたな」

 

 

杏の言葉も待たずに俺は歩き出す。

こんなにも幸せな日々は初めてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい春原、茶」

 

その後いつものように寮を目指し春原の部屋にたどり着いた瞬間、俺はそう呟いた。

が、当の本人はこんなきったない地面にいびきをかきながら熟睡していたのだ。

 

「てめえ今日の放課後俺を起こさなかったな?よし、お前がその態度なら俺もやってやろうじゃねえか」

 

カバンをどっか適当な空いてる場所に置いてTシャツとパンツ一丁で寝てる春原を見て何をしたら面白そうかを考える。

ラグビー部の連中は確か今日から3日くらい合宿で部屋を空けてたよな……ってなると美佐枝さんくらいだな。

俺は適当な紙にサインペンで《僕と春原大家族を築きましょううひゃっ》と書いてパンツの上に貼り付けて部屋を出た。

そして廊下を進んで美佐枝さんの部屋をノックする。

 

「はぁーーい」

 

掃除機でもかけていたのだろう雑音に混じりながらの美佐枝さんの声が聞こえてきて扉が開いた。

 

「や、美佐枝さん」

「あぁ岡崎か。どしたの?」

 

そういえば今の時間に美佐枝さんが部屋にいるって珍しいよな。

今のちょうど放課後の時間だとご飯作ってるかこらー!!と叫んでラグビー部か春原を追いかけている頃だろうに。

ん、まてそうなると今やこの寮は春原と美佐枝さんだけになるんじゃねえのか!?

他の運動部の奴もいるかもしれないが少なくとも春原とラグビー部の奴以外見た事がない。

だとすると今日あいつが俺を起こさずに帰ったってことは早く寮に帰って美佐枝さんと2人きりで過ごそうという考えがあったからこその行動ではないだろうか。でも何故寝てるんだ?

 

「あ、春原が愛想つかしてるから私んとこ来たの?」

「え?なんで?」

「あいつラグビー部がいないのを機に私の部屋に入ろうとするから鍵かけて無視を決め込んでたのよ」

「ほう。いつもみたいに殴らないって珍しいのな」

「私だってやりたくてやってるんじゃないわよ」

 

なるほど、それでやることもなく俺が来るまで寝てようと言う感じで今に至ってんだろうな。

ていうかあいつはやっぱアホだな。

誰もいない時に女の部屋に訪れるなど下心が丸出しである、少しはもっと考えたことをすべきだろう。たまに核心につく言葉を言う時もあるのに普段はだらしない。

そして美佐枝さんも部屋着なのかいつもとは違う服をしていてそれは何とも胸を強調されるような感じな服だったので俺はつい目線を逸らした。こりゃ普段の服にしてもらわねえとこの寮に住んでる奴らが大変なことになるぜ……。

 

「まあとにかく、その春原が美佐枝さんを呼んでんだよ」

「またあ?なんの用よ」

「なんか大事な話があるんだってさ。進路のこととかじゃね?」

「春原が!?でもそれは確かに相談に乗らないといけないわね……」

 

美佐枝さんは少し考え込むと分かった、今から行くわと言って1度部屋の中に戻ってしまった。

よし、これでセッティングは万端だな。あとは春原の部屋の近くにでも隠れておいて様子を伺うか。

ちょうど死角になるところを身を潜め少し遠くからバタンと扉の音がする。そしてこちらに向かって足音を響かせ春原の部屋に着いてノックをした。

 

「春原ーいるんでしょー?相談乗りに来たわよ」

 

と、美佐枝さんは声をかけるが出てくる気配もなく沈黙の時間が流れる。そして美佐枝さんは考える暇もなくドアを開き中に突っ込んでいった。すると……

 

ブゴンボガアアアボンバヘッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

「岡崎いいいいい!!!アンタも同罪じゃあああああ!!!」

 

ブゴンボガアアアボンバヘッッッッッッッッ!!!!!!!!!

 

…………………………………………。

 

 

 

 

 

 

「でなにこの光景は?!気付いたら殴られてる僕の身にもなってよ!!」

「てめえが下心丸出しなのが悪い」

 

ああ痛え……。

あの後すぐに俺が仕掛けたことだと美佐枝さんにバレて同じくらいに暴力の説教をされた。

今思えば俺の周りって暴力振るう奴って多いよな?美佐枝さんや智代や杏や。その中での杏と付き合っていたら俺の人生長生きできるのだろうか。

 

「ラグビー部がいないからって好き放題しない!はあ……あのうるさいヤツらが居ないうちにゆっくりしておこうと思ったんだがねえ」

「悪いな、明日からちゃんと静かにするからさ」

「ここに住んでるような言葉を言うな!ったく次またあったときは本当に容赦しないわよ?」

 

結構言葉のトーンがガチだったので俺と春原はうんうんと頷く。

今の現状を言うと春原の部屋で俺と春原は美佐枝さんに言葉の説教をさせられていた。

ちなみに春原はもうパンツではなくきちんとヨレヨレのズボンを履いている。その春原を見るとさっきから美佐枝さんの強調された胸に釘付けだったので美佐枝さんもそれに気付きまたボコられた。

 

「はあ……アンタらの将来が本当に不安だわ。岡崎、アンタは卒業したらどうすんの?」

 

そうふいに進路相談のような話題を美佐枝さんは吹っかけてきた。正直俺らがあんまりしたくない話題だ、そんなのを話してどうすんだとつい言い返してしまいそうになる。高校の教師らもそんな話をしてもあまり意味はないと思っているのだろう他の色んな道がある、希望がたくさんある連中ばかりにそういう相談に乗っている。

この人も俺が高校ではどんな奴かというのはある程度知っているだろう、名前を書いたら行ける大学もあるだろうが行きたいとも思わない。

だから就職という言葉を分かりきっての質問だったのだろう、俺は平然と返す。

 

「就職するよ、それしかねえからな」

「ふうん、そ。ま、頑張んなさい?就職でもある程度は内申とかそういうの大事なんだからさ今から少しでも上げてみてもいんじゃない?」

「岡崎が?無理無理、僕なんか勉強しよとか微塵も思っちゃいないしね!」

「春原のことは聞いてないわよ」

「ひどっ!?僕の相談はなしっスか!」

 

そんな春原と美佐枝さんの会話を隅にふと、杏の顔を思い浮かべる。

もし内申が悪くて思ったような就職に就けなかったらあいつはどう思うだろうか?仮に杏とずっと付き合っていくとしてそんな中途半端な就職をしていいのだろうか。

杏と付き合っていなかったら、多分俺も春原と同じ様なことを考えていただろう。でも今は違う。

あいつとしては俺にもちゃんとした就職に就いて欲しいと思っているだろう。私と付き合ってるんだからちゃんとしなさい!!とかなんとか言いながら。

そうか、俺は今、ちゃんと夢があるやつと付き合っているんだな。

保育士を目指したいと杏は俺に伝えてくれた。だから高校を卒業したら大学か専門学校に進学することになるだろう。

と、そこまで考えてふと美佐枝さんを見つめる。やっぱりあいつの彼氏として、少しはきちんとしなくてはならない。

 

「なあ、美佐枝さん」

「なに?」

「俺、少し真剣に考えてみるよ。大事にしたい奴がいるんだ。そいつが困ったりした時、俺1人で助けられるようになりたい」

 

こうやって物事にきちんと向き合おうとしたことは本当にいつぶりのことだろうか?

やっぱり、人を好きになる力というのは凄いなと実感する。

現に春原はなんともいえない感情なのだろうごっちゃになって表現しにくい表情をしている。

そう伝えた俺の目は真剣な眼差しだったのだろうか?美佐枝さんは笑いながら伝えてくれる。

 

「岡崎、そう思えることはすごい大事なことよ。人を好きになったらね、今までしようとも思ってなかったこともできるようになる。だから頑張りなさい」

 

その言葉は前までの俺までには1個も突き刺さらなかっただろうが今はとても突き刺さってくる。

だから決心する。あと1年もないが、少しくらいは大切な人のために頑張ってみるのもいいのじゃないかと。

こんな俺が少し頑張ったところで何も成果が出ないことも有り得るだろうが、やってみないと分からない。

そう思えるようになったことに喜びを感じた。

 

「よし春原、明日から寝坊すんなよ」

「いや僕も!?」

 

だから明日から、春原を巻き込んで頑張ることにしよう。

 

 

 

 

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