捨て子のひろいもの   作:渚咲

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反省はしてるけど後悔はない






捨て子のひろいもの

《リーナ、起きて。もう起きないと流石に間に合わないよ?》

 

「分かってる、分かってるよ。あと5分だけ、いやあと30分だけで良いから寝かせて……」

 

《リーナは忘れてるかも知れないけど、さっき30分前に全く同じセリフを呟いて寝ちゃってたよ。録音してたけど聞いてみる?》

 

「……レーテのそういうとこ、ほんっとにムカつく!」

 

 

 

悪態をつき、嫌々ベットから起き上がった小柄な少女。名をリーナ・ローウェスという。子供のような駄々を捏ねているが、こんな彼女でも一応、お国を守る警官の端くれである。

 

 

 

《ムカつくって言われても本当のことだし。それに、私が起こさなきゃ絶対寝過ごしてたし、むしろ感謝してくれなきゃ》

 

「そう言われると言い返せなくなるように、時間を上手く調整してるのもムカつく……」

 

《ふふん。リーナが私に勝とうなんて百年は早いよ!》

 

 

 

そう言って勝ち誇るのは、彼女の持つMBSシステム《レーツェル》だ。警官でありながら、色々と抜けている彼女の世話をしている。今日も今日とてぐーたらなマスターを叩き起し、起きた後の支度を粗方済ませておく。民間化されたこともあり、簡単な家事くらいなら全てMBSが行えるように環境が整えられた。

 

 

 

《全く、リーナは私が居るということの有難みを理解してないよ。こうしてリーナがギリギリに起きても大丈夫な様に、何から何までちゃんと用意してるんだよ?》

 

「ほんとに!?ありがと、レーテ!」

 

《うむうむ》

 

 

 

トーストをかじりつつ、彼女は相棒に問いかける。

 

 

 

「ところでレーテ、作戦って何するんだっけ?」

 

《……忘れてたの?ほんの数時間前に一緒に確認したよね?》

 

「そうだっけ?ごめんごめん、忘れちゃった」

 

 

 

こんな子が警官でこの国は大丈夫なんだろうか。レーテはそう思わずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

政府が義勇軍残党が潜伏していると予想していた地区において、地元の警官達が本当に拠点を発見してしまったこと。その拠点のリーダーは、かの有名なデュスノミアの英雄だと判明していること。その他諸々を説明し、本題を伝える。

 

 

 

《そして私達の仕事だけど、残された敵トラップの解除作業と、生き残った味方の救出だね。直接戦う訳じゃないし、戦闘中ずっと起きてても暇だし。……だから寝てたんじゃないの?》

 

「そういえばそうでした。ところで、私を起こしたって事は戦闘は終わったの?」

 

《うん。でも作戦としては失敗なのかな、ジャック・アーロンもアイリッシュも逃がしちゃったみたい。あと、マルティネスっていう衛生兵にも逃げられたって》

 

「まんまと全員逃げられてるじゃん!大丈夫なの?」

 

《大丈夫だと思うよ?そもそも今回の戦闘自体、かなり偶発的なものだったらしいし》

 

「うーん、逃げられてもいいって良くわかんないや」

 

《リーナは自分の仕事だけやればOK!ってことだよ》

 

 

 

作戦内容の確認を済ませ、二人は戦場跡へ向かう。敵は居ないがトラップは大量という少し歪な場所。そのせいか、優秀でも無能でもない中途半端な者ばかり集められていた。

 

 

 

「なんか拍子抜けだね。元軍人のレジスタンスだって言うから、結構真面目にやってたんだけど」

 

《いくら軍人って言っても、ヴォルケムートと違ってコープスは穏健派って聞くし。踏んだら即死とか、そんなレベルの物は仕掛けてないと思うよ?》

 

「なーんだ。爆散!みたいなのを期待してたのに」

 

《心臓に悪すぎる……》

 

 

 

気の抜けたことを言いながら、人の居なくなった住宅街を歩いていく。

 

 

 

《マスター……誰か、マスターを……》

 

「ん?なんか言った?」

 

《私じゃないよ。……この反応は、MBS?》

 

 

 

リーナの耳に、誰かが助けを求める声が聞こえた。二人はすぐさま、その声が聞こえた方向に向かう。

 

 

 

「テロリストの死体……?」

 

《このMBSは、主人が死に、味方にも回収されず、そのまま置いていかれたんだろうね》

 

「……今の私は警官なんだ。レーテの時のみたいに、この子を拾ってあげられない……」

 

 

 

リーナは、この子を置いていくことに罪悪感を感じている。だがそれは間違いだと、レーテは思う。見て見ぬふりをするだけ、彼女は優しい方だ。今このMBSを保護すれば、レジスタンスにこちらの情報を渡すことになるかもしれない。

 

それに本来なら、敵MBSは署まで持ち帰り、情報を引き出せるだけ引き出し、人格をリセットする事となっている。

 

人格をリセット……つまり、殺さねばならないのだ。その点、ここで彼女が見なかったことにすれば、もの好きな民間人が拾って保護してくれるかもしれない。

 

 

 

《行こう、リーナ》

 

「うん……」

 

 

 

すっかり落ち込んでしまったリーナを見て、レーテは昔の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

リーナは元々孤児院の出身で、今の両親も本当の親ではなく里親。ローウェスという名前だって、その里親の名前だ。

 

彼女は自分の居た孤児院の中で少し浮いていた。その理由の一つが、彼女の珍しい容姿。……真っ白な髪と肌に、またまた真っ白な目。いわゆるアルビノと言うやつだ。通常、アルビノと言うのは先天的な物なのだが、彼女のこれは過度なストレスにより色が全て抜け落ちた物、厳密に言うとアルビノとは少し違う。

 

そして二つ目が、孤児院に来た理由だ。彼女の本当の両親は、彼女がまだ幼い頃に離婚し、その親権は父親に渡った。父親は乱暴な性格で、成長していくにつれ、どんどん顔立ちが母親に似ていく彼女に苛立ち、日常的に暴力を振るっていた。

 

それを見かねたアパートの大家が児童相談所に通報。駆けつけた職員達がそこで見たのは、あまりに酷いものだった。

 

汚い部屋、散乱した酒瓶、血が飛び散った壁。……そして、顔が大きく腫れ、身体中痣だらけで、部屋の隅に蹲っている真っ白な少女。彼女は発見後すぐさま病院に搬送され、そのまま孤児院に預けられた。

 

そんな事があり、彼女は人を信じなくなった。孤児院の職員も、同じような境遇の子供達をも信じない。他の子とは違う容姿を持ち、誰とも関わろうとはせず、仮面を被っているかのように、その顔は常に無表情。周りから見ればさぞ不気味だろう。必要最低限の会話だけをし、一日を終える。そんな日々を過ごしていた彼女に、文字通り運命を変える出来事が起こる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

孤児院に預けられてから数年後、リーナ達の居る街の近くで、ロリ義勇軍と熟女好き派による戦闘が起こった。街には避難勧告が出され、孤児院の人々も我先にと逃げ出した。

 

だが、彼女は避難出来なかった。理由は単純、置いていかれたのだ。避難用の車の数は限られていて、必ず戻ってくると言った大人達は、我が身可愛さに彼女を見捨てた。そのまま両軍は戦闘を開始。銃声と爆発音が響く中、彼女は震えながら身を隠していた。

 

2日ほど経っただろうか。戦闘は終了し、両軍は撤退。弱りきった体を動かし外に出てみると、そこにはボロボロの街があった。

 

───何か食べるものが欲しい。そう思い、クレーターだらけの道を進んでいると、何かの声がした。

 

 

 

《誰か、誰か居ませんか?》

 

「君は……何?」

 

 

 

そこにあったのは人の死体と一丁の銃、この声はどうやら、死体の持っている銃から聞こえて来ているらしい。

 

 

 

《私はACW-Rに搭載されたMBSシステムです。貴女は?》

 

「私はリーナ、MBSシステムってなに?こんな所で何をしているの?」

 

《MBSシステムとは、銃器にプログラムされた戦闘補助システムです。持ち主が死んで放棄されてしまった為、保護を求めています》

 

「へー、私と同じだね。君も捨てられたんだ」

 

《状況的にはそうなります。……私と同じ?》

 

「うん。私も親に捨てられた、孤児院の皆に捨てられた、街の皆に捨てられたの」

 

《…………》

 

「だからね、凄く困ってる。もしかしなくても、ここで死んじゃうかも知れないんだ」

 

《……何故そんなに平然としているのですか?人間というものは死を恐れる生き物でしょう?》

 

 

 

ACW-Rは不思議だった。何故、自分たちとは違い、半永久的な寿命を持たない人間が、それも、こんな年端もいかないような少女が、死が目の前に近づいていると言うのに、これほど冷静で居られるのか。

 

 

 

「だってしょうがないじゃん。私だけじゃ、隣街まで行くのは無理だし。それに、どっちでもいいんだ。生きようが死のうが。……もう、どうでもいいんだ。何もかも」

 

 

 

そう言って、彼女は少し笑った。その暗い笑顔を見た時、ACW-Rは理解した。彼女は冷静なのでは無い、ただ諦めているのだと。戦場で幾度となく見てきた、生きることを諦める顔。私達システムがどうしようも無く苦しくなる、あの顔。

 

それに思い当たった時、ACW-Rは彼女に一つの提案をした。

 

 

 

《私が居れば、車の運転も、隣街までのルート案内も可能です》

 

「……助けてくれようとしてるの?でも、ごめんね。私はもう疲れちゃったんだ。本当にどうでも良いんだよ、だから気にしないで」

 

《私は、貴女に生きて欲しいのです》

 

「……どうして?君と私は今日あったばかりなのに。それにどうせ、君も私を捨てていく。お母さんや、街の皆と同じようにね」

 

《───では、こうしましょう。私が貴女を裏切れば、私は自らのデータを消去し、二度と再起動出来ないようにプログラムを書き換えます。そして、私が貴女を裏切らなければ、貴女の命が尽きるまで、私を傍に置いていて欲しい》

 

「……それが君に何のメリットがあるの?補助システムとしての本能?私に同情してるつもり?……可哀想だね。こんな時にまで、他人の心配しか出来ないようになってるなんて」

 

《そうかもしれません。ただのシステムでしかない私には、今抱いているこの感情が、私の本心なのか、それともプログラムされた本能なのか、どちらかは分からない。ですが、それがどちらにせよ、今はっきりと認識していることが一つあります》

 

「……それって?」

 

《───私は貴女に幸せで居て欲しい。笑っていて欲しい。もう二度と、あのような暗い笑顔をして欲しくは無いと感じています》

 

「…………」

 

 

 

リーナは泣いてしまった。親にすら愛されず、誰からも愛される事のなかった少女は、今初めて、他者の暖かさを知った。同じ言葉を、他の誰かが言ったところで、きっと、彼女は信じる事が出来なかっただろう。それほどまでに、彼女の心は裏切られ続け、冷えきっていた。

 

だが、その暖かさを初めて彼女に教えたのは、嘘を知らない機械だった。ACW-Rのその真っ直ぐな言葉が、彼女の心を動かしたのだ。

 

 

 

《何故泣いているのですか?泣かないでください。貴女には泣いていて欲しくない、笑っていて欲しいのです》

 

「これは、……嬉しくて。嬉しくて泣いてるんだ。君は、私に幸せで欲しいんでしょ?ならもう少しだけ、泣かせていて欲しいな……」

 

《分かりました。貴女がそれで幸せになってくれるのなら、私は何時間、いえ何日でも待っています。》

 

「……流石に日は跨がないかなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

ひとしきり泣き終わった後、彼女とACW-Rは一つの約束をした。

 

 

 

「───じゃあ、約束。絶対に私の前から居なくならないで。私をもう一人にしないで。私とずっと、ずっとずっと一緒に居てね。お願い、お願いだよ」

 

《はい。絶対に貴女を一人にはしません。これから先、貴女の傍を離れることはありません。……約束です、リーナ》

 

 

 

この瞬間、一人の捨て子と一機の捨て娘の運命は変わった。一人は、自らが捨ててしまった感情を。一機は、新たに生まれてきた感情を拾いあげた。

 

 

 

「……今更なんだけど、君の名前を聞いてもいい?」

 

《私に名前はありません。リーナが付けてください》

 

「えぇ!?うーん、何がいいかな〜?」

 

《出来れば、リーナと同じような響きの名前がいいです》

 

「案外難しいこと言うね。そうだなぁ……あっ!《レーツェル》とかどう?愛称はレーテ!」

 

《レーツェル。……ドイツ語で謎、どんな意味が?》

 

「え、意味!?そ、それはほら!響きがカッコイイし、それにかくかくしかじかで」

 

《特に意味は無いんですね》

 

「はいそうです。意味なんて無いです、単に響きがカッコイイからそれにしました」

 

《……まぁいいです。リーナが私に付けてくれた名前ですから、一生大切にします。まぁ、機械なので一生と言うのは語弊があるかもしれないですが》

 

「ちょっと難しく考えすぎじゃない?……まぁ、それじゃ改めて、これからよろしくね。レーテ!」

 

《こちらこそ。……よろしく、リーナ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

そんなこんなで、私とリーナは出会った。それから二人で隣街まで行き、そこのお人好し夫婦に引き取られた。リーナと私は少しでもこの二人に恩返しがしたくて、この辺りでは一番稼ぎがいいであろう軍警察に就職した。当の二人は、そんなこと気にしなくていいと言っていたけど……そんな訳にも行かず、私達は家を出て、今は寮に入っている。

 

私が感傷に浸っている間にも、どんどん彼女は落ち込んで行ってしまう。ここで励ましてあげるのが私の仕事。

 

 

 

《そんなに落ち込まなくていい。例え皆がリーナを責めても、私はリーナの傍に居る。ずっとリーナの味方だよ》

 

「……ありがと、レーテ。おかげで少し楽になったよ。さて、切り替えてお仕事しなくちゃね!」

 

 

 

まだ無理してるけど、少しは元気を出してくれたみたい。彼女は他人に対して必要以上に気を遣う。それは彼女の長所と言えるが、同時に短所とも言える。

 

 

 

「……ここら辺のはこれで終わりかな。ふぃー、今日も疲れたよ」

 

《疲れたって……私がトラップを見つけて無力化、リーナはそれを回収してただけだよね?》

 

「実際にレーテを持って動き回ってたのは私だからいいの!レーテは分かんないと思うけど、銃って意外と重いんだよ?」

 

《それはリーナが普段から筋トレしてないから───》

 

「あーあー!聞こえない聞こえない!筋肉ムキムキな女の子とか嫌でしょ?そういうの、何でレーテには分かんないかな〜」

 

《だって私にはムキムキになる身体がないし》

 

「そういうと思ったよ。全く、愛想がないんだから」

 

 

 

やっぱり最後まで気の抜けたことを言いながら、私達は任務を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───これから先、今の情勢をひっくり返す大事件が起こることを、彼女たちはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

end……?

 

 

 

 

 




妄想垂れ流し



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