勇者パーティーをクビにされた村人♂、女騎士になる 作:主(ぬし)
「リン・ガーランド高位神官殿、司祭様がいらっしゃいました。謁見の間へどうぞ」
「ええ、ありがとう───」
控えの間に座る私たちに、影のような僧兵が声をかけてきた。歯の間から空気が抜けるような奇妙な声だった。彼に対し、神経が張り詰めている私は瞬時に違和感を覚える。その間の抜けた声にではなく、彼から発奮される刺々しい気配に、だ。
重要な司祭の傍に護衛として僧兵が控えているのは不思議なことじゃない。けれど、彼の両肩から発する気配が見るからにピリピリと殺気立っていた。勇者パーティー付きの神官として命の奪い合いに関わってきた経験から、その殺気が、戦う前の武者震いではなく
(……
思い返してみれば、小領主の城なみに大きな教会なのに、僧兵の数は聞いていたよりずっと少ない。15人はいるはずなのに、今は片手で数える程度しか見かけない。しかも、一見すると健全に見えるこの僧兵も、無表情の裏で負傷の痛みを歯噛みして堪えている。誰も彼も、無理して立っているかのような疲労が隠せていない。
訝しる私の視線を、僧兵はまるで一流の暗殺者のように鋭敏に察してさっと顔を背けた。だけど、そのことで逆にひどい裂傷を負った首筋を私にさらけ出すことになった。それは近接戦闘で負う刀傷に違いなかった。クリスが似たような負傷をよく負っていたからすぐにわかった。薄い紅を引いて隠そうとしているけど、唇の酷い切り傷をむしろ目立たせている。男なら誤魔化せても女の目には下手な化粧は通じない。チラリと見えた唇の隙間からはすきっ歯が垣間見える。空気が抜けるような声の原因はこれだ。
(僧兵が、誰かと戦った?まさか、そんな……)
王立教会の僧兵の役割は、あくまで自衛のための最低限の武力でしかない。扱える武器は刃のついていない棍棒か、鏃を丸めて殺傷能力を抑えた弓矢か、私のようなデミミスリル製の杖のみと決められている。積極的に戦うなんてご法度もいいところだ。少なくとも私はそう教えられてきたし、そう信じていた。けれど、鉢植えの椰子の影に姿を隠すように控えている僧兵の傷はとても深く、そして致命的に
(野生動物か野盗かにでも襲撃されたのかしら?でも、そのことを隠そうとする意図がわからないし、教会の周辺でなにかに襲われたという形跡もなかった)
それに、司祭の執務室に近づくにつれて僧兵の警備は物々しくなり、緊迫感がヒリヒリと感じられる。号令一下で今にも武器を手にとって臨戦態勢を取りそうな雰囲気だ。
そういえば、ここに来る途中で複数の足跡が散見された。一頭の馬と、たくさんの人間の足跡。足跡の持ち主たちはだいぶ焦っていたらしく、爪先の部分が深く食い込んでいたことを思い出す。もしかして、彼らは
「リン、どうしたの?」
「リン殿、行かないのか?どこか調子が悪いのか?」
じっと考え込んでいた私の様子を不審に思った魔法使いと武闘家が、心配そうに私の顔を覗き込んでくる。二人からこんな風に親身に思いやられたことがなかった私は思わず動揺してしまう。チラと視界に入ったハントは、相変わらず心ここにあらずといった風に
「え、ええ。大丈夫。なんでもないの。行きましょう」
居住まいを正して扉を開けてくれる僧兵に感謝の一揖を返して、私は交渉相手である司祭が待つ執務室へ歩を流した。
私が僧兵に抱いた違和感は、次の瞬間に目撃した司祭の顔面によって吹き散らされることになる。
「やあ、よく来てくれたね、リン神官」
「
この小説がとても好評を頂いていて、驚いています。勇者パーティー追放モノって、みんなもうお腹いっぱいだと思っていました。嬉しいです。