日常の中で   作:ひいろ@支部民

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1.気づいたこと

コナンside

 

 

「まだ帰ってこないの?新一が待っててくれっていうから待ってるのに!」

 

「悪りぃ、蘭。まだ帰れねえんだ。」

 

「なんで帰らないのよ!」

 

「悪りぃ。じゃあ、また電話するから」

 

ガチャ

 

電話を切り、なんとなく今の蘭とは顔を合わせたくなくて

阿笠邸へと入る。

 

 

「ここはあなたの家じゃないんだけど–––珈琲いる?」

 

「ああ。」

 

オレが来たことに気づいて軽く睨んだ灰原だが、オレの表情を見ると珈琲を淹れる為キッチンに引っ込む。

 

 

「はい。」

 

灰原に差し出された珈琲を飲んで、気づいた。

 

オレは疲れてたんだ。帰れないことに苛立っているのはオレ自身なのに、

蘭に帰ってこいと何度も催促されることに。

帰らないのではなく、帰れないことを判ってくれないことに。

 

灰原は、黙ったままのオレに何があったのか問いただすこともせず、

黙って横で珈琲を飲んでいる。

蘭だったら何があったのか根掘り葉掘り訊くだろう。

灰原は、オレが何も言わなくとも、黙ってそこにいてくれる。それが心地良い。

 

そこで思考を停止させる。

 

オレは今なにを考えた?

 

灰原が横にいてくれるのが心地良い––?

 

ああ、そうか、そうなんだ。

 

少し頬を緩ませ、そっと横の灰原を盗み見る。

 

自身の気持ちに気づいた今では、赤みがかったその茶の髪も、

白磁のような肌も、珈琲をすするその唇も、全てが愛おしく、自分のものにしたいと思える。

 

「灰原」

 

オレの声にこちらを向いた灰原に、そっと唇を重ねた。

 

 

 

 

哀side

いつものように何も言わずやってきた彼に文句を言いかけたが、

彼の顔が疲弊に包まれていることに気づき、珈琲を淹れる。

 

今日は何の事件もないはずだが、どうしたのだろうか。

 

横に座り、珈琲を飲みながら考え込んでいるかのような彼の横顔を盗み見る。

 

彼の視線がこちらに向いたような気がしたので慌てて視線を前に戻すと、名前を呼ばれた。

 

「灰原」

 

なに、と言おうとした唇に、そっと何かが触れる。

 

「工藤君!?あなたには蘭さんが–––」

 

彼の顔が離れた隙に口を開くが、再び塞がれる。

 

さっきと違い咥内に入り、私の舌を絡めとる彼の舌の感触が、

先程のもキスだったことを私に自覚させる。

 

どうして?

 

工藤君には蘭さんがいるのに。

今すぐ彼を押し返して怒らなければならないのに。

 

彼とキスをしているという事実が、彼の唇と舌が、

私の脳を溶かしていき、いつしか彼の首に腕を回していた。

 

彼は私を抱きしめ直し、より深くキスをする。

 

「灰原」

 

離れた時、彼は再び私の名を呼んだ。

 

「工藤君、なんで–––第一、あなたには蘭さんが––」

 

「愛してる」

 

彼の言葉に、動き始めたばかりの思考は再び停止してしまう。

 

「な、に、言って––」

 

「気づいたんだ。電話するたびに蘭に催促されるのに、疲れていることを。

待っててくれって言ったのはオレのはずなのに、待ってると言われることを重荷に感じていることを。」

 

「でも灰原が横にいてくれるとその疲れも取れることを。

いつも横にいてほしいのは、蘭じゃなくて灰原だってことを。」 

 

「でも、そんな、私はあなたを蘭さんの元に返すために––

あなただって何かあったらすぐに蘭さんを、」

 

「わかってる。たしかに蘭のことは好きだし、笑顔でいてほしいって思う。」

 

「だったら、」

 

「灰原は、オレの手で笑顔にしたいって思うんだ。

蘭には笑顔でいてくれたら、蘭を幸せにするのはオレじゃなくてもいいって思う。

それに、横にいてくれって思うのも、お前の全てが欲しいって思うのも、灰原だけだ。」

 

「そんな、私は、今までずっと‥」

 

「解毒薬はもう作らなくていい。

灰原がオレのことを好きでいてくれるんだったら、

工藤新一と宮野志保は二人の心の中だけにしまって、

江戸川コナンと灰原哀として、ずっと生きていこう。

だから、訊くよ。」

 

「灰原は、オレのこと、好き?」

 

いつも自信たっぷりの彼が、不安そうな顔をして私を見る。

 

「いいの‥?第一、あなたをこうしたのは、私なのよ‥?」

 

「オレが、そうしたいんだ。

じゃあ、いいのか?オレで。」

 

「駄目なわけないじゃない‥ずっと、あなたを見てたんだから‥」

 

「良かった」

 

彼はほっとしたような表情を浮かべると、もう一度私に優しくキスをした。

 

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