フランと吸血鬼異変   作:松雨

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フランと吸血鬼異変(プロローグ)

「フラン、ちょっとお話良いかしら?」

「ふふっ……お父様とお母様が死んだ後、続けて私の能力を恐れてここに閉じ込めた張本人がわざわざここに訪ねて来て、改まった態度でお願いしに来るなんて驚いたわ。まあ、話くらいなら別に良いけど」

「感謝するわ。それで、話の内容なんだけれど……紅魔館ごと、幻想郷って場所に移住する事に決めたのよ」

 

 とある日の紅魔館、その中にある大図書館を抜けて階段を下った先にある、光の殆んどない地下の部屋にて『レミリア・スカーレット』と『フランドール・スカーレット』と言う2人の吸血鬼姉妹が、あまり良い雰囲気とは言えない中対面して話をしていた。これもひとえに、レミリアがフランの持つ能力とそれに結果的に付随してきている狂気を恐れて、あらゆる物理的や魔法的衝撃にも耐えられる術式が組み込まれた地下室に閉じ込めている事に起因している。

 

 物心がつくと同時に覚醒した『ありとあらゆる物を破壊する事が出来る能力』は、全ての物に存在する1番弱い『目』の部分を自分の手に移動させ、それを握り潰す事で対象を破壊する事が出来ると言う、強力極まりない能力である。それだけ聞けば完全無欠の力に思えるが、それは同時に眠っていた狂気を呼び覚まし、どう言う訳か増幅させてしまうと言う非常に大きな欠点を抱える事となってしまった。

 

 それによる性格の変化と、多くの子供が持つ強い好奇心に吸血鬼の本能も加わってしまった故に起こった、紅魔館に人間が襲撃してきた時に半ば本能のまま弄んで殺して笑顔でその血肉を喰らい、更に自分たちにその勢いで襲いかかりかけると言う出来事が、当時存命だった両親がフランを地下の部屋へと封印し、一切合切部屋の外には出さない判断を下す大きな理由となっていた。

 

 時が経って両親が死に、レミリアがスカーレット家当主となり、封印されている間に狂気を理性で抑える事が出来るようになってしばらく経っている今でも、フランの幽閉自体は継続している。

 

「ふーん……幻想郷ね。それにしても昔、1度だけ外に出してくれって頼んでも冷酷無比な態度で断っといて、自分が何か困れば私に頼み事をするんだね。何をお願いしたいのか知らないけど、いつも通り私抜きでやってれば良いのに」

「っ! 確かにフランの封印を継続しているのは私のためでもあるけど、貴女のためでも……まあ良いわ。言い訳はここまでにして、本題を話すわね。そこで勢力を広げるのに、貴女の『力』も借りておきたいの。もしかしたら、それでも厳しいかもしれない存在が出るかもしれないし、それにね……」

 

 そうにも関わらず、500年近くも地下の部屋に封印していたせいで不満が溜まり、関係があまり良くないと言っても過言ではないフランによる強力無比な攻撃を受ける可能性を負ってまで、力を借りる話し合いに望んだ理由は、レミリアには2つあった。

 その大きな理由の1つが、人間たちの科学の発展と共に吸血鬼を含む妖怪が存在しづらくなった今居る場所から、外界と特殊な結界で仕切られているそう言った妖怪や神などの存在が集まってくる『幻想郷』と言う名の場所へと館ごと移転するためである。

 

 当然ながら、そんな場所へ移動すると言う事は少なくとも吸血鬼と同等かそれ以上の敵が居るかもしれないし、数だって紅魔館の全勢力を軽く超える事は想像に難くない。今回のレミリアの行動も、ありとあらゆる可能性を考慮した結果の事であった。

 

「幻想郷に行って、来るだろうゴタゴタが済んだら貴女の自由な外出を認めようと思ったのよ。まあ、むやみやたらに殺したり弄んだりしたりしない事を条件にだけど」

「……」

「勿論、だからすぐに許せとかは言わないわ。どんな理由があれ、お父様にお母様が死んでから450年近くも貴女の意思を無視して外に出ないように、元から部屋全体に施してあった封印を私は強化したのだから……それとフラン、今まで本当にごめんなさい」

 

 それともう1つの理由は、これを機に妹であるフランとの関係修復の第一歩を踏み出すためである。レミリア自身もフランを地下の部屋に封印して押し込んでいるような状況は、心のどこかで良くない事だとは理解していた。

 

 しかし、いくら理性で狂気を抑えて自分の意思で力に不完全ながら出来るようになれたとは言え、()()()()()()()いつそれが自分たちに向くかが怖いと言う思いが強く、封印を強化して押し込むと言う選択肢を選んでしまった。

 

 その後悔の故、今回の幻想郷移住を機会に思い切って封印を取り払い、今までの罪滅ぼしのために襲い来るであろう出来事が解決した後に、むやみやたらに殺さない壊さないを条件に自由な館外への外出許可も与える決意をしたとフランにそう伝えながら謝罪し、恨みの一撃を受けて大怪我する覚悟をレミリアは決めていた。

 

「そっか……まあ、分かった。私の気が向いたからそのお願いは聞いてあげるし、謝罪も受け入れるね」

「え……本当に?」

「本当だよ。それにお姉様が思う程私、恨みなんか持ってないから。地下の部屋に幽閉されている内に何か快適に思えてきたし、魔法って言う趣味が出来たから。とは言え、最初の10年位はある程度の不満は持ってたし、外への興味が全て消え去った訳じゃないけれど」

 

 しかし、フランから帰って来た答えは力を願いを受け入れ、更に長い年月地下の部屋に閉じ込めていた事に対する謝罪も受け入れると言うものであった。今までしてきた事からして、自分が殴られるか少なくとも色々罵られるものかと思っていたレミリアにとってこれは想定外らしく、思わず本当なのかと聞き返してしまう。

 

 当の本人は、そんな感じで聞き返してきたレミリアに対して特別な反応を返す事はなく、普通にさっき自分の言った事はは本当であるのと、封印されてから最初の10年位はある程度の不満はあったものの、思っている程強く恨みを抱いてはいない事を淡々と伝えた。

 

「ありがとう。貴女って優しいのね」

「別に私、お姉様が思っている程優しくはないよ。ただ、気が向いただけだから。で、そんな事よりもいつ館ごと幻想郷へお引っ越しするの?」

「私がフランを連れて、皆の待ってるエントランスに行ったらよ」

「ふーん……て言う事は、美鈴とパチュリーと咲夜も居るんだよね? 時々来て色々な物を持ってきたり、話をしてくれてた美鈴はともかく、他の2人とはあまり面識なかったなぁ。これを機に、色々とお話出来るかな?」

 

 普通なら話すら嫌になるだろう事をした自分に対してある程度の不満はありこそすれ、恨みなどは抱いていないと言うフランの言葉を聞いたレミリアはそれに対して感謝の言葉を述べ、この話についてはもう終わりと言う事になった。

 

 その後は館ごと幻想郷へと行くのはいつになるのかと言う話になったため、レミリアは立て掛けてあった剣『レーヴァテイン』をフランに手渡し、扉に掛かっていた封印魔法を全て解除してから一緒に部屋を出て行く。

 

「フラン。さっきまでは言わなかったけど貴女、かなり強烈な妖気を垂れ流しているわ。うちの妖精メイドたちがそれに当てられると気絶しちゃうから、抑えてくれるかしら?」

「そんなに垂れ流してる覚えは……あ、お姉様が来た時に狂気のコントロールの練習してたからかな。取り敢えず、抑えておくね」

 

 道中、仲睦まじいとも非常に悪いとも言い難い感じのやり取りをしながらエントランスへと向かうと、そこには紅魔館の主力である門番『紅美鈴』にメイド長の『十六夜咲夜』、魔導師『パチュリー・ノーレッジ』の3人が、幻想郷へと移住してから起こるであろう戦いに備えていた光景が見られた。

 

 特にパチュリーは今回の幻想郷移住の要である『空間転移魔法』の術者であり、複雑怪奇な術式の構築にも労力を割かなくてはいけないため、館の誰よりも非常に大変な思いをしている。

 

 と言うのも、空間転移魔法を使って紅魔館の敷地を全て目的地の幻想郷へ寸分の狂いもなく移動させるには、魔力の必要量もさることながら、座標の指定術式を間違えてしまわない集中力と正確さが求められるからだ。

 

 万が一手元が狂って座標の指定を間違えてしまうと目的地から大幅にずれ、酷い場合はあらゆる生物の生存がほぼ不可能な極限自然環境である場所や、戦ばかりの異界魔境に送られかねない。いくら少数超精鋭の紅魔館とは言え、後者はともかく前者ではすぐに滅亡待ったなしである。

 

「パチェ、転移魔法の準備ご苦労様。美鈴に咲夜、他のメイドたちも良くやってくれてるわ。ありがとう」

「ふぅ……やっと来たのね、レミィ。その様子だと、どうやら無事に連れてこれたようで。まあ、良かったわね」

「労いの言葉、ありがとうございます! 」

「ありがとうございます。それと、パチュリー様の魔法の準備はもう既に整っていますので、後はお嬢様の指示さえあれば幻想郷へ行く事が可能との事です」

 

 それが良く理解出来ているため、フランを連れたレミリアは真っ先に今回の幻想郷移住の1番の立役者であるパチュリーの下に向かい、頭を下げつつ労いの言葉をかけた。その後に改めて美鈴や咲夜、この場にたまたま居た他のメイドたちにも頭を下げ、感謝の言葉をかけた。

 

「妹様。自由な外出の許可が出て、本当に良かったですね!」

「ふふっ……これも、美鈴のお陰だよ。ありがと」

「いえ、大した事してませんよ。妹様がいつか大手を振って外に出れるように、僭越ながら後押ししただけです」

「下手すれば罰が下るかも知れなかったのに色々してくれた。それって大した事だと思うんだけどなぁ」

「妹様にそう言って頂けると、色々やった甲斐があります」

 

 レミリアが咲夜や妖精メイドたちと色々話し込んでいる時、その様子をじっと見ていたフランに対して美鈴が声をかけ、自由な外出の許可が出た事について大げさとも言える感じで祝いの言葉を投げかけていた。

 

 その理由は、まだフランの狂気制御が不完全で、美鈴がまだ門番とメイドの仕事を兼ねていた頃に彼女を見ていて思うところがあったと言うのが理由で、彼女のために秘密で色々とやっていた。その甲斐があり、数百年単位と言う長い時間が経ってしまったものの、今日こうして外出の許可を出してもらえるにまで至れた上、姉妹の関係も険悪とまでいかなかったためだ。

 

 ただ、お陰で今現在フランと美鈴の関係が姉妹の関係よりも深まってしまったと言う状況になってしまっていて、レミリアも2人の様子を見てすぐに理解出来たが故に複雑な思いを抱く。しかし、今までの扱いがどう解釈しようとも良いとは言えなかった事が原因の1つでもあるが故に仕方ないと諦め、これから少しずつ関係修復頑張ってしていこうと1人で決意を固めていた。

 

「……なるほど。ちょくちょく本が無くなってたのは、美鈴がフランに与えてたせいだった訳ね」

「妹様とお嬢様のメイドの仕事も兼ねてた時から、ほっとけなくてつい……お嬢様の目を盗んで色々とやってたので」

「私が居なかった時は無関係だったから考えないとして、来てから勝手に持ってったのは如何なものかと思うけど、内容が内容だし今回は許す事にするわ。と言うか、レミィの指示を無視してフランに色々と与えるなんて、度胸あるじゃないの」

「あはは……恐縮です」

 

 すると、フランと美鈴がそこそこ良い感じで話をしている中にパチュリーが割り込んできて、本がなくなっていたのはそのせいだったのかと言ってきた。表情は至って普通に見えるが、話し声から怒っているように感じたためか、美鈴は覚悟を決めつつ勝手に図書館の本を取ってフランに渡していた理由を話す。

 

 結果、パチュリーは図書館が自分の領域になってから勝手に持っていった事は如何なものかと言いつつも、フランのためを思っての行為であるためこれを許し、その上レミリアの指示を無視してまでやっていた事に対して称賛の意を示した。

 

 その後は、フランが声だけなら聞いた事はあるものの殆んど面識のない咲夜と、面識だけでなく声すらまともに聞いた事がないパチュリー、妖精メイドたちとの会話に勤しんでいた。まるで、500年近く殆んど他人との関わってこなかった時を取り返すかのようであった。ただ、そのせいかは不明なものの、会話の内容が物騒極まりないものであったため、話しかけられた館の住人の殆んどは顔がひきつってしまっていたが。

 

「えっと……フラン? そろそろ館ごと引っ越したいから、お話を一旦やめてもらえるかしら?」

「うん、分かった」

 

 美鈴とレミリア以外の主力2人や、この場に居る妖精メイドと会話しているフランの様子を少し離れたところから見ていたレミリアは申し訳なさそうに、一旦会話は止めてくれと声をかけて止めてもらい、パチュリーに早速『空間転移魔法』の発動をお願いした。

 

「了解……じゃあ、皆行くわよ」

 

 魔法の発動をお願いされたパチュリーは皆に向けてそう言った後、自身の魔力を展開しながら詠唱を開始した。そうして、少しずつパチュリーを中心として幾何学的な文様(もんよう)が地面を這いながら広がっていき始め、それに比例する形で魔力が吸い取られている故に苦悶の表情を見せる。すると、それを見たレミリアとフランがほぼ同時に動いて詠唱中のパチュリーの方に手を置き、自身の有り余る魔力を供給して後方支援に回り始めた。

 

 お陰でかなり余裕が出来たのか、パチュリーの表情から苦しそうな感じは消え、更に魔法詠唱の速度もかなり上がり始めてきた。ちなみに、魔力提供側のレミリアとフランは2人で補助しているため消費魔力がそれ程多くはないため、普通に会話する余裕がある状態だ。

 

「美鈴。ちょっとあの扉を開けてもらえる? それと咲夜、申し訳ないけど館のすぐ側に誰か余計な存在が居ないか、確認してきて」

「あ、はい。分かりました!」

「了解しました」

 

 美鈴がパチュリーの指示通りに正面玄関口の扉を開けると、紅魔館の敷地よりも少し外側まで幾何学的な文様が広がっているのが確認出来た。同時に咲夜からの報告で、館の側には誰も居なかったと言うのも確認が取れたため、これで魔法の発動に憂いはなくなった。

 

「よし……はっ!!」

 

 最後にパチュリーがそう言い、レミリアとフランの助けを借りながら一瞬だけ込める魔力を倍近くに増やした。すると、文様よりも外側に見えていた景色が眩い白色の光に包まれて全く見えなくなり、非常にやかましい甲高い音が館内に響き渡る現象が起こった。それは想定よりもすさまじく、エントランスに居たほぼ全員が咄嗟に目を閉じて耳を塞いだ。

 

 それからしばらく経ち、耳を塞いでいても聞こえる甲高い音が聞こえなくなったところで目を開けて耳を塞ぐのを止め、安全確認のために美鈴が先に外に出ようとした瞬間、目にも止まらぬ速さでフランが館から真っ先に飛び出した。いくら外に出ても良いと言う許可を出したとは言え、流石に未知の場所に1人で出すわけにも行かないため、レミリア含む紅魔館の主力たちは急いでフランの後を追う。

 

「これが館の外の世界……こんなに広くて、こんなに綺麗で、私の知らなさそうな物が沢山あるんだ……」

 

 すると、フランは館の庭のちょうど真ん中辺りで立ち止まり、目を輝かせながらそこから見える景色を眺めていた。1人で門の外にまで出て行かなかった事に安堵しつつ、レミリアはそんな彼女に声をかけた。

 

「そうよ。館の中なんか比べ物にならないくらい、館の外は広いの」

「うん……ねえ、お姉様。本当に私、自由に外に出て良いの?」

「ええ、勿論よ。最も、この『幻想郷』がどんなところかある程度分かって、起こるであろう出来事を解決してからだけどね。いくらなんでも、どんな危険があるか分からない未知の場所に、フランを1人で出すわけには行かないから」

「そればかりはまあ、仕方ないかぁ……」

 

 初めて見る館の外の世界にワクワクしているのか、フランの対応もほんの僅かながら軟らかくなっている。美鈴に見せるような微笑みはまだしてはくれないようだが、レミリアにとって今はこれだけでも十分だと思わせる位であった。

 

 そして、そんな姉妹2人をパチュリーと美鈴と咲夜の3人は見守りつつ、同じように夜空を眺めながら一時の息抜きをする。

 

「ふぅ……どうやら成功はしたようね。ひとまず肩の荷が降りたわ。それと、美鈴に咲夜。空間転移魔法を使って疲れたから、先に図書館に行って休んでるわ。レミィに何か聞かれたらそう伝えておいて」

「分かりました!」

「パチュリー様、了解です」

 

 その後、大規模な空間転移魔法を使って疲弊したパチュリーはまだ行動自体は可能であるものの、万が一を考えて休息をするために図書館へと戻って行った。少し経った後、話を終えたレミリアとフランが戻ってきて、いつの間にか居なくなっていたパチュリーの居場所を聞き、魔法で疲れて図書館に休みに行った事を咲夜が伝えた。

 

 すると、咲夜からの報告を聞いたレミリアは、幻想郷の探索を次の日の夕方か万全な日光対策をした上で昼間からする事に決めて美鈴と咲夜に伝え、それまでは各自休憩を取るようにとの指示を出した。

 ただ、美鈴に関しては門番と言う仕事上そう言う訳にも行かないため引き続き今まで通りとなるものの、万が一敵が来て対処が()()()()厳しくなった場合や睡眠を取る場合、疲労が溜まって倒れそうだから休憩したいと言う場合はレミリアかパチュリー、咲夜かフランに報告を入れた上で館内に敵が入ってくるのを厭わずに下がっても良いと言う条件を出し、話を終えた。

 

 こうして話が終わった後、美鈴以外の庭に出ていた全員が館内に入ったところで、1日を終えた。

 

 

 




ここまで読んで頂き感謝です。
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