フランと吸血鬼異変   作:松雨

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フランと吸血鬼異変(前編)

「お嬢様。現在、館の外の天気は曇りですし、今のところ雨の降る兆候も晴れる兆候も見られませんので、昨日言っていた時間帯に幻想郷の妖怪に存在の誇示をするなら良い時かと思われますが、如何されますか?」

 

 幻想郷に館ごと引っ越しをした次の日の昼過ぎ、レミリアは自室にて咲夜と幻想郷での実力行使を含めた行動を起こすかどうかについての話し合いをしていた。昨日までは探索のみのつもりで予定を組んでいたが、休息のために各自解散をした直後、幻想郷が存在を保ちづらくなった妖怪や神などが外の世界からやって来ると言う場所である事から、急遽当日の朝にに存在誇示のための実力行使も視野に入れた計画を盛り込む事にしたのである。

 

 それを今日最初に告げられた咲夜は、幻想郷の妖怪に実力を行使する計画の追加に少しだけ驚きを示しつつも、レミリアの話した目的を理解した事、運良く天気が曇りになると言った事が重なったため、昼過ぎにやるなら今が良いのではと意見を言っていた。

 

「勿論、貴女に言われずともそうするつもりだったわ。だから、それについては決定で、後はそれを皆に伝えるだけよ。咲夜、お願い出来るかしら? それと、妖精メイドたちにもエントランスに集まるようにも言っておいて」

 

 最も、咲夜に言われるまでもなくレミリアはそのつもりでいたため、特に議論する事もなく探索に加えてある程度の実力行使するのは決定し、後にやる事は2人以外の館の住人にそれを伝えるだけとなった。

 

「分かりました。では早速――」

「それにしても、私たちに運命が味方してくれているようで何よりね。まさか、都合良く天気が曇りになってくれるとは思わなかったわ」

「確かに、私も同じ事を思いました。それに、本来夜を統べる種族である()()()が曇りの日とは言え、昼間にも現れて圧倒的とも言える力を披露する事が出来れば、お嬢様の目的の完璧な達成もそう難しくはないでしょう。まあ、幻想郷に住む人妖が正しく吸血鬼と言う種族を認識していれば、ですが」

 

 探索だけでなく、実力行使も行う事を伝えておいてくれとの指示を受けた咲夜が早速皆に伝えるために部屋を出ようとしたその時、再びレミリアが話を始めたため、その歩みを止めて耳を傾けた。内容はどうやら、自分たちにとって都合の良い天候となった事についでである。

 

 

 

「場所が場所だし、それは心配しなくても大丈夫よ。それよりも、引き留めて悪かったわね。もう行っても問題ないわ」

「いえ、全く気にしていませんので大丈夫です。それでは伝えに行ってきます」

「ええ、お願いね。私も少し経った後にエントランスへ向かうから」

 

 一通り2人で話し終えた後、改めて咲夜は皆に伝えに行くために部屋を先に出て行き、レミリア自身も30分後に準備を終えると立て掛けてあった『グングニル』を手に持ち、皆の待つエントランスへと向かって行った。

 

「お姉様遅い……一体何してたのさ?」

「ごめんなさい。想定以上に準備に時間がかかってね」

「まあ良いや。それで、私たちの存在を誇示するために幻想郷の妖怪に挑むって咲夜に聞いたけど、思う存分()()()()()()()()()()()()?」

 

 すると、フランがエントランスへと下る階段の前でレミリアを待ち構えていて、一体何をしていたのかと質問していた。その時のフランは無表情ではあったが、どことなく不満を抱いている事だけは確かだとレミリアは直感したため、準備に時間がかかりすぎてしまった事について謝罪の意を表した。

 

 そのすぐ後、謝罪をフランは軽く受け入れて素早く話を終わらせ、無表情から一転して瞳を輝かせながら幻想郷の妖怪と思う存分遊んでも良いのかと、今にも詰め寄りそうな感じでレミリアに聞いていた。どうやら、咲夜から聞いた『存在誇示のための実力行使をする』と言う部分を楽しそうな遊びと解釈しているようだ。

 

「思う存分は止めて、抑えなければ駄目よ。フランが本気を出して遊ぶと、いずれ誰も居なくなるからね」

「ふーん……まあ、確かにお姉様の言う通りね。遊び壊し尽くしてしまえば、次の日から()()()()が居なくなっちゃうし……分かった、気を付けるわ」

「はぁ……貴女は相変わらず思考がぶっ飛んでるわね。まあ何であれ、納得してくれたなら良いわ」

 

 フランのその変わり様に、これは釘を刺しておかなければとんでもない事になると判断したレミリアは、思う存分遊ぶと相手が居なくなってしまうから抑えておけと諭すようにして言う。すると、一瞬だけ表情が険しくなるものの、少し考え込んだ後にレミリアの言葉に納得したようで、機嫌を元に戻した。納得の方向が想定の斜め上に行っているが、納得さえしてもらえば何でも良いやと、レミリアも聞いていた館の住人たちも諦めていた。

 

「さて、レミィも準備出来たみたいだし、館の守備と攻撃に主力をどう割くかを決め――」

 

 今日の朝方に急遽決まった実力行使について、館の守りと攻めに館の主力をどう割くかを決めるための話し合いをしようとパチュリーが声を上げようとした瞬間、出入り口の扉が大きな音を立てて開き、物々しい雰囲気を漂わせた黒い翼を持つ妖怪が9人、館の中に入ってきた。その内の1人は紅魔館の主力組と遜色ない妖気の持ち主であったため、目が合った瞬間自然とレミリアたちにも緊張感が漂い、戦う力を持たない妖精メイドたちは急いで安全な場所へと避難し始めた。

 

 一方の館内に入ってきた妖怪9人も、咲夜や美鈴やパチュリーの魔力や妖気の強さもさることながら、レミリアとフランから放たれる威圧的な妖気に自然と表情が強ばり、今にも一戦始まってもおかしくない状況に自然といつでも動けるように身構える。

 

「ねえ! 貴方たちって何て言う妖怪なのか、教えてくれる?」

「「「……」」」

 

 互いに警戒して動きがないこの状況の中、フランが黒い翼の妖怪5人の下に何の警戒も抱かず……それどころか、小さな子供が面白そうな玩具を見つけた時のような感じで近づいて行き、矢継ぎ早に質問を投げかけたり、彼ら彼女らをじっと見つめて観察し始めた。あまりにも突然の行動に、9人の妖怪は反応出来ず固まっていたが……

 

「僕たちですか?『天狗』と言う妖怪ですよ。貴女は一体どんな妖怪なのです?」

「天狗かぁ……あ、私はフランドール・スカーレットって名前で、吸血鬼なの!」

「そうですか……」

 

 9人の中で1番の妖気を放つ、中性的な顔立ちのリーダーらしき男性天狗がフランの無自覚に放つ妖気に臆す事なく質問に答えた。天狗と言う妖怪を知らないフランは首を傾げた後、楽しげに自分の種族と名前を伝えつつ、置いてきぼりになったレミリアたちをよそに再び護衛らしき他8人の天狗たちの観察を始めた。

 

 それから少し経った時、館への侵入者である9人の天狗とフランのやり取りを見ていたレミリアが、突如咲夜と美鈴とパチュリーに対して『運命が見えたわ。あの子が遊び始める』と耳元で囁き、3人に戦闘態勢を整えさせた。準備の途中でパチュリーが詳しく内容を聞いたところ、フランがもう少しで今までの不満を晴らすかのように暴れ始めると言うものであったため、紅魔館主力組に更なる緊張が走る。

 

「へぇ……じゃあ、時間はまだありそうだね。こんなに楽しく遊べそうな日なんて始めてだよ!」

「ん? どういう意味……っ! このままでは不味い!」

 

 すると、9人の天狗からゆっくり歩いて離れ、ある程度の距離を取ってから振り向くと、純粋な魔力で構成された拡散レーザーを躊躇いもなく放ち、備えていたレミリアたちですら驚かせた。フランはこの魔法を全力ではなく、ある程度貫通力や破壊力などを抑えて放ったが、それはすぐに相手が居なくなって遊べなくなる事を回避するためであった。

 

 そうして放たれたレーザーは天狗たちに向かうも、手加減された事も相まって、今居る中で一番強い天狗の妖気を纏った剣による薙ぎ払いで軌道を逸らされ、誰も傷つける事はなく役目を終えた。狙われていた他8人は冷や汗をかくも、リーダー格の天狗が余裕で弾いた事で心にほんの僅かに余裕が生まれ、この魔法を放ったフランを睨み付けて抗議するも、初めての遊び相手に攻撃が弾かれた事で気分が高揚しているため、どこ吹く風であった。

 

「アハハ! 避けるでもなく、弾くなんて……貴方って凄いのね!」

「……」

「なら、もっと力を込めて行くよ」

「あの攻撃は、手加減されていたと……?」

「当たり前じゃん。だって、貴方がすぐに壊れちゃつまらないもの」

「「「……狂ってる」」」

 

 更にフランがもっと力を込めていくと宣言し、それを聞いたリーダー格の天狗が手加減をしていたのかと問いかけると、彼女は狂気混じりの笑みを浮かべながら肯定した上に、理由がすぐに壊れてはつまらないからと言うものであったため、天狗側はドン引きして思わず全員が狂っていると同時に声に出してしまい、すぐに気に障ったかもしれないと後悔した。ただ、当の本人は全く気にしていないため、その心配は杞憂で終わったが。

 

 その後はフランの宣言通り、少し威力を上げた拡散レーザーに加えて、狙った相手に少しだけ誘導する光球を放つ魔法や、爆発する火炎弾を生み出して放つ魔法などを弾幕の如く撃ちまくり、()()()()()()()を集中して狙うも、狙われた本人の技術の高さや他の仲間の援護防御もあり、多少の手傷は負わせられてもなかなか有効打が与えられずにいた。

 

 当然、フランが本気で挑まなければ相手に反撃もされてしまうが、大半がレーヴァテインや手の平サイズの防御魔方陣での防御に成功している。戦闘経験が皆無であるが故に防御や回避しきれず、妖気の込められた剣にかすり傷をつけられたりはするが、持ち前の再生能力で一瞬で治るため実質無傷であり、戦況はほぼ互角と言ったところだ。

 

「外で遊ぶのってこんなに楽しいんだ……ふふっ、今の気分は最高だわ! これだけやっても、()()()()()()()のだから!」

「っ! 玩具扱いされて、こっちの気分は最低最悪ですけどね!!」

 

 お互いに攻めきれずにいたが、これこそが今のフランが求めていた『遊び』であるため、本人の気分は今までにない位に高ぶっていた。対して、天狗側は致命傷は負っていないとは言え激しい攻撃によって少しずつ手傷が増えていき、更に玩具扱いされて最悪な気分となっていたが、当然である。

 

 完全に蚊帳の外と化したレミリアたちも、あらゆる攻撃から館を保護するのに忙しいため、こちらもあまり良いとは言えなかった。こうなったフランを止める手段は現時点で存在しないため、その考えはレミリアたちには全くない。

 

「はぁ……はぁ……このままではじり貧ですね……ならば」

 

 フランが威力を抑えた多種多様な魔法を弾幕のように撃ちまくり、天狗9人がそれを迎え撃つか回避した後に隙を見て反撃をすると言うのをある程度繰り返していると、リーダー格の天狗がこのままではじり貧だと理解し、一旦後ろに飛行した後にとてつもない速度で迫り、妖気を纏う剣を首筋へと振りかぶった。

 

 しかし、それをフランは驚きを見せつつも力を込めたレーヴァテインによって受け止め、空いた左手で相手の剣を持っている腕を掴んで握り潰し、武器のように散々振り回した後に仲間の天狗の方に向けて投げつけると言う、奇妙な行動を起こす。何とか構えを取れていた天狗たちは無事にリーダー格の天狗を受け止める事に成功するが、これによって片腕が完全に使い物にならなくなってしまった。

 

「うーん……天狗の血もなかなか良い味だけど、やっぱり人間の血の方が美味しくて力も滾る気がするなぁ」

「ひぃ……」

「気をしっかり持て! アイツは吸血鬼だから何らおかしい事はないし、そもそも血を啜って肉を喰らう妖怪など珍しくもないだろう!?」

「そんな事言われても、隊長が……」

 

 更に、それによって手についた滴る血を飲んで味の感想を淡々と述べ始めた事によって、血を好む得体の知れない化け物と認識し始めた天狗が怯えてしまう。そうなれば、フランの狂気混じりの妖気に当てられても何とか耐えられていた状態を保つのも難しくなってしまう。

 

 そうなれば、腕を負傷したリーダー格の天狗と3人以外は動けはするが、まともに戦う事が難しくなるレベルにまで弱体化してしまい、その上知らぬ間に逃げ出す者も現れたり、とち狂ってレミリアたちに襲撃を仕掛けて瞬殺される

 

「片腕が使い物にならなくなって正直辛いですが、死んではいませんし、大丈夫です。しかし、この状況……山の皆さんや射命丸様、鬼の皆様と言った方々が来てくれないと絶望的ですね。むざむざ逃がしてくれそうには……」

「あれ? もうおしまい? ねえ、もっと遊ぼうよ!」

「あはは……ですよねぇ」

 

 館から逃走して行った天狗が出ていった事は残った天狗たちも気づいてはいたが、彼らの気持ちが痛い程理解出来たため、止めようとはしなかった。襲ってきた敵はともかくとして、フランを含む紅魔館の主力組も同様であるらしい。

 

「どこまで戦えるか分かりませんが、逃げていった彼らがこの事を上に伝えてくれる事を希望に、僕はあのフランドールと言う吸血鬼に最期まで抗い続けます。君たちも、どうか協力してくださいませんか?」

「「「勿論です!」」」

 

 そうして、腕が使い物にならなくなりながらも奮起したリーダー格の天狗とその仲間との戦い……もとい『遊び』が再び開幕した。ただ、やはり利き腕が使えなくなった事と人数が半分以下になった事による戦力低下は大きく、フランが矢継ぎ早に放つ魔法を捌ききれずに当たってしまう回数も増えてしまっていた。

 

 15分程経った頃には、リーダー格の天狗は妖力枯渇により動けなくなったところをまだ何とか動ける1人に背負われて脱出、他の天狗3人の内2人は拡散レーザーを放つ魔法が運悪く胸などの急所を貫かれて死んでしまうと言う形で、戦闘は一旦終わりを告げた。

 

「どうだったかしら? フラン」

「えっとね、楽しかったよ! でも、ちょっとやり過ぎて壊しちゃったのが……」

「それは館への侵入者を殺しただけだから、問題ないわよ。それにしても、貴女にしては随分と抑えた方じゃないの」

「うん。気を付けてはいたかな」

 

 地下の部屋に封印されてからおよそ500年間遊ばなかった分、ほんの30分程度とは言え遊べて爽快な気分になっているフランの下へレミリアが話しかけ、会話を試みた。すると、レミリアに僅かとは言え笑顔を見せつつ楽しそうに話をし始めた事で、少し離れたところから様子を見ていた美鈴が、姉妹関係が戻る兆しが見えた事で1人静かに喜び、咲夜とパチュリーもそれを微笑ましく見守っている。

 

 しかし今回、フランの秘める恐ろしさを確認する事となってしまっていた。

 

 本来であれば基礎的な力で圧倒していたにも関わらず、つまらなくなると言う理由で笑いながら手加減して長く遊び、最後には弄ぶ。

 途中で相手の腕を握り潰したと思ったら、その時についた血を啜る。

 長い時間遊んだにも関わらず、未だに疲れが殆んど見られない。

 

 3人がレミリアから聞いていた昔の暴走時よりは遥かにマシな状況ではあるものの、劣化版とは言え実際にそれを見たのだから、恐ろしいと思うのも仕方がない。ただ、だからと言って再び地下の部屋に封印した方が良いとも、レミリアに進言するつもりなどつゆほどもないようだ。

 

「お嬢様。あの者共、どこかの組織に属しているようですので恐らく、この後大軍を率いてやってくるかもしれませんね」

「まあ、それならそれで良いじゃないの。形は変わりこそすれ、私たちの存在誇示が出来そうだし」

「なるほど。確かにお嬢様と妹様含め、たった5人の主力で大軍と対等に渡り合えば勝ち負けはどうであれ、強烈な印象に残りますからね」

「ええ……あら、噂をすればもう来たみたいよ。随分と早いわね」

「……そのようで」

 

 その後、咲夜が天狗たちの発言などからこの後大軍と相対する事になるだろうと言い、レミリアがそれならそれで良いのではと咲夜に言ったところで、開けっ放しにしてあった扉から館へと向かってくる大軍が見えたのを発見した。そのため話を中断し、館の主力全員で迎え撃つために外へと出る事を決めた。

 

 

 

 




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