「小娘。貴様が我が同胞を痛め付け、弄んで殺めた吸血鬼か」
レミリアが主力を引き連れて館を出て庭に向かい、やって来た敵の大軍と相対すると、その中で1番放つ妖気の大きい鴉天狗に開口一番強い敵意を持って話しかけてきた。ただ、その相手は偵察任務のために館を訪れていた天狗たちを玩具にして遊んでいたフランに対してであったが。
その妖気は少し前に館に来た敵とはとは比べ物にならず、純粋な妖力量では天狗社会の中でもかなり強いと言える上、立ち振舞いから戦闘技術もそれなりにあり、仮に高い技術持ちとは言え近接メインの美鈴や咲夜がまともに戦えば、苦戦して負けるかもしれない程の敵である。
天狗側も、今まで彼が出れば大抵の敵とは戦いにならず、なったとしてもその実力でねじ伏せて解決するため、万が一に備えて強力な援軍を備えているとは言え、今回も彼と彼の率いる先鋒小隊100人で済むものだと思っていた。
「痛め付けた……アハハ! 何言ってるのさ! 私はただ、楽しく遊んだだけだよ?」
「楽しく遊んだだと? 2人を殺しておいて、どの口が言うか!」
「え? この口が言ってるんだけど……て言うかさ、そんな事よりも私と遊ぼうよ! スッゴく楽しくなりそうだし!」
「小娘ぇ……我々を愚弄するのもいい加減にしないか!」
この作戦は普通の敵であれば効果はあったかもしれないが、圧倒的妖力を秘めているフランにとっては、制限なく自由に楽しく遊べそうな玩具の内の1つにしか見えていなかった故に喜んでしまい、逆効果であった。
フランとほぼ同程度の戦闘力を有しているレミリアも、ようやく戦いがいのある奴が出てきたかと気分を高ぶらせているが、妹がとても楽しそうにしているため今回は譲ってあげる事に決めて、自分は周りに居る奴らと戦おうと、紅い雷が走るグングニルを構えて戦闘態勢を整えた。美鈴と咲夜とパチュリーの3人も、そんなレミリアを見て即座に構えに入る。
「遊んでくれないの?」
「当然だ。我々は遊びに来たのではなく、貴様らを捕縛ないし討伐をしに来たのだからな」
「ふーん……そう」
そうして、フランが先鋒小隊の隊長天狗に遊んでくれないのかと嬉々として問いかけるが、この状況下では当然の如く断られる。すると、フランは唐突にレーザーのように収束させた高温の炎を隊長天狗の部下へと向かわせた。
一瞬だけではあったが、本気近い魔力を込めた全てを焼くと言える炎と化したそれは、全員の想定を超える威力の魔法攻撃であった。対応が遅れた敵へと命中したそれはあっさりと貫通、更に数人の身体のどこかを中途半端に貫きながら焼き、想像を絶する苦痛を与えた。
加えて、それでも止まらないフランの攻撃はパチュリーの結界に当たると、周囲に炎を撒き散らしながら消滅した。この時の爆炎が予想以上に大きかったため、館の門ごと天狗を数人吹き飛ばす被害を与えるが、最初の攻撃によって警戒レベルを上げて防御結界を張って構えていたため、奇跡的にこれによる怪我人は居るものの死者は1人も出る事はなかった。
「それってさ……つまり、私が自分の意思で勝手に遊んで良いって事だよね!!」
「何故そう言う思考になるのかは理解出来ぬが……我々の仲間の命を玩具のようにして扱う貴様やその仲間を捨て置けば、いずれ災厄となってこの地に降りかかってくるだろう。だから、今ここで消えてもらおうか」
その際、断られたフランは何故か『自分が勝手に遊んでも良い』と言う風に解釈したらしく、堂々と笑みを見せながら言い放った。これを聞いた隊長天狗は静かに怒りを燃やし、仲間の仇を取るために刺し違えてもフランだけは討ち取る事を決める。ただし、他の紅魔館の住人は当初の方針の通り、基本は捕縛の方向で進めるのは変わらないようだ。
「あれ? もしかして、やる気になってくれたの? なら、私もちゃんと応えないとねぇ!」
「っ!! 来るぞ! 戦闘態勢をとれ!!」
そんな感じで闘志を燃やし、妖気を全部解放した隊長天狗を見て、なんだかんだ言いながら自分と遊んでくれる気になったのだと思って喜んだフランも、同じように妖気を解放してレーヴァテインを引っ提げて真っ先に隊長天狗へと襲いかかった事で、紅魔館の主力と天狗側の先鋒小隊100人との乱戦が始まった。
「おぉ……私の攻撃を受け流した! 凄いね、アハハ!」
「何て凄まじい力よ……分かってはいたが、ただ者ではないな! 小娘」
「あ、それと私は小娘じゃなくて『フランドール』って名前があるから、呼ぶならそっちで呼んで!」
「戦いの最中にそんな事言う余裕があるとは……末恐ろしいな」
最初に襲いかかられた隊長天狗は妖気を纏わせ強化した刀で一瞬だけ受け止めた後、攻撃を受け流してフランのバランスを崩し、その瞬間に妖力弾を叩き込むと同時に素早さを生かして距離を取るも、軽めの攻撃であったためにフランには殆んど効かず、少し与えられた傷も高い再生能力によって瞬時に治癒してしまい、実質的には無傷であった。
フランは自分の攻撃を無傷で隊長天狗にいなされたが、それで驚いたり焦ったりするどころかむしろ、嬉々としていた。レミリアから遊んでも良いと許可を取れている故に、何のしがらみもなく自分の攻撃をいなすほどの遊びがいのある相手と遊べるためである。
「ほらほら、どんどん行くからついてきてね!」
「くっ! 動きは単調だが、凄まじい速さと破壊力……そう何度も受け止められるものではないな」
そうして、レミリアたちが残り90人程の天狗たちをコンビネーションや純粋な力量で翻弄していた頃、フランと隊長天狗の2人は紅魔館上空で空戦を行っていた。今のところは殆んど互角で推移している。
フランがすぐに終わってはつまらないと言う理由から、得意な魔法攻撃をまだ行っておらず、レーヴァテインを引っ提げて近接攻撃のみを仕掛けているためである。もう1つは、剣術に優れている隊長天狗が攻撃をまともに食らわないように回避や受け流しを主に行い、その隙をついて妖力弾や妖気を纏った刀で攻撃を仕掛けると言う感じで、消極的なためだ。
「天狗って素早いんだね! ちょっとビックリしちゃったわ」
「こちらとしては、我々天狗の速さに余裕でついてきているフランドールにビックリだ。その上、純粋な妖気の強さでは我を上回ると来たら、当然だろう? しかし、だからと言って仇を取るのをやめる訳には行かぬ! 負担が凄いからあまり使いたくはなかったが、この技を使ってでも貴様を討ち取る!」
「ふふっ……そうこなくちゃね! じゃあ、私もいっくよー!!」
ある程度の時間が経った頃、一向にフランに対して有効な一撃を与えられていない隊長天狗がこのままでは埒が明かないと判断し、有効時間が短い上に効果が切れた後は能力が減少する代わりに、効果時間内の時はあらゆる能力を大幅に上げてくれる『
この状態の隊長天狗は一時的ではあるものの、妖力だけでみれば幻想郷の上位陣に若干劣る位には強くなっている。故に、今までフランも近接攻撃のみに抑えていたが、自作のものを含めたあらゆる魔法を戦いに織り交ぜても相手が壊れないと確信を持つ。
「よっと、ほら! そぉーれ!」
「ちぃ! この技を使っても攻めきれない術とは面倒な!」
「アハハ! まだまだこんなものじゃないから、壊れないでね!!」
そうしてすぐ、フランはいきなり今まで放っていた小手先の魔法ではなく、自身と同等の強敵を想定した本気の魔法をいきなり使用し、隊長天狗へと放った。
自身の翼についている、色とりどりの宝石と同じような形の光弾を大量に生成する『【禁弾】スターボウブレイク』の手数と威力は凄まじく、能力の大幅上昇中の隊長天狗ですら攻めきれていない。更に、狙いが逸れたものや弾かれたものが流れ弾となってたまに乱戦状態となっている地上へと向かっていき、貫かれたり地面の着弾時の爆発に巻き込まれて大怪我を負ったり死んでしまう天狗たちが出て来てしまっていた。
ただし、庭はともかくとして紅魔館の建物自体には多重魔法結界が張られていてほぼ無傷、下で戦っているレミリアがグングニルで流れ弾を敵の方へと弾き返し、パチュリーが多重防御結界で防ぎきっているため、館の住人もほぼ無傷である。
「へぇ、切り抜けちゃった……凄いね! じゃあ……次はこれ!」
「なっ……囲まれた!?」
最初の魔法の発動時間が切れ、所々負傷しながらも何とか切り抜ける事に成功した隊長天狗に対して、フランは拍手をしながら称賛の意を示すと、間髪いれずに次の魔法を発動させる。
拳大サイズで多数の綺麗な緑色の弾幕を格子状にして対象の周りに展開し、動きを封じ込めた後に人間サイズの弾幕とそれに弾かれた小さな弾幕で追撃する『【禁忌】カゴメカゴメ』は容赦なく襲いかかった。ただ、隊長天狗は相当な実力者である上に術で強化された状態であるため、致命傷になりそうな弾幕を妖気を纏う刀で斬って捨て、残りの弾幕は強化された妖気を使って防ぎ、ダメージを最小限に防ぐ事に成功した。
「くっ……そこだ!」
「うぁっ……痛いなぁ! お返しだよ!」
そして、魔法が解除された一瞬の隙を突いて、隊長天狗は種族の特性を生かして超加速し、すれ違いざまに妖気を纏った刀で斬りつける『【天翔】
色々な条件が重なったため、フランはこの攻撃を完全に防ぐ事が出来ずに腕と脚を斬りつけられ、負傷してしまった。その上、この攻撃には再生能力の阻害効果があるらしく、傷の治りがいつもより悪いようだった。
しかし、その程度ではフランが止まる事はなかった。攻撃を受けてすぐに相手の下へ向かい、自身の身長程の緋色の炎剣と化させた『【禁忌】レーヴァテイン』で斜め上に斬り上げ、刀を力ずくで弾いた後に腹部に蹴りを入れて吹き飛ばし、壁に叩きつけた。それから更に、追撃として爆発する魔力の塊をぶつける『爆裂魔導弾』を1発当て、地面が少し抉れる程の爆発によってかなり大きなダメージを与え、反撃すら難しい状況までに追い込んだ。
「ねえ、貴方。お名前は?」
「フランドール……そんな物を聞いてどうする気だ? どうせ、今から我を殺すのだから、意味ないだろう?」
「ふふっ……そんな勿体ない事しないし、意味だってあるよ! だってさ、私に初めて痛い傷を負わせた貴方と遊んだの……凄く楽しかったもの!」
「……」
そうして、隙を見て襲いかかってきた他の天狗をレーヴァテインで、邪魔な虫を排除するが如く薙ぎ払うと、ゆっくりと隊長天狗の下へと近づいていった。明らかに、状況からして止めを刺しに行くようにしか見えないため、強化妖術の効果が切れていた彼は、せめて少しでも傷を与えようと運良く側にあった刀を手に取ろうとした。
しかし、その前にフランがその刀を手に取ってから話しかけたため、諦めて話を聞く事に決めて耳を傾けた。すると、その内容が隊長天狗の名前を聞くものであったため思わず拍子抜けして、どうせ今から殺す相手の名前なんか聞いたって意味ないだろと言ってしまう。
すると、フランがクスクス笑いながら、せっかく楽しく遊べる相手が見つかったと言うのに殺してしまうと言う勿体ない事はしないと、自分を物のように扱う発言に隊長天狗は引いてしまい、黙り込んでしまった。楽しかったのに勿体ないと言う理由で、さっきまで殺しに来ていた相手を殺さない判断を下した事が理解出来ないからと言うのもあった。
「それで、お名前は? もしかして、ないの?」
「……
「ツカサ……うん! 分かった!」
引かれているなどと微塵も思わないフランは、そんな隊長天狗の様子からもしかして、自分のように名前がないのではないかと思って聞いてみたところ、 彼は『八風 司』と名乗った。取り敢えず、名前はあるので名乗っておこうと判断を下したようだ。
「お姉様、大丈夫……って、聞くまでもなかったね」
「当然よ。この程度の相手なら100人程度が集まったところで、私たちなら余裕だし。それよりも、フランの方は随分と楽しめたみたいね」
「うん! 私の本気に結構長く持ちこたえてくれて、楽しかったんだよ! 痛い傷もつけられた程、凄かったんだからね!」
隊長天狗の自己紹介が終わってからフランは動けない彼を担ぎ、もう既に天狗たちを全員無傷で戦闘不能もしくは殺すなどして制圧していたレミリアたちの下に向かい、戦いがどれだけ楽しいものであったかを語り始めた。
「貴様ら……我々を随分と弄んでおいて、どう言うつもりだ!」
「あら、フランと盛大にやり合ったのにまだ喋る体力があるなんて、凄いじゃないの。それと、私たちは侵入してきたお前たちをそれなりに扱っただけよ? その証拠に、侵入者以外はまだ殺してはいないでしょう? まあ、やり過ぎなのではないかと言われると、一概に否定は出来ないけど」
「
「さあね。ご想像にお任せするわ」
すると、隊長天狗の司が2人……特にフランに対して、この状況を楽しんでいる事に対しての怒りを露にし始めた。それに対して、レミリアはフランとやり合ったのに喋るだけの体力がある事を称えた後、やり過ぎなのは一部否定はしないものの、今回の襲来に関して言えば侵入者を全力で排除したに過ぎず、どうこう言われる筋合いはないと言う旨の話を担がれている司に淡々と聞かせた。
その後、レミリアの話を聞いた司が、いずれ自分たちの本拠地まで攻め込んで来る可能性を問うと、何か含みがある感じで想像に任せると言うに留めたため、彼の不安は拭えなかった。
「あらあら、随分と派手にやった事……」
「くっ……まさか、天狗の中でも相当の実力者である司殿が相手にならない程の敵であったとは……驚きですね。最初から私が来ていれば良かったかもしれません」
そうして色々なやり取りを紅魔館の面々が交わしていると、突如として門のあった位置近くの空間が裂け、レミリアやフランと同等かそれ以上の妖気を放つ2人の女性が中から現れた。突然の状況に美鈴と咲夜とパチュリーは勿論の事、フランも呆気に取られていた。
「貴女がここの管理者ね? で、そっちの方が従者……いえ、調べた限りでは式神だったかしら?」
「如何にも。貴女の言う通り、私が幻想郷の管理者『八雲紫』ですわ。そして……こちらが『八雲藍』で、式神よ」
しかし、レミリアだけは幻想郷に来る前から既にある程度の調べがついていたらしく、裂けた空間のスキマから出てきた女性2人に話しかけ、幻想郷の管理者とその従者であるかと質問を投げ掛けた。すると、調べた通りの情報であったらしく、それぞれ『八雲紫』と式神の『八雲藍』と名乗った。その後、レミリアも自己紹介をしてから館の住人たちを順々に紹介をしていった。
「さて、単刀直入に言うけれど……レミリア。貴女の館の住人も含めてこれ以上暴れるのは止めにしてもらいたいのだけど。被害も洒落にならないでしょうから」
「なるほどね。まあ、今の戦いで私の目的はそれなりには達成出来たとも言えるけど……ただ、それでは紅魔館とスカーレット家の吸血鬼と言う存在を、ここの妖怪に示しきれたとは言えないし……」
すると、紫がレミリアに対して幻想郷でこれ以上暴れるのは止めてもらいたいと言う『お願い』をし始めた。紅魔館の面々が全力で暴れれば、流石に滅びはしないだろうが被害が洒落にならないとの判断から発言したようだ。
「ふむ……それなら、幻想郷の実力者たちを集め、そこにレミリアとフランドールの姉妹が顔を出して、実力を示すのに都合の良い舞台を私と藍が用意するわ。ついでに観客もね。これなら良いでしょう?」
「うーん……まあ、管理者である紫がそう言うなら良いわ。ひとまずその日がやってくるまで、大人しく館の中で待っていれば良いのかしら?」
「ええ、そう言う事よ。物分かりが良くて助かるわ。じゃあ、その日が来たらまたスキマでここに来るから、お願いね」
「分かったわ。取引成立ね」
レミリアが紫のお願いに対して、目的をあまり達成出来ていないと言う理由で難色を示していると、それに関して言えば紫と藍の2人がおあつらえ向きの舞台を用意する事を約束した。これによってレミリアも紫のお願いを聞き入れて、このまま紫が来なければやる予定だったある程度の侵攻を中止する事を決め、あまり大事にはならずに吸血鬼異変は幕を閉じる事となった。
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