「ねぇ、お姉様。あの紫って言うスキマ妖怪、まだ来ないの? あの時、幻想郷の強い妖怪と遊べるって言うからもっと遊びたい気持ちを抑えて仕方なく諦めたのに、1ヵ月近くも来ないんだったらその甲斐ないじゃん!」
天狗勢力との激しくも一方的な戦闘が起こってからちょうど1ヵ月近くが経った紅魔館内にて、とある理由から激しく不満を露にしたフランが、レミリアに対して強く詰め寄っていた。
それは、紅魔館の庭で行われた戦闘が終わってから少し経った後行われた、レミリアと紫の急な打ち合わせにて出て、本人に伝えられた『フランを幻想郷の強者と遊ばせる』と言う約束が、実際には2週間前にとっくに叶ってもおかしくないにも関わらず、1ヵ月経っても紫からの音沙汰がないためである。
本当なら、あの場に居た天狗たち全員と遊び尽くしたい欲があったが、紫が来るまで我慢していれば『ツカサ』と言う天狗よりも強い幻想郷の猛者と思う存分遊べると提示されたため、襲い来る衝動を抑えつけて待っていた故に、フランの怒りがどんどん強くなっていった。
レミリアも、このままではフランが暴走して幻想郷との全面戦争になりかねないと危惧していたため、根気よく宥めたり門番の仕事を美鈴から回してもらい、時折襲い来る妖怪と
「確かに遅すぎるけど……まだ期限まで少しあるから、落ち着きなさい。胡散臭く見えても、紫は約束を破るような奴じゃないから、もう少し待ちましょう? それに、時々侵入しようとやって来る野良妖怪と遊ばせてあげてるじゃない。何だかんだ言って、楽しんでたでしょ?」
そんなフランを見たレミリアは、紫が来るのが遅すぎると言うフランの意見は肯定しつつ、約束を破るような奴ではないから待とうと諭し、それから要望通りに野良妖怪を玩具にして弄ばせ、何だかんだ楽しんでた事を指摘して我慢してくれと
「むぅ……確かにそうだけど、この間遊んだ『ツカサ』って天狗か、せめて館の中に入ってきた天狗じゃないとつまんなくて嫌! ちょっと小突いたりして遊んでるだけなのに壊れちゃうなんて、遊び相手どころか玩具にしても……すぐに飽きちゃったわ」
「どう考えても、あれはちょっと小突くの内に入らないと思うのだけど……私がおかしいのかしら?」
まさにその通りな指摘をされたフランは、何だかんだ楽しんでた事はばつが悪そうに認めつつ、やはり少し小突いた程度で壊れてしまう野良妖怪程度ではすぐに飽きてしまってつまらないと、改めて不満を露にした。ただ、フランにとっては少し小突いた程度であっても、その様子を眺めていたレミリアから見れば明らかにその程度ではなかった故に、自分の感覚がおかしいのかと思ってしまう。
「いえ、レミリアお嬢様はおかしくはないと思いますよ。少なくとも、妹様の『お遊び』を見た事がある私は、同じ思いです」
「そう? 少し安心したわ」
「それに、あれは今までそう言う経験がなかった故の感覚の違いなどによってのものですので、根気強く教えて経験を積ませてあげれば、妹様にとって取るに足らない私のような木っ端妖怪や人間相手でも戦いを楽しめる位にはなれるかと思いますよ! その役目は私でも良いですが、こう言うのはやはり姉であるお嬢様がやった方が良いと判断します」
しかし、その話に割り込んできた美鈴が自分も同じ思いであり、全くおかしくはないと肯定してくれた上に、フランとの感覚の違いは今後の努力次第で修正は十分可能だと思うと言ってくれたため、レミリアはほっと一安心すると同時に、美鈴の言う通りにしようと心に誓った。
「そうね……と言うか、1回手合わせしてみたいって言われた程な美鈴を、フランが木っ端妖怪って思ってる訳ないわよ。そうでしょ?」
「うん、お姉様の言う通りだよ。あんなのと一緒にしたら、美鈴に失礼だしね!」
「あはは……恐縮です」
話が終わった後、途中で美鈴が自分を木っ端妖怪と言ったのをレミリアが否定し、フランも野良妖怪を引き合いに出して強く同意を示すと言ったやり取りを交わしていた時、突如全員の目の前の空間が裂け、そこから紫が出てきた。
「やっと来たわね、紫。随分遅かったせいでフランがご立腹だったから、対処が大変だったのよ……」
「約束の時間、とっくに過ぎてるのにどう言う事なの……? ねぇ、答えてよ!」
瞬間、フランが無言で紫に対して遅すぎた事を責める意思を込めて睨み付け、レミリアはそんなフランの機嫌取りに四苦八苦した事を伝え、やんわりと抗議した。
「……そのようね。少し言い訳させてもらうと、幻想郷の猛者たちとの交渉に手間取っていたからなのだけど……まあ、その分貴女たちが満足するような者を連れてきたから、どうか矛を収めてくれるかしら? フランドール」
レミリアからそう言われ、今にも暴れ出しそうだと言われれば納得出来そうな位の様子であるフランを見て、紫は顔をひきつらせながら遅れた理由を説明し、その分満足出来るくらいの人物を連れてきたから落ち着いてくれと宥めつつ、万が一に備えて藍にすぐさま動けるようにと指示を出した。
「ふーん……なら良いけど、その人たちはどこに居るの?」
「このスキマを通れば、すぐにその人たちの所へ行けるわ」
「この薄気味悪いスキマの中を? もっとどうにかならなかったの?」
「こればかりはねぇ、どうにもならないのよ。我慢して頂戴」
「そっか……まあ、向こうで楽しく遊べれば良いや。お姉様、早く行こ?」
しかし、紫の言った『満足出来るくらいの人物を連れてきた』と言う言葉を聞いてフランが矛を収めたため、ひとまず紅魔館内が戦場と化す事はなく、冷や汗をかいていた藍もホッと一安心する事が出来た。それから、幻想郷の猛者がどこに居るのかと言う問いに対して紫がスキマを通るように促し、フランがあまりの不気味さに辟易しながらも、レミリアの手を引いてスキマへと飛び込んだ。
「あらあら……
「話には聞いてはいましたが、あの金髪の……確か『フランドール』さんと言いましたっけ。まさか、勇儀さんや幽香さんと同程度の妖気持ちとは思いませんでしたよ。隣の青みがかった髪の子も同じ位のようですし……悔しいですが、これなら司殿ですら歯が立たなかったのも納得ですね。私でも真っ向から挑んで勝てるかどうか、分からない程ですし」
「幽香やあたしと同等……か。確かに、コイツは文の言う通りかもしれないね」
すると、スキマを通って行った先に居た多くの人妖の中でも特に強い力を持つ3人の大妖怪『風見幽香』『射命丸文』『星熊勇儀』が、レミリアとフランの容姿に一瞬驚き、自分たちと同等の力を持つ事に対して更に驚いた。特に文は、天狗勢でも上位に位置する『八風司』からフランにボロ負けした事を伝えられている上に仲間の犠牲者が出ている事から、この場に居る誰よりも表情が険しかった。本人は気づいていないが、無意識に妖気による威圧までしている。
「ねえ! 貴女とっても強そう! 私と思いっきり遊んでよ!」
「……」
しかし、そんな文の無意識の妖気による威圧など全く意に介さず、フランは目の前に居た勇儀の下へと近づくと、瞳を輝かせながら自分と思いっきり遊んでくれと純粋に懇願を始めた。
「このあたしを全く恐れないどころか、文や幽香の圧力を全く意に介さない程とは……気に入った! 紫との約束もあるから、気の済むまでやり合う事が出来ないのは残念だが……」
「え、良いの?」
「勿論だ! さあ、そうと決まれば外へ出るぞ」
幻想郷では上位に位置する、自分を含めた実力者の圧力を全く意に介さないフランを勇儀は気に入ったらしく、遊んでくれとのお願いを二つ返事で了承した。
「さてと、嬢ちゃん。お先にどうぞ」
「うん……じゃあ、行くよ!」
そして、お互いの準備が出来た所でまず最初に動いたのはフランだった。勇儀が前に戦った司よりも遥かに強い妖怪であるとすぐに悟った故に、一切の手加減なしの通常弾幕を放ったが、避けるか拳1つで迎撃されて打ち消されてしまう。それから、お返しとして勇儀も手加減なしで真っ向から殴りかかるが、こちらもフランが同じように全力の拳で迎え撃って威力をほぼ相殺した事で、ダメージは殆んどなかった。
「っ! 押し負けてる……!?」
「純粋な力ではあたしの方が上か……そぉら!」
しかし、拳の押し合いでは勇儀の方に軍配が上がってしまったらしく、押し切られたフランが勢い良く殴り飛ばされ、紫がいつの間にか戦闘場に用意していた四重結界に叩きつけられてしまった。その後、追撃として勇儀が高速で近づいて妖気を纏わせた拳を思いっきり振るうも、フランが独自開発の魔法『【魔障】フューズサークル』を使って大部分の衝撃と破壊力を光弾に変換して散らし、散らしきれなかった分を展開した魔方陣の純粋な防御力で受けきった事で、何とか無傷で凌ぐ事に成功した。
更に、それによって変換されて散らされた衝撃と破壊力が込められた光弾の一部が勇儀に直撃し、少なくないダメージを負わせた事でもう一撃入れる事を一瞬躊躇った隙を突き、距離を取って魔法を主体とした中~遠距離で戦う準備を整える。ただ、これだけの威力の攻撃を防ぐ魔法によって消費した力がかなり多かったようで、フランにも疲れが見え始めている。
「魔方陣にヒビが入る程の威力……これ、生身で受けてたら流石の私でも無事では済まなかったかも……!」
「まさか、あたしの本気の一撃を無傷で凌ぐだけでなく、反撃を入れてくるとは驚いた。流石と言ったところだ」
「貴女と遊ぶの、ツカサと遊んだ時よりも楽しいわ!」
「そうかい……そう言ってもらえると光栄だね!」
勇儀の方も、本気の一撃を防がれて反撃をもらった事に衝撃は受けたものの、すぐに気を切り替えて戦闘の
それからの戦いは2人の実力が拮抗しているために、紫の張った四重結界すら割れてしまいそうな程、凄絶なものとなった。勇儀の妖気弾を交えた近接攻撃に苦しみながらもレーヴァテインや拳、手の平サイズの防御魔方陣で防ぎつつ、隙を見て放った『【禁弾】過去を刻む時計』によって脇腹に大きな傷を与え、更に『【禁弾】スターボウブレイク』で追撃する。
これを所々に大小様々な傷がつけられ、ダメージをかなり負ったものの、未だに動ける勇儀はフランに対して反撃の手を緩めるどころかむしろ強め、その様は拳の嵐と呼んでも差し支えない程となっていた。
「これだけやっても全然堪えないどころか、私の傷がどんどん増えてく……アハハ! こんな経験初めてだよ!」
「十分堪えてるんだけどね……」
「そんな貴女なら、これも耐えられるよね……?」
「っ!?」
何とかこれの防御や回避、迎撃を試みるもしきれなかった分の攻撃をもらってしまい、どんどんフランが負う傷が増えていった。順当に反撃による勇儀の傷も増えているものの、こちらはペースが遅いため、この近接攻撃においてはフランが若干不利な状況に追いやられている。ただ、吸血鬼特有の圧倒的再生能力による回復があるため、実質的には互角の状態となっている。
そんな状況であるが、自分と同等かそれ以上の強さを誇り、再生能力があってすらほぼ互角と言う『勇儀』と言う存在に対して、フランはとても歓喜していた。故に、今まで自分の中に理性で抑えていた『狂気』が表へと出かかってきてしまい、それがどす黒いオーラとして具現化、フランの力を今まで以上に強化してしまう。
理性が全て消え去った訳ではないとは言え、それは同時に性格をより残虐かつ好戦的な物へと変化させてしまう。勇儀もフランのその変化を不味いものだと一瞬で悟り、四天王奥義『三歩必殺』の構えを取ろうとした。
「2人共、そこまでにしておきなさい!」
しかし、そのタイミングで観戦していた紫が猛烈な怒気を放ちながら乱入し、強く
「なんだい、紫。今良い所だったのに……」
「ちょっと遊ぶ程度ならまだしも、本当の殺し合い一歩手前までして良い許可は出していないわ、勇儀。危うく観戦者まで被弾しかけてるし……フランドールも、そんな物騒極まりない『狂気』まで出して……」
「仕方ないねぇ……横やりを入れられて興ざめしたし、今日はここまでにしとこうか」
「本当、邪魔者が入って興ざめしたけど……楽しかったよ! またやろうね! えっと……」
「紫も言っていたが、あたしは勇儀だ。勿論、また今度邪魔が入らない所でやり合おう。フラン!」
「うん!」
これによって、フランと勇儀の殺し合い一歩手前の遊びは幕を閉じた。そうして室内へと戻ると、良い物を見せてもらったと幽香はフランに対して機嫌良く話しかけて若干命令口調で次の戦いを予約し、文はフランが勇儀や幽香と同じ戦闘狂気質であり、力も似ている事実にどう足掻いても報復など無理と悟った。他の幻想郷から集められた観客側の人妖は、純粋に新たに勇儀や幽香などと並んで強力無比な妖怪が現れたと恐れおののいた。
「そういや、フラン。あそこで紫と会話してる青みがかった髪の子なんだが……」
「あれ? レミリアお姉様だよ。純粋な力だと私の方が少し上だけど、あまり勝てないの」
「……? 確かにフランと同じ位の妖気持ちだから簡単には勝てそうにないのは分かるが、あまり勝てないとはどう言う事なんだ?」
「えっとね、昔の話なんだけど……私の動きが殆んど全部読まれちゃって攻撃がなかなか当たらなくてね。その上、お姉様の攻撃自体も凄く正確かつ強力だから、凌ぐのが大変でさ」
「ふむ……どれだけ強力な攻撃でも当たらなければ意味はない。その上攻撃も的確と言うなら、ソイツは厄介だね」
戦い終えた後の勇儀とフランは、休憩がてら紫と話しているレミリアについての話題で盛り上がっていた。その中でも、フランが本気を出して戦っても勝率が悪いと言ったため、勇儀はレミリアがどれだけ強いのかと驚くと同時に1度手合わせをしてみたいと思っていた。
そんな感じでフランと勇儀の話し合いが一段落ついた後は、先ほどまでの戦いを見ていた人妖たちと軽く挨拶を交わし、文と話し合って後日謝罪に向かう事と相互不可侵の契りを結び、改めて紫から幻想郷への歓迎の言葉をもらった所で、この催しは幕を閉じる事となった。
ここまで読んで頂き感謝です。お気に入りや評価、感想を書いてくれた方にも感謝です。励みになります。