メリーさんの逆襲   作:千両花火

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この物語は過去に書いた作品のリメイクです。せっかくなので短編として投稿することにしました。

不定期で短編を投稿していきます。


わたしメリーさん、復讐をするの

 「口裂け女」や「トイレの花子さん」に並んで有名な都市伝説に「メリーさんの電話」というものがあるのはご存じだろうか。

 

 或る時、電話がかかってきて、それに出るとメリーさんと名乗る女が自分のいる場所を告げてくる。

 

 そして電話のごとにその場所がだんだん自分の家に近づいていき、最後には「あなたの後ろにいるの」と言い、振り返ると***される。

 

 そんな都市伝説だ。

 

 この話の恐ろしいところは、回避手段が存在しないことだ。

 

 どんなに逃げても逃げ切れない恐怖の悪霊として名高いメリーさんだが、そんな彼女の実態を知る者は少ない。

 

 

 

 ***

 

 

 

「わたしメリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

 

 そう言われた真っ赤なコートを着た女性が振り返ると、純白のワンピースを着た少女が微笑んで立っていた。金糸のような髪と青い瞳、しかし眼球の中の瞳はドロドロと汚濁のように濁っている。宝石が腐ったような目は美しさを冒涜しているかのようだ。

 笑顔であるにもかかわらずにまるで死体のような眼をした少女を、女性は呆れたように見返した。

 

「メリーじゃない。久しぶりねぇ」

「やぁ、りっちゃん。相変わらず真っ赤なコート着てんだ」

 

 ケラケラと笑うメリーにその女性、口裂け女はマスクの下で微笑んだ。もっとも、そのマスクの下はさぞや大きな三日月を形作ってはいるだろう。

 ちなみに「りっちゃん」とは彼女の愛称で、「リッパーマウス」が元らしい。

 

「調子はどう?」

「まだ研修中だけどがんばってるよ!」

 

 けらけらと笑うメリーだが、ついさっきも一人を恐怖のどん底に落としてきたところだ。仕事後の一杯が最高、とでも言うようにジュースを飲んでいる。ちなみに襲ったやつから財布を奪ってその金で買ったものだ。

 他人の金でする飲み食いは美味い。

 

「でもさ、最近は公衆電話が少なくなって、これがないと仕事もできないんだよ」

 

 メリーは最新機種のスマートフォンを自慢するように見せつける。これも仕事の最中手に入れたものだ。

 メリーさんの仕事上、昔は電話ボックスが必須だったのだが、最近の社会情勢の変化にともなってメリーさんも適応するようにハイテク化していったのである。最近はソーシャルゲームにも「メリーさん」として登録して楽しんでいる。

 

「それに研修もなかなか大変でさー、はじめのころなんて失敗ばっかり」

「そうなの?」

「そうなの! ひどいときなんてさぁ!」

 

 ぷんすか怒りながらメリーは会社の愚痴を言う若手みたいに勝手に喋りだした。

 

 

 

 ***

 

 

 

「わたし、メリーさん、今、三丁目のコンビニにいるの」

 

 そう言って携帯通話を終える。相手はビビッて声も出せないようだ。

 

 ふん、ちょろいもんよ。

 

 つい1分前にも脅迫の電話をしてやった。そのときよりさらに混乱しているだろう。

 

 引きこもってるニートはわたしの行動力に手も足もでまい。

 

 さて、次はターゲットの家の前ね。ここから1キロほど。一分あれば余裕ね、お化けの俊足を舐めんじゃないわよ。わたしがその気になれば世界陸上で賞を総なめよ。

 ………あー、でもりっちゃんには勝てないんだよなぁ。口裂け女って遅い個体でも100メートルを3秒とか、どんな脚力してるんだ。

 

 

 そして着いたのはやたら高級な高層マンションだ。なによ、ニートのくせになかなかいいとこに住んでるじゃない。株でもやってんのかしら?

 

 でも、面倒だ、最近はこの手のマンションは入口にオートロックがかかっている。はじめのころはこのオートロックを突破できずに地団駄を踏んだものだ。

 

 まだ研修生の見習いとはいえ、そんな未熟者ではない。

 

 そそくさと裏に回って警備員室の扉を叩く。警戒した警備員が扉を開けた瞬間にするりとすべりこむように侵入する。お化けの存在感の薄さを逆手にとった見事な戦術でしょう?

 

 中に侵入するとターゲットのいる15階を目指す。

 

 しかし、このままじゃつまらないかな。もっとじっくり脅かしてやろう。恐怖を与えればそれだけお化けの力も強くなる。そう思って携帯電話を片手に行動に移る。

 

「わたし、メリーさん。今、一階のエントランスにいるの」

 

「わたし、メリーさん。今、二階の踊り場にいるの」

 

「わたし、メリーさん。今、三階を超えたところよ」

 

「わたし、メリーさん。四階なう」

 

「わたし、メリーさん。今、………」

 

 

……………。

 

…………。

 

………。

 

 

「ぜぇ、ぜぇ、わ、わたしメリーさん………! もうすぐ15階に着くの……!」

 

 うう、さすがに15階の階段ダッシュはきつかったか。昔はこんな登る建物なんてなかったしなぁ。もうちょっと鍛え直すかなぁ。

 

「わたし、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの………ふふ、覚悟はいいかしら?」

 

 まぁいい。あとは仕上げだ。

 

 ガチャガチャ

 

 バカめ、メリーさんに施錠なんて無意味だ。こんなこともあろうと警備員室を抜けるときにしっかりマスターキーをかすめ取っている。マスターキーでドアを開けるが、しかしまたもや金属音に阻まれる。

 

 チェーンロック………だと……!?

 

 くっ、ちょこざいな~!

 

 このメリーさんがこんなシルバー如きにー!

 

 

 

 

ビーッ!ビーッ!

 

 

 

 

 な、なにごと!? 警報!? くっ、セ○ムか! おのれ商売敵め~!

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

「それで逃げ出したの?」

 

「前に先輩のメリーさんがそれで訴訟起こされちゃったのよ。それ以来強引な住居侵入はダメってマニュアルに………」

 

「世知辛いわねぇ」

 

「でもね、研修が終わってついに卒業試験があるのよ」

 

 卒業試験。

 

 それは、自分を捨てた者への復讐である。今までは研修期間だったのでただ驚かす出張お化け屋敷みたいなことしかしていないが、今度は本当に呪う逆襲戦であった。

 

「がんばって呪ってやるわ。そして一人前のメリーさんになるの」

「そう、がんばってね」

「これに合格したら、お祝いよ! あはははは!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 メリーさんの電話、という都市伝説の由来は、メリーという人形を捨てたことによる、人形の復讐からはじまる。

 メリーと名づけられ、可愛がられ、そして捨てられる。その条件を満たした人形がメリーさんという“怨念”となる。そしてかつての持ち主に復讐することで、呪われた人形は真のお化けとなる。

 

 このメリーもそんなメリーさんのうちの“一体”である。

 

 今までの行動はすべてその予行練習だ。メリーさん協会から与えられる研修でしかない、ただのバイトみたいなものだ。だが、次は違う。

 とうとう、本命に電話をかけるときがくるのだ。

 

 メリーは遠足前のようなウキウキした気分でスマートフォンを取り出した。そして復讐対象であるかつての持ち主に電話をかける。

 

 

トゥルルルル・・・・・

 

 

「もしもし、わたし、メリーさん。今ゴミ捨て場にいるの………」

 

『………メリー? メリーなの!?』

 

「………? 今から会いに行くね。ふふ」

 

 なんだかリアクションが怖がっていないみたいだが、まぁいいだろう。ふふ、呪われる準備をして待っていなさい。

 

 

トゥルルルル・・・・・

 

 

「もしもし、わたし、メリーさん。今商店街にいるの。呪われる準備はいいかしら?」

 

『メリー………はやく来て。早く………』

 

「……??」

 

 

早く来い、とな?

 

なんだろうか、もしかして死にたがりなのだろうか?

 

だったらちょっと肩透かしをくらった気分だけど、まぁそれでもやることは変わらないわね。みてなさい、かつての主人。わたしが天国に連れてってやるわ。あるかは知らないけど。

 

 

トゥルルルル・・・・・

 

 

「もしもし、わたし、メリーさん。今あなたの家の前にいるの」

 

『待っていたわメリー。私の部屋は二階の奥だから、早く来てね』

 

 

 ゾクッ………!?

 

 こ、これはなんだか悪寒がしてきたような………ま、まさか返り討ちにするつもりなのか? 罠でもあるというのか!?

 

 くっ、負けん! 負けんぞ! メリーさんの意地にかけて、必ずは貴様を呪ってやる! この恨みはらさでおくべきか―!

 

 

トゥルルルル・・・・・

 

 

「もしもし、わたし、メリーさん。今あなたの部屋の前にいるの」

 

 今度はなにか言う前にすぐに通話を切った。もはや問答も口上も不要だ。

 

 ふふふ、恐怖におののくがいいわ。

 

 これがわたしの「メリーさんの電話」だあああああ!!

 

 

トゥルルルル・・・・・

 

 

「もしもし、わたし、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

 

 目の前には寝間着姿でソファーに座っている少女がいる。手には電話の子機を持っていて、それを耳にあてて最期の宣告を聞いている。

 

 さぁ、振り向いた瞬間があなたの最後よ。どんな死に顔を見せてくれるのかしら?

 

 

「おかえりなさいメリー。メリーは私を覚えている?」

 

 なのに、そう話しかけてきた。まるで友達と話しているような気安さだ。

 むぅ、まぁ遺言くらいは聞いてやるか。

 

「なぁに? わたしを捨てた持ち主の顔なんて知らないわ」

 

「………そうね、私はあなたを守ってあげられなかった。恨んで当然ね」

 

 守る? なにを言ってるんだ? そう思っていると今度は突然咳き込んだ。かなり苦しそうだ。

 

「ごほごほっ!」

 

「………病気なの?」

 

「生まれてからずっとね………もう、親も看護に疲れるくらいにね」

 

「どうしてわたしを捨てたの?」

 

「………こんな病気だから、外にも出れなくてね。友達は人形のメリーくらいしかいなかった。メリーと毎日話してたわ。でも、そんな私を見た親が気味悪がってメリーを捨てたの……」

 

「………」

 

「でもメリーさんの電話っていう話があるのを知ったの。だからずっと待ってた。メリーが帰ってくるのを待ってた」

 

「………」

 

「家に誰もいないのを見たでしょう? もう、両親も気味悪がって会おうとしないの。………もう一人は疲れたのよ、メリー。さぁ、私を連れていって」

 

 これは………困った。

 

 これじゃあ、この子を呪ってもただの逆恨みの八つ当たりではないか。

 

 何人も呪ってきたわたしが言うことではないと思うが、………こんな死にたがりを呪うのは、違う気がする。

 

 それに、この子の話が本当なら、わたしを大切にしてくれていたようだ。

 

 でも、もう疲れている。生きることに疲れている。一人でいることに疲れている。

 

 だから、わたしに殺されたがっていた?

 

「………」

 

 なんだろうか、ものすごく悲しくて空しい。

 

 この子を呪わないとわたしはメリーさんじゃない。

 

 でも、復讐でもなんでもないのに、呪ったって意味なんてない。あれ、わたし、試験失敗?

 

 むう―――。

 

「もしもし、わたしメリーさん。今、とっても白けてるの」

 

「え?」

 

「あなたは呪えない。だって、わたしを捨てた人じゃなきゃ意味ないし」

 

 というか、そういう規則だし。それに、この子からは本当に親愛の念しか感じない。本当に、心の底からあたしに会いたがっていた。そして、今でもあたしを大切に思ってくれていた。

 そんなこの子を殺すなんて………「メリーさん」失格だ。

 

「そんな………」

 

 その子は泣きそうな声を出して俯いてしまう。

 泣きたいのはこっちだ。これじゃあいつまでたっても研修生だ。あたしは一人前になりたいのに、持ち主に復讐できない場合なんてマニュアルに載ってなかったぞ。

 

「う、ううっ……、もうヤダ………お願い、メリー、私も連れて行って……! 私を一人にしないで……!」

「甘えんじゃないわよ」

「っ!」

「あなたはわたしに殺される資格はない。わたしはあなたに感謝こそあっても、恨みをぶつけることなんてできないじゃない。それなのに連れて行けるわけないわ」

 

 それに、わたしもちょっとこの子のことが好きになりかけている。人形だったとき、ロクな自我もなかったときのおぼろげな記憶が、この子の笑顔をぼんやりと思い出させていた。

 今のこの弱々しい姿が、不愉快でしかたない。なぜ、笑っていない。それがたまらなく不快だった。こんなお化けのわたしより死んだような姿なんて、見たくない。

 

 ……………はぁ、しょーがないか。

 

 

「泣かないで」

 

「え?」

 

「あなたは、一人だから辛いんでしょう? 病気だから苦しいんでしょう? でもね、それはきっと未来じゃ変わる。あなたが頑張れば、その希望があれば、変えられる。だから、………もうちょっとだけ頑張って」

 

「………」

 

「それでもわたしに呪われたかったら、今度はあなたがわたしを捨てなさい。それまで一緒にいてあげる」

 

「メリー……」

 

「一人はもう嫌なんでしょう? わたしがそばにいてあげる。だから、がんばって」

 

 がんばって元気になって、そしてわたしを捨てて呪われろ。

 

 そのときに、わたしははじめて本当のメリーさんになれる。ほら、利害も一致してるでしょ?

 

 わたしは最後の電話をかける。その子がおそるおそるといったように、手にした電話の子機を耳へとやった。

 

 

「もしもし、わたしメリーさん」

 

「………」

 

「あなたを、応援しているの。あなたを、いつも見ているの」

 

 

 これでわたしの試験は失敗。しょうがないから、あなたが一人前になるまで、わたしは半人前のお化けでいてあげる。そしてあなたをずっと見ていてあげる。

 

 だから――――。

 

 

「あなたは、一人じゃないの」

 

 

 

 

 ***

 

 

「メリー!」

 

 少女が振り返るとそこには誰もいなかった。ただ、床にかつてあった、メリーの人形だけが残っていた。

 

 薄汚れ、あちこち壊れたそのメリー人形をしっかりと持ち上げる。汚れることなど構わずに、ぎゅっと胸に抱く。

 ボロボロと涙を流しながら、少女は何度も感謝の言葉を言った。

 

「ありがとうメリー………私、がんばるからね」

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 数日後。メリーはまたばったり出会った口裂け女りっちゃんと一緒に昼下がりのカフェでオレンジジュースを飲んでいた。ストローに口をつけたまま、不機嫌そうな顔をしている。

 そして先ほどまでじっとメリーの愚痴を聞いていたりっちゃんが生暖かい目でメリーを見て笑っていた。

 

「へぇ、そんなことになったの」

 

「そうなの。これじゃいつまでたっても半人前だよ」

 

 卒業試験の一件をどこか複雑そうな顔で話すメリーに対し、りっちゃんは裂けた口で不気味に笑いながら相槌を打っている。

 

「それでどうするの?」

 

「しかたないから、元気になるまで一緒にいることにするよ。もう一度捨ててもらわなきゃ」

 

「そうはならないと思うけどねぇ」

 

「あーあ、ずっと半人前かぁ」

 

「あなたは、それがお似合いと思うけど? よかったじゃない、大事にしてくれるご主人様で」

 

 くすくすと笑う彼女にメリーはやや不満そうに頬を膨らませる。だが時計を見るとそそくさとスマートフォンを持って駆け出してしまう。

 

「どうしたの?」

 

「ちょっとあの子に電話してくる。わたしがいないとがんばれないんだから、逆襲するのも手間がかかるわ」

 

 ぷんすか怒りながら電話をかけるメリーを口裂け女が微笑ましげに、そして怖すぎる笑みで見守っていた。

 

 

 ***

 

 

 

トゥルルルル

 

 

『もしもし』

 

「わたし、メリーさん。あなたの側にいるの。だからがんばって、元気になって、あたしに呪われてね」

 

『うん』

 




大学生のときゼミの歓迎会のときの出し物として用意した物語。ひとり五分の発表だったので、そのとき書いた短編がこれ。よくあるメリーさんのネタ作品。

不定期でメリーさんのその後を連載短編として書いていきたいと思います。
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