メリーさんの逆襲   作:千両花火

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前回のあらすじ。

復讐しようとしたら復讐できなかった。ショック! ………なメリーさん。

そして人間の少女とお友達になりました。仕方ないからそばにいてあげるわ。べ、別にあんたのためじゃないんだからね! ………なメリーさん。




わたしメリーさん、マイハウス(メイド付)を手に入れたの

「暇ねぇ」

 

 今日は仕事もないオフの日だ。町をブラブラしているのだけど、これといって面白いものもない。退屈だ。

 

 そもそも、わたしはメリーさん。誰かを呪ってナンボの存在なのに、上司からはなんか面倒くさそうに扱われるし。

 どうもわたしの「メリーさん」としての履歴が前代未聞らしい。もともと持っていたご主人……レイ(名前はこの間教えてもらった)に捨てられたわけじゃないのに、怨霊となってしまったのがわたし。本当なら捨てた持ち主に復讐して独り立ちするお化けなのだけど、復讐相手がいないときた。

 

 おかげで今のわたしは「嘱託メリーさん」という肩書きになっている。なんだよ嘱託って。正社員とどんだけ給料に差ができるんだろう。というか給料あるの?

 

 そもそもわたしが所属しているのは「日本メリーさん協会」というものだ。はじまりのメリーさん、レジェンドメリーをトップとして、これまでメリーさんと化したお化けが所属している組織だ。所属するメリーさんは全国で二百体ほどらしい。わたしはまだまだ新米……というか、一人前になれるか怪しい。どうしてこうなった。

 

 レイにこのことを話そうかと思ったけど、落ち込みそうだったからやめた。あの子、すぐ落ち込むから困っちゃうわ。人生もっと楽しめばいいのに。

 

「とりあえずどうしよっか……仕事ないときってお化けってなにすればいいんだろ?」

 

 口裂け女のりっちゃんは普段は美容室勤めって言ってたっけ。それに高級マンションの一室に住むまさに絵に描いたような優雅な生活だ。口裂け女って儲かるんだなー。わたしも高級マンションの家がほしいなー。

 

 …………ん? 家?

 

「そうだ、家を探そう」

 

 考えてみれば今のわたしは住む家がないホームレスじゃないか!

 

 レイの家にはわたしの本体がいるけど、お化けとしてのわたしまでお世話になると、いろいろ呪っちゃいそうだし………むむむ。

 

 やっぱりここはどこかいい家を見つけることにしよっかな。

 

 いい部屋どっかないかなー。とりあえずネットで検索ね。条件は………“お化け屋敷”。

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

「わたしメリーさん。お化け屋敷なう」

 

 いやー、探せばあるものだねー。けっこう有名な心霊スポットとして話題になっていたのが、目の前にそびえ立つ洋館だ。町を見渡せる高台に建てられた大きな屋敷で、もともとはけっこうな金持ちが住んでいたらしい。でも殺人事件が起きて、それ以来は買い手も出ずに放置されっぱなしだとか。

 

 うん、いいね!

 寂れた内装、不気味な外観、なによりなにか出そうなこの雰囲気。お化けのわたしが住むにはぴったりじゃないか。

 

 さすがに電話は通じないだろうけど、スマフォがあるから問題ないし。それにがんばって霊障を起こせば町から電気を引っ張ってくることくらいできるかも。

 

「お?」

 

 わくわくしながら中を探索していると、大きな肖像画を見つけた。夫婦と思しき男女の絵だ。仲睦まじい様子を描いた絵だけど、こうなるとただの不気味なオブジェね。

 

 

 

 

 ガタン

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 なにやら物音が。もしかしてこれが噂のポルターガイストってやつか?

 

 

「うっひょー、テンション上がってキター!」

 

 

 音の鳴ったほうへと駆けていく。キッチンと思しき場所へいくと鍋が飛んできた。それをひょいと避ける。直撃コースだったな、今の。こりゃ本物っぽいな。

 

 

 ザクッ

 

 

「あれ?」

 

 気がつけば視界が半分になっていた。なにごとかと思って顔をぺたぺたと触ると、なにかが顔に刺さっているのだと気付く。

 

「よいしょ、と」

 

 頭蓋の中が裂かれる感触を引きずりながらそれを取り出す。

 

「頭に包丁をざっくり刺されたの」

 

 危ないな、わたしがお化けじゃなかったら顔が割れてたよ。傷口を両手で粘土を細工するように捏ねくり回すとあっという間に元通り。潰された目の視界も回復する。

 

「ポルターガイストってか………あなたの仕業ね?」

 

 半透明な身体をした人影を見やる。こういう服、なんだっけ。ああ、そうそう。メイド服! てことはメイド……お手伝いさんだった人かな?

 黒くて長い髪に、清楚な佇まいと可愛らしい顔、年齢もけっこう若い。メイド服より和服が似合いそうな人だねー。

 

『化物め………出て行きなさい。ここは旦那様のお屋敷です』

「そりゃわたし、お化けだもん。でも旦那様って………もう死んじゃってるのに?」

『なにを馬鹿なことを……』

「というか、地縛霊になってるってことは、あなたなんでしょ? 殺されたお手伝いさんって」

『っ!?』

 

 そう、わたしがネットで調べた情報だと、この屋敷で起きた殺人事件とは、その旦那が二人の女性を殺した事件だった。なんでも旦那が不倫していたことがバレて妻と揉めてつい殺っちゃったとか。そしてそれを目撃したお手伝いさんもついでに殺ったんだっけ。当時はけっこうな事件として騒がれたらしい。ゴシップサイトにそう載ってた。

 痴情のもつれとか、怖いねぇ。

 

 ん? でもこういうの利用できるかも? 痴情のもつれから復讐まで、どんな方でも大歓迎! 憎いあの人をしっかり呪います! メリーさん呪殺相談所! ………いいかも。

 

『あ、あ、ああ、わ、私は……!』

 

 どうやら記憶を取り戻してきたみたいだね。地縛霊って死んだときの記憶が飛んでることが多いっていうけど、ちょっとしたきっかけですぐ戻るらしい。その際のショックで昇天するか、悪霊化するかは半々らしいけど、この人はどうだろうね?

 

 ………ん? これっていい機会かも?

 

「ねぇねぇお姉さん、わたし、メリーさん。あなたには殺したい人はいる?」

 

『………』

 

「あなた、殺されたんでしょう? わたしが復讐してあげよっか? そうすればお姉さんも無念を晴らせるかもしれないし」

 

『……私は、本当に死んだのですね……』

 

「そうだよ。ようこそ、お化けの世界へ。それでどうする?」

 

『…………いえ、その必要はありません。もう、関わりたくありません……』

 

「なーんだ、つまんないの。復讐は正当なのに」

 

 案外優しい人みたいだね。人の頭蓋に包丁ねじ込むような人だけど。まぁ、この屋敷を守ろうとしていたのかな? なかなかの忠誠心じゃないか。うん、いいね。

 

「ねぇねぇお姉さん。相談があるんだけどー………この家に住んでいいかな?」

 

『住む? もう、こんな廃墟なのに?』

 

「だって、お姉さん地縛霊だから動けないでしょ? わたしがここに住めば、賑やかになると思うんだけどな」

 

『私に、なにを望むんですか』

 

「そうだね、わたしの話し相手になってくれると嬉しいな。わたし、まだ新米のお化けなんだけど、ちょっと事情があって一人前になれなくて。だからここを拠点にがんばってお化け活動しようと思うの。気が向いたら手伝ってくれると嬉しいかな」

 

『…………』

 

「なんなら給料出すよ? わたしが呪った人の魂をお裾分け。どうかな?」

 

『………ふふ、ふふっ』

 

 あれ、なんか笑い出したけど変なこと言ったっけ?

 

『わかりました。あなたをこの屋敷の新たな主人として迎えます。よろしくお願いします、お嬢様』

 

 おおう、なんかよくわからないけどお嬢様とな? 使用人はこの人だけっぽいけど、なんかいいね! このお屋敷大きいから、案外探せばまだ幽霊とかいそうだけど。

 

『私、水瀬浅葱と申します』

 

「アサギさんだね。わたし、メリーさん。今日からお世話になるの。一緒にお化けライフを楽しもうね!」

 

 マイハウスとメイドさん、ゲットなの!

 

 そしてメリーさん呪殺相談所計画、始動なの!

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 今日、私は新しい主人を得ました。

 

 名前はメリーお嬢様。本名は「メリーさん」とのことですが、語呂が悪いのでこれがよいでしょう。お人形のような………いえ、もとはお人形から怨霊となったとのこと、まさしくお人形の精巧な顔立ちと可憐な容姿、そしてその可愛さのすべてをぶち壊すかのような澱んだ瞳が特徴のお化け、です。

 

 かくいう私も、そのお化けの仲間です。

 

 私は過去、もう思い出せない程昔に、この屋敷に仕えていた侍女でした。お金がない私はこの屋敷に住み込みでご奉公していたのです。

 しかし、ある日、旦那様と奥様が言い争っている場面に出くわしてしまいました。

 

 ついつい好奇心から聞いていた私が悪かったのでしょうか。

 

 旦那様が、奥様を殺していました。その様子を見てしまった私は、腰を抜かして倒れてしまいました。そして、気づけば旦那様が、私に向かって刃物を、振り上げて………。

 

 それが、私の生前の最後の記憶です。

 

 メリーお嬢様と出会うまで、私はこの記憶すら忘れ、ただこのお屋敷を守る地縛霊と化していたのです。

 

 突然やってきた子供の姿に、私はいつものように物音を立てて追い返そうとします。しかし、その子供は怯えるどころか、笑いながらお屋敷を走り回っていました。

 そのとき、私は見たのです。ひどい汚濁のように澱んだ目を―――。

 

 その目を見て、この子供は化物だと思いました。私は気がつけば、かつて私がそうされたように、その子供の顔に包丁を突き立てていました。

 しかし、それを血も流さずに平然としていたのです。挙句、包丁を抜いて粘土細工でもするように自身の顔を直す始末。おぞましいなにかにしか見えませんでした。

 

 しかし、そんな子供から知らされた事実が、私の記憶を呼び起こしました。

 

 かつて、この屋敷に仕え、殺された私………記憶が曖昧なところもまだありますが、まだ十代半ばだったと思います。

 

 青春を送ることなく、終わってしまった私の人生………残っているのは、廃墟と化した屋敷だけ。途方に暮れる私に、その子供は笑って声をかけてきました。

 

 復讐する気はないか、と。

 

 どうやら呪うことが仕事のお化けのようで、私の無念を晴らしてくれるという。言っていることは物騒ですが、私を気遣ってくれたことに感謝いたしました。邪気と無邪気が合わさったようなその子供は、ころころと表情を変えながらいろんなことを喋ってました。

 相変わらず目の輝きは汚濁のようなのに、普通の少女のように振舞う彼女を見ていると不思議と穏やかな気持ちになりました。もしかしたら、生前の私はこんな妹でもいたのかもしれません。

 

 さらに、なんとこのお屋敷に住みたいとおっしゃいました。こんな廃墟に住んでもいいことなどないと思いますが、彼女はここがいいと主張します。

 

 理由を聞けば、それは驚くべきものでした。

 

 私はここから離れられない。このお屋敷に囚われているから。だから、一緒に住めば賑やかになる。寂しくなくなる。だから話し相手になってほしい。そんな、何気ない言葉、でも、私にはそれがとても嬉しく思いました。人間の魂のお裾分け、というのはまだよくわかりませんが。

 

 一緒にお化けライフを楽しもうね、と笑いかける彼女に仕えることも悪くないかもしれない。私はそう思いました。

 

 きっと、この小さな主人はいろいろなことをするのだろう。

 

 私は、お嬢様のすることを、引き起こす騒動を一緒に見たい。そして、お嬢様の家を守る、その役目を全うしたい。

 

 死んだ私の、幽霊として在る理由。

 

 それは、そんな俗っぽいもので、でも、それが不思議と心地よくて。

 

 

『お嬢様』

 

「ん? なーに、アサギさん」

 

『先ほどはお顔に刃物を突き立ててしまい、申し訳ありませんでした』

 

「ああ、いいっていいって! お化けだし、それくらいよくあることだよ。さっちゃんも時々お客さんの口元斬っちゃうって言ってたし」

 

 それを笑って許すお嬢様の心の広さには感謝しかありません。

 

『私も頑張って、お嬢様のようなお化けを目指します』

 

「うん、一緒にがんばろうね」

 

 

 水瀬浅葱は死んだ。

 

 今の私はアサギ。

 

 メリーお嬢様のお屋敷をお守りする、お化けとして死んで生きます。

 

 

 

 

 




メリーさんが家とメイドさんをゲット。

特に何も考えずまったり書いているので今後の展開は作者もわからない(汗)
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