メリーさんの逆襲   作:千両花火

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前回のあらすじ。


幽霊屋敷をゲットしたよ!

メイドさんもゲットしたよ!





わたしメリーさん、ペットを拾ったの

 アサギさんとの幽霊屋敷での生活が始まって早二週間。わかったことは、まずアサギさんがとんでもなく有能だということだ。

 アサギさんはもともと地縛霊だけど、長年この家を守っていたことで守護霊、そして付喪神の資格も得ているみたい。知り合いの霊能者が言ってた。

 だからそんじょそこらの幽霊よりもめちゃくちゃ強いらしい。どのくらいかっていうと、悪霊をレベル1としたらアサギさんはレベル30くらいだとか。その気になれば災害すら起こせるらしい。

 

 やっべー、アサギさん、もしかしてわたしより強い?

 

 わたしは呪い系だけど、アサギさんは幽霊には珍しい物理系だ。アサギさんの霊力はポルターガイスト。この屋敷そのものがアサギさんといっても過言ではないそうだ。

 じゃあ、この屋敷に入ったらアサギさんの中に入ることになるのかな? うわやっべ、なんか背徳感パネェ!

 とにかく、アサギさんひとりいるだけで広い屋敷の維持が簡単にできてしまう。なにせ、アサギさんは動かずともすべてポルターガイストでやってしまうのだ。

 ティータイムでは、ポットやカップが勝手に動き、蛇口からは水が勝手に出てくるし、掃除だって掃除用具が勝手に掃除してる。完全無欠の幽霊メイドさんである。そんなアサギさんに世話されてわたしも楽をさせてもらってる。

 

「お嬢様、今週はどうでしたか?」

 

 食後のティータイムでアサギさんがそんなことを聞いてきた。目の前には勝手にお茶を淹れているティーセット。アサギさんはその横で椅子に座りながらじっとしている。なにもしていないようにみえるが、屋敷の隅々までポルターガイストで管理しているアサギさんは働きっぱなしだ。

 

「今週のお仕事は二件かな。ヒドイ振られ方した女の子の復讐の手伝いがひとつと、不倫した夫への、これまた復讐がひとつ。こういうのって女ってマジコワイ」

「殺したのですか?」

「さすがにそこまでの負の念はなかったから、とりあえず骨と肉をちょっともらった」

 

 わたし、メリーさんの霊力『呪いの訪問』はわたし自身ではなく、その相手に対する憎しみの量によって効果が増減する。殺したいほどにくまれている相手ならそれこそ挽肉にできるほどの力があるが、ちょっとした復讐程度なら小さな事故にあわせるくらいしか効果がない。

 我ながら使いにくい能力である。

 

「でもけっこう魂はもらったから、元気元気! あ、アサギさんにもお給料あげないとね!」

 

 アサギさんにはちゃんと働いてもらってるお給料をあげないと!

 アサギさんはよくわかってなかったけど、わたしたちお化けにとってのご馳走とは生きた人間の魂である。わたしは呪った人間の魂をちょっといただいてそれを食べるというお化けだが、アサギさんは物理型なのでそうした魂の搾取は得意ではないみたい。

 ちなみに魂の美味しさは主観だけど、若い女の子が一番美味しい。

 

 「はい、魂お裾分け」

 

 グチュ、と音を立てて指の皮を破る。中からはドロリとした粘着性のある赤黒い液体が滴り落ちる。まぁ、ぶっちゃけわたしの血液であるが、わたしの血液には今まで食べた魂が溶け込んでいる。見た目はグロくても栄養素、てかこの場合は魂魄素かな? とにかくたくさんだ。

 アサギさんの目の前に手をやると、アサギさんが膝をついてわたしの手を取り、指を口に含む。そのままごくごくとわたしの血を吸い始めた。

 毎回思うけどこの絵面はエロい。アサギさん、見た目は清廉だから背徳感も淫靡感もヤバイ。まぁ、情欲も幽霊化する要素ではあるし、生前はロクな青春も遅れてなかったっていうからこういうエロティックなのも仕方ないのかも。アサギさん元人間だしね。

 

「んく、んぅ……」

 

 アサギさんは恍惚とした表情でわたしの指に舌を這わせてる。

 それともこの画像を売れば金になるだろうか。いやいや、幽霊の吸血シーンって誰得だよ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「お目汚しをいたしました」

 

 そう言って主であるメリーお嬢様を見るといつものように生気の感じられない澱んだ瞳で笑っていました。魂のお裾分け、としてもらい始めたお嬢様の血液。その味はまさに至上のものでありました。

 幽霊になってロクな食べ物すら食べていなかった私は、お嬢様の血液をひと舐めしただけでその味に虜になってしまいました。

 魂が混ざっている、ということでおそらく同族喰いのようなことをしているのだとはわかっていますが、幽霊となったからでしょうか、そうした倫理観は少々薄れているようで、その味が忘れられません。

 お嬢様が魂を食べるたびに少しづつ変化する味にも飽きがきませんし、なにより幽霊であるはずの身体がみなぎってくるような感覚はもう依存症になりそうです。

 

 そんなお嬢様の血を対価にこの屋敷とお嬢様のお世話を任されてから、私は自分の能力を最大限に活用して奉仕しております。

 ポルターガイスト。それが私の能力。この能力のおかげで一人での広大な屋敷の管理は容易ですし、電気・ガス・水道といったライフラインもこの能力でひっぱってきているため、屋敷は快適な環境を維持できています。お嬢様と出会ってから屋敷もちゃんとお掃除して整備しましたし、今では普通に幽霊だけでなく、生きた人間も生活できる空間になっていると自負しております。やはりメイドだからでしょうか、こうしたところは妥協なく行ってしまいます。

 

「それじゃ、またお仕事行ってくるねー」

「はい、いってらっしゃいませ」

 

 お嬢様のお仕事は『呪い』です。今では携帯電話やパソコンで簡単に情報収集や依頼を受けるられるようです。便利な時代になったものです。

 お嬢様は自身のサイトを作り、『復讐請負店カースオブメリー』という商売を始められました。今ではネット商売だけですが、いずれはちゃんと大きな仕事が受けられるよう、この屋敷を拠点にお店を開きたいとおっしゃられています。

 その夢を語るように………いえ、不気味に呪いの歌でも謳うように語るお嬢様は、やはり生粋の呪い人形でしょう。私と違い、もともと人形だったというお嬢様。人のカタチをしていますが、それでもお化けとしての感性が目立ちます。

 しかし、良くも悪くもお嬢様は自由です。だからこそ、私のような存在にも手を差し伸べ、なんの関係もない他人を呪えるのでしょう。

 私もお嬢様のように立派な幽霊にならなくては! とにかく、このお嬢様のお屋敷に入った人間はかたっぱしからフルボッコにいたしましょう。先日も面白半分で土足でこの屋敷に上がり込んだ若者を、包丁やフォークを使ってのダーツの的になっていただきました。ああいう輩はすべからく駆除しなければ。

 お嬢様のお屋敷を守ることが今の私の生きる……いえ、逝きる意味。

 

 そう思っているとなにやら玄関のベルが鳴る音が。また侵入者でしょうか。とりあえずご挨拶に花瓶でもぶつけておきましょう。

 

 

「ふぎゃっ!?」

 

 

 あ、あれ? この声って………。

 

 

 

 ***

 

 

 

「まことに申し訳ありませんんんん!!」

 

 目の前には平謝りするアサギさん。いや、そりゃいきなり帰ったら花瓶が顔面直撃とかびっくりしたけど、わたしはお化けだからそれくらいどーってことないし。

 まぁ、さすがに中に活けられていたバラが追撃の串刺しまでしてきたのには驚いたけど。アサギざん、けっこうえげつないトラップを仕込んでるね。

 

「いいっていいって! 顔面が崩れて目玉にバラが咲いただけだからさ!」

「いえ、これではメイド失格です! 是非とも厳重な処罰を!」

「真面目だねぇ……んー、じゃあ罰として、黙ってわたしに許されなさい。文句は聞きません。それが罰です」

「お、お嬢様………わ、わかりました。寛大なご処置に感謝いたします」

 

 まぁ、人間だったら洒落にならないかもしれないけど、わたしの顔なんて粘土細工みたいなものなんだからすぐ直せるしね。

 

「しかし、どうされたのです? お仕事に向かわれたのでは?」

「いや、ちょっと広いモノしてね。ペットにしようかと思って」

 

 仕事に行こうとしたら、この屋敷の敷地を少し出たあたりで面白いものを見つけたのだ。それを拾ってすぐ戻ってきたからアサギさんに侵入者と間違われちゃったんだけど。

 

「ペット、ですか?」

「ほらこれ!」

 

 そう言ってカバンに入れていたそれを取り出した。

 四つの足に、ふさふさの尻尾。そしてこれまたやわらかそうな耳。弱っていたが、見た目カワイらしい子犬だった。それを見たアサギさんは表情を凍らせていた。やっぱ初見はキツイかな?

 

「お、お嬢様、それは……?」

「ん、見てのとおりだよ。人面犬」

 

 そう、顔だけが人間のものだった。しかも端正な顔立ちをした将来美人になるとわかる綺麗な幼女の顔だ!

 髪の毛はさらさら、カタチのよい唇からは小さな呼吸音が聞こえる。汗ばんでいることから、おそらく衰弱しているのだろう。

 

「アサギさん。なにかあったかいものをお願い。スープがいいな。わたしの血もあげるから混ぜて作ってね」

「は、かしこまりました」

 

 

 

 ***

 

 

 

 お嬢様が人面犬を連れて帰ってきました。

 そのとき、大変な粗相をしてしまいましたが、………まぁ、許されろとの命令を受けたのでこれ以上は言いますまい。

 しかし、また珍しいものを拾ってこられたものです。私も話には聞いたことがありましたが、これが人面犬ですか。噂では中年男性のような顔をしているとのことでしたが、また愛らしい顔立ちをした少女ではありませんか。身体が犬というのがシュールですが。

 お嬢様にスープを作るように言われ、お嬢様からいただいたドロリとした血液を混ぜたスープをすぐに作り、弱っている人面犬のまえへ置くと、その匂いに気がついたのが、ぴくぴくと耳を動かしたかと思えば目を開き、スープを見るや否やかき込むように口をスープへとつけ、小さな舌で必死にそれを飲み始めました。よほどお腹がすいていたようですね。

 しかも、お嬢様の血が入っているために、その美味しさにびっくりしたようで、すぐに幸せそうな顔をしながら今度は味わうようにゆっくりと食べています。なんだか微笑ましいですね。お嬢様もニコニコしながら見ています。

 やがて、スープを平らげた人面犬がこちらに気付いたようで警戒したように身構えます。小さな子供が背伸びしているみたいで可愛らしいですね。

 

「お腹は膨れた?」

「………誰」

「わたし、メリーさん。あなたを拾ってきたの」

「メリー………あの呪い人形の?」

「そう、そのメリーさん。そういうあなたは人面犬だね? 女の子の人面犬なんて珍しい。で、なんで倒れてたの?」

「………あたし、群れから追い出された。それで、どこか住処を探してて……」

「で、力尽きて倒れた、と。よかったね、わたしの家の近くで。この屋敷にいれば少なくても襲われることはないよ」

「メリーの家……?」

「まぁ、アサギさんがいるおかげだけど」

 

 恐縮です、お嬢様。

 

「あたしをどうするの?」

「んー、どうしよっか。あなたはどうしたい? って、聞くまでもないか。住処を探してるなら、ウチに住まない? いいよね、アサギさん」

「はい。もちろんです。お嬢様がそうおっしゃられるのであれば」

「ん、ありがと。で、どうかな?」

「……拾ってくれたことには感謝してる。でも、なんでそこまでするの?」

 

 ふむ、どうやらこの人面犬、見た目は幼いですがずいぶん辛い経験をしたようですね。見返りのない好意に警戒するなど、普通の子供ではできません。

 

「なんでってねぇ………このお屋敷広いから、もうちょっと賑やかにしたいって思ってたし、それにペットも欲しかったし」

「あたしをペットに?」

「三食昼寝付きだよ、どうかな?」

「なにかさせたいわけじゃないの? 呪いの手伝いとか」

 

 そういえば人面犬も不幸を呼ぶお化けでしたね。たしか生前の噂話を聞いたときは、人面犬に追い抜かれた車は事故を起こすとか……。

 

「ん? 別にいいよそんなの。強いていうなら、番犬でもしてみる? この屋敷の敷地は広いから、けっこう不自由ないと思うけど」

「………わかった。お世話になる」

「やったね!」

 

 お嬢様は無邪気に喜んでいますが、なにやら事情がありそうですね。もしかしたらなにか隠していることでもあるのかもしれません。少しは気にかけておくとしましょうか……。

 

「よろしくね。えっと、そういえば名前は?」

「碧瑠」

「ヘキル、ね。よし、じゃあヘキル、さっそくお庭を案内しよう! まだ森みたいなもんだけど、いずれ立派な庭にする予定だから」

「ん、厄介になる。広い庭はあたしも嬉しい」

 

 人面犬、……いえ、ヘキルさんを伴って密林のような広い庭へと駆けていくお嬢様。

 これからはヘキルさんのお食事も用意しなくてはいけませんね。ドッグフード……はアウトでしょうか?

 まぁ、どんな事情があるにせよ、私がすることは変わりません。

 

 お嬢様のお屋敷を守ること。願うならば、あのヘキルさんもお嬢様のお役に立てるように……。




メリーさんの屋敷にペットとして人面犬のヘキルが参入。なにやら事情有りの様子。

どんなお化けや幽霊が屋敷の住人になるかは未定。というかこの話の行く末すら未定。
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