そして今回はちょっと意外なゲスト怪獣の姿も…?
南海での異変と同時期、日本の九州でも異変が起き始めていた
九州鹿児島の桜島火山、昭和火口の麓の一部が噴火の衝撃と噴火地震の影響で崩落、露になった溶岩空洞の中に、巨大な卵が確認された
従来生物のそれとはかけ離れた巨大な卵の存在から、自治体は国連G対策センターと特生自衛隊に通報
国立生命科学研究所の大前博士が派遣されると、そこには既に長崎大学から派遣された長峰真弓の姿があった。発見の報を聞いた彼女自身が、ギャオスの卵の可能性があると自ら立候補したのである
卵の大きさは高さ35m、横60mととてつもなく巨大で、クレーター上に整地された岩盤の上に、既に日本では絶滅したとされる巨木を破壊して作り上げた巣材が敷き詰められている
更に卵自体の下面を見ると、接地面を中心にシダ状の植物が卵の表面に付着していた
大前博士はそれに見覚えがあった。かつてアドノア島にて発見された現在のゴジラの幼体。ベビーゴジラの卵に付着していた古代植物シプニオキスに酷似している
と言うことは、この卵の中に眠っているのは……
次の瞬間、卵の表面に亀裂が走り、中から高温の蒸気が噴き出してくる
顔を庇いながらたたらを踏む大前博士と真弓、急激な温度差から広がった霧が晴れると、卵の上部が完全に割れ、中に居たモノの姿が露出していた
長いくちばし、後頭部に生えた三本の角。視界全てを覆う程巨大な翼
かつて幕張でベビーゴジラを巡り、ゴジラ、メカゴジラと三つ巴の熾烈な戦いを繰り広げた翼竜の末裔、ラドンだった
だが、その体表はかつてのラドンの茶褐色、或いは赤みがかった紫とは違い、全身が太陽光を反射するほどの純白に包まれ、翼の皮膜に至っては青みがかった銀色に輝いている
眠気を振り払うようにふるふると頭を振り、大きく欠伸をする姿は愛らしさを感じさせるが
見たところ幼体と言う程かつてのラドンとの外見的差異はなく、体格も一回りほど小さい程度だ
卵の中で超過成長したのだろうか
音を出さないようにじりじりとラドンから身を遠ざける二人だが、運悪く真弓が小石を踏んでしまい、転がっていく音に反応したラドンが二人に目を向ける
ラドンと二人の目が合う。得物として認識されたか、それとも矮小な人間なぞ意にもつかないか
ずい、とラドンが卵の殻から身を乗り出し、口を開いて顔を二人に近づけていく
紫色に染まったラドンの口内は、ギャオスに食べられかけた過去を持つ真弓からすれば血の気が引く光景だ
ラドンの熱を持った吐息が二人の体を撫でる、この距離ではもはや逃げることもできないが、何故かラドンは口を開けたまま、二人から一定の距離で静止してしまった
甲高い声だけをひたすら鳴らし続けるラドンに、立ち上がりながらも二人は困惑していたが、鳥類学者である真弓はこの行動に覚えがあった
孵化して間もない鳥の雛は親が運んできた餌を食べるが、その時大きく嘴を開いて親鳥にアピールする
親から見れば、雛鳥の大きく開かれた嘴の縁の色と口内の色が目印になるからだ
つまりこれは、大前と真弓、あるいは真弓を親と刷り込まれたラドンが、彼らに餌を強請っている……?
ベビーゴジラの様な小型体は兎も角、大型怪獣が人を親と認識するなどと言う前例は聞いたことが無い、何をどうすればいいかと困惑してしまう二人だったが、その場に現れた乱入者の金切り声に、事態は動き出す
真弓たちのやや後方、石壁が崩れたかと思うと、まるで空気を出し入れして音を出す幼児玩具の人形を思わせる音を放ちながら、ソレは現れた
緑の複眼、茶褐色の棘張った本体に3対6本の脚、巨大なハサミを持った両腕
人の数倍はあろうかという巨大な昆虫が、砕かれた壁の内側から這い出してきたのである
驚愕し足をすくませる二人、見ればその後ろからも同じような巨大昆虫――メガヌロンは姿を増やしていた
前にはラドン、後ろにはメガヌロン。絶体絶命の状態に陥ってしまった二人
そこに向かって、得物を見つけたと言わんばかりにメガヌロンが集まり――
数匹まとめてラドンが嘴で啄んでしまった
柄杓で水を汲む様に地面ごとメガヌロンを纏めて掬い上げ、頑丈な嘴と奥に生えそろった歯でバリバリと、本来ならば機関銃すらはじき返すメガヌロンの外骨格を噛み砕いていく
一塊を飲み込み、それが終わるともう一塊、と十匹はいただろうメガヌロン達は、逃げる間もなく全てラドンの餌となった
御馳走様と言わんばかりに真弓に向かって小さくラドンは吠え、満足したかのように巣に体を縮ませて眠りにつく
事態に追いつけない二人は、大きな音と声に気付いて駆けつけた自衛隊員と合流し、なんとかその場を後にするのだった
それから数日、ラドンを朝に夜にと観察を続けた真弓たちは一つの結論に至る
矢張りあのラドン――白い体色からホワイトと名付けられた――は、真弓を刷り込みによって親と認識している
大前博士が姿を見せてもある程度の反応は返すが、それと真弓が顔を出したときの反応はケタ違いだ
現在ラドンの巣の周囲は、ラドン自身の危険性もあるが、定期的に周囲の岩穴からメガヌロンが出現することもあって非常に危険であり、非常線が張られている
それほど遠くから一目で真弓を見分けるあたり、怪獣の視力とはすさまじいもののようだ
現在は生まれたばかりということもあり、ラドンは飛翔する能力を持つまでには至っておらず、真弓が定期的に顔を見せる事、周囲から無尽蔵にメガヌロンが湧いてくるために餌にも困っていないことから、状況は一時的ではあるが安定している
だが、ラドンをずっとこのままと言うわけには当然行かない
いずれメガヌロンも数が尽き、肉体が成長すれば餌を求めて移動をし始めるだろう
ここ桜島は鹿児島湾のほぼ中心に存在し、多数の市民が生活していることもあるが、鹿児島県内の主要都市である鹿児島市、姶良市、垂水市や霧島市は目と鼻の先にある
被害を出さないためにも、ラドンの今後を速やかに検討する必要がある
言ってしまえば、選択肢は二つしかない
ラドンを危険が及ばない場所まで移送するか
その場で殲滅するか、だ
現在桜島を包囲するように鹿児島湾に面した各市に地上部隊が展開しており、黒木の命令一つで即時攻撃が可能になっている
迅速な対応と言う意味では、このまま飽和攻撃を行うことが望ましいが、それで終わって本当にいいのか?と言う疑問をG対策センターのスタッフも持っており
何より真弓自身がその方針に大反対を示していた
では桜島から安全地帯までの移送が可能か?と問われれば、その会議に参加していた大前博士と青木梓、新城未希は可能性として一つのプランを提示する
それは、今回のホワイトラドンの卵、そしてかつてのベビーゴジラの卵に付着していた古代シダ、シプニオキスを用いるもの
このシプニオキスと言う植物は、古くより古生代全域の地層で化石が発見されていた古代の植物で、人が認識できないメロディ状の脳波に似た波長『メロディ・ウェーブ』を放っている
生命科学研究所のサイキッカー達が発見したこれを再現し、メロディ化した音楽、通称サイキック・メロディは、それを聞いたベビーゴジラの野性的な本能を活発化させ、結果ベビーは一時的に興奮状態に陥り、更にベビーの脳波越しにこれを知覚したアドノア島のラドンも生命力が活性化し、ウラニウム熱線の発射能力を得て復活した
当初はその作用から、シプニオキスは幼体の生命力と本能を活性化させ、孵化と同時にいち早く自立行動させるための育児補助を目的に、ゴジラザウルスやラドンの祖先であるプテラノドンが巣に敷き詰めていたと考えられていた
だが、昨今の研究の中でシプニオキスが放つメロディ・ウェーブは、その周辺の環境、気温、湿度、気圧、地中の水分量などからリズムや音程が変化し、変化したメロディによってゴジラに与える精神的な影響もまた変わってくると言うことが分かってきた
リラックス効果のあるメロディ、不安感を与え警戒心を強めさせるメロディ、不快感を与え闘争意欲を抑えるメロディ、高揚感と幸福感を与えるメロディ等、これをもしゴジラザウルスやプテラノドンが理解していたのなら
彼等はシプニオキスをある種の情緒教育に使っていた可能性はある、ゴジラ族の知能はとても高く、否定はできない
既にメロディのパターンは幾つか音源化されており、これによってシプニオキスが繁殖していた子世代生物がベースとなった怪獣の行動に、こちらから干渉出来るのではないかと期待されている
無論かつてのTプロジェクトの様な洗脳の類ではなく、与える影響もそこまで大きいわけでもないため、確実性があるとは言えないが
少なくともホワイトラドンは巣と卵にシプオニキスが付着していることから、ある程度の効果は期待できると大前は語る
具体的な作戦内容は、真弓の姿を見せ、ホワイトラドンがリラックスしている状況を作り出し、そこに上空にスピーカーユニットを装備させたGフォースヘリを接近させ、睡眠導入効果があるメロディパターンのサイキック・メロディを流しラドンの意識レベルを低下、或は完全に睡眠状態にさせ
特生自衛隊がMFSプロジェクトの一環で開発した大型多目的航空機しらさぎを用いて湾外まで航空輸送、現地で大型輸送ドッグに収容し、安全な海域、或はアドノア島まで輸送する
茨城県の日立市にある茨城漁港には、Gフォース所有の超大型フロートドッグ船が常時待機している
これはかつて丸友観光がインファント島からモスラの卵を運び出す際に使用したドッグ艦の改良型で、怪獣を輸送することを想定としたこのドッグ船なら安全にアドノア島まで運搬が可能である
そしてアドノア島に到着させてからは、当地の主であるゴジラにラドンの身をゆだねるのだ
温厚なゴジラがラドンを受け入れるのであればそれで良く、万が一戦闘になりゴジラがラドンを打ち負かすのであれば、それもまた良し、とGフォースも計画には協力的だった
会議自体は非常に混迷していた。幾らまだ人的被害が出ていないとはいえ、怪獣相手にそこまでするべきなのか?と言う自衛隊の高級官僚の意見も間違ってはいない
だが、そこで真弓が再び強く出た
ガメラの碑文の警告に従うのであれば、今度こそ人が自然に歩み寄っていかなくてはいけない
怪獣と言えど自然であり、それを不必要に奪っては何時までも悲劇は繰り返されるままだ
と
結局、アドノア島までの輸送には轟天号が帯同し、万が一の際には即座に撃滅戦を行う、と言う保険案が付随し、この作戦の決行が決まるのだった
揃いも揃いし防衛官僚を前に啖呵を切った真弓に大前は称賛を送り、真弓も母親としての強さが何となく理解できたようだ
と興奮で赤くなった頬を抑えながら微笑みを返す
翌日の事、日本とフィリピン政府が合同で行っていた、フィリピン海溝の合同海底資源調査団に、不思議なオーダーが下った
彼等が調査しているシアルガオ島の東側にある海溝の低地で、異常な海中の温度低下現象が見受けられたという報が、PAGASA――フィリピン大気地球物理天文局――から齎されたのだ
海底探査用の無人超耐圧ドローンを、海溝沿いに沈降させ、海溝の最深部の探索を目論む一同
そこには驚くべき光景が広がっていた
海溝の底8000m、カメラに映る一面の海底平野が凍り付いている
ドローンの探照灯を反射し、地面から逆に伸びる氷柱がまるで青白い水晶の様に輝き、それが海底を海溝沿いにずっと続いていた
かめらをむけた海溝壁面を見れば、深海に生きる生物は全て凍り付いて死亡しており、周囲の水温も氷点下6度近くにまで下がっている
異常な光景に一同絶句していると、突如としてドローンのカメラにノイズが走り通信が途絶、操縦が完全に不能となり反応もしなくなった
恐らく超低温の水に機材が耐えられなくなり故障したのだろう
最後にカメラが捉えたのは、遙か北、日本に向けて伸びていく果てしない氷の回廊であった
何かが日本を目指している、それを知る者はまだ少ない
海の中で再び目覚めた、守護者のみであった
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