新生怪獣王戦いの歴史   作:surugana

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ネタがまとまったので今回は早めに投稿できました。今回もお楽しみいただければ嬉しいです!


第17話

ラドンについての協議が纏まった直後、Gサミットの面々は健一郎を加え、太平洋で行方不明になったバルゴンの卵についての報告を聞くことになった

 

破壊されたマクロムのサルベージ船の検証報告が上がり、会議に参加した各員のタブレットにデータが表示される

 

船体の8割がバラバラになるほどの破壊の起点は船の中央下部、設計図上では、確保した貴重品のデータを採取するためのラボ区画にあった

高性能コンピュータの他、非破壊検査用のレーザー装置やX線検査マシン等もそこには設置されている

 

その部分から船体上下に強烈な破壊作用が働き、前後真二つに引き裂かれた

そこから炎上爆発したならば自然であるが、どうにもそうではないようなことが分かった

一部の破片は急激な温度低下に晒された結果金属疲労を起こしており、採取したパーツ類を集め、その状態になるようシミュレーションしてみると、どう考えても一度氷点下、それも-100℃近い状態で完全に凍結し、そして温度が上昇して融解したというプロセスを経て爆発炎上し、船体がバラバラになったとしか考えられないという

 

実際200名近い乗員のうち、犠牲者197名、その8割近くが検死の結果凍死したという結論が出ている

 

だがそれもおかしな話だ。赤道にほど近いミクロネシアは通年で気温は高く、水温もどれだけ低くても20℃を下回ることは殆どない

あの海域で凍死が発生するなど異常な何かがない限りありえないのだ

 

そして異常な低温と言えば、数日後に発生したフィリピン海溝の怪奇現象だ

あの後も研究チームは海溝最深部に注目、底部の土や地下部を詳細に調査した所、海底部地表面の土よりも、更に十数m地下の土の方が含まれる氷の分子結合強度が強く、地底ソナーによる検査で、高さ数十m程の空洞が存在していること、海底氷結回廊は南側が北側よりも早く溶けだしている事も判明

即ち超低温熱源は海底地表部ではなくその地下に存在しており、かつ地中を南から北に向かって移動しているという

 

二つの怪事件が一つに結び付きつつある。海底を南から北に向かって移動する冷凍熱源、これはマクロムの船で目覚めたバルゴンなのではないか?

健一郎がティアボー島で得たバルゴンの伝説では、バルゴンは死と冬で世界を埋め尽くすと謡われている

この冬、と言うキーワードとこの冷凍怪事件は関係があるのではないか?

 

少なくとも南太平洋の地下をナニカが移動していることは明白であり、G対策センターは太平洋沿岸の各国に第一種警戒態勢を発令した

 

そして、健一郎と協力者であるアーヤとカレンからバルゴンについての証言を得ようとしたが、それもあまり上手くいかなかった

アーヤとカレンが持ち寄ったバルゴンの情報があまりにも少なかった

元々は口伝で代々伝わってきた伝承であり、ディナイー島を開拓した古代の人々は文字を持っていなかったこともあって情報は非常に少ない

分かっていることは、彼女らが持ち込んだ巨大なダイヤがバルゴンを死に誘うと言うことと、雨と水こそが死を洗い流すというキーワードのみ

G対策センターは至急調査チームを編成してディナイー島に送る予定だが、マクロム達の横暴で遺跡が破壊されている可能性もあり、情報の更新は難しいかもしれなかった

 

二日後、いよいよホワイトラドン移送作戦が開始された

 

桜島上空に、4機の大型航空機が飛来する。1式特殊支援航空機、AC-1しらさぎだ

特生自衛隊が開発した大型航空機で、MG-Tecを使用した従来航空機とは次元が違う積載量を活用した大型機材の運搬や武装を搭載しての戦闘支援などを想定した機体である

今回は機体下部のマルチベイに大型ウィンチギミックを搭載し、4機のしらさぎから発射したこれをGフォースのMPM部隊がホワイトラドン本体に巻き付け、洋上で待機しているドッグ艦まで航空輸送する手はずになっている

 

少し離れた場所には轟天号とスーパーXⅢも待機しており、アドノア島までドッグ艦の護衛を行う予定だ

霧島市内に設置された移動司令本部には大前の姿もあり、状況を固唾をのんで見守っていた

 

 

一方、桜島の非常規制線では真弓がハイヤード隊員に護衛されながらホワイトラドンに向かい、メガホンを使って声をかけている

 

真弓の姿を見たホワイトラドンは高い鳴き声を上げる。これは彼が嬉しい時によくする仕草だ。自分の何十倍も大きい体なのに、全力で甘えようとしてくる姿に真弓の母性本能が擽られる

そして改めて決意する、この作戦は何としても成功させなければならないと

 

一歩だけ下がった真弓は、メガホンからノートパソコンに接続されたスピーカーに持ち帰る

そして彼女が頷くと、ノートパソコンを隊員が操作し、スピーカーからリラックス左様と睡眠導入効果があるサイキック・メロディが流れ始めた

そしてそれに合わせ、桜島周囲を飛行中のヘリのスピーカーからも同様のサイキック・メロディが流れ始める

 

 

真弓自身がギリギリの距離からメロディを流すことを提案したのだ。自分の方から音が流れれば、彼女自身の歌や声とホワイトラドンも認識してより効果が深まるだろうから、と言う理由でだ

 

ゆったりとした、荘厳さとどこか不気味なメロディが火山一体に響き渡る

幸運にもホワイトラドンの巣は背後を洞窟の壁が覆っており、前方から流れ込んで来た音楽を反響させ増幅させるような形状となっていた

最初はどこからか流れる音楽に不思議そうに首をきょろきょろと動かしていたホワイトラドンだが、メロディが何度も繰り返されるうちに、全身の動きが緩慢になり、瞬きの回数が増えていく

人が舟をこぐように首を揺らし、移動司令本部がモニタリングしている意識レベルもゆったりと低くなって行った

 

あと一息、誰もがそう確信した瞬間だった

それまでの低下していたモニターの意識レベルが急激に覚醒状態に引きあがっていく

 

カっと目を見開くホワイトラドン、野生の本能が迫る危機を察知し、一瞬で眠気を吹き飛ばした

 

 

迫る、悪意が迫っている。警戒しなければいけない、守らなければいけない、目の前にいる小さな母を、自分自身が

 

 

 

困惑する真弓の目の前で、翼をいっぱいに広げ、体を立ち上がらせたホワイトラドンが天に向かって吠える

その高音は周囲のヘリのスピーカーを破壊するほどで、慌ててヘリ部隊と、しらさぎ部隊が桜島上空から後退していく

 

作戦は失敗したのか?司令本部とGフォース基地、そして特殊戦略作戦室に緊張が走る

その時、鹿児島上空をモニターする偵察衛星を担当していた士官が叫ぶ

鹿児島湾の水温が急速に低下している!

 

 

 

 

 

異変は移動司令本部にいる大前達、桜島にいる真弓たちにも目に見えていた

 

七色の光、虹が出ている。だがそれは普通の虹ではない、鹿児島湾の水中から、垂直に真上に向かって虹が出ていた

アングルの角度で直線に虹が見えると言うことはよくあるが、完全に水面から垂直に虹が空に向かって伸びていた

そしてその虹が収まると、その虹が伸びていた場所から海が紫色に染まっていく、不気味な紫色の液体が湾一帯に広がっていくと同時に、中心部では荒々しく海が波立っていく

 

広がる紫、激しくなる波飛沫、そしてそれが頂点に達した時、水が天に向かってはじけ飛んだ

 

そして上空へと延びていく水柱は、その動きの途中で水面から昇ってくる極超低温の冷気の洗礼を受け、水柱の形を保ったままに凍り付く

巨大な氷の尖塔が鹿児島の海に出来上がると、そこを中心に海が凍結していく

 

氷の柱が砕け散る。爆発の様な音と同時に、それを見つめる人々は獣の咆哮を聞き取った

 

 

 

濛々と立ち込める水蒸気が晴れると、そこにソレはいた

 

 

 

四つ足、茶褐色の体色

コモドドラゴンの様な正面に長く、大きく裂け、鋭い牙が並んだ口

顔の先端、鼻の上には長い一本角が伸び、額には血の様に紅い、ルビーの様な六角形

体はトゲトカゲの様に至る所に長く凶悪さを感じさせる角が生えそろい

背びれは七列、首から尾にかけて整列しプリズムの如き輝きを放ち

極めつけには尾の先端が、まるで巨大なオパールを思わせる結晶体の塊となっていた

 

 

ぞっとするような殺意を込めた目でぎょろぎょろと周囲を見渡したソレは、天に向かって悍ましい音色の咆哮を放つ

 

 

Gフォース基地で映像を見ていたカレンとアーヤがガタガタと震える。二人の肩に手を置きながら、健一郎はゴクリと唾をのみ、賢明に自分の背筋に走る恐怖を抑え込んでいた

 

死を伴い、虹と共に冬を背負って現れた魔獣

 

そう、あれこそがバルゴンだ




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