終盤直前の中休み的な回だと思ってください
あと今回長峰さんが今後の彼女のアイデンティティとなるある言葉を未希さんから授かることに
M6000TCシステム
正式名称試製88式電磁制御高周波加熱領域形成システム。
冷戦下の1980年代に自衛隊が複数考案していた、核弾道弾迎撃システムのうちの一つだ
航空機から放出されたヨウ化銀コロイドを核に成長した人工雷雲
負の電荷を発生させ落雷を誘発させる電位差発生装置
発生した落雷の高周波と熱エネルギーを増幅させるソニックビーム車
の三つで構成される
電位差発生装置の上部に到達した物体に向け落雷を発生させ、ソニックビームによって増幅された熱によって物体を加熱し破壊する、電子レンジと同じマイクロウェーブによる電磁加熱を行うための大規模システムだ
1989年のビオランテ事件以来二度目の実戦投入命令に伴い、熊本県八代市の高岳から南西部に広がる広大な平野地に展開されることとなった
主戦場となる八代市、人口密集地になる熊本の市街地からは住民が一斉に避難し、その上空をヨウ化銀散布装置を搭載した多数のグリフォンやしらさぎの編隊が通り過ぎる
人工雷雲が形成され、作戦が開始されるまであと4時間
矢代市内の南西部、球磨川を中心とした田園地帯のTCフィールド内部に戦車部隊、特生自衛隊のメーサー各車両を中心とした主力部隊が展開する
彼等の目的は命を懸けてバルゴンをTCフィールド内にくぎ付けにする事
護衛艦あこう、くらしきの二隻が八代海の入り口に当たる樋島付近に、湾外には在日米軍の駆逐艦が4隻
八代海を挟んだ天草市の海岸線には自走砲、MLRS、プラズマ自走砲などの特火部隊が主力部隊を砲撃で支援するため待ち受け、湾内上空には轟天号と、その指揮下にあるXF-1、ナイチンゲールによる即席混合航空隊
攻撃ヘリ部隊と対獣戦闘仕様のグリフォン部隊も待機している
発達した黒雲から雨が滝のように流れ落ちる最中、陸海空の精鋭がGフォースの指揮下に結集する
作戦の目的は雷雨によってバルゴンの冷凍液を無力化しつつダメージを与え、総火力をもって圧力をかけバルゴンを八代海に追い落とす事
ガメラが無力化されホワイトラドンは生死不明、ゴジラもギャオスの一件からしばらくアドノア島には戻っておらず太平洋一体の沿岸に出現したギャオスタイプの怪獣を討伐していることから援軍も期待できない
その上で貴重な戦力であるスーパーXⅢが戦線離脱と状況は最悪に近い、だが戦う事を辞めるわけにはいかない
多くの人々の命と未来が掛かっているのだから。作戦に挑む各員の士気は高い
作戦部隊の展開を熊本城二の丸広場に敷設された作戦指揮本部で見守っていた黒木は、ふと手元の端末に目を落とす
そこには未希が発案した、ホワイトラドンの再覚醒計画の要綱が表示されていた
うやむやのままに失敗したシプニオキスを用いたラドン輸送作戦
それを応用し、かつてアドノア島で瀕死になっていたラドンが、シプニオキスのサイキックメロディでファイヤーラドンとして復活した時と同様の環境を作り上げれば、ホワイトラドンを復活させる事ができるのではないかと言う物
概要を読み終えた黒木の顔に、苦笑とも微笑とも取れる柔らかい表情が浮かぶ
自分も随分と甘くなったものだ。かつての、ヤングエリートの長と持て囃されていた自分ならばとてもではないが怪獣と言う作戦への不確定要素の復活など承認しなかっただろう
しかし、ゴジラ達怪獣との戦い、ゴジラジュニアと言う存在を通じて、黒木の認識が確かに変わっていた
それが成長なのか、それとも精神的な弛緩なのかはわからない
それでもかつて三枝未希が言った言葉が心の奥に確かにあるのだ
『敵と勝つか負けるかだけなのだとしても、味方が多くて、敵が少ないに越したことはありませんよね?』
怪獣と言う巨大な脅威が跋扈する今の世界は、黒木の持論通り、勝つか負けるか、生きるか滅ぶかの厳しい世界なのだろうが、未希の言う事にも一理ある
敵が全て敵である必要などないのだ
歩み寄る、和解すると言う戦略もまたあるのだと
国防を預かる人間としては失格の思考かもしれない、だがそう信じたいと黒木は思っていた
九州を北上しているバルゴンの上空に、二機のしらさぎと護衛のグリフォン3機が飛来した
二機のしらさぎがそれぞれ、レーザー発射装置と結晶生物の欠片をウィンチアームで機体下部のハッチより展開
バルゴンと二機が同一線上に並ぶように距離と高度を調節する
忌まわしそうに見上げていたバルゴンだったが、視界に結晶が見えると目の色が変わった
そして前方のしらさぎから発射されたレーザー光が、結晶生物に命中し光とエネルギーを反射、増幅してバルゴンに照射される
自分が最も求めていたエネルギー、それを直で浴びたことでバルゴンは興奮し
その感情を表すように額と背鰭の結晶が赤青緑と極彩色に発光、悶えるように体をくねらせ興奮した鳴き声を上げた
バルゴンが反応した、作戦の第一段階が成功した瞬間だった。
そのまましらさぎはバルゴンとの距離を一定に保ちながら誘導を開始、冷凍怪獣の進路は北から北西に変化し、決戦の地へと導かれていく
作戦開始まであと3時間
熊本城から直線距離で約70km、南九州から避難してきた人々を受け入れつつ、また自分達もいざと言う時にはすぐに避難できるようにと緊迫した空気がどこか流れている久留米市内に健一郎たちの姿があった
カレンとアーヤがせっかく日本に来たのだから、と健一郎が精神的に追い詰められていた彼女達を、決戦前にリラックスさせるべく食事に誘い、護衛の平田兄弟も健一郎のおごりでラーメンに舌鼓を打っていた
最悪の海外旅行にしてすまない、と頭を下げる健一郎だが、カレンもアーヤも微笑んで首を横に振る
怖い思いをしたけれど、いい出会いもたくさんあった、日本の国は楽しくて好きだ、と
その視線はそれぞれ平田兄弟に向いていて、気恥ずかしげに目を反らす二人に健一郎は大笑いするのだった
作戦開始まであと2時間
桜島ではホワイトラドン復活作戦の準備が進められていた。
大型スピーカーを機体下部にウインチでけん引したCH-47が火口上空を旋回し、地上班の準備が終わるのを待っている
地上でも特殊音響装置を積載したジープが火口の周囲に配置された。
搭乗員はスピーカーユニットの最終チェックを終えると速やかに退避する。噴出したマグマが落下してくる可能性が十二分にある場所だ、危険を冒さないで済むのならばそれに越したことはない。
麓にある指揮所。隊員が着々と準備を進める姿をみどりと浅黄はストーブの前に身を寄せ合って見つめていた
そこの真弓と米森が現れ、紅茶とコーヒーを注いだ紙コップを手渡す
二人はガメラの復活もホワイトラドンの復活も信じているようだ、だが顔には不安が浮かんでいる
無理もない。半年前までは戦いとは無縁だった学生でしかないのだから
一方真弓の顔も浮かないままだ、ホワイトラドンを復活させる。そうすれば彼は再びバルゴンに戦いを挑むだろう
息子を戦いに赴かせ、傷付かせることが母親の役目だろうか?
このまま火山の揺り籠の中で眠らせてあげることの方が、親の行いとして正しいのではないか?
答えの出ない逡巡を見透かして、米盛は声をかける
子供がどんな未来を選んだとしても、信じて見守るのも親の務めだ、全ての生命は最後の瞬間まで生きたいと思っている、私達人間と同じだ。
それを無視してはならない、と
心でそれを反芻する真弓。そうだ、勝手に彼の心を代弁するなどただの傲慢にすぎない。
生きてこそなのだ、全ては
作戦開始まであと1時間
西に只管進み、八竜山の麓まで誘導されたバルゴンはそこでそれまでの積極的な足を急に止めた
空を覆う曇天、漂う磯と雨の香り、遠くに見える戦車部隊のサーチライトの明かり、目の前の田園地帯に設置された見慣れない機械
全てがバルゴンの動物的な本能を刺激する。何かが不味い、この先には自分への危険が待っている
その判断は正しかった。だがそれは既に遅かった
黒木がバルゴンの動きが止まったと判断すると、速やかに命令を下す
モニター前の士官がコンソール内のスイッチを押すと同時に、バルゴンの立っていた箇所がある八竜山の麓の一部が一斉に爆発
バルゴンの背丈以上の爆炎が上がり、人工的な地滑りが起りバルゴンはTCフィールドの内部まで崩れた岩や地面と共に押し流されてしまった
単一指向性対獣用爆裂弾ブラストボム
メインシリンダー内部で炸裂した爆発のエネルギーを一定方向に指向させて放出させる新兵器で、もしもバルゴンが危機を察知して逃げようとした際にその逃走を阻止するべく、事前に八竜山の麓一帯に埋設されていたのだ
更に雷鳴が轟くと、一瞬で前が見えない程の豪雨が降り出し、バルゴンの全身を濡らす
バルゴンが悲鳴を上げ、全身の細胞が水分で破壊され、赤紫色の体液がにじみ出て来た、一人博士や研作博士の読みはやはり当たっていたのだ
攻撃開始、黒木と麻生司令が同時に声をあげる
バルゴンとの最後の戦いが始まった
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