ストライク・ザ・ブラッド~黒輪の根絶者〜 作:アイリエッタ・ゼロス
姫柊side
私達は今、窓が塞がれた狭い部屋にいた。
「ねぇ....ここってどこだと思う?」
「わかりません。ヘリコプターが飛んでいた時間は十分くらいでしたから、
それほど遠くまで連れて来られたわけではないと思いますが....」
藍羽先輩の言葉に、私は冷静に返した。すると、藍羽先輩は怪訝そうに目を細めて
私にこう聞いてきた。
「....随分と冷静ね。怖くないの?」
「え....あ、いやそんな事は無いんですけど。あ、藍羽先輩は落ち着いてますよね?」
私は少し照れながら藍羽先輩にそう言った。すると、藍羽先輩は隣で
眠っている凪沙ちゃんの方を見た。凪沙ちゃんは保健室で獣人の姿を
見て叫び声を上げて気絶してから、ずっとこの状態だった。あの時の凪沙ちゃんの
反応は明らかに普通の恐怖とは違っていた。
「....凪沙ちゃんのアレを見ると、自分がしっかりしなきゃって思うのよ。
それに、この三人の中だったら私が一番年上だしね」
そう言いながら藍羽先輩は凪沙ちゃんの頭を撫でていた。
「....これはここだけの話にして欲しいんだけど」
藍羽先輩は急に唇の前に指を立てながら驚くべきことを言った。
「凪沙ちゃん、一度死にかけたことがあるのよ」
「えっ....?」
藍羽先輩の言葉を、私は一瞬理解できなかった。
「四年前にね、魔族がらみの列車事故に巻き込まれてさ。どうにか命は取り留めたけど、
一生意識が戻らないかもしれないって言われてたそうよ」
「じゃあ、凪沙ちゃんが魔族を怖がるのはそれが原因なんですか?」
「そんなこと、本人には聞けないけどさ、そうだとしても無理はないよね」
「(だから、先輩は凪沙ちゃんに自分が吸血鬼ということを黙って....)」
私は初めて先輩が凪沙ちゃんに吸血鬼だということを隠し続けている理由が
わかった気がした。
「あとごめんね。私のせいで巻き込んじゃって」
藍羽先輩は私に気を遣ってくれたのか、普段先輩達と話すような軽い口調で
そう言ってきた。
「いえ。それよりも、藍羽先輩はどうして自分が拐われたのかご存知ですか?」
「....まぁ、心当たりはあると言われればあるんだよね。連中、私に仕事を
やらせようとしてるみたいだし」
「お仕事、ですか?」
藍羽先輩の言葉に私は首を傾げた。
「そ。学校には内緒にだけど、私、フリーのプログラマーみたいなこと
やってるから。たまにあるんだわ、非合法なハッキングの依頼みたいなのが。
....さすがにここまで強引なお誘いは初めてだけどさ」
「....どうやら君は、自分が有名人という自覚が足りないようだな、ミス・アイバ」
すると、突然ガルドシュが迷彩服を着た部下を二人に連れて部屋に入ってきた。
「少なくとも我々が雇った技術者達の中に、君の名前を知らない者はいなかったよ。
さすがに彼等も、“電子の女帝”の正体がこんな可愛らしいお嬢さんだとは
思ってなかっただろうがね」
「....それで、私に何か用なわけ?」
藍羽先輩はそう言うが、目には恐怖の色が見えた。
「これが何かわかるかね?」
そう言って、ガルドシュは分厚い資料の束を藍羽先輩に渡した。すると、藍羽先輩は
目を見開いて驚いていた。
「これって....“スーヴェレーンⅨ”じゃない!? こんなものどこで....」
「我々の理念に賛同してくれた篤志家がいてね。アウンストラシア軍に
納入予定のものを横流ししてもらった。絃神島の管理公社で君が使っている
スーパーコンピューターの同型機の、最新機種だそうだな」
「....こいつでナラクヴェーラとかって古代兵器の制御コマンドを
解析しろ、ってことかしら」
「素晴らしい。我々は君に対する評価をもう何段階か引き上げる必要がありそうだ」
「昨日、つまんないパズルを送りつけてきたのはアンタ達だったわけね」
藍羽先輩は不愉快そうな表情でガルドシュにそう言った。
「我々はこれまで百五十人を超えるハッカーに同じ内容のメールを送ったが、
君の言うところの『つまらないパズル』を解読できたのはわずか八人。
その中で一切の矛盾のない正解を導き出せたのはきみだけだ。
しかも三時間足らずという圧倒的な短時間でね」
「私にも色々あったのよ。現実逃避したい理由とか」
そう言った藍羽先輩はなぜか横目で私を見ていた。
「我々の目的は、あの忌まわしき聖域条約の即時破棄と、我ら魔族の裏切り者である
第一真祖の抹殺だ。その悲願を成就するために、ナラクヴェーラの力が必要なのだ」
「そんな事を聞かされて藍羽先輩が協力するわけないでしょう!
もし、そんな計画が実現すれば世界中を巻き込んだ戦争になりますよ!」
私がガルドシュに言うと、何故かガルドシュは笑っていた。
「何がおかしいんです!」
「その通りだ獅子王機関の剣巫。だが、それこそが我々の望む世界の姿なのだがね....
確かに君達の価値観とは相容れまいな。だがそれでも....いや、だからこそ、
彼女は我々に協力してくれると信じている」
「何を言って....」
「これが何かわかるかね?」
そう言ってガルドシュは薄いタブレットPCの画面を見せてきた。そこには、
呪文のような奇妙な長い文字列が映されていた。私の知る限りではその文字列に
当てはまる術式はなかった。
「それって、私が昨日解読した例の暗号文....古代兵器の制御コマンドね。
だけどそれって全体のほんの一部なんじゃないの?」
「そのとおりだ。ナラクヴェーラとともに出土した石板は、全部で五十四枚。これはその中の
たった一枚にすぎない。だが、ここに書かれていた内容は覚えているかね?」
「まさか....アンタ達....」
ガルドシュの言葉に、藍羽先輩の顔色は変わった。逆にガルドシュ達は
愉快そうに、冷酷に笑っていた。
「そうだ。この石板の銘は『はじまりの言葉』....ナラクヴェーラの起動コマンドだ」
〜〜〜〜
終夜side
「....何で凪沙達が連れ去られるんだよ」
「そんなの知らないわよ....」
タクシーに乗って
「凪沙ちゃんと姫柊は巻き込まれたんだよ」
「どういうこと?」
「ガルドシュの目的は浅葱だったんだよ」
「浅葱が!?」
「浅葱って、あの金髪の人よね?」
「そうだ」
「ちょ、ちょっと待て! どうして浅葱がガルドシュの目的になるんだよ!」
予想もしない事に古城は焦ったようにそう言ってきた。
「ナラクヴェーラ....」
「「っ!」」
俺の一言に二人は固まった。
「あの兵器を制御するにはこの石板を解かないとならない」
俺はそう言って、ポケットに入れていた石板のコピーを見せた。
「な、なんでアンタがこんな物を....」
「まぁ色々あってな....この石板の暗号を解くにはかなりの知識が必要だ」
「じゃあ、この暗号を浅葱って人は解けるって言うの!」
「あぁ。アイツのプログラム技術は天才的だ。これぐらいの暗号だったら
数時間もあれば解けるだろうな」
「....確かに、浅葱だったらパズルみたいに解くな」
古城は石板のコピーを見ながらそう言っていた。
「おそらく凪沙ちゃんと姫柊は人質だろうな、浅葱に言う事を聞かせるためのな」
「っ、ガルドシュの野郎....!」
古城は怒りで石板のコピーを握り潰していた。すると、タクシーは急に止まった。
「お客さん、悪いがここから先は通行止めみたいだ」
タクシーの運転手がそう言うと、前には通行止めの看板があった。
「どうする終夜」
「歩いて行くしかないだろ。ここで降りるぞ」
「そうかい。2610円だよ」
「だそうよ暁 古城」
「俺が払うのかよ!」
「こんな所で言い争いすんな! 俺が払う!」
そう言って俺は千円札を三枚運転手に渡した。
「釣りはいらない。急いでいるんだ」
「そうかい。何をするかを知らないが、気をつけなよ」
「....あぁ」
運転手の言葉を背中に受けて俺達はタクシーから降りた。
「さて、どう行くの?」
「(道はまだ
「道は塞がれてるんだ。だったら、あそこから行くしかないだろ」
古城がそう言って指差した先は、絃神島と
距離は大体八メートル弱といったところだ。
「本気で言ってるの!? 第四真祖の十二体の眷獣の中に、使えそうな能力を
持ってる子はいないの!」
「俺の言うことをまともに聞く眷獣は今のところ一体だけだ。あいつも
姫柊の血を吸ってようやく俺を宿主と認めたからな」
「なにぃ....!」
古城の言葉を聞いて煌坂は剣を握りしめた。
「落ち着け煌坂! ....とにかく、向こうに渡る方法はある」
俺はそう言いながら煌坂に近づいた。
「ちょ、ちょっと....何で急に近づいて」
「....頼むから動くなよ」
「ちょっと....ひゃっ!?」
俺は一言そう言って、煌坂をお姫様抱っこした。
「古城は自分で来いよ」
俺はそう言うと、助走をつけて
半分ぐらい所で落下し始めた。
「お、落ちてるんだけど!?」
「安心しろ! グラヴィテート・タートル!」
俺がそう叫ぶと、落下地点の海に棘が生えた亀が現れた。俺は亀を足場にして跳び、
向こう岸に着地した。
「ア、アンタね! 一回落ちるなら一言言いなさいよ! 危ないじゃない!」
着地した瞬間、煌坂は暴れ出した。
「....悪かったな。だが時間があまり無かったんだ。あの方法が一番最短だったんだよ」
俺は謝罪しながら煌坂を下ろした。
「っ〜〜! ノーカウント! こんなのノーカウントだからね!?」
「イッテェ!?」
俺は煌坂にそう言われながら頭を一発叩かれた。特に防御とかは一切
していなかったため、今の俺に煌坂の一撃は結構効いた。
古城はその様子を見て、"何やってんだ"みたいな表情をしていた。
「....何をやってるんだお前は」
すると、俺達の目の前に呆れた表情をしたなっちゃんが現れた。
「....なっちゃん」
「....獅子王機関の舞威媛にお前も一緒か、暁 古城」
「那月ちゃん! テロリストの相手をしてたんじゃ....」
「教師をちゃん付けで呼ぶな!」
そう言ってなっちゃんは古城を扇で叩いた。
「なっちゃん、古城で遊ぶのは後にしてくれ。....それで、
「お前が言った通り撤退させた。
「そっか。無理を言って悪い」
「気にするな。これぐらいどうってことはない」
そう言って話していた次の瞬間....
ゴオオオオオオオォォォン....
突如、轟音が鳴り響いた。その轟音に共鳴するように増設人口島が激しく揺れた。
轟音の発生源は監視塔の所からだった。
「何だよ今の爆発!?」
監視塔は炎に包まれて崩壊していっていた。
そして、その監視塔から大量の瓦礫を押しのけて、巨大な何かが動きだそうとしていた。
その何かからは、そこそこの巨大な魔力を感じた。
「ふゥん。 よくわからないけどサ、まずいんじゃないのかなァ。 これは」
俺達が魔力を感じた方を見ていると、急に近くのビルから軽薄な声が聞こえてきた。
「ヴァトラー!?」
「どうして貴方がここに!?」
古城と煌坂はこんな所にヴァトラーがいる事に驚いて声を上げた。そして、なっちゃんは
鬱陶しそうにヴァトラーを見ていた。
「....何の用だ、蛇遣い」
「まぁまぁ、積もる話は後にして。それよりも君達の部隊を....って、もう撤退して
いるのかい?」
ヴァトラーは
「あぁ、優秀な助手のお陰で無駄な犠牲が出なくて済みそうだ」
「ふぅーん....」
ヴァトラーは面白くないといった様子で監視塔の方を見ていた。
「ア、アレが....」
「ナラクヴェーラ....」
煌坂と古城がそう呟いた先には、瓦礫を撒き散らしてナラクヴェーラが姿を現した。
〜〜〜〜
姫柊side
「了解だ、グリゴーレ」
無線を切ったガルドシュはゆっくりと私達の方を向き直った。
私と藍羽先輩はタブレットPCに映し出されたナラクヴェーラの閃光を見つめていた。
「....ということだが、まだなにか質問はあるかね?」
そんな私達を無表情で眺めてガルドシュが聞いてきた。沈黙していた
藍羽先輩の代わりに、私はガルドシュに聞いた。
「何故ですか」
「....何故?」
「どうしてあなた達がここにいるんです?」
「我々の目的はすでに説明したと思ったが?」
「いいえ、そうではなく。何故、アルデアル公があなた達に協力したのか、ということです」
私がそう聞くと、ガルドシュは微かな驚きの表情を浮かべた。
「そうか。服装は違うから分からなかったが、君はあの夜の、第四真祖の同伴者だな」
「ここは“オシアナス・グレイヴ”の中なんですね」
アルデアル公が暁先輩を招待したあの夜、給仕を勤めていた彼の執事が
ガルドシュだということに私はさっき気がついた。
「何故ですか? 獣人優位主義の黒死皇派は、戦王領域の貴族であるアルデアル公と
敵対関係にあるはずです。ましてや彼は、あなた方の指導者を暗殺した張本人なのに....」
「そう。だから魔族特区の警備隊も、この船を疑おうともしなかった。
この船の乗組員の約半分は、我らが黒死皇派の生き残りだ。しかし、ああ見えて
ヴァトラーは貴族だからな。自分の船に乗り組んでいる船員の素性など、
いちいち詮索したりはしない。船員を雇った船の管理会社の責任、ということになるな....」
それを聞いて、私は不快そうに眉をひそめた。
「アルデアル公は何も知らなかった、と言い張るつもりですか。
そんなことをして、彼になんのメリットが....」
「不老不死の吸血鬼の考えなど知ったことではないが、おそらく奴は退屈だったのだろうさ」
「....退屈?」
「そうだ。だからナラクヴェーラとの戦いを求めた。真祖をも倒しうるやもしれぬ
神々の兵器。黒輪の
暇を持て余した吸血鬼にはちょうどいい遊び相手だ。それに、ナラクヴェーラが
暴れれば、どこからか黒輪の
来たら来たで、黒輪の
「そんな....」
「(もしも黒輪の
私は最悪の事態を想定してしまった。
「....黒輪の
いいわ。だけどこの貸しは高くつくわよ」
その言葉に満足したのか、ガルドシュは部下を連れて部屋から出て行った。
すると、藍羽先輩は部屋の奥にある扉を乱暴に蹴り開けた。
冷蔵室の中には、魚や肉などではなく、スーパーコンピューターが置かれていた。回路を冷却
するために、冷やされた部屋の中へ藍羽先輩が入ろうとすると、思いがけない方向から
声がした。
「....焦るな、娘」
私が声が聞こえた方を見ると、さっきまで眠っていた凪沙ちゃんが立っていた。
だが、その様子は普段とは違い、短く結い上げた髪が解けて、腰近くまで流れ落ちており、
声も普段とは違っていた。
「心を乱すな。お前とその機械の性能なら、滅び去った文明如きの
書きつけを読み解くのに、さして時はかかるまいよ」
「凪沙....ちゃん?」
普段とは別人のような凪沙ちゃんに、藍羽先輩は戸惑っていた。
そして、私はあることに気づいた。
「いえ、違います....この状態は、神憑りか....憑依....?」
「ふふ、そうか。おまえも巫女だったな。獅子王の剣巫よ」
凪沙ちゃんはそう言って愉快そうに笑った。
「ならばおまえにもわかっていよう。心配せずとも、あの坊やが時を稼いでくれる。
そこの娘の策が練り上がるまでの時はな。....それに、どうやら奴も
動いているようだからな」
「あなたは一体....!」
私はそう聞くが、凪沙ちゃんは何も答えず、静かに瞼を閉じてその場に崩れ落ちた。
私は地面に激突する寸前に凪沙ちゃんを抱き留めた。
「今のは、何? 誰なの?」
藍羽先輩の言葉に、私は首を横に振った。私自身、何が起こったのか
分からなかったからだ。そして、私は藍羽先輩に一つ頼み事をした。
「藍羽先輩、携帯を貸していただけますか?」
〜〜〜〜
終夜side
「アレがナラクヴェーラの"火を噴く槍"か。まぁまぁ、良い感じの威力じゃないか」
「あぁくそ! 何であんたがここにいるんだ。 自慢の船はどうした!?」
ヴァトラーの余裕そうな様子に古城は苛立っていた。
「“オシアナス・グレイヴ”は乗っ取られてしまってねぇ」
「乗っ取られた!?」
「そうそう。そんなわけで、命からがら逃げてきたんだよ」
「....その割には、随分と冷静じゃねぇか」
古城もヴァトラーが嘘をついてることに気づいて更に苛立っていた。
「....そう言えば逃げて来る途中でこんなのを拾ったんだが」
そう言って、ヴァトラーは濡れている何かを投げて来た。古城はそれを
キャッチした。ヴァトラーが投げて来たのは彩海学園の制服を着た男子生徒で、
ツンツンに逆立てた短い髪をしており、ヘッドホンをつけていた。
「や、矢瀬!?」
「っ! 大丈夫だ、息はある」
俺は矢瀬の首に手を当て息があることを確認した。
「あれ? もしかして知り合いだった?」
「テメェ....!」
古城は今にもキレそうで、身体からは雷が走っていた。
「落ち着け古城! ....俺達がここに来た目的を忘れるな」
「しゅ、終夜....悪い」
俺の言葉に古城は落ち着きを取り戻し、雷は収まった。
「さて、まぁ安心してくれ。ナラクヴェーラはボクが責任を持って破壊する」
「お前....! 最初からあの化け物相手に暴れたかっただけだろ!」
古城がそうしてヴァトラーに怒鳴った時、急に携帯の着信音が鳴った。
「あぁ、くそ! 誰だよこんな時に....」
そう言いながら古城は携帯を取り出して画面を見ると、突然叫んだ。
「浅葱!? もしもし! 無事か浅葱!」
「っ!」
古城が電話に出ると、俺も携帯に耳を近づけた。
『....私です、先輩』
「姫柊!?」
「雪菜! 無事なのね! 今どこにいるの!」
電話の相手が姫柊と分かると、煌坂も携帯に顔を近づけた。
『今は“オシアナス・グレイヴ”の中です。藍羽先輩や凪沙ちゃんにも怪我はありません』
「そうか....とりあえず、こっちにいるよりは安全そうだな」
古城は少し安心したように安堵の声でそう言った。
『....やっぱり、ナラクヴェーラの近くにいるんですね』
姫柊は呆れたようにそう言ってきた。
「あ、あぁ」
『またそうやって勝手に危ない場所に頭を突っ込んで。先輩は自分が
危険人物だという自覚があるんですか。伊吹先輩と紗矢華さんが一緒にいて、
何をやってたんですか』
「悪いな姫柊。連れて来たのは俺だ。説教だったら今回は後で俺が全部聞く」
『....分かりました。とりあえず、今はこれぐらいにしておきましょう』
姫柊はそう言って一度咳をした。
『先輩方、今から三人にお願いがあります。....ナラクヴェーラが市街地に
近づかないように、しばらく足止めをしてください』
「「足止め....?」」
「どう言う事だ」
『藍羽先輩が今、ナラクヴェーラの制御コマンドを解析してくれてます。
それが終われば、現在の無秩序な暴走は止められます』
「浅葱が....なるほどな」
古城は重々しく頷いた。
『....足止めだけでいいんです。無理に破壊しようとして被害を拡大するような
真似だけはやめてください。あと、それから紗矢華さん』
「何? 私にできる事なら何でも言って!」
煌坂は声を弾ませながら携帯に耳を押し当てたが....
『暁先輩と伊吹先輩に話したいことがあるので、ちょっと離れてください』
「え? えぇ!?」
姫柊の言葉で今すぐにでも泣きそうな表情でふらふらと後ずさり、
その場でうずくまって膝を抱えた。
「....で、話って何なんだ?」
『実はその、紗矢華さんのことなんですけど....』
そう言って姫柊はある事を語り出した。
「えっ....」
「っ!」
姫柊の話を書き終えた俺達はそれぞれ別の反応をした。
「(....思い出した。煌坂はあの時の....)」
俺は姫柊の言葉で、煌坂のことを思い出した。
「....わかった。とりあえず、足止めについては任せろ」
『はい。先輩方もお気をつけて』
姫柊がそう言うと通話は切れた。古城は携帯をポケットに入れると監視塔にいる
ナラクヴェーラを見ていた。
「(ひとまず煌坂の事は後回しだ。今は....)」
「なっちゃん。俺達三人でナラクヴェーラを足止めする。その間に浅葱達を
頼んでも良いか?」
「....良いだろう」
「....悪いな」
「おいおい、他人の獲物を横取りとは礼儀としてどうかと思うんだが、人間?」
すると、ヴァトラーは俺を見下したように言ってきた。だが....
「黙ってろ、ヴァトラー! 他人の縄張りに入り込んで好き勝手してるお前の方が
礼儀知らずだろ! 俺達がくたばるまで引っ込んでろ!」
それにキレた古城がヴァトラーにそう言い返した。
「ふぅむ、それを言われると返す言葉もないな」
古城の言葉にヴァトラーはあっさりと引き下がった。
「さて、じゃあ行くかって言いたいとこだが....その前に....」
俺は増設人工島と絃神島を連結させるアンカーを見た。
「来い、ネグリジブル・ハイドラ」
俺がそう言うと、前方に巨大な魔法陣が現れ、そこから三つ首の巨大な銀色の蛇が現れた。
「やれ、ネグリジブル・ハイドラ!」
俺がそう言うと、ネグリジブル・ハイドラは
レーザーで破壊した。
「(これで島への被害は気にしなくて良さそうだな....)」
そう思いながら古城達の方を見ると、二人は呆然としていた。
「....マジかよ」
「嘘でしょ....」
「はぁ....」
「へぇ....ただの人間ではなかったみたいだねぇ」
なっちゃんは呆れたように、ヴァトラーは意外といった様子で俺を見ていた。
「さて、行くぞ二人とも」
「お、おう!」
「え、えぇ....」
俺は驚いている二人にそう言って、ナラクヴェーラに向かって走り出した。