ストライク・ザ・ブラッド~黒輪の根絶者〜   作:アイリエッタ・ゼロス

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聖者の右腕 Ⅲ

「魔族が無差別に襲われる事件か....」

 夏休み最終日、朝から俺は学園の教職員棟最上階の部屋に来ていた。

 この部屋の主人であるなっちゃんは優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「あぁ。ここ2ヶ月ほどで既に7件だ」

「しかも、その中には旧き世代もいるのか」

 俺は捜査資料の一つを見ながらそう呟いた。

 

「そうだ。それでお前に話しがあってだな。今日の夜、少し私の見回りに付き合え」

「見回り?」

「そうだ。無論、ただでとは言わん」

 なっちゃんはそう言うと、俺の前に茶封筒を置いた。

 

「なるほど....手伝ったらバイト代を払うって事か」

「そういう事だ」

「....わかった。何時にどこに行けばいい?」

「今日の夜9時。身バレしないようにアレを纏って来いよ」

「了解」

 俺は机に置かれていた茶封筒をカバンに入れて部屋から出た。

 

 〜〜〜〜

 夜

 

 昼に姫柊と古城と買い物に付き合った俺は黒いフード付きのローブを纏って学園の

 門の前にいた。

 

「(はぁ、凪沙ちゃんの作った鍋食いたかったな....)」

 今日の夜、姫柊の引っ越し祝いで古城の家で鍋をするからと凪沙ちゃんに誘われたのだが、

 既になっちゃんとの約束があったので俺はその誘いを断った。

 

「時間通りに来たか」

 そんな事を考えていたら、背後からなっちゃんの声が聞こえてきた。

 

「そりゃバイト代を貰ってるからな....」

「ふっ、そうか。では行くぞ」

「了解」

 そう言って、俺はなっちゃんの後ろをついて行った。

 

 〜〜〜〜

 

 一時間ほど見回りを続けたが、魔族を襲っている人物は見つからず、代わりに彩海学園の

 不良生徒が見つかっていた。生徒達はなっちゃんに全員説教されていた。

 

「はぁ、何故ウチの生徒はこんな時間に出歩いている....」

「さぁ....? 夜遊びにでもハマってるんじゃ?」

「頭が痛くなる事を言うな....ん? アレは....」

 なっちゃんはゲームセンターの方を見ていた。そこには、ギターケースを背負った彩海学園

 中等部の女子生徒と、白色のパーカーを着た男がいた。

 

「ほぉ....」

 なっちゃんの表情はみるみる悪い笑顔になっていった。

 

「(あーあ....終わった)」

 俺はこれから起きる事が予想できたので、二人に向かって手を合わせた。

 

「そこの二人、彩海学園の生徒だな。こんな時間に何をしている」

 なっちゃんに声をかけられて二人はその場で固まった。ガラス越しに見えたが、古城は

 非常にマズイといった表情をしていた。

 

「そこの男。どこかで見た事があるような姿だが、フードを取ってこっちを向いてもらおうか」

 なっちゃんは二人をじわじわと追い詰めているようだった。

 

「(やってる事が鬼だ....)」

 俺が心の中でそう思っていると、なっちゃんに少し睨まれた。俺はすぐに視線を逸らした。

 

「はぁ....さて、どうしたんだ? 意地でも振り向かないなら、こちらにも考えがあるぞ」

 なっちゃんが扇を手で叩きながらそう言ったその瞬間、鈍い震動が絃神島全体を揺るがした。

 その後に、遅れるようにして爆発音が聞こえた。

 

「っ!」

「何だ!?」

「走るぞ姫柊!」

 俺となっちゃんが爆発音に注意が向いた一瞬を古城は見逃さず、

 姫柊の手を握って走って行った。

 

「待てお前ら!」

 なっちゃんの制止は虚しくも古城達には届かなかった。しかも、走って

 行った方向は爆発音が聞こえた方向だった。

 

「何やってんのさ....まぁ、良いや。ひとまず俺は爆発した所を見に行ってくる」

「わかった。気をつけろよ」

「了解。"召喚(コール)"、デスティニー・ディーラー」

 俺が腕を横に振るうと、俺の身体の周りに黒いカードが現れた。

 そして、俺の呼んだ名前に反応したカードが一枚、宙に浮かんで行き魔法陣が浮かび上がった。

 すると、その魔法陣から銀色の鳥が現れた。俺はその鳥の背中に飛び乗った。

 

「ディーラー、爆発音が聞こえた所まで頼む」

 俺がそう言うと、デスティニー・ディーラーは鳴き声を上げて爆発音が

 聞こえた所に向かって飛び始めた。

 

 

 〜〜〜〜

 姫柊side

 

 私は爆発音が聞こえた倉庫街を走っていた。そして、私の遥か前方には

 巨大な漆黒の妖鳥が何かと戦っていた。そして、近くのビルには、

 その妖鳥を操っているであろうと思われる長身の吸血鬼がいた。

 すると、急に爆煙の中から虹色に輝く半透明な腕が現れ、妖鳥の翼の根元を引きちぎった。

 そして、腕は実体を保てなくなった妖鳥に攻撃を続けていた。

 

「まさか....魔力を喰ってる!?」

 私が知る限り、倒した眷獣の魔力を喰らう眷獣というのは聞いた事がない。

 そして、私は眷獣の宿主を見て驚愕した。眷獣の宿主は自分よりも小柄で、素肌に

 ケープコートを羽織った藍色の髪の少女だった。

 

「吸血鬼....じゃない! どうして人口生命体(ホムンクルス)が眷獣を!?」

 呆然と立ち尽くしていると、急に背後で何かが落ちる音が聞こえた。

 驚いて背後を見ると、さっきまでビルの上で眷獣を操っていた吸血鬼の男が血を流して

 倒れていた。

 

「....ふむ、目撃者ですか。想定外でしたね」

 すると、物陰から低い男の声が聞こえてきた。声が聞こえた方を見ると、そこから右手に

 半月斧を持ち、法衣を纏った身長190センチ超えの男が現れた。

 

「戦闘をやめてください」

 私は男を睨んでそう警告した。

 

「若いですね....見たところ、魔族の仲間ではないようですが」

 男は私を値踏みするような表情で淡々と言った。

 

「行動不能の魔族に対する虐殺行為は、攻魔特別措置法違反です」

「魔族におもねる背教者たちが定めた法に、この私が従う道理があるとでも?」

 男はそう言って斧を振り上げた。

 

「っ、雪霞狼!」

 雪霞狼を構えて、私は男と吸血鬼の間に割り込んで斧を弾いた。

 

「ほう....!」

 男は見た目からは想像できない敏捷さで後方に飛び退いて私に向き直った。

 

「その槍、"七式突撃降魔械槍(シュネーヴァルツァー)"ですか!? "神格振動波駆動術式"を刻印した、獅子王機関の

 秘密兵器! よもやこのような場所で目にする機会があろうとは!」

 男は歓喜の笑みを浮かべていた。

 

「いいでしょう、獅子王機関の剣巫ならば相手にとって不足なし! 娘よ、ロタリンギア殲教師、

 ルードルフ・オイスタッハが手合わせを願います。この魔族の命、見事救ってみなさい!」

「ロタリンギアの殲教師!? なぜ西欧教会の祓魔師が、吸血鬼狩りを!?」

「我に答える義務なし!」

 殲教師の男は大地を蹴って加速し、戦斧を振り下ろしてきた。私はその斧の攻撃を完全に

 見切って紙一重で躱した。そして、私は槍を旋回させて右腕に向かって攻撃した。

 殲教師は回避不能と察したのか、鎧で覆われた左腕で防御した。

 武器と鎧の激突で、周囲に青白い閃光が撒き散らされた。

 

「ぬううん!」

 左腕の鎧が砕けると、私はその隙に距離を取った。

 

「我が聖別装甲の防護結界を一撃で打ち破りますか! さすがは"七式突撃降魔械槍(シュネーヴァルツァー)”! 

 実に興味深い術式です。素晴らしい!」

 殲教師の男は破壊された腕を見て満足そうに舌なめずりをした。

 

「(彼は、ここで倒さなければ....!)」

 剣巫としての直感が私にそう告げた。

 

「獅子の神子(みこ)たる高神の剣巫(けんなぎ)が願い奉る。破魔の曙光(しょこう)、雪霞の神狼(しんろう)、鋼の神威(しんい)

 持ちて我に悪神百鬼を討たせ給え!」

「む....これは....」

 私の体内で練り上げられる呪力を、”雪霞狼“で増幅させた。そして、私は殲教師の男に

 攻撃を仕掛けた。

 

「ぬお....!」

 私は”雪霞狼“を閃光のような速さで放つと、殲教師の男は戦斧で受け止めた。

 受け止められたが、私は嵐のような連撃を放った。殲教師の男は防戦一方になっていた。

 

「ふむ、なんというパワー....! それにこの速度! これが獅子王機関の剣巫ですか!」

 雪霞狼の攻撃で男の持っていた戦斧は音を立てて砕け散った。私は攻撃を仕掛けようと

 したが、人間である事を思い出して一瞬攻撃を躊躇してしまった。それを男は見逃さず、

 後ろに跳躍した。

 

「いいでしょう、獅子王機関の秘呪、確かに見せてもらいました....やりなさい、アスタルテ!」

 男がそう言うと、ケープコートを羽織った藍色の髪の少女が飛び出してきた。

 

命令受託(アクセプト)執行せよ(エクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"」

 少女がそう言うと、コートを突き破って虹色の巨大な腕が現れた。

 

「ぐっ!」

 私は雪霞狼で腕を迎撃した。

 

「ああ....っ!」

 かろうじて激突に勝ち、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"と呼ばれる眷獣を雪霞狼で引き裂いた。

 眷獣のダメージを受けたアスタルテと呼ばれる少女は弱々しく苦悶に息を吐いた。

 

「ああああああーーっ!」

 すると、少女が絶叫したかと思うと、もう一本の腕が背中から現れた。その腕は生き物の

 ように独立して動いて私の頭上を襲った。

 

「しまっ....!」

 雪霞狼の穂先は、眷獣の右腕に突き刺さったままであるため、もし一瞬でも力を抜けば、

 手負いの右腕に私は潰される。そして、この状況では私は、左腕の強撃から

 逃れることは不可能だった。

 

 私は死を覚悟した。

 ただ最後に一瞬だけ、見知った少年の姿が頭をよぎった。

 ほんの数日出会ったばかりの気怠そうな顔をした少年の面影が。

 私が死ねば、きっとあの人は悲しむ。

 

「(まだ、まだ死にたくない!)」

 そう思っていると....

 

「姫柊ーーーーー!」

 私が思っていたよりも近い距離から声が聞こえてきた。

 第四真祖、暁 古城先輩の声が....

 

「うおぉぉぉぉ!」

 先輩は握りしめた拳で私に向かって来ていた腕を殴った。先輩が殴った腕は吹き飛び、眷獣の

 宿主であるアスタルテという少女もその衝撃に転倒し、私と戦っていた右腕は消滅した。

 

「なっ....!?」

 私は先輩が起こしたデタラメな光景に呆然として見ていた。

 

「何をやってるんですか先輩!? こんな所で....!」

「それはこっちのセリフだ姫柊! このバカ!」

「バ、バカ!?」

「様子を見に行くだけじゃなかったのかよ! なんでお前が戦ってんだ!」

「うっ....それは....」

 先輩の正論に私は口ごもってしまった。しかし、先輩は詳しくは理解せずとも、現場を

 見ていろいろとあったことは理解しているようだった。

 

「で....結局コイツらは何なんだ?」

「わかりません。あの男は、ロタリンギアの殲教師だそうですが....」

 私は法衣を纏った男を睨みながら先輩にそう言った。

 

「ロタリンギア? なんでヨーロッパからわざわざやってきて暴れてるんだ、あいつは?」

「先輩、気をつけてください。彼らはまだ....」

 私の警告の前にアスタルテという少女が立ち上がった。その背後には虹色の眷獣が

 実体化したままで。

 

「先ほどの魔力....貴方はただの吸血鬼ではありませんね。貴族と同等かそれ以上....

 もしや第四真祖の噂は真実ですか? ....それならあの噂も真実の可能性が」

 そう呟く殲教師の男をかばうようにアスタルテという少女は前に出てきた。

 

再起動(リスタート)完了(レディ)命令を続行せよ(エクスキュート)、"薔薇の指先(ロドダクテュロス)"....」

「おい! 俺は別にあんた達と戦うつもりは....」

「待ちなさい、アスタルテ! 今はまだ、真祖と戦う時期ではありません!」

 先輩と男は同時に叫んだ。だが、すでに命令を受けた眷獣は止まらない。

 虹色の鉤爪を鈍く煌めかせ先輩に向かってきた。

 

「先輩、下がって....!」

 私はそう言って突き飛ばそうとしたが、突如上空から激しい風が吹いた。その風は

 虹色の鉤爪を地面に叩きつけた。

 

「な、何だ今の風!?」

「っ!?」

 私が上空を見ると、上空に巨大な銀色の鳥がいた。

 

「な、何ですかあの鳥は!?」

 すると、その鳥の上から何かが飛び降りてきた。

 飛び降りてきたのは、黒いフード付きのローブを纏った人型の何かだった。

 

「その辺にしてもらおうか、ロタリンギアの殲教師」

「何者ですか、あなたは? アスタルテの攻撃を相殺するほどの眷獣を操るなどと....

 ただの吸血鬼ではありませんね」

「....俺は吸血鬼などではない」

 声からして、ローブを纏っているのはどうやら男だった。

 

「....“黒輪の根絶者(デリーター)”、お前達は俺をそう呼んでいたな」

「なっ....“黒輪の根絶者(デリーター)”!?」

「“黒輪の根絶者(デリーター)”....!?」

 ローブの男の今の発言に、私と殲教師の男は固まった。

 

「バカな! このような辺境の地に“黒輪の根絶者(デリーター)“が....!」

 殲教師の男は侮蔑の視線でローブの男にそう言った。すると、その瞬間ローブの男から

 濃密な殺気が放たれた。

 

「ならば、試してみるか?」

「っ....!? アスタルテ! ここは引きますよ!」

命令受託(アクセプト)

 アスタルテという少女の眷獣が地面を砕いて粉塵を巻き起こした。そして、粉塵が

 消えると二人はその場には既にいなかった。

 

「逃げたか....」

 ローブの男はそう言うと、私達の方を向いた。私は咄嗟に雪霞狼を構えた。

 

「....第四真祖、暁 古城、獅子王機関剣巫、姫柊 雪菜だな。早くここから離れた方が

 良いのでは? 特区警備隊(アイランド・ガード)が来るぞ」

「....何故、私達の名前を」

「....さてな」

 ローブの男がそう言うと、男の近くに銀色の鳥が降りてきた。

 

「一つ教えておいてやろう。奴らは魔族狩りをしている。暁 古城、奴らが捕まるまでは

 夜に出歩く事を控える事だ」

 男はそう言って鳥に飛び乗り、どこかへ飛んで行ってしまった。

 

「....な、何だったんだアイツは?」

「....先輩、ひとまず今日は帰りましょう。凪沙ちゃんも心配してると思います。

 それに、特区警備隊(アイランド・ガード)も近づいてきてます」

 私の耳には特区警備隊(アイランド・ガード)のサイレンが聞こえていた。

 

「....そうだな。じゃあ急ぐか」

「はい」

「(“黒輪の根絶者(デリーター)”....まさか本当にこの島にいるなんて。一体何が目的なんでしょうか....)」

 私は飛んで行った方を見てそう考えていた。

 

 

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