召喚した絶剣が世界最強 作:焼肉定食
和人が近くにあった串を屋台で買い食べてながらクラスメイトと一緒に【オルクス大迷宮】の正面入口がある広場に集まっていた
受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。
なんでも、ここでステータスプレートをチェックし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握する。そうしていると戦争が近いんだなって実感が湧いてきている
「……朝ごはん食べたばっかりなのによくはいるわね」
「八重樫もいるか?けっこう美味しいぞ」
「私はいいわよ。朝ごはんしっかり食べたから」
と少し笑う雫。今日雫のパーティーは元々は香織がいる光輝たちのパーティーに入る予定だったのだが朝の事情により居づらくなったのだ。なので急遽和人、鈴、恵里、ユウキのパーティーに入ることになったのだ。
「そういえばそっちは大丈夫か?お前ほとんど寝れてないって」
「一応ね。厳しくなったら前衛変わってもらってもいいかしら」
「了解。基本的に後衛だからな。あんまり女子に前衛に立ってもらうのはやっぱり抵抗あるなぁ」
「あら。私じゃ頼りないっていうのかしら?」
「そういう意味じゃねぇよ。…ただ少し守れる位置で守りたかったからな」
するとキョトンとする雫
「……それって私のことかしら」
「お前もユウキもだよ。特に八重樫は溜め込む節があるからな。だから適度に息抜きさせないと壊れるだろ。ただでさえ苦労人でおかん体質なんだから」
「それは私に喧嘩を売っているのかしら」
「聞けっつーの。てかお前も恐怖をみんなに頼られるせいで誰かを頼れなくなっているだろ?」
「っ!」
雫は目を見開く。まさに和人が指摘したことは図星だった。
ヘラヘラしながらもそれでも目は真剣で本心から心配している和人。雫と居た時間も長い。
だから気づかないはずがなかった。雫は和人にとって友達の一人なんだから
「だからお前が甘えられるように力が欲しかったんだよ。ステータス的にユウキがいなければ俺は元々召喚術師。自分で戦える力はない。ステータスだってどちらかと言えば魔法型。闇魔法に適正が高いことから敵にデバフをかける支援型に近かっただろうな。だから正直ユウキの精霊化があれば前衛に出れると思っていたんだよ。ぶっちゃけ今でも諦めてないことは昨日でわかるだろ?」
「……えぇ」
「……それに正直俺はこの世界から全員が元の世界に戻ることはほぼないと思っている。特に前線で前衛に出てる奴らはな。いつも死と隣り合わせだと思っている」
それは雫も感じていたことだった。そして和人が気づいていたことに対して、驚くといったより納得していた。
和人は本当に友人を守ろうとしているのだ。例え自分を犠牲にしても。
「……まぁ今になったら後の祭なんだけど。ユウキを召喚したことによって教会は俺に死なれたら困るんだろうな。ユウキは勇者以上にチートなんだ。……正直あんまり言いたくないけどこのクラスの数人も教会もユウキを人間として見ていないだろうな」
「本当によく見てるわね」
「八重樫も気づいていたのかよ。……だからユウキに参加させるの嫌だったんだよ」
和人の気持ちはよく分かる。雫も気づいていた。
香織から聞いたんだが、実は雫が和人を呼びにいっている時にユウキをパーティーに誘って断られるといったことがあったらしい。
和人の方針はユウキを束縛しないこと。
光輝はこの世界を救うために戦力をあげること。
どちらも間違っているとはいえない。この戦争を終わらせるないと元の世界には戻れないのだから。
だから雫としてもどちらかといえばユウキが戦争に参加してくれればと思っている。
でも和人の気持ちはおそらく変化しない。
いや。ユウキ自身おそらく和人のことを信頼している。おそらく友達ではなくもっと深い感情があると推測している。
だから戦争に参加してほしいと頼めばユウキは参加するだろう。
対してユウキのことを年下の少女として考えている和人はユウキの戦争に参加すること自体反対しているのだろう。
時々戦争に参加してほしくなさそうにしているのだ。
召喚した立場で責任も感じている。
ユウキという少女のことを一番人間らしく扱っていることは確かだった。
腫れ物みたいに扱うのではなく。友達として、心配しているのだ。
若干お父さんみたいという恵里やユウキの気持ちが分からないことではない。
雫がおかん体質なら和人はおとん体質である。
今でもいかにも心配しているって顔に出ている。
「私をおかんっていうならあなたはおとん体質でしょ?」
「……俺ってそんなに親父くさい?」
「えぇ。」
少しからかってくる雫にのりどこか沈んだようにみせる和人。
本気でショックを受けているのではなさそうなのでつい笑ってしまう。雫に和人は少し自爆特攻が効いたと少し微笑む。
すると鈴や恵里、ユウキが
「カズ。雫何話しているの?」
「いや。俺ってそんなにおっさんくさいのかなって。なんかみんなにおとんやお父さんみたいって呼ばれるから。」
「「うん。」」
「……やばい。けっこう凹む。」
鈴とユウキの純粋さは知っているのでけっこう本気でショックを受ける和人。
空気はそんな話をしているので重いってことはなくどこか明るいままで迷宮に入ることに成功したのであった。
「…メルドさん。2部屋先にいった先に魔物の気配がします。」
「うむ。分かった。」
猫耳と尻尾をつけながら和人は気配感知を使い気配感知を行なっていた。
おそらくALOとは違い目だけじゃなく気配感知にすぐれたケットシーの特徴はこの世界の猫人族に似た特性になっているのだとか。
獣人族の中でも気配感知と素早さに定評があり、ステータス上でもそれは明らかだった。
和人は男の猫耳需要なんかないだろっと思っているのだが案外似合っているらしく女子にはけっこう好評らしい。
なお。ハジメはノームであり、錬成師として適している種族になっているのがさらに憎たらしいのであるのだが。
すでにユウキも和人も真剣モードに入っていていつものヘラヘラした雰囲気は皆無だった。
現在二十層に入り今日の目標地点になっている層に入っている。
先頭を行く光輝達やメルド団長が立ち止まった。訝しそうなクラスメイトを尻目に戦闘態勢に入る。
「擬態しているぞ! 周りをよ~く注意しておけ!」
「ボクも戦闘したらダメかな?」
「ダメだ。てか、思っていたより平気なのか?」
「うん。一度死んでいるからか分からないけどあんまり魔物を殺すことに抵抗感が少ないんだよね。」
「……つーか魔物が弱すぎるんだよ。命を殺すっていうより虐殺に近い。安全圏にいるし人数も余裕があるからな。近くにいる蚊を殺しても罪悪感が湧かないだろ?」
「へぇ〜。」
とユウキは納得したようにしている。命の奪い合いっていうよりも攻略組が下層のモンスターを虐殺しているっていうことに近い。
「あなたは余裕あるのね。」
「正直なところな。敵は補足してあるし、おそらく急所を狙えば弓で基本死ぬし。」
「鈴、思うんだけど一番チートだと思うのは和人の弓の腕だと思うんだ。」
「和人くん弓道やってなかったのになんであんなに弓上手いの?」
と案外俺のパーティーはけっこう余裕があるのか基本的に軽口を言っている。
前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がった。壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。
「ロックマウントだ! 二本の腕に注意しろ! 豪腕だぞ!」
メルド団長の声が響く。光輝のパーティーとが相手をするらしい。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を龍太郎が拳で弾き返し光輝が接敵する。
光輝のグループの応援に恵里と鈴も向かう。これは後衛が元々少ないこともあるので仕方がないんだけども。和人とユウキ、雫のせいで基本的にやることがないのだ。経験を積むために応援に向かうのを提案したのだ。
龍太郎の盾を抜けられないと思ったのかロックマウントは後ろに下がり大きく反る。
「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
どうやらスタンさせる咆哮を放ったらしい。ダメージはなさそうだけど威圧あたりのバットステータスはあるのだろう
ロックマウントはその隙に突撃するかと思えばサイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ香織達後衛組に向かって投げつけた。
その様子を見て和人は矢筒から矢を取り弓を構える。
香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けカウンターで壊すつもりだったのだろう。
しかし投げられた岩もロックマウントだったのだ。空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。
気持ち悪かったのか香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断した瞬間。
ロックマウントの脳天に矢が射抜かれる。
当然のごとく即死の攻撃に思わずその矢が放たれた方を見ると和人が次の弓を構えておりそして放つ。
まさに神業と呼べるような隙間を通り精密射撃を行う和人。これにはメルド団長も驚いてしまう。
どれだけ矢を引いてきたのか。分からない。ただこの成長速度は明らかに早すぎる。すでに王宮の弓兵よりも数倍は強いであろう。
元々の天職は召喚術師であり弓術師ではない。
精霊化の補正があるとはいえ。この射撃を敵に回したのであれば。王宮騎士団でさえ何人の犠牲がでるか予想がつかないのだ。
まぁ実際はなぜかあるシステムアシストがついてあり普通の人よりも当たりやすくなっているのだが。それはユウキと和人しか知らないであろう。
「こら、戦闘中に何やってる!」
メルドさんは香織たちに説教するが「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。
「貴様……よくも香織達を……許さない!」
そしてキレる光輝に雫はあっまずいと顔をしていた。
「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」
「あっ、こら、馬鹿者!」
メルド団長の声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。当然勇者の一撃は当たり前だが、かなり強力である。
周辺の曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを縦に両断し、更に奥の壁を破壊し尽くす。雫が頭を抱える。
相変わらず苦労人であることには変わりはなかった。
パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った光輝。香織達に声を掛けようとしていたのだが、メルド団長の拳骨を食らった。
「へぶぅ!?」
「この馬鹿者が。気持ちはわかるがな、こんな狭いところで使う技じゃないだろうが! 崩落でもしたらどうすんだ!」
メルド団長のお叱りに「うっ」と声を詰まらせ、バツが悪そうに謝罪する光輝。香織達が寄ってきて苦笑いしながら慰める。
その時香織がふと崩れた壁の方に視線を向けた
「……あれ、何かな? キラキラしてる……」
そこには青白く発光する鉱石があった。ユウキや雫も綺麗とうっとりしたようにその鉱石を見る
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
和人はハジメからその鉱石を知っていた。いわゆるダイヤモンドみたいな結婚指輪として人気があるらしい。
「素敵ね。」
「綺麗だとは思うけど触るなよ。トラップだから。」
「あはは。やっぱり。」
ユウキはわかっていたのか少し苦笑する。美味しい話には裏がある。和人の罠感知スキルにしっかりと反応していた。
一瞬だけど香織がハジメの方を見る。
その瞬間なぜか急に寒気がしたように感じた
「だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルド団長だ。
「こら! 勝手なことをするな! 安全確認もまだなんだぞ!」
「やべっ。メルド団長檜山を止めてください。トラップです。」
「っ!!」
すると全員が和人の言葉に絶句する。トラップを感知できることは知っていた。
メルドさんが大急ぎで檜山を止めようとするが知ったことではないと檜山は先に鉱石にたどり着く
檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。
これは転移か?
前に見た和人の記憶がただしければ召喚されたあの日の再来であろう。
部屋の中に光が満ち、和人達の視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。
「リンクスタート。」
ハジメの声が聞こえる。その声に和人は息を呑む。
もはや逃げ場はない。ただの戦場。出し惜しみするつもりはなかった。
転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば即死だろう。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
「……気配感知に反応あり。敵襲来ます。」
和人の声に現れたかのように迷宮のトラップが作動、階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現したからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が現れた
上層に、多くの骸骨。和人はスケルトンみたいな魔物が大量に湧いているのが分かった。おそらく数で押してくるタイプだと和人は判断する。しかし奥に進む方の魔法陣は異様だった。
一言で言うならばトリケラ男だろう。和人は軽く冷や汗をかく。
おそらく別格と呼べる魔物を和人は見つめた後軽くユウキとハジメの方を見る。
お互いに頷く。そして初めてメルドさんの動揺した声を。絶望の声を聞こえた
「まさか……ベヒモス……なのか……」
と