IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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14話 真琴の軽い受難

 国家機密であるということを盾にし、なんとかセシリアの追及を逃れた真琴であった。

 

「まぁ、国家機密であるというなら仕方ありませんですけど……」

 

 セシリアもその辺は理解している。代表候補生ということもあり、こういった裏の関係には少なからず知識はある。しかし、真琴がどういった改造を施しているのか知りたいというのも嘘じゃあない。まぁ、それを話題にして真琴ともっと話しをしたいというのが真実といった所か。

 

 ジト~……とした視線が彼に送られるが、こればっかりは折れてもらうしかない。話題を逸らすべく、真琴は切り出した。

 

「そ、それでイギリスせいふの返事はどうだったんですか」

 

「そうですわね……、いくら真琴さんが技術者として優れているとはいえまだ子供。ということで、交渉に当たっては真琴さんの代理人を立てて欲しいと通達がありましたわ」

 

「だいりにん、ですか……」

 

 確かに、技術関係ならともかく外交関係に子供が出てくるなど一般的な常識からしたら有り得ない事だ。真琴の類まれなる知識と能力があったとしても、やはりこれに関しては大人がいないと危ないと先方は判断したのだろう。

 

(まぁ、千冬さんに任せておけば問題ないかな……? 最終的には僕が首を横に振ればそれまでだし)

 

 問題ないと判断した彼は、すぐに回答を出した。

 

「わかりました、その件についてはあとで織斑せんせいにそうだんしてみます」

 

「ええ、それが良いと思いますわ。後は……特にはありませんでしたわ。強いていうなら、あっちの研究員と交流を深めて欲しいということくらいでしょうか」

 

 そういやそんな話が契約書にのってたなーとか、あっちには美味しい食べ物あるかなーとか考えが明後日な方向に考えが飛び始めていた真琴だが、それを看破されたのか、セシリアの視線がしっとりと湿り気を帯び始めた。

 

「ん“ん”っ! よろしくて真琴さん? あちらには優秀かつ容姿端麗な研究員がわんさと居ます。しかし! 技術的な交流以外の関係は、わたくしセシリア=オルコットが許しませんわ!」

 

「へっ?」

 

 とんでもないセシリアの誤解に、白衣がずりおちそうになる。ぽかーんと口を開けて見つめる真琴を、セシリアは何故か諭しだした。

 

「いいですか真琴さん。貴方は今、世界中のメスに目を付けられています。それこそ、油断したらかっ攫われてしまうくらいに!」

 

 セシリアの口上は止まらない。それどころか、歯車に潤滑油をぶちまけたかの如く、スムーズに動き続ける。

 

「は、はぁ……」

 

「その様子だと何を言っているか理解出来ていない様子。いいですわ、この際ですからはっきりとご教授いたしましょう! そもそも真琴さんは研究者としての……。」

 

(あうう……食べ物の事考えたら駄目なのかな……?)

 

 くどくどくどくど。セシリアのお小言は続く。真琴は椅子の上で小さくなるばかりだ。

 

 

 

 

 15分後

 

 

 

「―――という訳ですので、これから真琴さんにはいち技術者としてのですね―――」

 

「はい……はい……」

 

 

 

 30分後

 

 

「―――真琴さんは素晴らしい技術をお持ちです。それを有効活用してこそISの将来というものは―――」

 

「……はいぃ」

 

 

 

 45分後

 

 

 

「―――だいたい、わたくしのIS以外にも改造を施すなんて―――」

 

「うぅっ……」

 

 

 彼女の言っていることが二転三転している。技術を有効活用しろと言ってみたり、自分のIS以外の改造は認めないなど、支離滅裂である。

 

 

 

―――そして一時間後。

 

 

 

「分かりましたか!? わたくしのIS以外の改造は出来る限り控えてくださいな!」

 

「ぜ、ぜんしょします……」

 

 

 げっそり。真琴の口から魂が出掛かっていた。

 

 

「それでは話を本筋に戻すと致しましょう。今日はわたくしと一緒の部屋で寝ること! 異存はありませんわね?」

 

「え、えと、どういった流れでそのようなはなしが……」

 

「先ほど申しましたわ。真琴さんは一人で寝ることができないと。それなら、出張先ではわたくしと一緒に寝れば万事解決ですわ。そのための予行演習をすると」

 

「えっ、ええ?」

 

「……まさか、とは思いますが。先ほどわたくしが申し上げた事を真琴さんはもうお忘れになったんですの?」

 

セシリアからズ、ズ、ズ、とドス黒いオーラが噴出す。

 

「ふぇっ!? わ、わすれていません! わかりました! わかりましたから!」

 

 

おお、珍しい。あの真琴がテンパりながら恐怖にうち震えている。

 

 

「こほんっ。それでは、夜になったらわたくしの部屋にいらしてくださいな。では、また後ほど」

 

「はっ……はい……」

 

 

 嵐が過ぎ去った後、そこには心身共にクタクタになった真琴と、それを見守っていた研究員だけが残された。さすがの研究員達も、セシリアのあんまりなアレに呆れて物が言えなかった。人の振り見て我が振りなおせ、と言うが、果たしてこの様な場合は一体適用されるのであろうか?

 

 

 時刻は昼過ぎ、そろそろランチタイムである。しかし、ここでアクシデントが発生した。研究所は学園から離れた所にあるため、学食ではなく弁当を発注しているのだが、今日に限って配達に使うための車が故障してしまい、配達が不可能になってしまったと電話がかかってきたのだ。

 

 真琴はお気に入りのハンバーグ弁当が食べられないと分かるとがっくりと肩を落とした。しかし、何時までこうしていてもご飯は歩いてきてはくれない。他の研究員は既に学食へと向かっている。空腹を満たす為に、真琴は学食へ独りトボトボと歩いていった。

 

 歩くこと15分、真琴は猛獣がわんさかといるであろう敵の本拠地に到着した。過去の経験から、碌な事にはならないだろうと確信を持っている。しかし、空腹を満たす為にはそこへ突撃をかけなければならないのだ。男には、引いてはいけない時がある!

 

 正直、真琴は人に囲まれることが嫌いだ。少人数で人気の少ない場所でご飯を食べることが大好きなのだが……。

 

 迷うこと数分。覚悟を決めた真琴は戦場へと己の身を投じた。

 

 

 

 

「え、えっと……。おうどんをひとつください。」

 

 食券を購入し、トレイを手に取り列に並びはじめた。あいかわらずちんまいのが皆の中に混じっている。頭一つ分低いそれはとても目立つ。つまりどういうことかというと、例によって大量の視線が真琴の背中にザクザク突き刺さる訳だ。

 

「あいよ! ……なんだい、あいかわらずちっこいねぇ! ほら、サービスだ、持っていきな!」

 

 どどん! 渡されたうどんにはでっかいかき揚げとえびの天ぷらが乗っていた。ご丁寧に大盛りになっている。素うどんを頼んだはずなのだが……。

 

「あ、あの……こんなにたべられない……」

 

「だめだよ! しっかり食べて栄養をつけないと大きくなれないからね!」

 

 毎回抗議するのだが、軽々とあしらわれてしまう。どうやって食べきろうかと思索しながら、大盛りのえび天&かき揚げうどんをトレイに乗せて、真琴はヨロヨロと歩きながら空いている席を探していた。

 

 真琴の苦労をよそに、好奇の視線は容赦なく真琴に突き刺さる。やっぱりこれは無理だなぁ……帰ろうかなぁ……と俯きながら思っていた時、トレイが急に軽くなった。見上げた先には、片手に大盛りのうどんを持った、学園の人気を真琴と二分しているであろう一夏と、彼の幼馴染である箒が立っていた。

 

 

「おっす真琴。今日は珍しく学食か? 大変だろ、持つぜ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 ぺこぺこと頭を下げる真琴を見て、苦笑をする一夏と、少しだけ冷ややかな視線を学食のおばちゃんに送る箒だった。

 

「全く……。この体格だったらこのような大盛りのうどんなど平らげることなど不可能だと何故わからんのか、嘆かわしい」

 

「あ、あの……篠ノ之さん……でしたっけ、これはぼくのことをきづかってくれていることなので……、べ、べつにきにするひつようはないです」

 

「君がそう思っているのなら、そういうことにしておこう」

 

 箒は真琴を一瞥すると、自分の食事を持って席を探し始めた。

 

「あ、あの……一夏さん。ぼくは、篠ノ之さんにきらわれているんでしょうか」

 

「ん? ああ、あいつは誰にでもああだよ。気にしないでくれ」

 

「そうなんですか……わかりました。えと、それじゃあごはんにしませんか?」

 

 ぐるるる~……。真琴のお腹がSOSを発する。それを見て一夏はカラカラと笑うと、箒が座っている席へと真琴を連れて行った。

 

「ほら。次からこういう事になったら俺を頼ってくれていいんだぞ? 男同士だ、仲良くしようぜ」

 

「は、はい。よろしくおねがいしますね」

 

 友達感覚で接してくれる一夏を見て、真琴は少しだけ微笑んだ。学園内で数少ない同姓の知り合いである。心細さが少しは解消されたのだろう。それを見て一夏も笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のだが。周りのおねいさん方には効果は抜群だったらしく、深刻なダメージを与えたみたいだ。

 

 

「なんかあれ……兄弟みたいだよね。かわいいなぁ真琴君。守ってあげたい!」

 

「後5年もすれば真琴君は13歳……。攻めは織斑君で決定ね!」

 

「欲しいなぁ……。一家に一人真琴君よね!」

 

「いやいや、あれは織斑君とのセットで初めて意味をなすのよ」

 

 

 

 

 

 当然、本人達にも丸聞こえである。真琴は何を言っているのか分からないといった顔で一夏の服の裾を引っ張り、見つめていた。

 

「あ~……、気にしなくていいぞ。あれは恒例行事みたいなもんだ」

 

「そうなんですか。わかりました」

 

 

 

 ずるずる。ちゅるちゅる。麺をすする音だけが響く。その時、一夏が何かを思い出したらしく、真琴に質問してきた。

 

「なぁ真琴。噂で聞いたんだが、メイド服着て散歩してたんだって?」

 

「あ、はい。セシリアさんに貰ったものです。いただいたものを無碍にするわけにもいかないので、きてみました」

 

「そうか……。まぁ本人がいいって言ってんならいいか」

 

「あのかっこうでそうじをすると何故かはかどるんですよ。一夏さんもどうですか?」

 

 

 

 

 

 瞬間! 一斉に生徒が一夏と真琴に向かって視線を向けた。

 

 

「織斑君に執事服、真琴君はあのメイド服……。皆、どう思う?」

 

「映えると思う」

 

「ありね」

 

「異論はないわ」

 

「知り合いに執事喫茶で働いている友達がいるから、私あたってみるね」

 

「事は一刻を争うわ。すぐに準備して!」

 

 

 

 

 こういうときの団結力というものは、とてつもなく高くなるのが相場だ。皆の目標が一つに向かっている今、誰が止めることができようか。

 

 

「あ、おい!」

 

 一夏の制止する声も空しく、生徒達は散会していく。……一夏の執事姿を拝める日も、そう遠くはないかもしれない。

 

 がっくりと肩を落とす一夏の服を、誰かがくいっくいっと引っ張っていた。

 

「一夏さん、そうじってたのしいですよ」

 

 その言葉が止めとなり、一夏はその場に崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃生徒達はというと

 

 

 

「ちょっと! まだ執事喫茶の友達と連絡つかないの!? 今は一秒でも惜しいわ! 皆思いつく限りなんでもいいからアイデアを出して!」

 

「真琴君用の服ならすぐにでももう一着手に入りそうなんだけど……、駄目だわ。どうしても繋がらない!」

 

「こうなったら現地に赴くわよ! この中で執事喫茶を知っている人はすぐに当たって! 

この際金に糸目はつけないわ! 時は金なりよ!」

 

 絶賛暴走モード突入中だった。

 

 

 

 

 

 一夏に手伝ってもらい、なんとか大盛りのうどんを食べ終えた真琴だが、さすがに満腹らしく、すぐには動けないでいた。するとそれを見かねた一夏が彼を背負い始めた。なんでも、研究所まで運んでくれるとか。

 

「すみません一夏さん。ぼく、おなかいっぱいでうごけなくって……」

 

「気にするなって。あ、箒、研究所ってこっちであってるんだっけ?」

 

「知らん、私に聞くな。背中に場所を知っている人物がいるではないか」

 

「いやさ、なんか喋るのもつらそうだし、少しこのままにしたほうがいいだろ?」

 

「……それもそうか。食後にあまり胃に刺激を与えるのは良くない。なら、真琴君の腹がこなれるまで待ったほうがいいだろう。」

 

校舎から少し離れた所で3人はうららかな日差しを浴び、食後の休憩を取っていた。この時期、昼休みの時間帯はとても過ごしやすい。

 

さて、今の状況を整理してみようか。

 

 

 

1、 満腹

 

2、 あったかい

 

3、 おんぶ

 

 3つの方程式から算出される回答は?

 

 

 

 

A,寝る

 

 

 

 

 

「ん? おい、真琴君寝ているのではないか?」

 

「げっ、本当か? どうするよこれ。このままじゃ俺達遅刻しちまうぞ」

 

 午後一番の授業は、鬼教官こと千冬の授業である。遅刻だけはなんとしても避けたい。というか、避けないと頭上に出席簿(エクスカリバー)が容赦なく降り注ぎ、その日一日の記憶を綺麗に消し去ってくれやがるのだ。

 

「仕方なかろう、教室に戻るぞ。真琴君は席で寝かせておけばいいだろう」

 

「千冬姉に説明しておくか」

 

 

 

 

 何故、起こしてやるという選択肢が思い浮かばなかったのだろうか。結局、真琴は千冬に起こされるまでの間、一夏のスポーツタオルを枕に、机でにへら~……と、普段絶対に見せない笑顔を浮かべ気持ちよさそうに寝ていた。

 

 ちーちゃんがこれを起こすのに、相当苦労をしたとかなんとか。

 

 

 




―――一夏。午後は体育があったはずだが。

―――げっ……涎垂れてるじゃん 

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