IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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18話 真琴、入院するの巻

「教官、ご無事ですか」

 

援護に駆け付けたのはドイツ軍のIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」隊長、ラウラ・ボーデヴィッヒだった。しかし、千冬からは辛辣な反応しか返ってこない。真琴の事もあり、ピリピリしているのだろうか。

 

「遅かったな。どうせ情報が漏れていたのだろう? さっさと援護に来ないか馬鹿者」

 

「申し訳ありません。……護衛対象は?」

 

「ああ、鎮静剤を投与したが命に別状はない。オルコット! 出てこい! 各個撃破するぞ!」

 

「……言われなくてもそのつもりでしたわ。さぁ、貴方達覚悟はよろしくて?」

 

 チェルシーに真琴を預けたセシリアが怒気を纏いながら出てきた。この場に、第3世代のISが3機揃う。しかもその内2機は真琴が改造を担当した世界最高峰レベルのそれだ。

 

ラウラの意識がAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)から逸れた為、動くことが出来なくなっていたテロリストは味方の元へ戻る。しかし、攻撃してくる様子はない。プライベート・チャネルで対策を練っているのだろう。

 

「博士の事は諦めたほうがいいぞテロリスト共! もうすぐ私の特殊部隊全員が駆けつける。速く逃げないと一人残らず撃破されるぞ?」

 

「……チッ! 撤退す「わたくしが見逃すとでもお思いですの? 」 なにっ!?」

 

 テロリストが逃走を図ろうとしたその時、セシリアの収納領域からさらに4基のビットが射出された。

 

 セシリアの怒りを感じ取った8基のビットが一斉にテロリストに襲いかかる。それを好機と見たラウラも、大型レールカノンを連射し始める。ラウラの目にも静かな怒りが宿っていた。一般市民、しかも10歳にも満たない子供を確保するために飛行機を撃墜するという手段を取ったテロリストが許せなかった。

 

「どうした! さっさと逃げないと増援が来るぞ!」

 

「逃がしませんわ……」

 

「こいつら……っ!」

 

 テロリスト達は、8基のビットとレールカノンの波状攻撃に対応するだけで手いっぱいになっていた。ビットを打ち落とそうと近接ブレードに持ち替えようものならラウラの容赦ない銃撃が彼女らを襲う。ライフルに持ち替えて遠くからセシリア達に銃撃を浴びせようものなら、ソードビットが激しく斬り付けてくる。ラウラが援護に入ってから、徐々にテロリスト達は押され始めていた。

 

圧倒的な手数を前に二人の相手をするだけで手いっぱいになっていた彼女らだが、ここで肝心な事に気が付く。

 

 

―――ブリュンヒルデはどこへいった?―――

 

 

「多少被弾してもいい、離脱する!」

 

「ようやく気が付いたか。ウスノロ共が」

 

「なっ……うああ!!!」

 

 

 

上空に居た千冬が再び紅いオーラを纏い突撃をかける。衝撃波で吹っ飛ばされた彼女らは突風に煽られた鳥の様に吹っ飛ばされ、なす術もなく地面に叩きつけられた。

 

「くっ……次こそは博士の身柄、貰い受ける!」

 

「こっちも早く病院に行きたいんでな、今回は見逃してやろう。……というとでも思ったのか?」

 

「教官……? 今は護衛対象の保護が優先事項では?」

 

「真琴君には申し訳ないんだが……一人でも確保しておきたいんでな」

 

「くそっ……!」

 

「砕け散りなさい!!」

 

セシリアは素早くソードビットを収納するとムーンライトを一瞬で呼びだし、テロリスト達が動き出す前に容赦なく月の光とビットの掃射を浴びせる。土砂降りの月光が降り注ぐ中、情報を持ち帰ろうと彼女らも必死になって逃走を開始する。

 

 

「攻撃をしかけた時点で覚悟はあったんだろう? それ相応の報いを受けるという覚悟をな!」

 

「くそおおおおおお!」

 

 逃げ出そうにも、銃撃の合間を縫って襲いかかる千冬が放った衝撃波で二度三度と地面に叩きつけられ、シールドエネルギーはグングン減って行く。

 

 一瞬の隙を突きようやく脱出口を見つけ動き出そうにも、その先にはラウラのレールカノンが待ち受けていた。正に、八方塞がりだった。

 

「止めですわ! さぁ、黄泉路へ旅立ちなさい!」

 

 

 既に満身創痍。逃げる事さえ危うかったテロリスト達の背中に月光は容赦なく降り注ぐ。頭部を打ち抜いたそれは、防ぐ事も叶わず、バリア越しにダメージを与えるには充分な一撃だった。

 

 「がっ……!」

 

 脳震盪を起こした彼女らは成す術も無く意識を刈り取られ、打ち落とされていく。

 

 ドイツの増援部隊が到着した頃には、既にテロリストは全員ISを取り上げられた後に拘束され、後は身柄を移動するだけとなっていた。

 

 

 

 

「真琴さん……、大丈夫でしょうか」

 

 ここはドイツ軍の医療施設。テロリスト達が気絶してすぐに、ラウラの特殊部隊が到着した。飛行機が墜落した場所が都市部から離れた位置だった為、一番近い空軍基地に輸送された。

 

 真琴はVIP待遇となり、同行していたメンバーにも特別措置として来賓扱いとなった。VIPということもあり、治療には最新鋭の機材を惜しげもなく用いられた、病棟についても警備が一番厳重な院内の最深部に宛がわれ、警備はラウラの特殊部隊が当たっている。

 

「ここの医者に任せておけば大丈夫だ。警備にも抜かりはない。私の部隊は国の中でもトップクラスの腕を持った者ばかりだ」

 

「そうですか……。感謝いたしますわ」

 

「真琴君の容体が落ち着くまで、私達はここで待機だ」

 

「真琴さんの看病をしたいのですが……この様子では無理そうですわね」

 

「博士が目を覚ますまで無理だろう。大人しく待機していてくれ」

 

 

 

 

 客室に静寂が訪れる。時を刻む音だけが静かに木霊し続ける。

 

 

 

 

「織斑先生。……彼女達は、一体何者なのでしょう」

 

「目が覚め次第、ドイツ軍が尋問を行う予定だ。あいつらはISを所持していた。しかも3機もだ。となると大分勢力は限られてくる」

 

「一番有力なのは亡国企業(ファントムタスク)だ。あいつらは50年以上も前からを活動を続けている。……まぁ、推測の域を出ないがな」

 

「目的は、真琴さんを手に入れて勢力の拡大を図る事……ですわね」

 

「そう見て間違いないだろう。それより問題なのは、ドイツ軍に貸しを作ってしまった事だ。無茶な要求はされないだろうが、何かしらの要求があると見ていい」

 

「教官……」

 

「ラウラ。今外線を使うことは可能か? イギリス政府に状況を報告しないと後々まずいことになる。最悪、外交問題に発展するぞ」

 

「上層部に当たってみます。ここまで来ると私の一存でどうにかなるレベルの問題ではありません」

 

「わかった。すぐに当たってくれ」

 

「了解」

 

 ラウラは部屋を後にする。残された二人はそれ以外の問題の対応に当たり始めた。

 

『織斑先生……一つ、よろしいでしょうか』

 

『言ってみろ』

 

 ここでセシリアはプライベート・チャネルに切り替えた。ドイツ軍を信用していない訳ではないが、盗聴の可能性もある。

 

『想定される最悪のケースといたしまして、真琴さんに新しいISの開発を依頼してくる場合がございます。その場合、織斑先生はどう対処するのでしょうか』

 

『私もそれについては考えていた。もしそうなった場合、ある程度あちらの要求を飲まざるを得ないだろう。ISの改造云々については、飲まないつもりではいるが』

 

『予定が繰り下がってしまいますわね……。その場合、イギリス政府に関しましてはわたくしが対応に当たりますわ』

 

『まぁまて。そうなったら私も一緒に対応に当たる。真琴君の体調が一番の問題だ。いずれにしても彼の体調が元に戻らなければここから移動する訳にはいかないのだからな』

 

『ドイツとの共同開発という考えも、視野に入れるべきでしょうか』

 

『……難しいだろうな。既存のISの技術はお互いに取って国家機密だ。全く新しいISを二つの国で開発する。というケースなら可能性はなくもないが……。果たして、真琴君が首を縦に振るかどうか』

 

『厄介な状況に陥ってしまったものです』

 

『襲撃の可能性は想定していた。イギリスの空域に入る前に襲撃に入られたのが痛かったな……』

 

『いずれにしても、真琴さんが目を覚ますまでは何もできませんわ。』

 

(真琴さん……トラウマになっていなければいいのですけれど)

 

「一つ、いいかな」

 

 ここまで口を閉ざしていた国枝が口を開いた

 

「なんでしょう、国枝主任」

 

「この事は、真耶君にどうやって報告すればいいと思う……?」

 

「「あっ」」

 

 

 どうやら、問題は山積みのようだ

 

 

「意識レベル、外傷共に問題はありません。多少脳波に乱れはありますが、許容範囲内です。じきに目を覚ますでしょう」

 

 医者に呼ばれ、千冬達は真琴が収容されている病室に移動した。そこで目にしたのは、点滴や心電図のパッチなどを装着され静かに眠る真琴だった。まるで集中治療室ではないかと疑ってしまう程手厚い看護を受けた彼は穏やかに寝息を立てている。

 

「ああ、よかった……」

 

「しかし、まだ安心はできません。心的な外傷の可能性がありますので」

 

 普通の子供が飛行機の不時着という大事故に遭遇したのだ。トラウマが出来ていても不思議ではない。

 

「……今は無事を祈るしかない、か」

 

「教官、外線を使う許可が下りました。以降、何時でも使用可能です」

 

「分かった。ご苦労だったな、下がっていいぞ」

 

「はっ! それでは御用の際はご連絡下さい。すぐに駆けつけます」

 

 ラウラは廊下に出て、隊員と共に警護を始めた

 

『オルコット。イギリス政府への連絡を頼む。交渉はまだするなよ』

 

『分かりました』

 

 その時、空気が抜ける音と共に病室のドアが開いた。二人がそちらを見やると、軍服の両肩に大量の勲章を装着した軍の幹部と思われる女性がこちらに歩み寄って来た。

 

「久しぶりだな千冬。博士の容体はどうだ? 全力を持って治療に当たったので問題はないと思うが……」

 

「彼は今眠っている。外傷はなかったが、心的な物については彼が起きてみないと判断できないらしい」

 

「織斑先生、こちらの方は……?」

 

「ああ、済まない。紹介が遅れたな。私はアデーレ。アデーレ=ビットナー少将だ。千冬とはそれなりの面識がある」

 

「わたくしはセシリア=オルコット。イギリスの代表候補生ですわ」

 

「援護が遅れてしまい申し訳なかった。イギリスに領空圏内を通過する許可を与えてはいたのだが……テロリスト共のステルス性能が思ったよりも高くてな。補足するのに時間がかかってしまった」

 

「気にしないでいい。私も対処が遅れたのは確かだからな」

 

「所で話しは変わるのだが……。セシリアといったか、少し席をはずして貰えないか? 千冬と話したいことがある」

 

「織斑先生?」

 

「こいつなら大丈夫だ」

 

 千冬の太鼓判が出てはしょうがない。セシリアはしぶしぶ席を外した。

 

 

 

 

 心電図の音だけが、部屋へと響き渡る中、アデーレは小声で千冬へと話しかけた。

 

 

「なぁ、千冬。彼にそろそろ専用の護衛部隊を設けた方がいいんじゃないか? お前が24時間付いて回る訳にもいかんだろう」

 

「……そうだな。今回の件で痛感したよ。ISが3機も出張ってくるのは想定外だった」

 

「なんなら私の所から派遣させるか? うちの部隊は優秀な奴らばかりだぞ」

 

「それを決めるのは私じゃない。……あわよくば護衛部隊のISを改造してもらおうとか思っていたんだろう?」

 

 どこの国も、真琴の知識が喉から手が出るほど欲しい。アデーレは正直に答えていた。

 

「くくっ、違いない。……でもな、千冬。護衛部隊が強ければ強い程、テロリスト共が手を出しにくくなるのも確かなんだ。素性も知れぬ奴らに護衛を任せるより、面識のある所から護衛を出す方が遥かにマシだとは思わんか?」

 

「一理ある。ということは、IS学園に派遣させるということか?」

 

「いや、そうではない。そちらの許可が下りるなら完全に博士の護衛部隊として派遣させる。まぁ、その内一人はIS学園に在籍させるがな。どうだ? 悪い案じゃないだろう」

 

「ふむ……」

 

 正直、難しい所だ。IS学園の特記事項に、外部からいかなる干渉も受けないという項目があるからだ。裏を返せば、学園が認めてさえしまえば良いという事でもあるが。

 

 ISの技術が日本産とは言え、そこから発展させていったのは各々の国だ。高い軍事力を誇るドイツなどは、当然ISの技術も高い。真琴には数段劣るが。護衛をするにはうってつけだろう。ここで千冬は一つの結論を出した。

 

「仮に、仮にだ。IS学園が認めたとしても、私は最後まで首を縦には振らない」

 

「ほう? どういうことだ?」

 

「お前の事は信用しているが信頼している訳ではない。真琴君の護衛をする代わりにISの改造を依頼するというのであれば、情報を漏洩させないという誓約書を書くが、改造するISの詳細情報をIS学園の研究所に開示してもらう必要がある。ドイツ軍主導で改造を行うということにするから世界的に開示はされないがな。それをお前らドイツ政府が認めない限り私は了承しないつもりだ。更に、私が了承したとしても最終的に改造するか否か決めるのは真琴君だ」

 

「ふむ……なるほどな。分かった。すぐに会議を開く」

 

 千冬はアデーレの眉が一瞬動くのを見逃さなかった。何か後ろめたい事があると瞬時に察知し、思考を巡らせる。

 

「くれぐれも、変な気は起こさないようにな。真琴君は今警戒心が強くなっている。下手にISの改造依頼なんぞ出したらヘソを曲げてしまうぞ? ああ、私から説得などは絶対にしないから、そこの所良く覚えておいた方がいい」

 

「……さすがは天才と言われるだけはある。もう世界の仕組みと自分の立ち位置を理解したか。肝に命じておこう。それでは、私は戻るとするよ。すぐに会議を開かねばならなくなった」

 

「ああ、そうしてくれ。こちらも後でIS学園に連絡を入れておく」

 

 

 真琴を巡る争いはイギリス、ドイツ、IS学園、更にはテロリスト達を巻き込んで大きく遷移し始める。しかし、これはまだ始まりに過ぎない。

 




――あの、ラウラさん、でしたか。

――ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐だ。貴様は?

――セシリア・オルコットですわ。

――……オルコット。聞いた事があるな。確かイギリスの貴族だったか。

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