IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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25話 ウサ耳(大)+ウサ耳(小)=???

 会談をほぼ一方的に終わらせてしまった真琴であったが、千冬と国枝が上手い事やってくれたらしい。日本政府と同じく、巨額の資金援助を行うと約束をしていた。考えてみれば、ほぼ無償で、まだ試作段階であったイギリスの第3世代のIS「ブルーティアーズ」を完成まで持って行ったのだ。これぐらい褒美があっても良いだろう。

 

 真琴達は帰国する直前までVIP待遇を受け、沢山のお土産も貰っていた。至れり尽くせりである。ああ、羨ましい。

 

 そして帰りの旅客機の中、何やら千冬と束が話しをしていた。

 

「束、何でお前まで乗っているんだ。というか、お前が乗って来た「あれ」はどうしたんだ?」

 

「束さんにかかればそんな問題ちょちょいのちょいだよちーちゃん。自動的に私の研究室まで帰るように設定してあるから何も問題なし!」

 

「……そうか、それでは、もう一つ質問だ。何故、このタイミングで乱入してきた?」

 

「んふふ、いっくんのISを改造し終わった後暇だったんだよね。だからドイツでのプライベートチャネルをこう、ちょっとね?」

 

要約するとこうだ。

 

 

 

 

暇だったから遊びに来た

 

 

 

 

 余りの束の物言いに、飽きれて千冬は返す言葉が見つからない。とりあえず、出席簿でウサ耳カチューシャを装備している頭を圧縮していた。

 

「ぬおお……ちーちゃんの愛が痛い」

 

「ちょっと、じゃない。この馬鹿が。一回、いや百回死ね」

 

「機嫌直してよちーちゃん。いっくん強くしてあげたんだからさー」

 

「そういえばそんなことを言っていたな。……やりすぎてはいないだろうな」

 

「んふふー。知りたい? ねぇ、知りたい?」

 

「僕がしりたいです。どのように改造したんですか?」

 

 それまで黙ってセシリアに愛でられていた真琴だったが、束が作りだしたIS、更にそれの改造となっては黙っていられなかった。

 

「んん~? 気になるまーちゃん? 知りたかったらちょっとこっちにおいで」

 

「……つぎは何の耳をつけるんですか?」

 

 束、真琴に先手を打たれる。

 

「……おい、束」

 

「いーじゃんいーじゃん。まーちゃんは何の耳を付けても似合うって!」

 

「……ま、いっか」

 

 何時もの口癖と共に真琴は束の元へ歩いて行く。そして彼女の手が届くか届かないかという位置まで歩いて行った時、一瞬で耳が切り替わった。その耳は、束と同じ箒センサーが付いているであろうウサ耳であった。

 

「これで束さんとお揃いだねまーちゃん! その耳にはまーちゃんを助けてくれる機能が色々とついてるから、きっと役に立つと思うよ?」

 

 さて、今の真琴の出で立ちを確認してみようか。

 

 彼が着用しているのは、IS学園指定のブレザーと半ズボン。その上に白衣を着ている。

そして、極め付けは束と同じウサ耳。ネコ耳とは違ったベクトルで相手のきゅんきゅんメーターを上昇させるであろう。……束がどうして様々な種類の耳を持っているのか、それは誰にも分からない。

 

「よしよし。それじゃ、いっくんのISの改造についておねーさんとお話しよっか。まーちゃんの意見も聴かせてほしいなぁ」

 

 

 白式の基本コンセプトは近接高速戦闘型だ。幸か不幸か、千冬の専用機である撃鉄と全く同じである。しかし、相違点はある。

 

 白式には撃鉄の様なオーバードライブはない。代わりに、相手のバリアーを無効化できる「雪片」がある。

 

 真琴は白式のスペックの説明を一通り受けた後、目を閉じて静かに脳の回転速度を上げ始めた。束はそれをニコニコと微笑みながら見つめている。どういった答えが出てくるのか楽しみにしているみたいだ。それはまるでおやつを待っている子供そのもの。

 

 そして10分は経ったであろうか、徐に目を開けた真琴は束に質問を投げかける。

 

「……もんだいとなるのは、エネルギーのこうりつですね。雪片はこうげきするときに自らのエネルギーをたいりょうに消費するみたいですし。となると……う~ん」

 

「実はねまーちゃん。いっくんはまだ白式を完全に使いこなせてないから、完全に改造はしていないんだこれが。まーちゃんなら、どういう風に改造する?」

 

「いまのだんかいでどれくらい改造しているのか、ぐたいてきに教えていただかないとなんとも……」

 

「うんうん。それじゃ、話しを続けよっか」

 

 続けて、改造を施した白式について語りだした。

 

「いっくんの白式はね、さっき言った通り、燃費がすっごく悪いんだ。だからね、箒ちゃんにその問題を解消するためのISをあげようと思ってるんだけど、これがまだ完成してなくてねぇ。そのための繋ぎって事で、自ら大気中に存在しているエネルギーの元を吸収する装置を組み込んでみたんだ」

 

「……それなら、一時的にもんだいはかいけつしますね。回路のにゅうりょく部分に増幅器でもいれたんですか? 後、IC部分にも過負荷をかけてるかもしれません。充電部もいじってそうです。それだと、機体にかかる負荷もおおきくなってしまうような」

 

「だから、一時的なんだよまーちゃん。まーちゃんの想像していることはだいたい合っていると思う」

 

「……雪片をつかうためのしょち、ですか」

 

「いっくんはねー、本当ならそこに居るパツキンとの模擬戦で一次移行(ファースト・シフト)するはずだったんだ。いっくんならそれぐらいできると思ったんだけど……まーちゃんが改造したイギリスのISが思いのほか強くってね、ポックりいっちゃった」

 

「ポックり……。僕がつくったISはどうでした?」

 

「まさかあんな速い段階で第3世代を完成させられるとは思ってなかったよ。だから、まーちゃんの事は前から気になっていたんだよ。で、まーちゃんが白式の改造を手伝ってくれたら面白い事になりそうなんだよね。何かいい案ない?」

 

 相変わらず束はニコニコと真琴を見つめている。対する真琴は、改造案を出してくれを言われて今までの情報を整理していた。

 

「とりあえず机上の空論ですが、しょうひエネルギーのさいてきか、スロットのぞうせつ、全身装甲化(フルスキン)によるぼうぎょりょくのこうじょう、……あと、コアのぞうせつ」

 

コアの増設と聞いて、束のウサみみがピクりと動いた。

 

「ねぇまーちゃん。コアは世界に467個しかないんだよ? おいそれと使えないと束さんは思うなぁ」

 

「……もってるんじゃないですか? 今。あんがい、僕のうさみみにもはいってたりして」

 

「ななななな何を言っていりゅのかま? なーちゃんは!? そんな事する訳ないじゃないか~」

 

「おい、あからさまに視線を逸らして口笛を吹きながらごかましても説得力がないぞ」

 

 千冬から冷静な突っ込みが入った。束の視線はあっちへこっちへとせわしなく動き、汗をダラダラを流している。これで信じろというのが無理というものだ。

 

「なんか考えごとをするとき、やけにしこうがクリアになるんです。それと、ドアのむこうにいるパイロットさんのかいわも聞こえます」

 

「そ、そーかそーか! それは良かった! じゃ、白式の改造案をだしていこー!」

 

 強引に流れを戻そうとする束であったが、ジト目で無言の抗議を続ける千冬と真琴を前にし、冷や汗は留まる事を知らない。

 

「……まぁ、いいですけど」

 

「うんうん、それがいいよ! それじゃー机とパソコンを用意しよう。そうしよう!」

 

 

 雰囲気は真面目な物に取って替わり、セシリアは席を外した。束が拒否したのだ。身内や、自分が気に行った相手以外に見せたくないのだろう。

 

「それじゃー白式の設計図を今表示するね」

 

 フォン という音と共に空中に表示されるディスプレイ。そこには、絡まった毛糸の玉の様な配線図や回路図、部品情報が一気に現れた。それと同時に真琴の瞳から光が失われ、無表情になり、なにやらぶつぶつと呟きながら自分のパソコンに情報を入力し、計算を始めた。

 

 

 

 奇跡の頭脳と呼ばれた神童が、三度専用機の解析を始めた。

 

 

 

「入力回路は既存の物と遜色なし。素子の定数に若干の変更箇所あり。入力回路の後に変換回路、その後に再び変換回路を介し、ノイズを吸収し、極限まで減らしている。ノイズを軽減する際にエネルギーも吸収している可能性あり。ICへと続く回路はパターンを強化し、一時的なエネルギーの増大にも対応している。ICからアースへと続く回路には既存のISと比べて大きな変化は見られない。ICの横にHICを発見。HICの情報を検索……3件HIT。内2件は死フラグ。HICは3つの特殊な回路を組んだものであり、この場での解析は難しいと判断。HICが放出する温度を計算……算出結果は60℃ 熱に若干の問題あり。続いて二つ目の基板に移動……基板どうしの配線は全部で15本。発生したノイズが配線に載る可能性あり、要検証。……コアからノイズ? CPUとICとコアがお互いに干渉している可能性あり」

 

 誰にも聞き取れないような小さな声で何やら解析結果を呟いているが、束以外に聞き取れている者は居ない。束お手製のウサ耳が、聞き逃してしまうような小さな音も漏れなくキャッチしていた。

 

(……やっぱり、すごいねまーちゃんは。今の所私が危惧していた問題を全部見つけてる。まーちゃんが成長したら、どんなISを見せてくれるんだろう、楽しみだなぁ)

 

 束も空中に展開した配線図や回路図を見ているが、意識は真琴へと向けていた。

 

 

 解析を続けること4時間。真琴は一通りの解析を終えた後ゆっくりとディスプレイから目を外し、所感を述べようとした。その時束から声がかかる。

 

「解析おわった? まーちゃんの考えを束さんに教えて欲しいなぁ。 何を考えてたのかな?」

 

「色々とけいさんしてみました。今のところ、見つけたもんだいてんはみっつ。エネルギー効率、HICの熱、そして配線にノイズがのるかもしれないという点です」

 

「……うん、うん。そうだね。それは束さんも見っけてたんだけど……それだけじゃないよね?」

 

「と、いうと?」

 

「まーちゃんさっきさ、コアとCPUとICの関係を危惧してなかった? それについても教えて欲しいんだけど、だめかな?」

 

「……国枝さん、ちょっとせきをはずしてもらえませんか」

 

「そーそー、30過ぎて婚期を逃したオバサンはどっかいってよ」

 

「おばさっ……私としては是非とも知りたいのだが……篠ノ之博士が開発者だからな。仕方ないか」

 

若干目に憎しみの感情を宿していた気がしないでもないが、国枝は溜息をつくと、彼女は機体後部へと続くドアを開けて、そのまま立ち去って行った。

 

「……束さん、このコア、僕がいままでみてきたコアとちがいます」

 

「どう違うのかな?」

 

「ふつうのコアだったら、僕はすでに第2のセキュリティもとっぱできます。ですが、このコアはひとつめのセキュリティではじかれてしまいました」

 

イギリス政府との会談が終わってから、真琴はずっと10×10のルービックキューブをバラしては揃え、バラしては揃えという動作を繰り返していた。常人だったら3×3のルービックキューブですら解くのは難しい。解法が分かっていたらその限りではないが。

 

第2のセキュリティの制限時間は一時間。真琴は僅か三日で記録を56分にまで縮めていた。

 

「これほどまでにげんじゅうにセキュリティが掛っているとなると、何かとてもじゅうような情報がはいっていると僕はかんがえています。それこそ、全てのコアの元となる情報のようなものが」

 

「おい束、まさか白式のコアは」

 

「……まさかここまで短時間でそこまで到達するとはね。束さん、ちょっとびっくり。やっぱりまーちゃんは面白い。頭の中見てみたいなぁ」

 

「はぐらかすな。まさかとは思っていたが……」

 

「ちーちゃんの思っている通りだよ。白式には、白騎士に搭載していたコアを使っているんだよ。まぁ、そんなのはどーでもいいよ。今は白式をどう改造するかだよね、まーちゃん」

 

「え? あ、はい。……そうですね。いまのもんだいを全部かいけつしたとして……燃費はいままでと比べて30%くらいかいぜんされるのではないかと」

 

「30%かぁ……もうちょっとなんとかならないかなぁ」

 

 千冬の追求を上手い事かわし、再び白式のシミュレーションに戻る二人。千冬は概要を理解するだけで精いっぱいだった。

 

(束と互角以上にやり合うとはな……。もし、もしこの二人が協力してISを作ったとしたら、果たして第何世代のISができるのだろうか)

 

「やはり雪片のエネルギーしょうひがもんだいだと思うんです。いっそのこと外部きょうきゅうできたら……」

 

「んー……、それは今白式に施してる手法を雪片にも使うってことでいいのかな?」

 

「はい。大気中のエネルギーをしゅうそくさせ、ないぶエネルギーの消費をおさえることができれば、だいぶ変わるとおもうんです」

 

「収束砲ならぬ収束剣か……なんかかっこいー気がする! 光の粒子を集めながら輝く雪片! いいよ! すっごくいいよまーちゃん! 雪片はそれでおっけーね!」

 

「イメージ・インターフェイスを用いて収束できるようにすれば、だいぶねんぴも良くなるかとおもいます」

 

「それじゃ、雪片はいっくん式のO☆HA☆NA☆SHIができると言うことで、次は白式本体だね」

 

「う~ん……スロットのぞうせつができれば、雪片いがいにもなんか装着できるんですけど……。EEPROMとかつけてみたらどうでしょう」

 

EEPROMとは、CPU、つまり機械でいう頭脳を補佐する役割がある。コンピューターなど電子機器でデータを保存する格納領域として使われている。

 

「なんでEEPROMが必要だと思ったの?」

 

「はい、白式はものすごくせいのうが高いです。それなので、CPUやコアだけではしょりしきれずに、はんのう速度にじゃっかんのおくれが出ているかのうせいがあります」

 

「……なるほどー、そこまで束さんは考えてなかったなぁ。確かにコアは古いからね」

 

「ですので、CPUやコアでしょりしきれない情報をEEPROMでかたがわりしてあげれば……」

 

「まだ何とも言えないけど、試す価値は大ありだね……これは飛行機から降りたら束さんの研究室にちょっこーかな。ワクワクしてきたぞー!」

 

「おい待て、せめて2~3日間を開けろ。真琴君は子供なんだ、体力が持つ訳がないだろう。どうしてもすぐに改造したいのならISの研究室でやれ」

 

「ゑー? ……しょうがないなぁ」

 

二人の天才が全力で開発するIS、その正体はいまだに霧の向こうだが、おぼろげながら白式の輪郭が見えてきた。

 




―――国枝主任? 打ち合わせは終わったんですか?

―――いや、まだ終わっていないよ。……おばさん、か。

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