IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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26話 帰国

「まーくん!!!」

 

 

 真琴達が空港のゲートを通ると、真耶が光の速さで真琴に抱きついてきた。そしてそのままマッハうりうりを始める。 無理もない、昔から溺愛してきた弟がようやく帰国したのだ。

 

 想像して欲しい。自分の命よりも大切な者が危険に晒された後に帰って来たのだ。家族が意識不明の重体に陥り、ようやく目覚めた時の感覚とでも言えば分かるだろうか。

 

 襲撃に会ったという事実は千冬の手によって真耶に伝わっていた。真琴の記憶がないという事も含めて全て。

 

 そして、周囲の視線を気にすることなく、彼女は真琴を抱きしめたまま静かに涙を流す。

 

「まーくん……やっと帰ってこれたね……お帰り……お帰りまーくん!」

 

「お、お姉ちゃん?」

 

 一方真琴は、何事かと言わんばかりに頭上に大量の疑問符を浮かべていた。ウサ耳をぴこぴこと動かしながら。

 

 どうやらこのウサ耳、装着者の意思に反応して動くらしい。恐らく感情が揺れ動く際の脳波をキャッチして動作するようにプログラミングされているのだろう。さすが天災、力を注ぐ場所を盛大に間違えている。

 

 真琴を抱きしめたまま一向に動く気配を見せない真耶を見て、申し訳ない気持ちになってしまった千冬だが、気を取り直して真耶達に語りかける。

 

 「山田君、気持ちは分からなくもないが、真琴君も疲れている。速く学園に戻らないか?」

 

「ゑー? つまんないよちーちゃん。 早く私のラボにいこーよ! いっくんの白式を改造したいなぁ」

 

「し、篠ノ之博士……真琴さんは病み上がりです。無理強いしたら彼が体調を崩してしまいますわ」

 

「むー……パツキンの言うことも一理あるかぁ。しょうがないなー、それじゃあ少ししたらまた遊びにいくかぁ。まーちゃん、白式の改造楽しみにしててね! ばっはは~い!」

 

「あ、おい束!」

 

 千冬の制止する声も空しく、彼女はすったかた~と陸上選手も真っ青な速度で走り去って行った。……靴にも何らかの改造が施されているのだろうか。

 

 

 束が立ち去った後、一向は学園に戻っていた。その際、真耶を除いた教員一同は報告書を作成しなければならないという事で、職員室へと一人向かって行った。

 

これで残るは真琴、真耶、セシリアの3人。とりあえず積もる話しもあるだろうと、3人は真耶の部屋へと歩を進める。

 

 

「セシリアさん……この度は真琴を守って頂きありがとうございました。身を呈して庇ってもらったみたいで……」

 

「……正直、あの時は無我夢中でしたわ。泣きじゃくる真琴さんを見て、居ても立ってもいられませんでした」

 

 真琴が眠たいと言いだし昼寝を始めてしまった為、残された二人は出張の件について話し合っていた。

 

「私、セシリアさんの事を誤解していました。てっきり自分のISを強くしたいが為に真琴の事を狙って居たのかとばっかり」

 

「確かに、始めて真琴さんとお会いした時にそういった考えが全くなかったと言えば嘘になります。ですが……己が身を顧みずにわたくしのISを改造して下さる姿勢を見て、己を恥ました。彼は立派な紳士ですわ。紳士に対して貴族であるわたくしがそのような邪な目で見る訳がありません」

 

 どの口が言うんだか。と突っ込みたくなるが、真琴が襲撃に会った際一番感情を顕わにしていたのはセシリアだ。あながち嘘という訳でもないだろう。

 

「正直にいうと、今でも真琴にアプローチをかけてくる生徒達は後を絶ちません。チェルシーさんとも色々話しましたが、それならば学園に居る間にはセシリアさんにボディーガードをお願いしようかと思っていたんです」

 

「……と、言いますと?」

 

「今の真琴に恋愛云々の話しは早すぎます。……釘をさしておきますが、どんなにアプローチをかけてもただのお姉ちゃん的な存在としか思ってくれないですよ? もちろん、一番はダントツで私です。越えられない壁の向こうにその他、セシリアさん達が居ると思って下さい」

 

「ボディーガードの件については引き受けますわ。今回の出張でわたくしも色々と学びました。学園とはいえ、どこに真琴さんを狙う輩が居るか分かったものではありません」

 

「教員を除いて真琴が一番懐いているのはセシリアさんなんです。く れ ぐ れ も ! 真琴を邪な目で見ては駄目ですよ? 期待を裏切らないでくださいね?」

 

「わ、分かっていますわ。……有事の際には、わたくしが真琴さんのお世話をする分にはかまいませんの?」

 

「恐らく、これからしばらくの間は忙しくなります。真琴は8時には帰宅して、遅くても11時には寝かせなければなりません。……どうしても私が帰れない場合に限って、セシリアさんにお願いする場合があるかもしれません」

 

 真耶の妥協案に、セシリアは内心ガッツポーズを決めていた。一体、真耶に何が有ったのだろうかと疑ってしまうくらいに。それ程までに今回の一件によるショックが大きかったのだろうか。

 

 「それにしても、真琴を守るためとはいえ3体のISを相手に一人で突撃をかけるなんて無茶はしないで下さいね。織斑先生もいたんですから」

 

「え、ええ……」

 

(わ、わたくしはそんな事は致しておりませんが……。チェルシー、一体何を言ったというの?)

 

 話しがおかしな方向に傾き始める。セシリアにとっては僥倖という他ないのだが。

 

 

 

 結局、二人の話し合いは真琴が目を覚ますまで続いた。

 

 

 そして夜になり、真耶と真琴は風呂に入ろうとしたのだが

 

「ぴぇ!?」

 

「!? どうしたのまーくん!」

 

 一足先に浴室に入りシャワーを浴びようとしていた真琴から奇声が発せられた。それを聞いて真耶は急いで浴室にかけ込んだのだが。

 

「お、お姉ちゃん……おゆがでない……」

 

 すっ裸で内股気味になりプルプルと震えながらシャワーノズルを持ち、泣きそうな顔で真耶を見つめる真琴。一瞬真耶の意識が吹っ飛びかけるが、瞬時に給湯関連の故障と判断して真琴の体を拭き始めた。

 

「とりあえず服を着よっか。ん~……このままだと風邪を引いちゃうから、お姉ちゃんと一緒に大浴場に行く?」

 

「さむい……」

 

 真耶はプルプルからガタガタに変わり始めた真琴を見て、一刻も早く何とかせねばと他の事象を全て頭の彼方へとふっ飛ばし、震える真琴をバスタオルで包み、抱きかかえて大浴場へと走り出した。

 

その時の彼女はスーパーなキノコを食ったのではないかという程早かったと追記しておく。

 

 

 

 

 そして大浴場に到着し、好奇の視線に晒されるのを全力でぶっちして急いで浴場へと突撃、素早く書け湯をして真琴を浴槽へと浸からせた。

 

 

 本来なら女性のみの大浴場だが、真耶から緊急事態だという説明を受け、生徒や教員達は納得していた。異性に興味を持たない子供ということもあり、皆特にそちらの方面で気にするという事はなかった。

 

 これが小学生の高学年ともなれば話しは別だが、真琴はまだ低学年。身長も125センチしかない。

 

「ふぁ~い……」

 

 浴槽に浸かりとろとろに蕩ける真琴を見て、女性達は大いに和む。すべすべほっぺを紅潮させながら微笑みを浮かべる真琴は天使そのもの。

 

 遠目で彼を見て和む彼女らであったが、そんな中、一人の少女が真琴を見つけて彼に歩み寄った。

 

「あら? 真琴さんがどうしてここに?」

 

 セシリア=オルコットである。運が良いのか悪いのかよく分からないが、入浴時間が重なった。そして、準備を終えた真耶も浴槽に浸かり真琴の元へと向かう。

 

「ああ、自室のお風呂が壊れてしまったみたいで……まーくんが水を被ってしまったんです。そのままだと風邪をひいてしまうんで、皆には申し訳ないんですけど大浴場を使わせて貰ってます」

 

 通常、風呂の修理と言うものは修理や部品交換などを含めると数日かかってしまう。そのため、これから数日は大浴場を使うということになる。

 

「それはお気の毒に……。真琴さん、ゆっくりと体を温めて下さい」

 

「はふぅ……」

 

 コクコクと頷く真琴。相変わらず天使である。

 

 ここ最近、セシリアの鋼の精神はより強固さを増している。初めこそ素っ裸の真琴を見て鼻から盛大に愛を噴き出していたが、今は母親が子供を見る様な微笑みを彼に向けているだけである。しかし、今彼女の内面はというと

 

 

(落ちつくのですセシリア=オルコット真琴さんは今仕方なく大浴場に来ているのです彼はまだ子供何の問題もありませんわ決して邪な考えがある訳ではないでしょうそれにしてもすべすべですわね真琴さんのお肌は不思議でなりませんわこのすべすべぷにぷに具合は子供特有のものなのでしょうかもしそうだとしても真琴さんの肌触りは特別の様に感じられますわたくしは普段からケアを欠かしてないいうのに真琴さんの肌はそれの上をいっていますなにか秘密があるのでしょうか今度真琴さんに聞いてみるとしましょう……ああ、可愛いですわ真琴さん)

 

 

 崖っぷちで戦っていた。

 

 

 

 入浴後、真琴は湯上りたまご肌を真耶にすべすべされながら自室へと向かっていた。その際セシリアが羨ましそうな表情をしていたが、すっかり温まった真琴が気づくはずもなく、ルンルン気分で部屋へと帰宅する。

 

 そして時刻は午後11時前。何時も通りパジャマ姿の真琴は目を擦り始める。ちなみに今回のパジャマはくまさん柄だ。真耶が選んだのだが、これ以外にも様々なパジャマがある。もちろん、全て真耶の見立てだ。

 

「それじゃまーくん、一緒に寝よっか」

 

「うん」

 

 何時もと変わらない動作で真耶にすり寄る真琴。お気に入りの位置を探してゴソゴソと動いたあと、気に入った位置を見つけた真琴はぴたりと動きを止め、静かに寝息を立て始める。どうやら、よほど疲れていたのだろう。数時間昼寝をしただけでは足りなかったみたいだ。

 

(ふふっ……まーくんとこうして寝るのも久しぶりだなぁ)

 

久しぶりの真耶のすりすりむにむにTIMEは、セシリアが打ち立てた記録に匹敵したそうな。

 




―――すぅ……すぅ……

―――おかえり、まーくん

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