IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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27話 ワーカーホリック

「しゅに~ん! もう限界ですよー!!」

 

 麗らかな陽光が差し込むIS研究所に研究員の悲鳴が響き渡る。一体何事かと国枝が確認を取ると、どうやら現状だと圧倒的にマンパワーが足りないらしい。

 

 真琴がイギリスから帰国して数日、彼は色々なISの改造、もしくは新しいISの発案に着手していた。

 

 今行わなければならないと確定している案件は、白式の改造、撃鉄弐式の最終調整、先日改造を施したラファール・リヴァイヴmk2の最終調整、そして、新しいISの構想である。現在IS学園の研究所に勤めている研究員は真琴を含めて30人。これら4つの作業を並行して行う事など限りなく無理に近いと言うのが正直な所だ。

 

 ISの回路設計、レイアウト変更、及びに運転試験を全て行うとなると、一つの案件につき最低でも20人は欲しい。回路図やレイアウトの変更などは真琴が一手に引き受けているとはいえ、試験項目は膨大である。

 

 前々から国枝は気づいていたのだが、真琴のイギリス出張が丁度重なってしまい対処出来ないでいた。

 

 ここで国枝はこの問題を真琴と相談、すぐに解決に向けて学園長や教頭と会議を開いた。

 

 

 永い議論の末に打ち出された結論は、「新しく研究員を雇用、及びIS学園に在籍している生徒で技術系に進む予定の生徒のインターンシップ」だ。

 

 今の研究室だと、せいぜい50~60人の収容が限界だろう。そこで真琴と国枝は、IS学園を通して日本政府とイギリス政府に新しい研究所の建設を要請した。

 

 先方はこれを快諾。日本政府が建てる研究所と、イギリス政府が建てる研究所、合わせて二つの研究所が併設されることとなった。

 

 これで三つの研究所が設立されるため、学園は部門毎に研究所を分けることにした。

 

 一つ目は、既存のISのコストダウンや能力の向上を目的とした「第2世代IS研究所」

 

 二つ目は、イメージ・インターフェイスを始めとする第3世代のISの研究を目的とした「第3世代IS研究所」

 

 そして三つ目は、第4、第5世代を始めとする次世代のISの基礎研究を行う「次世代IS研究所」である。この研究所は便宜的にその名前を冠しているが、実質真琴のみの研究所である。

 

 今現在在籍している研究員にアンケートを取り、各々が希望する研究所に主任技術者として配属させる予定だ。国枝は3つの研究所を統括する所長となる。

 

 基本的に技術力が有る者程、上位の世代の開発に携わることができる。新しく雇用される研究員は能力テストを受け、それに応じた研究所に配属。インターンシップで入って来た学生に関しては、例外なく第2世代IS研究所でISの基礎を学ぶこととなる。

 

 必然的に元から居た研究員は上位世代の研究所への割合が増える。その代わり、新しく雇用される研究員や学生達は第2世代IS研究所への割合が増える為、人数的に見ると意外と均等に振り分けられるという予想を立てる事ができた。

 

 学園側はすぐに大々的に雇用とインターンシップの募集を開始。するとどうだ、世界各国から応募が殺到した。その数、何と実に6桁。

 

 インターンシップの対象となる2年生と3年生からは、実に全生徒数の4割に及ぶ100人が応募。それと言うのも、学年でみると専用機持ちは1学年で2~3人しかいない。IS学園を卒業できたとしても、国家代表にでもならない限り専用機を持つ事は難しい。将来的に考えても、IS学園で研究者となった方が得策だからだ。ならば今の内にISの基礎理論を理解し、IS学園の研究所に就職出来なかったとしても各々の国の研究所に就職できる可能性を高めようと考えてもなんら可笑しくない。

 

 インターンシップについては問題なく事は進んだ。問題は、正式雇用だ。

 

 ISの知識については世界最高峰と言われているIS学園の研究者の収入は偉く高い。就職一年目で年収が1000万に届くかというレベルだ。中途採用の場合、能力に応じてそれにプラスαが加算される。

 

 そのため、下手に雇用数を増やすと人件費が一気に増える。真琴の存在が発覚してから、各国からの資金援助の声が次々に寄せられているが、全てを受けている訳ではない。研究費などを考えると、下手に雇用できないのだ。

 

ウン万人という募集の中、募集人数は120人と決められた。これで丁度250人となり、多少バラ付きはあるが新しくできる第3世代IS研究所に200人配属、既存の研究所に50人させることができる。

 

200人が入れる研究所となると、建築にかかる期間はそれなりに長くなる。しかし、日本とイギリスの政府は他の案件を全て後回しにし、最高の設計業者と建築の人員と資材を総動員させて突貫工事に着手していた。突貫と言えども、その信頼性は確かだ。

 

 要請をした翌日、各政府から夏までには全ての工程が終わると通達が有った。現在4月の半ばなので、およそ2~3カ月で終わると言う計算になる。通常では考えられないペースだ。恐らく防音のドームを作り、24時間体制で着手するつもりなのだろう。

 

これで研究所の目途は立った。次に問題となるのは設計したISの部品を調達する資材購買や、部品(特に外装関係)を作る部門だ。今は全て外注で外装を作っているが、これでは時間がかかる。そのため、IS学園のすぐ横に資材・外装部門を立ち上げることにした。

 

これもIS学園が各企業に募集をかけた所、応募が殺到。後日抽選が行われる事となった。

 

こうして、急ピッチでIS学園の研究所の拡大が行われ始めた。

 

 

「ふあ~あぁぁ……」

 

 時刻は8時20分。真琴は1年1組の教室で授業の準備をしている。それというのも、次の授業は社会のため、必修科目なのだ。世界のIS情勢は物凄い勢いで遷移しているため、教科書は余り役に立たない。そのため、椅子に座って足をぶらぶらとさせているだけなのだが。

 

 その時、真琴に近寄る影が一つ。外見から察するに一年生の女子。長い髪の毛を左右それぞれ高い位置で結び、金色の留め具で固定している。

 

 よく見てみると、制服を少し改造しているみたいだ。有る程度のアレンジなら認められている為、自分の好きな様に改造することができる。が、元の制服のデザインが秀逸なため、余り改造を施す生徒は居ない。

 

 彼女は真琴の横まで行くと、ぽんぽんっと彼の肩を叩く。

 

「ねぇねぇ、あんたが山田真琴?」

 

「ふぁ? あ、はい。そうです」

 

 真琴が見上げた先には、日本人にしては少し鋭角的だが、どことなく優しい印象を受ける目をした少女が立っていた。

 

「あたしは凰鈴音! 中国の代表候補生よ。よろしくね!」

 

「は、はい。よろしくお願いします凰さん」

 

 凰鈴音と名乗る少女が何の躊躇もなく真琴に話しかける様子を見て、クラス中の生徒が無関心を装いながらも様子を伺い始めた。

 

「ちょ~っとお願いが有るんだけど、いい?」

 

「あ、はい。どういったご用件でしょうか」

 

「いやさー……この前襲撃を受けた時にね、ちょっとISが壊れちゃってさ。一応直ったんだけどなーんか調子がでないのよね。そういうのって、この学園の研究者が見てくれるんでしょ?」

 

 真琴達がイギリスに出張している際、一夏と鈴の間でひと悶着あった。クラス対抗戦で決着をつけようという事になった所までは良かったのだが、謎のISによる襲撃があり、クラス対抗戦は無効になってしまった。その際に一夏は負傷、一夏と鈴のISは損傷してしまったらしい。

 

「きほんてきにはそうですが……ん~……ちょっと待ってくださいね。いまスケジュールをかくにんします」

 

 真琴のスケジュールという言葉を聞いて、鈴の眉間に皺がよる。

 

「何? 真琴って子供なのにそんな忙しいの?」

 

「う~ん……つぎのISのかいはつがありますから」

 

 真琴と鈴が会話をしていると、それを良しとしなかったのか、セシリアが二人の間に割って入った。真琴への下手な干渉は禁じられている。真耶からボディーガードを依頼されたとあってか、真琴へとアプローチをかける生徒を見かけると、セシリアは警告を告げている。

 

「ちょっとよろしくて? 凰鈴音さん」

 

「……誰? あーちょっとまって、今思いだすから」

 

ひくくっとセシリアの眉が引き攣った。

 

「……思いだした! ブルースカイの搭乗者よね、確か」

 

 あまり他の国に興味がない鈴であったが、編入する前に中国政府から要注意人物と聞かされていた為、記憶の片隅に残っていた様だ。

 

「その通りです。わたくしセシリア=オルコット。イギリスの代表候補生ですわ!」

 

「いやー……あんたはどうでもいいんだけど、ブルースカイはこの目で見てみたいわ。後で模擬戦しない?」

 

「んな!? 言うに事欠いてわたくしをどうでもいいと言うのはどういうことですの!?」

 

「そりゃそうよ、代表候補生なんていっぱい居るじゃん。それに比べてブルースカイは第3世代の完成系とまで言われたISじゃん? そっちのが当然気になるっしょ」

 

 まぁ、正論である。確かに代表候補生は一人という訳ではない。加えて、鈴も代表候補生である。対等な立場にいる二人だからこそ成り立つ会話なのだが……。

 

「と・り・あ・え・ず! 今真琴さんへの下手な干渉は禁じられています! ボディーガードを依頼されている身として、ISの改造を依頼する事など認める訳にはいきませんわ!」

 

「ISに触れない技術者なんて意味ないじゃん、IS弄ってなんぼでしょ。それにセシリアだっけ? あんたも真琴にISの改造を依頼したんじゃないの?」

 

「そ、それは確かにそうですが……わたくしのISに関しましては、真琴さんの同意を貰っています!」

 

「ねーねー真琴、スケジュールどうなの? 空いてるなら見て欲しいんだけどさ」

 

「んー……今日のほうかごでしたらだいじょうぶだと思いますよ」

 

「ちょ、真琴さん!?」

 

「決まりね! それじゃ放課後また来るから待っててよ!」

 

「ま、待ちなさい! まだ話しは終わっていませんわ!」

 

 セシリアの制止も空しく、ピューと効果音が付きそうな勢いで鈴は立ち去って行った。心なしか、セシリアの頭の上でカラスが鳴いた気がする。

 

「な、なんですの……この敗北感は」

 

 

 社会の授業を受け終わった後、セシリアの注意を受けた後真琴は研究所でISを弄っていた。以前日本政府に渡すと約束していた撃鉄弐式と、真琴が改造を施したラファール・リヴァイヴmk2の確認作業を行う為だ。

 

 撃鉄弐式なのだが、これは一年四組にいる日本の代表候補生に渡される予定だ。しかし、日本政府から武装を見直して欲しいという通達があり、一から見直している最中である。

 

 さすがに刀だけでは駄目だと言うことだろう。幸い、撃鉄壱式と違いオーバードライブの機能を大きく制限しているため、スロットには余裕がある。機動性重視そこそこ万能というコンセプトで武装を組む事となった。

 

加えて、スラスターも4枚から2枚に減らした。1年の代表候補生程度では、4枚のスラスターを用いた連続瞬時加速を行う事は難しいと判断した為だ。これにより、壱式と弐式の差異がより顕著に表れた。

 

 オールレンジに対応出来る武器を搭載するとなると、その組み合わせは限られてくる。遠距離はレールカノン等の遠距離射撃武器。中距離はミサイル等の牽制ができる武器。そして近距離は言わずもがな。

 

しかしこれだと、あまりに面白みがない。ここで真琴の悪戯心に火が付いた。中距離と近距離両方に対応出来る武器を作ろうと思い立ったのだ。

 

 イメージ・インターフェイスで調節することにより、収束率を変更できる拡散ビーム砲を中距離武器として採用することにした。どういうことかというと、収束率を上げれば中距離に対応できるビームライフルに。収束率を下げれば、近距離に対応できる拡散ビーム砲になるという訳だ。

 

 身も蓋もない言い方をしてしまうと、車を洗う時の万能シャワーノズルみたいな物だ。あとは保険として死神の鎌をモチーフとした武器を設計、残すは遠距離武器だけとなった。ちなみに、……鎌をチョイスした理由は、「なんかかっこいいから」だ。

 

 鎌はロマンである。

 

 残すは遠距離武装なのだが、ここで真琴は詰まってしまった。如何せん良いアイデアが浮かばないのである。

 

 いっその事武装はこれだけにして、何かサブウエポン的な何かを付けてしまうのも有りかなーとか思い始めた真琴は、次第に脱線し、ピンポイントバリア等のオプションを模索し始める。

 

 そこで思いだしたのは、イギリス行きの旅客機に載っていた際に遭遇した束お手製のニンジン型飛行機だ。

 

 あれの光学迷彩とステルス機能を追加できないかと彼は考え始める。ステルス機能を追加するのは難しいので、ハイパーセンサーをジャミングする装置を作れないかと考えを転換した。

 

 光学迷彩とジャミング機能が上手くマッチングすれば、姿の見えない死神の完成だ。対戦相手は「相手が見えない」という恐怖に常に怯えながら戦わなければならない。

 

 ハイパーセンサーをジャミングするとなると、センサーが繋がっている回路にノイズを載せて誤作動を起こさせるという方法が上策と判断。すぐに研究員に伝えて実験を開始して貰った。

 

 光学迷彩に関しては、機体に光を透過させる素材を用いればいいのだが、それでは搭乗者の肉体までは隠せない。真琴はここで、外套型の「隠れ蓑」を作る事にした。

 

 搭乗者を覆ってしまうほどの外套となるとそれなりに大きくなってしまうのだが、この際仕方がない。目を瞑る事とした。

 

 更にピンポイントバリアを搭載したのだが、1割ほどスロットに余りがある。目くらまし様に、シングルロック形式のミサイルをおまけで追加した。

 

 以上の事を踏まえて撃鉄弐式のスペックをまとめてみると

 

・オーバードライブはあくまで切り札。滅多な事では使わない。

・基本的に隠密行動向け。後ろから近づき、鎌と拡散ビームで一気にあいての体力を奪う。

・ミサイルで相手の隙を作り、姿を消して後ろから近づくのが必勝パターン

 

となる。

 

 中々に趣味が悪い機体だ。日本の代表候補生には少し悪い気がしなくもないが……。

 

 ちなみに外套を羽織ってステルス状態になっている時は瞬時加速はできない。何故かと言うと、外套を羽織る時はスラスターを閉じてしまうからだ。そうでもしないと、更に外套が大きくなってしまう。これでは、ただの風呂敷お化けだ。大変滑稽である。

 

 真琴は草案を纏めた後、後は研究員達に実験と資材の手配を任せてラファール・リヴァイヴmk2の更なる改造に取りかかろうと思ったのだが、腕時計のアラームが鳴り響いた。時計を見やると、時刻は放課後まで@30分を指していた。

 

 この時間じゃ何もできないなと判断した真琴は小休止を取った後、教室へと歩を進めた。

 




―――ああ、ここにいましたか更識さん。貴方のIS、順調みたいですよ

―――……ありがとうございます

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