IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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33話 これはラファールですか?

 千冬と真耶はIS学園の会議室に場所を移した。盗聴器などが仕掛けられていないか念入りにチェックした後、二人だけの対策会議が始まる。

 

「さて、と……。山田君、先ず行わなければいけないのは、亡命の手続きだ」

 

「そうですね、それが終わったらデュノア社に連絡を取って、デュノアさんが亡命したと連絡をした後に、彼女の専用機の返還手続きを取るのが良いと思います。念のために、第3世代のISの情報をそれとなくチラつかせれば、おおよその問題は乗り切れるのではないかと」

 

 亡命手続き。それはフランス政府からの身柄引き渡し要求を絶つ為に真っ先に行わなければならない。

 

 外国人登録は既にIS学園に在籍している以上発行されている。これを真琴の研究所在籍と上書き登録して、その申請書を持って入国管理局に行き、亡命認定をしてもらうのだ。この際虚偽を報告してはならない。犯罪になってしまうからである。そして、面接。これは千冬や真耶が同席して事情を話し、速やかに許可を貰う予定だ。

 

 手続きが終わるまで、約一週間程かかる。その間、シャルロットは体調を崩したとでも言って学園を休めばいい。

 

 今までの手順が無事に済めば、シャルロットは晴れて日本国籍になり、真琴のラボの研究員兼テストパイロットを言う肩書を得る事ができる。

 

 フランスの代表候補生という立場は失くしてしまうが、ISの適正がある以上、IS学園は再入学を拒む理由等ない。

 

 正にゴリ押し。千冬という存在は、それを可能にしてしまうのだから恐ろしい。

 

 

「えへへ、真琴~……」

 

 現在、絶賛暴走モード突入中のシャルロットである。テレビを見ながら、新しくできた弟的な存在に頬を緩ませ、ソファーに腰掛けて真琴を抱きかかえていた。

 

「シャルロットお姉ちゃんがはじめてなんですよ。だれかをじぶんの家にしょうたいするのって」

 

「あー……この環境じゃ無理もないよね」

 

 真琴は今まで自分の家に友達を招いた事がなかった。むしろ、小学校に通っていた頃は友達など居なかった。

 

 あの頃の真琴は、休み時間に同級生が放課後に誰の家で遊ぶか話しあっているのを、遠目で見る事しかできなかった。内気な彼は自分から話しかけることができず、その寂しさを紛らわすために読書に更けるしかなかった。

 

 そして、それは叶うことなくここまで来てしまった。

 

 真琴は非戦闘員だが既に一般人ではなくなっている。外出するのも、恐らく一人というのは難しいだろう。過保護な姉の事もあるが、間違えなく学園側から護衛が付くはずだ。

 

 ラウラやセシリアという友達がいるが、生憎自分の部屋に呼ぶことは叶っていない。

 

 それというのも、代表候補生は休日になると大抵アリーナでトレーニングを行っているのだ。真琴が海外出張で出払っていた間、こちらはこちらで騒動に巻き込まれていたのである。

 

 その一件の後、自分達の非力を実感した一夏達は、暇を見てはISを稼働し、トレーニングに励んでいたのだ。

 

 そのため、休日は誰と遊ぶでもなく姉と一緒にダラダラと過ごすか、未だ解析が終わっていないコアと睨めっこするくらいしかしていなかったのだが……。

 

「……ねぇ、真琴」

 

「なぁに? シャルロットお姉ちゃん」

 

「僕がデュノア社とフランスから逃げる事ができたら……真琴のお手伝いをしたいんだけど、駄目かな? テストパイロットの経験もそれなりにあるし、真琴の力になれると思うんだ」

 

「この研究所には僕とお姉ちゃんしかいませんから、お姉ちゃんがいいと言えばもんだいないとおもいますよ。おそらく、千冬さんもそれをみこして色々とてつづきをしていると思いますし」

 

「へっ?」

 

「シャルロットお姉ちゃんがすむ家のじゅうしょは、おそらくここになるんじゃないかと言う事です」

 

 いきなりこんな事を言われて混乱しないほうが可笑しいだろう。お前が住む家は今日からここだと言われて、はい、そうですかと言える存在など居ない。

 

「えっと、うん、ちょっと待って。確かに考えてみたらそれはそれで嬉しいんだけど……ああそっか、フランスの代表候補生は降ろされちゃうもんね。専用機もなくなっちゃうな、いや、今話しているのはそういう事じゃなくって」

 

 当然、シャルロットは混乱し、自分でも何を言っているのか分からない程言語中枢に刺激が行ったようだ。

 

「確か……シャルロットお姉ちゃんの専用機って、ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡでしたっけ」

 

「あ、うん。とはいっても、基本装備を外して拡張領域を増やしてあるだけなんだけどね」

 

「……そんなんでカスタムっていってるんですか、デュノア社は」

 

「そんなんって」

 

 苦肉の策とはいえ、現状デュノア社が出せる最高戦力を「そんなん」と言い捨てた真琴の言葉に、シャルロットは苦笑する。しかし、真琴には第3世代のISをポコポコ生み出せる技術力がある。実際、IS学園に来てから既にブルースカイ、撃鉄、緋蜂と3つの次世代ISを開発しているのだ。彼からしてみたら、何故第3世代でここまで行き詰るのか逆に理解が出来ないのだろう。天才とはそういう者である。

 

「ちょっと、僕がかいぞうしたラファールにのってみます?」

 

 瞬間、シャルロットの見えない犬耳がピコン!と動いた気がした。

 

「え、良いのかな。それって勝手に乗っちゃまずいんじゃ?」

 

 言葉ではそう言っているが、表情や仕草までは隠せなかったのだろう、遠慮がちにチラチラとこちらを見ながら様子を伺うシャルロットも、まるで子犬の様だった。

 

「だいじょうぶですよ。量産機のせいのうこうじょうも僕のしごとのうちですから、シャルロットお姉ちゃんにテストパイロットをしてもらおうかと」

 

 真琴はシャルロットからスルリと離れ、ラファールが置いてある別室へと歩き始めた。

 

「ついてきてください。となりの部屋にメンテナンス中のラファール・リヴァイヴmk2があります」

 

(あ、ひょっとしてさっき見えたやつかな?)

 

 真琴の後について行き、隣の部屋、つまり真琴自ら改造を施したラファールが鎮座している場所へと移動したのだが、シャルロットは首を捻る。

 

「あれ? 見た目は変わって無いみたいだけど……」

 

「あ、はい。一日しかなかったので、機体の外観はスラスターのかくどしかちょうせいしてないですよ」

 

「ということは、内装は弄ってあるってことだね。スペックはどのくらい向上してるのかな」

 

 ここで真琴は、改造を施した時にセシリアや他の生徒達に話した内容をそのままシャルロットにシャルロットに伝えた。

 

「エネルギー効率やじゅうでん速度がこうじょうしているので、おのおののスラスターが個別に連続瞬時加速できます。へいきん飛行そくどもラファールと比べて20%こうじょうしています、プログラムもいじってるので、はんのうそくども30%向上しています、あと」

 

「真琴、ちょ、ちょっと待って」

 

 変わり果てたラファールの実態を聞いて、シャルロットはダラダラと背中に冷や汗をかきながら真琴に待ったを掛けた。恐らく理解が追いついていないのだろう。

 

「はい、なんですか?」

 

「今聞いた内容だけでも、性能だけなら第3世代のISを追い越してるよ?」

 

「まだあるのに……」

 

「まだあるの!?」

 

 と、混乱の極みに陥り泣きそうになっているシャルロットは

 

「これじゃあ僕が乗っていた専用機なんて玩具みたいな物じゃないか……」

 

「よくわかんないけど、元気をだしてくださいシャルロットお姉ちゃん」

 

 シャルロットの専用機と真琴カスタムのラファール。元は同じ機体なのに、性能が違い過ぎる。苦労しながら散々繰り返してきたテストはなんだったのかと落ち込み掛けたシャルロットに、真琴は励ます為に元気を出せと言った。

 

 誰のせいで落ち込んでいると思ってるんだと言いたくなったシャルロットだが、生憎真琴には罪はない。格が違うから比べても意味がないと、無理矢理納得することにした。

 

「ありがとう真琴、で、話の続きなんだけど」

 

「あ、はい。いちおう拡張領域も1.5倍にしています。それなので、色んな武器をとうさいできますよ」

 

「よかった……ここだけはこっちの方が上みたい」

 

「むー……」

 

 シャルロットのこっちの方が上発現を聞いて、真琴の眉がピクりと動いた。対抗意識を燃やし瞳に小さな炎を宿した真琴は、ラファールに繋いであるパソコンをなにやら動かしながらシャルロットに質問を始めた。

 

「シャルロットお姉ちゃんの専用機は、どのくらい拡張領域をふやしているんですか?」

 

「ん? えっとね、ラファールの2倍かな。これくらいないと僕が戦う時に武器が足りなくなっちゃんだ」

 

「2倍……分かりました、ちょっとまっててくださいね」

 

 そう言うと、真琴は部屋の隅にあるパーツBOXをガサゴソと漁り始めた。お目当ての部品を見つけるとラファール(真琴カスタム)の元へ戻ってコア付近の板金を外し、薄い手袋を着けて基板を弄り始めた。

 

 

 

 基板には様々な部品が実装されている。その中でも拡張領域は特殊な扱いで、基板に実装されているソケットに差し込む形で増やせるようにしてあるのだ。これは真琴独自の手法である。他の企業が作成している基板は、実装している部品やパターンにムラや無駄が多い為、直接取り付けないとスペースを確保できないのだ。

 

 かちり と何やら外れる音がした。どうやら真琴は、拡張領域用の部品を交換している様だ。

 

 そして部品交換を終えた基板をラファールの取り付けて板金を装着した後、ニコニコと微笑みながらシャルロットの元に戻っていた。この間、シャルロットは興味深げに真琴の作業を見つめていたのだが、一介のテストパイロットが作業内容を理解できるはずもなく、ひたすら頭の上に疑問符を浮かべる事しかできなかった。

 

「おわりました」

 

「え? え? 何をしたの真琴?」

 

「これで拡張領域が3倍になりました。僕のかちですね」

 

「さ、3倍……」

 

 シャルロットは再び項垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 がっくりと肩を落としたシャルロットとそれを見て首を傾げる真琴は、量子変換したラファール(真琴カスタム)をシャルロットに預けてアリーナへと移動した。調整を行ったそれをテストする必要があるからである。

 

 真琴はノートパソコンを通信ケーブルを纏めた鞄を、シャルロットは測定に必要な機材と部品を載せたカートで押しながらアリーナへと続く長い廊下を歩いている。

 

 真琴が機材を持ち運ぶということは、改造したISをテストするという事をほぼ全ての生徒が理解している。そのため、影からヒソヒソと噂話が聞こえるのだが、今のシャルロットにそれを気にする余裕などあるはずもなかった。

 

 

「……改めて真琴が規格外だと実感させられたよ」

 

「どうしたのシャルロットお姉ちゃん?」

 

「真琴は凄いねって事」

 

「……ありがとう?」

 

「どういたしまいて。それじゃ真琴、僕はちょっと着替えてくるから先に行ってて貰えるかな?」

 

「わかりました。それじゃあ、ラファールをあずかってもいいですか? 先にちょうせいをしておきます」

 

「了解。また後でね」

 

 シャルロットはカートを押したまま更衣室へと歩いて行った。それを見届けた真琴は、シャルロットから受け取ったラファールを白衣のポケットに押し込むと、アリーナへと歩を進めるのであった。

 

 

 真琴は模擬戦が行われていないのを確認。更に皆空を飛んでいるのを確認し、安全だと判断してアリーナの片隅でラファールを呼び出した。

 

 そしてノートパソコンを起動しながらラファールの基板に通信ケーブルを差し込み、起動を終えたパソコンにも通信ケーブルを差し込む。

 

 立ち上げたアプリケーションにラファールのスペックが羅列され始める。システムがオールグリーンを表示したのを確認し、更に別のアプリケーションを立ち上げて何やらカタカタとタイピングを始めた。

 

 ちなみに、これらのアプリケーションは真琴お手製である。標準的なアプリケーションでは真琴が所望する機能を搭載していない為、自分で作り上げたのだ。

 

 見学に来ている生徒や、訓練機を借りて訓練をしていた生徒達が真琴の存在に気付いて噂話を始め、彼に視線が降り注いでいるが、真琴は気づいていない。

 

「……ノイズ、かな?」

 

 原因は、恐らく昨日暴走させた生徒が壁に激突したからだろう。その際に部品がどこか外れかかったりしているのかもしれない。

 

原因を模索し続ける真琴であったが、彼の存在に気付いた一年生の専用機持ちがふよふよと近づいてきた。どうやら、皆このアリーナで訓練していたらしい。

 

「こんな所で何してんだ真琴?」

 

「弟君、ここは危険だぞ。外ではできないのか?」

 

「真琴さん? こんな所で何を……ひょ、ひょっとしてそれは……わたくしが授業で乗ったラファールカスタムでは?」

 

「なぁにセシリア。あんた量産機に乗ったの?」

 

「こ、このラファールは既に量産機と呼べる代物ではございませんわ!」

 

 顔を青くしてカタカタと震えだすセシリア。ラファールに空中でぶん回されて、シェイクされて、ポンポンと遊ばれて、髪の毛がボサボサになって、フラフラになった時の記憶でも蘇っているのだろうか。

 

「あ、こんにちは。えっとですね、これ僕がかいぞうしたISなんですけど、きのうの一件でちょうしが悪くなったみたいなんで、ちょうせいしてました。それが終わったのでシャルロ……シャルルさんにテストをお願いしたんです」

 

「お待たせ真琴。 あれ? みんな此処でトレーニングしてたんだ」

 

 丁度その時、ISスーツに着替えたシャルロットがカートを押しながら真琴達の元へ歩いてきた。

 

「あれ、シャルルって専用機もってなかったか? なんでこのラファールを?」

 

「ああ、うん。僕の専用機もラファールのカスタム機だから、真琴がカスタムしたラファールのテストパイロットをすることになったんだ」

 

「ほう……この量産機を弟君が改造したのか。さぞかし素晴らしい性能を持っているに違いない、楽しみだ」

 

「思い出したくもありませんわ……」

 

「ああ、あんときセシリア凄かったよな。ハエ叩きから逃げまくってるハエみたいな動きしてたし」

 

「ちょ、ちょっと一夏さん!?」

 

 あの時現場に居たのは、この場では真琴と一夏しか居ない。それを思い出して笑っている一夏を見て、鈴やラウラは事の詳細を知ろうと彼に詰め寄ったが、セシリアが必死に食い止めていた。

 

「全く……あの時は少し調子が悪かっただけですわ。今ならきちんと真琴さんが改造したラファールを乗りこなしてみせます」

 

「セシリアが弄ばれるとはな……シャルル、早く乗ってテストしてみせろ」

 

「分かった。真琴、準備の方はどう?」

 

 皆と会話しながらも、真琴は確認作業を進めていた。機材をISに接続してエネルギーラインや伝送系統の確認をしているのだが、エネルギーの流れを回路上で追っていた時とある部分で異常をみつけた。どうやら、CPU付近の部品が取れかかっていたらしい。

 

「きばんの部品がとれかかっているみたいなんで、ちょっとなおしますね。10分ほどまってください」

 

 真琴はラファールの板金を外して基板を取りだした。そして修理に必要な工具と部品を取り出して工具箱の上で修理を始める。

 

「……なるほど、ISの中はこの様になっているのか」

 

「実際に修理する所は初めてみますわ。こんなにも複雑なのですね」

 

「なによこれ、こんなちっこい部品よく取り付けられるわね」

 

「へぇ~……俺にはさっぱりだ」

 

 次々に上がる驚嘆の声、しかし真琴は集中状態に入っているため、それに応えるはずもなく、黙々と修理を続ける。

 

 何故この様な環境で以前にも増して的確に修理できるのかと言うと、束に貰ったウサギの耳が関係している。

 

 このウサ耳、何を隠そう劣化ハイパーセンサーを搭載しているのだ。そのため、顕微鏡で見るかの様に、通常目では胡麻粒にしか見えない部品もしっかりと見えるという訳である。

 

 そのため、以前ラファールを改造した時よりも作業スピードは数倍早い。精密機械の様なそれをみて、彼女らは再び驚嘆の声を上げた。

 

「……まるでロボットを見てるかの様ですわ」

 

「ふむ、ハイパーセンサーを使ってようやく見えるな。肉眼だと胡麻粒にしか見えん」

 

「うがー! こんなチマチマしたの見てるだけでもイライラする!」

 

「おい鈴、あんま騒ぐと真琴に迷惑だって。……しかし、すげーな真琴」

 

 

 代表候補生達が真琴の作業を見守る事数分、修理が終わった基板を元に戻してエネルギーラインの波形を確認し、それが正常値を示したのを確認すると、真琴はラファールから通信ケーブルを外してラファールを量子変換した。

 

「おまたせしました。はい、シャルルさん」

 

「ありがとう真琴」

 

「えっと、武器はラファールにデフォルトでとうさいされている武器しかないので、アリーナの倉庫にあるものを適当につかってください」

 

「OK。それじゃあ準備してくるね」

 

 シャルロットはラファールを呼び出すと、倉庫に向かって飛んで行った。

 

 真琴はパソコンや機材を片付けて、指令室で観戦するためにカートを押し始めたその時

 

 

 

 

 アリーナに轟音が轟き、一機のISと思われる機体が乱入してきた。

 




――戦闘レベル、ターゲット確認。行動、開始。

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