IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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39話 迫り来る出席簿の恐怖

 昼食を取り終わり、真琴は生徒会の事はひと先ず保留にすると言い残して、千冬と共に生徒会室を後にした。

 

 方や漆黒のスーツを纏った目つきの鋭い女性。方や白衣を着用したぱっちりとした目つきをしている子供。

 

 見事に対極に位置している二人が廊下を歩く姿は、いつの間にか「でこぼこオセロ」なんてあだ名を付けられていたのだが、本人の前でそんなことを言ってしまったら最後、出席簿落としに加えて拳骨、チョーク弾幕にグランド10周と留まる事を知らないコンボを食らいそうなので、誰も口にはしていなかった。

 

 

「さて、次の授業は社会だ。忘れずに受講するように」

 

「わかりました。それでは、きょうしつに戻りますね」

 

「ああ」

 

「……そうだ、後一カ月もしたら真琴君の受け持つIS基礎理論の講義が始まる。大丈夫だとは思うが、準備は怠らないようにな」

 

「そうですねぇ……。やっぱりIS学園がへんしゅうした教科書にそって授業をしたほうがいいですか?」

 

「回路図に関しては、参考書に載っている基本的な素子の組み合わせの物を説明する程度で問題ない。それ以上の事は専用機持ちでも無いと理解するのは難しいだろう。半年やそこらで理解できる内容でもないしな」

 

「う~ん……わかりました。適当にみつくろっておきますね」

 

「ああ。ではな」

 

 千冬はそう言い残し、職員室へと向かって行った。

 

 

 真琴は教室に戻ると、授業開始までの僅かな時間で、フランス政府に渡す予定の IS(といっても、ラファールにイメージ・インターフェイスの機構を組み込んだだけ)の回路図の見直しをしていた。

 

 ラファール自体の性能は決して低くない。第2世代の中では高い安定性を誇り、未だ実験機の域を出ない他国の第3世代より実践向きと言える。

 

 しかし、真琴はラファールの事を器用貧乏としか思っていない。

 

 いっその事、第3世代にバージョンアップさせたラファールmk2のデータをデュノア社に渡しても良いのではないかと真琴は思っていたが、あれは既に第3世代に見劣りしない性能を誇っている為、イメージ・インターフェイスを載せてしまったらデュノア社が一気に台頭する事になるだろうと判断し、却下していた。

 

(んー……。イメージ・インターフェイスを載せるのはいいんだけど、強くしすぎてもなぁ……)

 

 と、適当にイメージでアームを動かせる機構にして弾幕張れればいいんじゃね? と結論づけて、CPUからアームへと伸ばす回路を新しく作成していた。

 

「真琴さん? また新しいISの構想ですの?」

 

 そこに近寄る影が一つ。金髪縦髪ロール(ドリルゴールド)と、スカートをロングに変更した制服が印象的な淑女。セシリア・オルコットである。

 

「あ、はい。とはいっても、てきとうに弄っているだけですけど」

 

「弟君が言っている適当は、いい加減と言う意味ではないからな。ラファールmk2の様に皆の予想を根底からぶち壊す物でも作っているのだろう。……次は私のISをメンテナンスしてくれないか?」

 

 さらに近寄る影が一つ。真琴の姉を自負しているドイツの軍人、ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

 真琴はPCをパタりと閉じると、彼女らに向き合いながらスケジュールを確認し始めた。

 

「ん~……。今つくってるものが終わったら少し時間ができるので、その後でしたら大丈夫ですよ」

 

「楽しみにしているぞ」

 

 満足げに頷き、真琴の頭を撫でるラウラ。実に堂に入っている。 

 

 シャルロットの亡命手続きが終わるまでまだ数日かかると千冬から通達があった。デュノア社に渡すISはデータを作るだけなので、彼の手にかかれば1~2日で終わる。スケジュール的にはまだまだ余裕があるので、真琴は引き受ける事にした。

 

「そういや俺のISもまだ調整が終わってないって束さんが言ってたな……。真琴、その後予定が開いたらでいいからさ、束さんが来た時に一緒に見てくれないか?」

 

「束さんっていつくるか分からないので……未定になってしまいますが」

 

「それでも構わないからさ、頼むよ真琴」

 

 こうして真琴のスケジュール表は順調に埋まって行くのであった。

 

「そういや真琴。シャルルの奴、なんか体調が悪いらしくてしばらく休むらしいぞ? 大丈夫かなあいつ……」

 

「わたくしも聞きましたわ。なんでも、インフルエンザに掛かってしまったとか」

 

「軟弱な。体を鍛えていないから病気になるんだ」

 

 ここで、一夏達からシャルロットがしばらく休むとの話が回ってきた。実際、彼女は真琴の研究室で大人しくしているだけなのだが、真琴は話を合わせることにした。千冬辺りが学園に連絡を入れたのだろう。

 

「そうなんですか……」

 

 

 

 

 

 

 

 程なくして、授業開始のチャイムが教室に鳴り響いた。

 

 瞬間、真琴の横で話していたセシリア達は顔を青くし、慌てて自分の席へと戻ろうとしたのだが……。

 

「座れ馬鹿者。授業を始めるぞ」

 

 着席が間に合わなかったセシリア、ラウラ、一夏に向かって、千冬が出席簿(エクスカリバー)を用意しながら歩み寄っていた。

 

 

 

 

 ところで、皆覚えているだろうか。出席簿は、真琴の手によって、改造されている。という事を。

 

 

 

 

 冷たい輝きを放つそれは、形こそ以前の出席簿と対して変わりはないが、威力は段違いに上がっている。ISの装甲をボコボコにする程度に。

 

 迫りくる出席簿(エクスカリバー改)を見て、3人はまるで肉食獣に追い詰められた小動物の様にガタガタと震えながら、叩かれてなるものかと必死に千冬を説得していた。

 

 

「お、お待ち下さい! そのような物で頭を叩かれたら死んでしまいますわ!」

 

「きょ、教官! 私も反対です! それは既に兵器と言っても過言ではありません!」

 

「ち、ちふ……織斑先生! さすがに病院送りにはされたくないです!」

 

 あれが以前を変わらない威力で頭に着弾しよう物なら、一撃で昏倒するどころか、新しい人生を受け入れざるを得なくなってしまう。

 

「織斑先生、さすがに私もそれはどうかと……」

 

「む……そういえばそうだったな。さて、どうしたものか……」

 

 真耶に窘められて千冬が思いとどまったのを確認し、セシリア達は捕食者から逃げ切った事を確信して心の底から安堵していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のも束の間。

 

「仕方ない、こっちを使うか」

 

 千冬が何処からともなく取りだしたのは、もうひとつの出席簿。冷たく光る出席簿・改とは違い、柔らかな光沢を放っているそれは、樹脂か何かで作製された様だ。ちなみに、これにも山田製作所の印が押されている

 

「「「えっ」」」

 

 刹那、カパパパァン! と教室に小気味いい音が3連続で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 力を抜いてしまった彼らに不意打ちで襲いかかったそれは、防御を許すはずもなく、無情にも着弾してしまったのだ。

 

 

 

 

「2割増し!?」

 

「くぅぅぅ……さ、3割ですわ」

 

「こ、これが噂に聞いた教官の鞭……」

 

 

 

 

 

 3人共、頭からプスプスと煙を立ち上らせながら蹲っていた。

 

 

 

 

 

「皆、これ以降授業前の着席を心がけるように」

 

「お、織斑先生……大丈夫なのでしょうか」

 

「安心しろ、痛みだけだ」

 

 確認するまでもなく、生徒一同顔を青くして頭を縦に振りだした。彼女らの顔には「絶対に遅刻しません!」という強い信念が見て取れたそうな。

 

 そんな中、真琴は悶絶する彼らの頭を心配そうにさすっていたのであった。

 

 

「それでは授業を開始する」

 

 

「これはやばい、色々とやばい」

 

「もうくらいたくありませんわ……」

 

「面攻撃でこの威力とは……」

 

 幸い3人とも無事な様で、頭をさすりながら授業を受けていた。さすがブリュンヒルデ、絶妙な力加減……である……?

 

「さて、今回の社会情勢についてだが―――」

 

 

 余談だが、この出席簿mk3に使われている装甲の正体はFRP(強化プラスチック)だそうな。

 

 

「真琴さん……お願いします、もう少し柔らかい素材で出席簿の作成を……」

 

「今度の出席簿はあれだな。衝撃はないけど、痛みがやばい。目の前に星が見えた」

 

「弟君、あれでサバイバルナイフを作れないか?」

 

 

 授業終了後、出席簿mk3の一撃を食らった3人は真琴の元へ集まっていた。

 

「えっと……織斑先生からじゅしで作ってほしいと依頼があったので……。警棒くらいならつくれると思いますが、ナイフはちょっと」

 

 セシリアと一夏はまだダメージが抜けきっていない様だが、さすがは軍人と言った所か、ラウラは授業開始早々立ち直り、普段通りの彼女に戻っていた。

 

「耐久性、か? やはり樹脂を材料にしたサバイバルナイフの実用化はまだ難しいか……」

 

「ごめんなさい。投げナイフならなんとかなるとおもうんですけど、たぶん重さがたりないと思うんです」

 

 要望に応える事が出来ずにしゅんとする真琴を見て、予想外だったのか、ラウラはあたふたと慌てふためきながら彼をなだめ始める。

 

「わ、私はこれっぽっちも気にしていないぞ弟君! そうだな、ナイフもいいがISの武装もいいかもしれない!」

 

 何とかして落ち込んでしまった真琴を元気づけようとしているラウラの姿は、とても軍人には見えなかったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NGしーん

 

 真耶に窘められて千冬が思いとどまったのを確認し、セシリア達は捕食者から逃げ切った事を確信して心の底から安堵していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のも束の間。

 

「仕方ない、以前より力を抜くか」

 

 

「「「えっ」」」

 

 刹那、カコココォン! と教室に小気味いい音が3連続で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 力を抜いてしまった彼らに不意打ちで襲いかかったそれは、髪の毛を圧縮するだけでは留まらず、頭蓋骨、更には脳を直接呼びかける様に痛みを与える。神速とも言える程の速さを持った一撃を防げるはずもなく、出席簿は無情にも一夏達の頭に着弾した。

 

 

 

 

「ぬああああああ!! いてええええぇぇぇ!!!!」

 

「く、くぅぅぅ……」

 

「ぬ、お、お、お……」

 

 

 

 

 一夏は頭を押さえながら廊下を転げまわり

 

 セシリアは頭を押さえて蹲りながらプルプルと震えり

 

 ラウラは爪の後がくっきり残る程強く拳を握りしめ、涙を目尻に溜めて千冬を見つめていた。

 

 

 

 

「お、織斑先生……大丈夫なのでしょうか」

 

「安心しろ、痛みだけだ」

 

(((((どうみても痛みだけじゃないっ!!)))))

 

「んんっ! 以降、授業前の着席を心がけるように」

 

 確認するまでもなく、生徒一同顔を青くして頭を縦に振りだした。彼女らの顔には「絶対に遅刻しません!」という強い信念が見て取れたそうな。

 

そんな中、真琴は悶絶する彼らの頭を心配そうにさすっていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

NGしーんぱーと2

 

真耶に窘められて千冬が思いとどまったのを確認し、セシリア達は捕食者から逃げ切った事を確信して心の底から安堵していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 のも束の間。

 

「仕方ない、以前より力を抜くか」

 

 

「「「えっ」」」

 

 刹那、パカカカァン! と教室に小気味いい音が3連続で鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 力を抜いてしまった彼らに不意打ちで襲いかかったそれは、髪の毛を圧縮するだけでは留まらず、頭蓋骨、更には脳を直接揺さぶる様に衝撃を与える。神速とも言える程の速さを持った一撃を防げるはずもなく、出席簿は無情にも一夏達の頭に着弾した。

 

 

 

 

「「「ぶっ」」」

 

 

 

 

 

一夏、卒倒。

 

セシリア、卒倒。

 

ラウラ、目を回し、更に頭の上でヒヨコを回しながらもなんとか耐え忍んでいた。

 

 

 

 

「お、織斑先生……大丈夫なのでしょうか」

 

「……しまった、やりすぎた」

 

「ほ、保健室! 保健室はどこですかぁ!!」

 

 生徒一同顔を青くして一夏とセシリアを同情と憐憫の眼差しで見つめていた。彼女らの顔には「絶対に遅刻しねぇ!」という強い信念が見て取れたそうな。

 

 そんな中、真琴は倒れている二人と、未だふらふらなラウラの介抱をするのであった。

 




―――……出席簿怖い出席簿怖い出席簿怖い

―――……あら、そういえば今朝の朝食は何を頂いたのでしたっけ?

―――……なるほど、バインダーも立派な武器になるのだな

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