IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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40話 デュノア社に渡すISは?

 社会の講義が終了し、その後特に教室に残る必要性を感じられなかった真琴は、皆に研究室に戻ると言い残し帰宅した。

 

 IS学園の敷地を出てすぐに、ウサ耳が何やら電波を受信したのか忙しなく動き始める。

 

 そして、次の瞬間、光学迷彩を施して真琴邸の護衛に当たっている10機のゴーレムから通信が入った。

 

「異常ナシ」

「異常ナシ」

「異常ナシ」

「異常ナシ」

「1000 北西ノ方角ヨリ侵入者ヲ感知 無力化後 IS学園ニ輸送」

「異常ナシ」

「異常ナシ」

「異常ナシ」

「異常ナシ」

「異常ナシ」

 

 毎日この様に一斉に、まるで狙い澄ましたかの様に次々と通信が入るのだ。今回は珍しく侵入者が居た様だが、さすが束お手製のゴレーム。侵入者に気取られる事なく一瞬で対象を無力化、気絶させて施設の外へと放り出していた。

 

 中には、気絶させられた後に「私は侵入者だから捕まえていいヨ☆」と首から看板を吊り下げ、ご丁寧にその時に監視カメラが捕えた映像もセットでIS学園に送り届けらた者もいた。

 

 後に拿捕された侵入者は語る。山田博士の研究所の敷地に入った途端に意識が途切れ、気づいたらここに居た。と

 

 この情報は瞬く間にテロリストへと流れ、迂闊に手を出しても、というか万全の態勢で挑んでも侵入ができないと認識されていたのだが、当事者である真琴は知るよしもない。 

 

『ごくろうさまです。まいにち助かります』

 

真琴は見えないボディーガードに感謝の意を示し、てくてくと自分の家に戻って行った。

 

 その際、真琴の感謝の意を感じ取ったのだろうか、一斉に「ピピッ!」と返事を返してきたゴーレム達はどこか嬉しそうだった。

 

 

「ただいまー」

 

「あ、お帰り真琴。今日の学校はどうだった?」

 

 

 真琴が帰宅すると、何やら食欲をそそるスパイシーな臭いが漂ってきた。今晩のメニューはカレーらしい。

 

 そして、すぐにシャルロットが出迎えてくれた。彼女は晩御飯を作っていたらしく、エプロンを着け、おたまを持っていた。その様は正に母親。違和感がこれっぽっちも、砂粒ほども感じられない。

 

 そしてニコニコと微笑みながら今日の様子等を訪ねてくるのだから堪らない。真琴はこれが本当のお母さんなのかなと思いながら、今日学校で起きた出来事を話し出した。

 

「えっと、一夏さんとラウラお姉ちゃんとセシリアさんが、僕がつくったしゅっせきぼで叩かれてました」

 

「え“っ。強化装甲で作った出席簿で? 違うよね? ねぇ、違うよね!? あんなので叩かれたら死んじゃうよ!?」

 

 シャルロットは顔を引き攣らせながら真琴に詰め寄った。それもそのはず、束のISがボコボコにされている様を間近で見ていたのだから。

 

「あたらしく作ったプラスチックのしゅっせきぼですよ。……3人ともうずくまっていましたけど」

 

「あはは……それなら良いんだけど」

 

「僕はこの後、デュノア社にわたすISをつくりますけど、シャルロットお姉ちゃんもみますか?」

 

「え? いいのかな。見れるのは嬉しいけど、さすがにまずいんじゃ?」

 

「だいじょうぶです。デュノア社に渡すころには、シャルロットお姉ちゃんはここに住んで僕といっしょにISを作るんですから。第3世代のISをはやいうちに触っておくのは悪いことではないと思いますよ?」

 

 シャルロットが亡命した後、彼女の肩書はIS学園に通学する山田製作所の職員という扱いになる。

 

 

 結局のところバレなきゃ良いという事だ。幸いシャルロットが研究所に入ってから、その姿を確認した者は真琴、真耶、千冬の3人しかいない。侵入者も、研究所に近寄る事すらできていない。友達に隠し事をするのは少々後ろめたいが、セシリアやラウラにも話すことなく、秘密裏に事は進められていた。

 

 

 

 第3世代のISを見れるという事だけあり、さすがにシャルロットも好奇心を隠しきれなかったのか、少し迷った後、かちりとコンロの火を止めると、エプロンと白衣を交換して真琴と共に研究室へと向かった。

 

 

 研究室に到着すると、真琴はデスクに座るとすぐにPCの電源を入れ、CAD立ち上げてラファールのデータを呼び出し、回路図の変更を始めた。シャルロットは、その様子をすぐ横で見守っている。

 

(入力ライン……変換回路……ノイズ吸収回路……CPU……。あ、こっちも弄らなきゃ駄目かな)

 

 ラファールの回路図を目で追い、イメージ・インターフェイスを司る装置を組み込む為にPC上でパターンを描き続ける。

 

 この際気を付けなければならないのは、回路同士の距離だ。距離を開けすぎると無駄が多くなり、基板が大きくなってしまう。かといって距離を近づけ過ぎると、ノイズやエネルギーが回路上であちこち移動してしまい、エネルギーロスや誤作動に繋がってしまうのだ。

 

 さすが第2世代のISに関しては世界第3位の企業だけはある。そこそこ煮詰められており、基本的な部分に関しては弄る必要はない。

 

 効率などは真琴のそれに比べると数段見劣りするが、元々真琴カスタムのラファールが異常なのである。インターフェイスを使う際のエネルギーが必要になる為、少しだけ容量を増設する必要がある

 

 しかし、インターフェイス素子を乗せるに辺り、スペースを確保しなければならない。インターフェイス素子はCPUと密接に関係しているため、CPUとインターフェイス素子距離を開けすぎてはならない。素子同士の距離が離れすぎていると、エネルギーの波形が歪んでしまい、これまた誤作動を引き起こす。

 

 

 

 真琴がぽちぽちと回路を変更しながら素子を置き換えていると、我慢しきれなかった様子でシャルロットが訪ねてきた。

 

「ねぇ、真琴。ちょっと質問してもいいかな?」

 

「あ、はい。なんでしょうか」

 

 

「僕は何回かラファールのデータを見た事があるんだけどね、デュノア社の研究員は皆複雑な計算を紙に書いたり、公式に当てはめながら四苦八苦していたんだ。真琴はどうやって計算しているの?」

 

「あんざんと、元のデータのりゅうようです」

 

「あ、暗算……!?」

 

「本当にむずかしい計算式は書きだしますけど……基本はあんざんですね。束さんからいただいたこの耳があると、せいどとそくどが格段に上がるんですよ」

 

 そう言うと、真琴のウサ耳はピコッっと動いた、真琴は入浴と就寝の時以外はずっとこの耳を着けているが、決して面倒くさいとかそういう訳ではない。決して。

 

 ここでも束お手製のウサ耳が役に立っている。その都度周りに居た人物は驚愕するのだが……ここまで来ると最早びっくり箱である。

 

 

「そ、それじゃあ……入口の部分の計算ってどうやってるの?」

 

「えっと……こうですね」

 

 真琴はレポート用紙を取りだすと、一番始めの計算式だけ書き出し、次の行には解答を弾きだしていた。

 

 常人、というか一般的な研究者でも、この計算だけで少なくとも一分は要するものなのだが……。

 

「それじゃあ……CPUに出入りするエネルギー圧の計算は?」

 

「素子の足が100個ちかくあるので……さすがにそれは数分いただかないと」

 

「す、数分で……」

 

 あんぐり。真琴はシャルロットの要望に応えながらも回路のレイアウトの変更や素子の定数の変更を行っていた。

 

 そしてインターフェイス素子を最後に設置し、シミュレータ上でエネルギーを流した。

 

 その瞬間、PCとケーブルで繋がっていた10を優に超えるディスプレイが一斉に動きだし、エネルギーの流れを示した波形を表示し続ける。

 

 エネルギーの流れは、各々の素子によってコントロールされている。たとえば、入力部分にはとても大きなエネルギー圧がかかるため、回路を太くしている。そして、素子も頑丈な物を用いて耐久力を高めているのだ。

 

 充電を行う素子は、この入力付近に配置されている。充電の速度を波形で観測している

 

 真琴にとっては、とても納得する物ではなかったが、最低限第3世代の性能を満足するだけでいい。何せデュノア社には資金がないのだから、高い部品は使えないのだ。

 

 ここで、真琴はシャルロットに一つのお願いをした。自分が素子を入れ替えている間、指示された部品の値段と仕様書のデータを、各企業のホームページから入手してくれと頼んだのだ。

 

 いくら真琴が優れているとはいえ、一人で出来る作業量には限界があるのだ。

 

 データが載っていなかったら、山田製作所名義でメールを飛ばしてくれともお願いをしていた。これならすぐに返答が返ってくる。

 

 こうして、シャルロットはISの勉強をしながら真琴の補佐をするという自分の役割を見出していた。

 

「おわったら教えてくださいね。何か分からないことがあったらえんりょなく言ってください」

 

「うん、分かったよ真琴」

 

 シャルロットは本当に、本当に心の底から嬉しそうだ。

 

 決して誰かに強制される事なく、自分が守りたい、守ってもらいたいと思っている相手と共に行動をすることができるという実感を噛みしめ、鼻歌を歌いながら真琴の横で作業を開始した。

 

 

 対して、真琴は回路図で何か漏れは無いか確認を続けている。

 

 基本的に自分が弄った所以外は、デュノア社が完成させている為、インターフェイス素子と、それに関連するパターンや素子の回路を完成させればそれで良いのだ。

 

 幸い、変更点におけるエネルギー圧の波形を全て確認したが、異常は見られない。後はプログラミングとの齟齬が無いか、プログラムを作成してから確認するだけだ。

 

 

その時、シャルロットから声が掛った。

 

「真琴、指示された部品のデータ、全部集まったよ。……すごいねぇ、山田製作所の名前を出した途端、アポイントメントとか、サンプル部品の提供とか一気に来たよ。何か3ケタ単位で部品のサンプルを貰えそう」

 

 製品を作る企業としては、回路図を起こして、実際にそれを作るに当たって、真っ先に注文を行う訳ではない。部品メーカーに打診をし、サンプルとして無償提供して貰うのだ。

 

 そしてそのサンプルを用いて試作品を作り、GOサインが出てから正式に注文をするという流れが主流である。

 

「サンプルですか……う~ん、そろそろおきばしょが……」

 

「そんなにあるの?」

 

「はい、こっちです」

 

 真琴は立ち上がり、シャルロットに着いてくる様に伝えて、研究室を挟んで私室とは反対側へと廊下を歩き始めた。

 

そして、2~3部屋は通り過ぎただろうか、お目当ての部屋に着くと、真琴はそのドアを開け、中へと入って行く。シャルロットもそれに釣られて部屋の中へと入って行ったのだが……。

 

 

 

 その部屋は、壁一面が部品棚になっていた。

 

 

 

 銀行の金庫を連想させるそれは、一体何種類あるのか想像すらつかない。一番高い所に置かれている部品に至っては、脚立を用いなければ届かない程だ。

 

「な、なにこれ……」

 

 最早本日何度めの驚愕になるか分からないが、シャルロットはあんぐりと口を開けながら茫然としていた。

 

「あたらしい製品ができるたびに、サンプルを送ってくるんですよ。はんにゅうはIS学園をけいゆしているので、問題はありませんけど」

 

 ISに使う素子は、大まかに分別しても数十種類に及ぶ。

 

 それが定数別や物理的な大きさ別に並べられている。

 

 ちなみに、作っているメーカーが違うというだけで、全く同じ性能や外見を持っている部品もある。いわゆる代替品という奴だ。

 

「こ、これ全部真琴が管理してるの……?」

 

「はい。ですけど、そろそろ管理がめんどくさくなってきました」

 

 ですよねー。と、シャルロットは納得が行った様子。そして、何かを決意したらしく、力強い口調で真琴に提案した。

 

「真琴、これから部品の管理は僕にも手伝わせて?」

 

「あ、はい。おねがいします」

 

「これ一人でやれって方が無理だよ」

 

「IS学園以外からとどいた部品いがいは、基本廃棄してください。とうちょうきやはっしんきが仕掛けられているかのうせいが高いので」

 

「あ、うん、分かったよ。それじゃあ、研究室に戻らない?」

 

「そうですね。あの部屋には9時までしかいられないので、はやくすませちゃいましょう」

 

「9時? 時間制限があるの?」

 

「えっと、その、それなんですけど……」

 

 真琴は以前、作業に没頭する余り深夜になってもIS学園の研究所から戻ってこなかった為、こっぴどく怒られた時の事を話した。……多少、真琴の主観が入った説明であったが。

 

 それを聞いたシャルロットは、クスクスと笑うと真琴の頭をさらさらと撫で始めた。

 

「それは真琴が悪いよ。真琴ってまだ子供だよ? 2時3時まで起きてたら成長の妨げになるし、体調も崩すって。 山田先生も相当心配したんじゃない?」

 

「……うー、そのとおり……デス」

 

 他愛もない話をしながら、二人は研究室へと戻って行った。

 

 

「疲れた……うう、まーくん」

 

 時刻は夜8時半、前日徹夜紛いの作業をこなした真耶の目元には、うっすらと隈が出来ている。

 

 千冬も同じ作業をこなしているはずなのだが、彼女は一体何者なのだろうか、コーヒーをがぶ飲みしていたが、疲れた素振りすら見せていなかった。

 

 ―――山田君、先に帰っていいぞ。

 

 フラフラになった真耶を見かねて、先に帰宅を促してくれたのだ。

 

(最近まーくんと一緒に寝てなかったし、今日こそはゆっくりまーくんと……うふふ……)

 

 ふらふらと歩きながら、少し悦に入った彼女は真琴と同じ手順で山田邸に自分の家に戻って行く。ゴーレム達から異常なしとの報告を受け、労いの言葉を掛けた後、帰宅した。

 

「ただいま~……」

 

「あ、おかえりお姉ちゃん」

 

「おかえりなさい山田先生」

 

 疲れ果てていた真耶の「ただいま」はとても小さい物であったが、真琴がそれを聞き逃すはずもなく、すぐさまリビングから真耶も元へと駆け寄ってきた。

 

「デュノアさん、ここは学園じゃないので、先生と呼ばなくて大丈夫ですよ」

 

「えっと、……それじゃあ、真耶さん、おかえりなさい」

 

「はい、ただいま帰りました」

 

「お風呂とご飯、両方準備できていますけど、どっちを先にしますか?」

 

 真耶としては今にも寝てしまいたいのだが、さすがにそれは健康に悪い。……徹夜紛いの作業も、お世辞にも良いとは言えないのだが。

 

「ん~……それじゃあ、ご飯を食べた後にお風呂にします。まーくん、お風呂はもう入ったの?」

 

「ごはんもおふろもまだだよ」

 

ピキュイーン! 最近ご無沙汰だった、真琴との入浴ができると分かった彼女の目には、活力が戻っていた。

 

「それじゃあ、ご飯食べたら一緒にお風呂にはいろっか、まーくん!」

 

 

 姉弟の仲睦まじい様子を見て、シャルロットは優しい笑みを湛えていた。

 

(羨ましいくらい仲がいいなぁ。僕も、これからこんな関係を築ける様に頑張ろう)

 

 

 

 

 

 そして晩御飯となったのだが、シャルロットが作ったカレーは素晴らしい物だった。

 

 飴色になるまでじっくりと弱火で炒めた玉ねぎの甘みがしっかりと出ている。本人は冷蔵庫にあったカレールゥを使ったと言っていたが、きっと隠し味を入れているに違いない。 真耶も中学生の頃から料理をしていたのだが、10人に味の比較をさせたら、8~9人がシャルロットのカレーの方が美味しいと答えるだろう。それほどまでの出来栄えに、彼女は内心自信をなくしかけていた。

 

 

 が、この後待ちかまえている至高の時間を想像し、沈んだ自分の心を急浮上させていた。恐るべし真琴ぱぅわ。

 

 

 そして、いよいよ、ついに、待望の、真耶お待ちかねの入浴タイムがやってきた。

 

 

 真耶はバスタオルと着替えを抱えている真琴の背を優しく押しながら、浴室へと歩を進めた。

 

 何時も以上に長く感じられる廊下、そして時間。今の彼女にとっては、衣服を脱ぐ時間すら惜しかった。

 

 真耶に釣られて真琴もいそいそと服を脱ぎ始めたのだが、まだ下着を脱げていない。

 

 やや小さめのTシャツを着ていた真琴は、袖から上手く腕を抜くことができない。それを見かねた真耶は、真琴に「まーくん、ちょっとばんざいして?」と彼に促し、真琴が両手を上げたのを確認すると、すぽぽーん! と勢い良くTシャツを脱がせて見せた。実に鮮やかである。

 

 そして真琴がすっぽんぽんになったのを確認すると、二人でなかよく浴室に入って行き、掛け湯をし、仲良く浴槽へと身を沈めるのであった。

 

「はふぅ……」

 

「ふふっ、まーくんと一緒にお風呂に入るの久しぶりだね」

 

 とろとろに蕩ける真琴を後ろから抱え、真耶は大変ご満悦の様子。ご自慢の豊満な胸をむぎゅむぎゅと押し付け、真琴を優しく包み込む。

 

 普段なら余り長い事お風呂に入れない真琴だが、本日に限っては、頭と体を洗い終えた後、既に一時間程入っている。それと言うのも、気を利かせたシャルロットがお湯をぬるめにし、ミネラルウォーターの差し入れをしていたからだ。

 

 入浴中の水分補給は、水分補給のタイミングとしてはベストである。血管が拡張し、新陳代謝が高まる為、入浴前、もしくは後に水分補給をすることは一般的であるが、入浴中というのは余り聞かない。

 

 

 

 安らかな時間が過ぎ去って行く。このまま時が止まれば良いのにと真耶は願うが、現実とは残酷な物である。ペットボトルに入っていたミネラルウォーターは、残り僅かとなっていた。

 

 

 

 ちなみに、真琴の体を洗う際、真耶も一緒になって洗いっこをしていたのだが、真耶の洗いっぷりに負けてしまい、一方的に彼が洗われることになったのはまた別のお話。

 

 

 

「それじゃあおやすみなさい、真琴、真耶さん」

 

「はい、おやすみなさいデュノアさん」

 

「おやすみなさい、シャルロットお姉ちゃん」

 

 結局、入浴時間は一時間半を超えた。新記録樹立である。

 

 シャルロットは一足先に客間(もうすぐ彼女の私室になるが)へと戻っていった、翌日届く大量の部品サンプルの手続きがある為、準備をする必要があるからと言い残して。

 

「それじゃまーくん、そろそろ寝よっか」

 

「うん」

 

 真耶達も二人の私室へと戻り、寝る準備を始めた。当然、使うのは真耶のベッドだけだ。

 

 真耶は何時ものようにベッドに寝転がり、掛け布団を開けると、真琴が寝るだけのスペースを開けて、早くおいでと言わんばかりに敷布団をポフポフと叩いた。

 

 それに釣られるかの様に、真琴は枕を抱きかかえながらテクテクと歩み寄り、枕をベッドに置くと、その感触を懐かしむかのように真耶にすり寄り、甘える様にぴったりと真耶にくっついてしまった。彼もそれなりに寂しかったのだろう。

 

 長年一緒に居る真耶がそれを見抜けないはずもなく、すり寄ってくる真琴を優しく、壊れ物を扱うかの様に胸に抱きながら頭を撫でる。

 

 錦糸の様な真琴の髪の毛。その髪はとても柔らかく、撫でる度に絡みつくこと無く彼女の手のひらからサラサラと零れて行く。

 

 その感触を楽しむかの様に何度も撫でていると、彼女の胸元から静かな寝息が聞こえてきた。相変わらず、真耶と一緒に布団に入ると素晴らしい速さで寝入ってしまう。

 

(この感覚、久しぶり……。やっぱり気持ちいいなぁ。頑張って仕事を早く終わらせて、できるだけまーくんと一緒に寝よう、うん)

 

 愛すべき弟の心温まる光景を見て、真耶の疲れはどこかへと飛び去っていた。

 




―――……異常ナシ

―――……異常ナシ

―――……識別コードナシ 排除 開始

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