IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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41話 ISの存在意義

 

 

 

 

ISの部品が散らばる研究室にキーボードを叩く音が響く

 

 

 

 

 

 

 

 研究室には二人の人影が在った。

 

 一人は、兎の耳を模したカチューシャを装着した白衣の少年。

 

 もう一人は、同じく白衣を着ている金髪の少女。

 

 

 

 

 

 

 

―――ピー  

 

 

 

 何かを入力し、エンターキーを押す度に、パソコンからは拒絶の意た示される。

 

 

「う~ん……これもだめかぁ……」

 

「真琴でも分からない事があるんだね。ちょっと安心したよ」

 

 今真琴が試みているのは、ISの最終防衛システムの突破だ。

 

 2個目のセキュリティを突破したは良いが、最後のパスの意味不明さに真琴は半ばお手上げ状態だったのだ。

 

 ―――一つ目は、複雑な暗号

 

 ―――二つ目は、10×10のルービックキューブ

 

 ―――そして、最後のセキュリティ

 

 

 

 

 

 

 ISとは何か?

 

 

 

 

 

 ディスプレイに現れたのは、ISの存在意義を問う文言と、文字制限の無い二つのコメントを記入する欄であった。

 

 つまり、研究者としての心構えを、束に試されている訳だ。

 

 生みの親である束に認められなければ、ISのコアを作る事は許さない、と。そう言われているという事だ。

 

 初めてこのセキュリティを見た時、真琴は固まってしまった。

 

 今まで散々複雑な暗号やパズルを解いてきたのだ。正に肩すかしを食らったというのが正しいだろう。

 

 真琴は、自分は誰よりも「ISを正しく理解しているという」程自惚れている訳ではなかったが、負けたくないという気持ちは人一倍持っている。

 

 

影で「篠ノ之束の再来」だとか「奇跡の頭脳」「ISの申し子」と呼ばれているのも知っている。

 

 ―――この程度のセキュリティを突破出来ないで、何が天才か。

 

 未だかつて篠ノ之束以外に上り詰めた事のない頂を前に、興奮を隠しきれない真琴は、思いつく言葉全てを打ちこんだ。

 

 

 

 

 しかし、コアから返ってきたのは拒絶の意。

 

 それを見た真琴は、面白いと言わんばかりに思いつく言葉を打ち込む。

 

 

 

 そんなことを繰り返すこと何百、いや何千回。

 

 

 

 初めこそ余裕を持ちながらコアと向き合っていた真琴であったが、

 

 

 

 拒絶を繰り返す相手を前に、彼の心奮い立たせる炎は徐々に勢力を失いつつ有った。

 

 

 

 

 

 真琴は暇な時間を見つけては毎日コアと向き合っている。が、次第にその間隔が開きつつある今日この頃であった。

 

 しかし、シャルロットが研究所に来てからその状況が一変した。

 

 ISの研究をする際、誰の手も借りる事なく歩んできた彼に、助手が出来た為である。

 

「ん~……それらしい言葉はぜんぶためしたんですけど、むずかしいですねぇ」

 

「全く、篠ノ之博士も何の為にISを作ったのか分かんないよね。世界をひっくり返して何がしたかったんだろ」

 

 

 

 彼女の言葉を聞いた時、真琴の頭の中で、カチリと歯車がかみ合った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 世界をひっくり返して何がしたかった? 何の為にISを作った?

 

 

 

 

 

 

 

 技術面を気にする余り、考える事が無かった方面の解答を探し出す。そして、束の行動や発言を思い返す真琴。

 

 

 

 彼女がIS学園に現れた際には、必ずと言って良い程トラブルが発生した。

その都度千冬に撃墜されていたのだが、束は楽しそうにしていた。

 

 白式や緋蜂の構想を練りながら開発する際、彼女はとても楽しそうだった。

 

 

 以前の束程ではないが、自由に行動できなくなってしまった真琴は、彼女の心が少しだけ理解できた気がした。

 

 

「ま、真琴? どうしたの?」

 

 目を閉じたまま動かなくなってしまった真琴を心配するシャルロット。

 

 しかし真琴から返事はない。

 

 

 

 

 数分後、彼はゆっくりと目を開けると、徐にコアに向き合った。

 

「シャルロットお姉ちゃん。ありがとうございます」

 

 そう言いながら、真琴はコアにゆっくりと心の中でコアに問いかけた。

 

 

 

 

 ―――さぁ、次はどうやって遊ぶ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピピピッ! パスワード確認 ロック解除シマス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全てのセキュリティが突破した証が、ディスプレイに表示される。

 

 直後、ディスプレイから溢れんばかりの情報が、一気に表示された。

 

 それを見て、真琴は満足そうに微笑み、シャルロットは眼球が飛び出るのではないかと言うほど目を見開き、あらん限りの声で叫ぶのであった。

 

「やった……!」

 

「え? えええええええええええええええ!?」

 

 

 

 

「コアのセキュリティを破ったと言うのは本当か真琴君!!!!」

 

 

 

 真琴が千冬にコアのセキュリティを全て突破したと一報入れると、彼女はすぐに研究所に駆け付けた。余程急いでいたのだろう、所々髪の毛が跳ねている。

 

 ちなみに、千冬はゴーレム達に「真琴の味方」という認識を受けている為、攻撃を受けることは無い。敷地内に入ったとしても、監視カメラでその姿を追われるだけだ。

 

 そこには、PCからコアへと細いケーブルを繋ぎ、ディスプレイと睨めっこをしている真琴と、その様子を見て、全く理解できていない様子のシャルロットが居た。

 

「あ、お疲れ様です織斑先生」

 

 千冬はシャルロットに目もくれず、跳ねた髪もそのままに彼に問いかける。

 

「あ、お疲れ様です千冬さん。これで僕にもコアがつくれます」

 

 そう言いながらディスプレイを千冬に見せる真琴。そこには、コアを作成するに当たって必要な材料や回路図が表示されていた。

 

 

 

 

 コアの作成に辺り、数種類のレアメタルを調達する必要があるこそすれ、それを除けば今の真琴にとっては時間は掛かるが作成することができる回路。

 

 様は、この「レアメタル」こそ、ISのコアの肝なのだ。このレアメタルが、世界のパワーバランスを崩してしまう根幹だったのだ。

 

 

 

「千冬さん、僕のめいぎでこのそざいは調達できません。IS学園けいゆでいらいしてもいいですか?」

 

 山田製作所名義で注文してしまうと、それを嗅ぎつけた企業連が、「彼が注文した素材や部品には意味がる」と考えてしまう。資金に余裕がある企業連に至っては、同じ注文をしてしまい、素材や部品の値段が上がってしまうのだ。事実、真琴が仕入れたサンプルの殆どは、程なくして他の企業も発注していた。

 

「……それは問題ないが、公にはするなよ? できればIS学園の中だけで留めて置いて欲しい」

 

 

 真琴は複雑な環境に立たされている。いざとなったらIS学園の中に逃げ込んでしまえば良いのだが……

 

 

「僕もあまり波風はたてたくありませんから、とりあえずはシャルロットおねえちゃんの専用機だけにしようかなぁと思って居ます」

 

「真琴……」

 

 感激やら驚愕やら畏敬やら。様々な感情が入り混じったシャルロットは、真琴の名前を呼ぶことしか出来なかった。

 

「デュノア。お前は最高機密を知ってしまった。……もう後戻りは出来ないからな」

 

 そこに千冬が釘を刺す。理解出来ていないとはいえ、コアの内部を見てしまったのだ。

 

 

 

 

 既に政府や組織がバックホーンとして存在している小さな研究所。しかし、その質に関しては世界でも群を抜いている。

 

「あとは、ゴーレムの数をふやそうかなぁと。十機じゃまもりきれない可能性もありますし」

 

「それに関しては問題ない。鹵獲された時の事も考えて、自爆プログラム等も組み込んでおけよ?」

 

「分かりました」

 

「えっと……お二人とも、そろそろお昼の時間ですし、何か食べて行きますか?」

 

 シャルロットの言葉を聞き、千冬と真琴が時計を見やると、短針は頂上に向けてカチリとわずかに動いた。

 

「そういえば、千冬さんはじゅぎょうは大丈夫なんですか?」

 

「ああ、山田君に任せてあるから大丈夫だ」

 

 本来、この一件が公になればIS学園は緊急対策会議を開く必要がある。最悪、休校になり兼ねない。それ程の事態なのだ。

 

 しかし、この騒動の火種を作りだした張本人はというと、これから作るシャルロットの専用機と、ゴーレムの事で頭が一杯の様子。目をキラキラと輝かせて時折にやけていた。

 

 彼の様子を見て、千冬とシャルロットは溜息を一つ吐くと、三人で居間へと向かうのであった。

 

 

 ぶーん……。かちり、かちり、かちり、ちちち……

 

 かりかりかりかりかりかり。

 

 ここは束の隠れ家。

 

 

「お、お、おおおー……」

 

 

 彼女はディスプレイに食いつき、コアから送信されたデータを確認すると、満足そうに頷いていた。

 

「な、る、ほど、なるほど。さすがはまーちゃん。ちょーっとだけ手間取ったみたいだけど……束さんの考えに気付いてくれたみたいだね。うん、及第点あげちゃおう。ついでにプレゼントもしちゃおうかな」

 

 束が後ろを振り向くと、そこには数種類の機械仕掛けのリスが居た。

 

 リス達は忙しなく動き回り、散らばっている部品を奪い合い、確保した部品を満足そうに齧り始める。

 

かりかりかり、かりかりかり。

 

 部品が徐々に無くなって行き、全て食べ終わると、ぷるぷると震えだす。

 

ぷりっ。

 

 そして、プログラムに従い、部品を再構成する。こんな物、世界中探しても此処にしかない。

 

 ちきちきちき……

 

 そして、再び要らなくなった部品を探して研究室内を動き回る。

 

「やぁやぁ。君達、辞令を申し渡す! 明日から、まーちゃんの研究所にいってね!」

 

 パソコンを動かし、リス達を呼び寄せる。

 

 

 そして、停止させたリス達の背中をパカりと開くと、ブロック状の金属を背中に埋め始めた。

 

「よしよし、これで心おきなくコアが作れるね」

 

 

 

 そう、リスの背中に入れた物は、コアの作成に必要なレアメタル。

 

 

 一体どの様な内部構造になっているのか、それは束しか知らない。

 

 

「さてと。真琴、これからどうする?」

 

 昼食を食べ終えた後、千冬は美味かったと一言残し、IS学園へ戻って行った。

 

 

「ん~……。デュノア社に渡すISもできあがったので、次はラウラお姉ちゃんのISのメンテナンスかなぁと」

 

 スケジュールを確認する真琴。以前、ラウラの専用機「シュヴァルツェア・レーゲン」のメンテナンスの依頼を受けていた事をシャルロットに告げる。

 

「そっか。という事は、IS学園でメンテナンスするのかな?」

 

「そうですねぇ……シュヴァルツェア・レーゲンのメンテナンスは、シャルロットお姉ちゃんの一件がおわってからにしようと思います」

 

 現在木曜日。シャルロットの亡命手続きは土曜日に終わる見込みだ。そのため、2~3日の余裕が生まれる事になる。

 

「ん……。それだと、何日か自由時間が出来るね」

 

「はい、そろそろ新しいぶきでもつくろうかなぁと思っています」

 

 ここ最近ご無沙汰だった武器開発。色んな構想はあるが、イギリスの出張や緋蜂の開発など、優先事項が高い物が突発的に降ってきてしまい、まともに開発出来ないで居た。

 

「新しい武器かぁ……。世界中に売るの?」

 

「それはまだです。シャルロットお姉ちゃんの専用機に搭載しようかと」

 

 真琴は、今在るラファールmk2を元に、それの発展形をシャルロットに載ってもらおうと画策していた。

 

「専用機って……。僕のラファールは、もうすぐデュノア社に返還するんだよ?」

 

「ですので、新しい第三世代のISをつくります。武装が決まっていなかったので、一つ、シャルロットお姉ちゃんの専用機の代名詞ともいえるぶきを作ろうかと」

 

「僕の代名詞、かぁ……となると、灰色の鱗殻(グレー・スケール)かな?」

 

 ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡには、シールドの裏に切り札とも呼べる武器が収納されている。

 

「あれだと面白みがないので、もっと威力をあげてみようとおもいます」

 

「え“っ」

 

 灰色の鱗殻は、炸薬をリボルバー形式で交換するパイルバンカーだ。威力だけ見れば第2世代の中では最高クラスを誇っている。

 

 真琴はそれの威力を更に上げようと言っているのだ。

 

「炸薬式だと、火薬のりょうにおうじていりょくが上がりますが、ぼうはつの危険性を考えるとどうにも……」

 

「ぼ、僕はあれでも十分だと思うんだけど……」

 

「ローレンツ力をISのエネルギーに置き換えて、なんとかできないかなぁと」

 

 

 

 要約すると、レールガンの要領でパイルバンカーの杭の部分を打ち出すという事だ。

 

 

 

「で、でもそれだと莫大な電圧が必要に……」

 

「はい。ですので、ISのエネルギーに置き換えてかんがえます。パイルバンカー自体にエネルギーをはっせいさせる機構をくみこめば、本体のエネルギーしょうひもそこまで大きくならないと思うんです」

 

「……撃った本人も吹き飛ばされそうだねぇ、それ」

 

「いちげきりだつの武器ですね。おもしろそうです」

 

「あはは……やり過ぎない様にね、真琴」

 




――Q.ISとは何か?

――A.玩具。暇つぶし。

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