IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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42話 大暴れ

 ほーっ ほーっ

 

 現在深夜2時

 

 豊満な胸に顔を埋めて眠る真琴の眼がパチりと開いた。

 

 そして何処かへ向かおうと、姉の拘束を解こうとしたのだが……

 

 

 解けない。解けないのだ。

 

 

 決して苦しくなるほど力強く抱きつかれている訳ではない。しかし、まるで真耶の腕が凍りついてしまったのではないかという程、拘束力は凄まじい物だった。

 

 

「んぅ~~っ んぅ~~」

 

 

 普段の真耶なら、真琴が少し抵抗すれば無意識のうちに拘束を解いてくれる。

 

 しかし今回ばかりは放してなるものかと言わんばかりに、拘束が解ける事は無かった。

 

 

 

 

 格闘すること5分、真琴の涙ぐましい努力の甲斐あってか、ようやく真琴を抱きしめる腕が緩んだ。

 

 これを好機と踏んだ真琴は、真耶の腕からするりと抜けだし、再び抱きつかれる前に枕を真耶の胸元に置いてソロリソロリと歩きだした。

 

「えへへ……まーくんやわらか~い」

 

 

 

 

 

 真琴が向かった先はトイレではなく研究室だった。部屋を明るくするとバレてしまうかもしれないので、懐中電灯片手に部屋の入り口付近の壁に掛けてある白衣を探す。

 

 そして白衣を着ると、部屋の奥に鎮座しているパソコン目がけて歩きだした。

 

 

 ちなみに、真琴はとても臆病である。一応科学者なのだが、お化けという非科学的な物を否定しきれない。お化け屋敷などもってのほかだ。

 

 

 耳鳴りがしそうなほど静かな研究室、そこで懐中電灯一つでそわそわと周囲しきりに確認しながら歩くというシチュエーションは、まさにお化け屋敷を思い起こさせる物なのだが……。

 

 

―――カタン

 

 

「ひぐっ!」

 

 

 その時真琴の後ろで物音が聞こえた。そしてびっくぅ! と寝ている所を不意に起こされた猫の様に真琴は飛びはねる。このまま叫び出したい衝動に駆られた真琴であったが、大きな声を出してしまうと真耶とシャルロットを起こしてしまう。ぷるぷる震えて涙目になりながらも何とか声を押さえていた。

 

 そして恐る恐る振り返り、音がした方へ明りを向けると……。

 

 そこにはデスクから落ちたであろうUSB形式のフラッシュメモリーが床に落ちていた。

 

 真琴はほっと胸をなでおろしてUSBメモリーをポケットに突っ込むと、てくてくとパソコンが置いてあるデスクに歩み寄り、電源を入れた。

 

 

カチッ  カリカリカリカリ……

 

 

 真琴はPCが立ちあがるまでの間にウサ耳を装着した。これを装着するという事は、何かしら開発や交渉を行うと言う事だ。

 

 そしてPCが立ちあがったのを確認すると、メールソフトを立ち上げて、何処かへと連絡を取り始めたのであった。

 

 

 

 

 本日は晴天なり。

 

 

 シャルロットの亡命手続きが終わるまで、残すところ後一日。3人で朝食を取り終えた後、今日は企業からのサンプルが午前中に大量に届く為、真琴は学園には行かずにシャルロットと共に研究所で新しい武器の開発をすると真耶に伝えた。

 

 真耶は仕方ないかーと一言残念そうに呟くと、真琴の頭を一撫でし、ゴーレム達からの報告を聞き始めた。

 

「さて、今日は……あれ? 今度はロシアの諜報部が侵入して来たみたい」

 

 無論、例によって自分は侵入者であるという旨の看板を首からかけられ、学園送りにされたことは言うまでもない。

 

 1~2週間という僅かな期間で、侵入者は既に数十人に及んだ。真琴が取引をしたイギリスと、お世話になったドイツ以外の先進国全てからである。

 

 真琴は、イギリスとドイツの政府からの連絡だけは無視していなかった。ブルースカイの新しい兵装のアイデアや、シュヴァルツェア・レーゲンの改造などは元々開発予定であった為、ここで無視を決め込んでも意味がないから。

 

 真耶を見送った後、真琴とシャルロットは送られてくるサンプルに備えながら、二人でパソコンと睨めっこを始めた。

 

「ふぅ……一晩放置しただけでこんなにメール来るんだねぇ」

 

「いつものことですよ。返信とイギリスとドイツ政府以外からの送信メールはぜんぶ開かないでさくじょしてください」

 

「ウイルスとか入ってたら大変だもんね。開くメールにしても、全部ウイルスチェックした方が良いね」

 

「はい、おねがいします」

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

 

 メールチェックを終え、全てのメールを確認した真琴達は、新しく作るパイルバンカーの構想を形にし始めた。PCを新たに2台立ち上げると、それぞれ違ったアプリケーションを立ち上げる。

 

「新しくつくるパイルバンカーの設計をはじめるので、シャルロットお姉ちゃんの意見もきかせてください」

 

「うん、まかせて」

 

 片方は、物理エンジンを組み込んだシミュレーションソフトを立ち上げたPC。もう片方は、ISや武装の外見や構造を決める為のCAD端末である。そして、元から立ち上げていたPCにはエネルギー回路を設計するソフトが立ちあげられていた。

 

 

 

 そして真琴は、凄まじい勢いでエネルギー回路を作成し、部品の定数を決めて行った。

 

 IS本体の様に複雑な動作は要らない。ただ莫大なエネルギーを高速で充電し、一気に発射することができれば良いのだ。

 

 そして回路図の概要ができあがったのだが、入力部分に外からエネルギーを供給する為と思われる、ジェネレーターに繋がる入力回路とは別に入力部が設けられていた。

 

 

 

「エネルギー回路についてなんですけど、IS本体からエネルギーを供給する配線をくみこむひつようがあります」

 

「……パイルバンカー本体だけじゃ賄いきれないって事だね」

 

「その通りです。いずれにせよ、パイルバンカーじたいにもそれなりに大きなコンデンサやエネルギージェネレーターを積むひつようはありますけど……」

 

 

 

 真琴が作ろうとしているパイルバンカーの威力は、計算上では灰色の鱗殻《グレー・スケール》の威力を遥かに上回っている。しかしこれはあくまで理論値。現実では様々なエネルギーロスが発生する為、限界まで引き上げても95%くらいが落とし所だろう。これ以上引き上げてしまうと、より精密な回路が必要になる為、故障率が大幅に上がってしまうのだ。武器という、衝撃が発生しやすい物ならなおさらだ。

 

「んー……、一発でどれくらいのエネルギーを消費するのかな」

 

「ISからの供給なしだと、一発のいりょくは灰色の鱗殻《グレー・スケール》とほぼおなじです。最大供給となると……う~ん……」

 

 真琴はパイルバンカーとISの腕部が耐えられるであろうギリギリの数値を計算し始めた。

 

 幾度も計算をし、その内めんどくさくなったのかパソコンでエディタを立ち上げ、計算式をプログラムし、最適の数値を見極める。

 

「ん~……シャルロットお姉ちゃんとしては、どれくらいの……」

 

 と、此処まで言いかけた真琴であったが、急に固まってしまった。

 

 どうやら、何か良いアイデアが思いついた様子。悪戯が成功するのを待ちわびる子供の様に笑みを浮かべ、シャルロットにちょっと待ってくださいと一言伝えると、今まで作成した回路図を全部消して、新たに書き始めたのだ。

 

「え、ちょっと、え?」

 

 当然、シャルロットは困惑する。真琴がさっきまで作成していた回路でさえ、一般の研究者が1から書き起こそうとすると少なくとも一時間はかかる物だったから。

 

 

 

 

―――一時間後

 

 

 

「ふぅ」

 

「はい、真琴。もう終わったのかな?」

 

「あ、はい。お待たせしました」

 

 シャルロットは真琴にココアを手渡す。一心不乱に回路や構造を作成する真琴を見て、こりゃ時間がかかるなと踏んだシャルロットは、お湯を沸かしてココアとコーヒーを作っていたのだ。なんと茶菓子もセットだ。良い嫁になる、うん。

 

 ちなみに、その間に学園を介してサンプルが届いた。シャルロットが何とか抱えられるくらいの大きさのダンボールが5~6箱。これもシャルロットが部品部屋まで持っていってくれたと言うのだから、彼女の気遣いは天井知らずである。

 

「お待たせしました。こっちの方が面白そうなので、このろせんで行きたいと思います」

 

「う、うん。ちょっと見てもいいかな?」

 

「どうぞ。ココア、ありがとうございます。いただきますね」

 

 シャルロットは真琴に許可を貰い、真琴とデスクを交換して貰い、回路と構造の試作図面を確認し始める。

 

 

 

 通常、パイルバンカーには杭が一本しかない。エネルギーが分散されてしまうからだ。しかし、真琴が設計したパイルバンカーには杭が2本ある。この時点でシャルロットの理解の範疇を超えてしまった。

 

 ので、真琴に助けを求める。

 

「な、何で杭が2本もあるのかな? これじゃあエネルギーが分散して威力が……」

 

「それについては問題ありません。これをみてください」

 

 

 真琴が別のウインドウを立ち上げ、物理エンジンを搭載しているソフトを立ち上げたPCにデータを転送すると、それに連動して演算を始めた。

 

「えっとですね、この杭が打ちだされると、そこからそれぞれ位相と極性をバラバラにしたエネルギーが放出されます」

 

「え“っ」

 

 真琴の解説を聞いてシャルロットは全て理解してしまったのか、顔が引き攣っている。

 

 

 

 

 

 

 エネルギーという物は、極性をずらすと互い引力を発生させる。

 

 そして、位相がずれたエネルギーがぶつかり合うと…………暴走する。

 

 つまり、2本の杭が打ちだされると、それに連動してそれぞれの杭がエネルギーを放射する。異なった極性を持ったエネルギーは惹かれあい、一つになる。しかし、互いに位相がバラバラな為、一つになったエネルギーはえらく不安定になる。それこそ、少しの衝撃でエネルギーの奔流が発生する。そのため、IS本体の入力部に位相をずらしたエネルギーを使うのはタブーとされている。真琴はそれを逆手に取ったという訳だ。

 

 この原理は真琴のIS基礎理論にも応用されているのだが、それはまた別のお話。

 

 

「あとは、このエネルギーにしこうせいを持たせば完成です」

 

「……最早パイルバンカーっていうか、すっごいスタンガン?」

 

「あ、パイルバンカーの威力じたいも灰色の鱗殻《グレー・スケール》と同じくらいのいりょくは出ますよ? 数秒のチャージがひつようですけど。まぁ、とりあえずシミュレートしてみましょう」

 

 

 試作型パイルバンカーが表示されているウインドウのタスクバーから設定の項目を呼び出し、色々数値を入力し、それを終えた真琴は再生のボタンを押した。

 

 すると、今までウインドウの中にはパイルバンカーしかなかったのだが、いきなりパイルバンカーの前に壁が表示されたのだ。

 

「いま表示されているかべは、シールドバリアーを発生させた合金のかべです。つうじょうのライフルやハンドガンではビクともしない強度を持っています」

 

「嫌な予感しかしないよ真琴……」

 

「あ、エネルギーの充電がおわったみたいです。はじまりますよ」

 

 その瞬間、閃光と思しき光で画面が真っ白になった。音までは表現しきれない為、無音なのだが、どうやら今回はそれが幸いした様だ。

 

「わわ!?」

 

「あれ?」

 

 余りの眩しさに二人は目を背けてしまった。すぐ画面を見返したのだが、そこには穴が開いた壁と、地面に転がっているパイルバンカーしか写されていなかった。

 

「スロー再生してみますね」

 

「うん、僕はもう驚かないよ。驚かないったら」

 

 

 

…………………………

 

 

 

 結果から言おう。威力が高すぎた。

 

 いまのシミュレートを説明すると、

 

 パイルバンカーの杭が壁に着弾した瞬間にエネルギーの奔流が巻き起こり、シールドバリアーのエネルギーと反応を起こしてあの様なフラッシュが発生したのだ。

 

 壁に巡らせていたエネルギーはISと同等の量を持たせていたのだが、その一撃で全てのエネルギーを持っていかれたらしく、シールドバリアーを発生させた壁は、ただの壁となっていた。

 

 真琴は試しに削られたであろうエネルギー量を計算したのだが、少なく見積もっても600~700程度の威力はある様だ。それ以上はシミュレート上では計算できなかった。

 

「一撃でISのエネルギーを全部持っていくってこと? ……ピンポイントバリアが無いと試合開始一秒で終わりそうだね」

 

「理論値ですから確証はもてませんが、ピンポイントバリアがあったとしても7割はもっていくんじゃないでしょうか」

 

 まだまだ問題は出てくると思われるが、半日と掛らずにこの結果。スポーツ用のISが搭載するには強すぎる武装である。完成して量産体制にはいったら、間違い無く軍事運用されるであろう。

 

 真琴は、しぶしぶ一般向けに販売するパイルバンカーは、威力を落とすことにした。

 

「ところで真琴、このパイルバンカーの名前とかは決めてるの?」

 

「んー……ランペイジバンカー。とかどうでしょう?」

 

「大暴れ、か……暴れるどころじゃ済みそうにないねぇ」

 

シャルロットはクスりと笑うと、真琴の頭を一撫でするのであった。

 




―――……ところでこれ、幾らくらいするの?

―――ユニーク装備なので、それなりには……

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