IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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43話 シャルロットのISは?

 シミュレーション上で馬鹿げた結果を見届けた後、真琴は回路図や部品の定数に問題が無い事を計算上で確認すると、試作品を作って貰う為に早速国枝に連絡を取った。

 

『はい、こちらIS学園研究室です』

 

「あ、おひさしぶりです。山田真琴です」

 

 真琴が自分のラボに移ってしまってから職員会議でしか顔を会わせる事がなかった国枝の声が受話器越しに聞こえてくる。

 

『ああ、真琴君か。どうだ? あれから何か変わったことはないか?』

 

「おかげさまで、特にいじょうはありません」

 

『そうか、それはよかった。で? 連絡してきたってことは新しいISや武器の組み立て依頼か?』

 

「ええ、その通りです。今国枝さんのPCに暗号回線でデータをてんそうしているので、作って欲しいんですが……」

 

『ああ、構わない。……今度はどういった物を見せてくれるんだ?』

 

「片方は、ぼくが設計するよていのISにのせるパイルバンカーです。もうひとつは、市販むけに性能をおとしたパイルバンカーです」

 

『パイルバンカー……灰色の鱗殻の出力をUPでもしたのかな?』

 

「それはみてからのお楽しみということで……。注文書をそうふしますので、できあがったら、れんらくをください」

 

『分かった。それじゃ、データも送られてきたみたいだし、早速資材購買部に手配を掛けよう』

 

「よろしくおねがいします。それでは」

 

『ああ、またな』

 

 真琴は国枝が受話器を置いたのを確認すると、早速開発に必要な注文書をシャルロットに作成注文依頼書を国枝宛て送って貰うように指示をした。

 

「へぇ~……。ISの武器ってもっとお金がかかるものだと思ってたけど……意外と安く済むんだねぇ」

 

 具体的な金額を見たシャルロットは、予想以上にコストが抑えられた事に驚いている。とはいえ、今回依頼したランペイジの試作品の値段はゼロが7個もついている。まぁ、ISを一撃で戦闘不能まで持っていくことができる兵器の値段としては、これでも安いのかもしれないが。

 

 余談だが、セシリアのブルースカイに搭載されているBS兵器はもっとお値段が張る。インターフェイス素子はえらく高いのだ。

 

「真琴。注文書の送付も終わったことだし、そろそろお昼にしない?」

 

「そういえばそんな時間ですね。ぼくもお腹がすきました」

 

 真琴が時計を見やると、短針が丁度てっぺんに向かってカチリと移動をする所であった。

 

 

 一方、一年の専用機持ち達は食堂でずるずるとしていた。麺的な意味で。

 

「真琴さん、最近学園の食堂に来る頻度が落ちてきましたわ……。寂しいものです」

 

「何でも、弟君はまた新しいISを作っているらしいぞ? 山田教諭がそう言っていた」

 

 ランペイジの作成に関しては、特に口止めはしていない。その延長上と言う事でISの開発という事にしているだけだ。

 

 山田製作所の防衛ラインは完璧だ。物理的に介入することなどゴーレムに阻まれて無理と証明されている為、残っている手段はインターネット経由で研究所にクラッキングを掛けるしかないのだが……。今までに世界中に諜報機関がクラッキングを試みているが、悉く手痛い反撃を受けて失敗しているのだ。

 

 真琴が許可をしていないアクセスに対しては、真琴お手製の攻勢防壁が反応する。そしてアクセス元を探知して様々なウイルスやワーム、トロイの木馬をまき散らすのだ。

 

 多種多様なウイルスが一気に送付され、真琴にも予期せぬ競合を起こしてとんでもないウイルスへと変貌を遂げる。今までこれでどれだけの機関のサーバーがイカれた事か、その数はゆうに100を超えているであろう。つまり、新しいISの開発に着手したという事実が判明しても、外野は指をくわえて見ていることしか出来ない、という訳だ。まさに、お預けを食らいまくって腹を空かせて涙目になって、それでも餌を与えられない家畜。

 

 しかも、仮にアクセスに成功したとしても、大事な情報に関してはスタンドアローンの端末に保存してある。難攻不落とはこの事か。

 

「また真琴の奴新しいISをつくってんのかぁ……今度は誰の専用機なんだろうな」

 

「ひょっとしたら第3世代の量産機かもしれないわよ? 真琴ならやりかねないわ」

 

「……わたくしのISの様な性能を持ったISが量産されるというのでしょうか……ああ、真琴さんに直接お会いしてお聞きしたいですわ」

 

「ふん、弟君がそう簡単に話す訳が無いだろう。「ISを作っている」という事実が判明しただけでも世界中が引っ掻きまわされるんだ。そんなことしたら世界中の企業がこぞって注文を入れるぞ」

 

「何か真琴さんの力になれる様な事は出来ないものでしょうか……。わたくしは真琴さんに助力をしたいのです」

 

「……なら放課後にでも連絡取ってみるか? 真琴携帯もってないから、千冬姉に聞くしかないけど」

 

「研究所云々を抜きにして、一度弟君の家に行ってみたい物だ」

 

 

 専用機持ち達の昼食は、真琴の話題で持ち切りであった。

 

 

「ごちそうさまでした」

 

「ごちそうさま。さてと……真琴、これから何か予定はあるの?」

 

 今回の昼食はシャルロットお手製のサラダうどんであった。こちらもこちらでずるずると昼食を済ませた訳だ。彼女ははやくも日本の食文化について勉強を始めていた。

 

 食器を洗いながら問いかけるシャルロットに、真琴はテレビを見ながら応えていた。

 

「ん~……ランペイジバンカーだけだとあれなので、あれをさいだいげん活用できるオプションを作ろうかとおもっています」

 

 ランペイジは威力だけ見れば、恐らく現存しているISの武装の中では最高の威力を誇っている。しかし、パイルバンカーと言う物はとても当てづらい。剣なら切る事ができるが、パイルバンカーは突く事しかできないからである。

 

 線と点では面積に大きな違いがある、当てるのにはそれなりの腕と外部からの補助が必要だろう。

 

「シャルロットお姉ちゃんとしては、パイルバンカーを生かすためにどういった立ち回りをするんですか?」

 

「そうだなぁ……遠、中距離用の武器をチラつかせて、相手が近づいてきた所にチャフなり投げて怯ませて相手の動きが鈍った所を狙うか、相手のイグニッション・ブーストを読んでカウンター気味に当てるかだね」

 

「となると……相手のうごきをにぶらせるオプションがゆうこうですね」

 

「まぁ、僕は相手のタイプに合わせて戦うからあくまで灰色の鱗殻は切り札なんだけどね」

 

 シャルロットはクスりと笑う。

 

「基本的にはいままでのコンセプトを外れないほうしんで行ったほうがいいですか?」

 

「そうだね。でも、僕の為に作ってくれるISって第2世代じゃないんでしょ? なにかしらイメージインターフェイスを使った武装も作らないと、なんだか真琴に申し訳ない気がするよ」

 

「むー……そこらへんはおいおい考えましょう。とりあえずランペイジをほじょするオプションを作るので、けんきゅうしつに行きませんか?」

 

「うん、そうだね。オプションか~……何かいいアイデアはないかなぁ」

 

 

 二人は白衣に袖を通しながら研究室へと歩を進める。

 

 新しい武器やISを作る為のアイデアは、至る所に転がっている。ムーンライトや緋蜂が良い例だ。ムーンライトの原理は、マグネットの特性を応用したものである。

 

 そのため、真琴は暇な時間を見つけてはインターネットで色々なゲームや玩具などを探している。これでインスピレーションが浮かべば安い物だ。

 

 ここで、真琴はセシリアが操るBS兵器を思い出した。

 

 あれはイメージでブルースカイを操る物だが、ビット自体が攻撃するものだ。

 

 という事で、無線方式はブルースカイと被るから有線方式と取ればいいじゃんと真琴は考えた。

 

 更に、ランペイジの威力を高める為に前方への推進力に特化したスラスターを2門背中に搭載し、高速で突撃しながらとっつけば威力は更に倍プッシュ!

 

「……その顔は何か思いついたってことかな?」

 

 にへら~……と笑う真琴を見て、シャルロットは苦笑する。ハッと正気に戻った真琴は、今の草案をシャルロットに話すのであった。

 

 

 放課後、一夏達は千冬の元へ向かって居た。

 

 真琴の家に遊びに行く許可を貰う為である。

 

「さて、千冬姉が許してくれるかどうか」

 

「あまり期待しない方がいいぞ。弟君の研究所は国家機密クラスの情報が山程あると容易に想像できる」

 

「研究室に絶対立ち入らないという旨の誓約書や念書を皆で作製するのはいかがでしょうか。それなら織斑先生にも納得して頂けると思うのですが……」

 

「念書ぉ? めんどくさいわねー」

 

 一向は職員室に到着すると、入室する許可を貰い職員室の中へ入り千冬の元へと向かう。

 

 対する千冬は難しい顔をして、コーヒーを飲みながら書類と睨めっこしていた。どうやら厄介事を抱えている様だ。

 

「あの、織斑先生」

 

 一夏が声を掛けると、千冬は書類を読むのをやめて徐に一夏達に向き直った。

 

「どうした織斑。専用機持ち共が勢揃いとは穏やかではないな」

 

「えっと、その、真琴の家に遊びに行く許可を貰えないかと思いまして」

 

 その言葉を聞き、千冬の眉尻がピクりと持ちあがった。

 

「……お前達、それが何を意味しているのか理解した上で聞きに来たのだろうな」

 

「はい、必要なら皆で念書や誓約書を作成しても構いませんわ。真琴さんが幾ら世界最高峰の研究者とは言えまだ子供、友達と遊ぶ機会を設けた方がいいと皆で決めましたの」

 

「教官、これは決してスパイ行為ではありません。研究所に入る前にボディーチェックを設けても構いません」

 

「まぁ、あの年で籠るのは良くないと決めたわけなの……訳です」

 

 千冬は一夏達の目に秘めたる意思を確認した後、腕を組みながら瞳を閉じて考え始めた。

 

 一夏達に緊張が走る。本来緊張する必要など何処にも無いのだが、千冬と対峙するとどうしても皆固まってしまう。何か粗相があったら容赦なく真琴印の出席簿が頭に降り注ぐから。

 

「……今日明日は無理だ。だが、日曜日なら不可能ではない。真琴君に連絡を取ってみる。お前らは誓約書の準備をしておけ」

 

 友達と遊ぶだけなのにこの厳重さ。つくづく真琴の異常性を思い知らされる一同であった。

 

 

「……ねぇ真琴、これってすっごく悪趣味じゃない?」

 

「そうですか? ぼくとしてはけっこう気に入っているんですけど」

 

 真琴とシャルロットは、先ほど話をした草案を書きだして、一つに纏めた。

 

 拡張領域に関しては、コストに糸目を付ける必要はない。最高の物を使用すれば、ラファールの4~5倍まで広げる事ができる。

 

 シャルロットが中・遠距離で戦う為に必要な武装を全て搭載したとしても、残りの拡張領域は5割以上空いている。

 

 そこに、先ほど纏めた武装を搭載するという訳だ。

 

 ちなみに、シャルロットのISの武装は

 

・ランペイジバンカー

・有線方式のビット。このビットからは特殊な合金でできたネットが発射される。

・前方への推進に特化した大型のスラスターを2門

・ピンポイントバリア

・他、多数の汎用装備

 

 といった具合だ。

 

 ちなみに、ランペイジバンカーとビットに関しては完全にシャルロットのISの専用装備だ。他のISに搭載する気は、真琴には全く無い。

 

 戦闘開始直後は今までの武装で様子見。好機が訪れたらビットからネットを発射し、相手に絡ませて動きを鈍らせる。そこに超速で突進し、ランペイジでとっつくというコンセプトだ。

 

 現行のISでは、これら全ての武装を搭載するのは不可能である。真琴や束の技術を持ってして、ようやく完成できるというレベルだ。

 

 このISは、どの様なタイプのISとも連携が取れ、相手にすることもできる。

 

 ようはいたぶって弱らせた所に最高の一撃を叩き込むという事である。優しい性格のシャルロットにこのコンセプトは少々酷かもしれない。

 

「……これ、どの局面にも対応できるね。僕が今まで載っていたラファールの完全上位互換かな」

 

「デュノア社のカスタム機にまけているところは一点もありません。ぼくの勝ちですね」

 

「このISの名前は決まっているの?」

 

「んー……実はまだ決まっていないんです。どうしましょう?」

 

「どうしましょうって……僕が決めてもいいの?」

 

「シャルロットお姉ちゃんの専用機ですから、おねがいします」

 

「た、大役だぁ……」

 

 

 




―――ところでラウラさん。ここの所、真琴さん成分が足りていませんこと?

―――ん? ……ああ、そうだな

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