IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~ 作:+ゆうき+
シャルロットは頭を抱えてしまった。行き成り仰せつかってしまった役目を前に尻ごみし、一度は断ろうと考えていたのだが、キラキラと期待の眼差しを向けてくる真琴を見て、最早戦略的撤退すら不可能という事実を悟り、何かいいアイデアはないものかとパソコンを弄り始めた。
「ねぇ、真琴」
「はい、なんですか?」
「真琴は……僕の為にこのISを作ってくれるんだよね?」
「はい。シャルロットお姉ちゃんのみをまもる為には、どうしても必要な物です。……その、ついでに僕もまもってもらえたらなぁと」
両手の人差し指をつんつんしながら、真琴は少しだけ上目使いでシャルロットに答えた。相も変わらず真琴の仕草には至る所に爆弾が隠されている様だ。
そんな様子を見て、シャルロットにダメージが行かないはずもなく。当然、シャルロットの顔には急激に熱が集まり始める。
(……沈まれ沈まれ沈まれ! やっぱ真琴の上目使いは卑怯だよ、ううっ)
赤くなった顔を見られたくないのか、シャルロットは真琴を腕に抱き、頭を撫でくり回し始めた。
「えっと、シャルロットお姉ちゃん?」
「……馬鹿だな真琴は。そんな事今更じゃないか。僕はもう真琴をずっと守るって決めたんだ」
「……うん、ありがとう」
嬉しそうに目を細める真琴。この笑顔こそ、シャルロットだけではなく、真琴を護衛する全ての存在が求めている物なのだろう。真琴という小さな研究者は既に世界の大きな渦に巻き込まれてしまっている。彼が研究者としてIS学園に所属した時から、既にこの流れから逃げ出す手段など、何処にも残されていなかったのだろう。
今、真琴はとても充実した生活を送っているとシャルロットは思っている。しかし、真琴から聞いた様に敵はIS学園の中にも送り込まれている。その充実した生活を脅かす存在から真琴を守るだけではなく、疲れてしまった真琴を癒すための存在になりたいとシャルロットは強く願った。
(うん、決めた。僕のISの名前は……)
と、その時。がさごそと屋上から物音が聞こえてきた。この建物は厳重な警備が敷かれているため、恐らくそ束が何か行っているのだろう。
その考えは見事に的中。行き成り天井の一角がパカりと割れ、梯子がゆっくりと降りて来た。そして、すぐにウサ耳(大)が何やら小脇に抱えながら降りてきたのだが、右足を見事に踏み外した。
「おおう!? お、落ちるぅ~!」
その後は想像に難くない。盛大に慌てふためく束を助けようと真琴は束の元に掛け出したのだが、彼の体型を考えると、落ちてきた束につぶされてしまう。シャルロットは真琴を引き留め、事の成り行きを見守る事にした。
(篠ノ之博士には悪いけど、真琴の身が第一。博士には自分で何とかして貰おう、うん)
「ま、まーちゃんたすけ……あー! ぐふうっ」
助けを求める、限界を迎え落下する、着弾。と綺麗に3段活用が出来たところでシャルロットは真琴の拘束を解いた。
「い、いたぁ~い……。くそぅ、まさか足を滑らすとは……不覚」
尻もちを突いた体制でタパーと涙を流しながら腰を労わる束。本当にこいつがISの生み親なのか?と疑いたくなる程間抜けである。
「こんにちは束さん……あ、あの、だいじょうぶですか」
「ん? おお、まーちゃんではないか! 今日はまーちゃんにプレゼント。はい!」
小脇に抱えていた箱から、機械仕掛けの小さなリスを連想させるそれを取りだした束は、なにやら嬉しそうに解説を始めた。
「その子たちの中にはとあるレアメタルが入ってるから、後一つ何か食べさせてあげれば“アレ”が完成するよ」
「ええ、“アレ”ですね」
「アレ」の意味をすぐに理解した真琴は、ニコニコと微笑む束に微笑み返す。
「うんうん、それで? 新しいISはどれくらい出来てるのかな?」
「ど、どうしてそれを……」
「だって、PCのディスプレイにそれらしいデータがあるしねぇ」
「あっ」
真琴のうっかりスキルが火を噴いた。まぁ、束になら見られても何の問題も無いのだが。
「パット見た所オールレンジに対応したISっぽいけど……なかなかどうして、まーちゃんもエグい武装を取りつける予定みたいだねぇ、うん」
「りろんじょう、ピンポイントバリアを取りつけていないISなら一撃で落とせます」
「やっぱり普通のパイルバンカーじゃないね、二つの杭が有るってことは……なるほど、エネルギーを暴走させるって訳か」
「そのとおりです。極性をバラバラにすればエネルギーはとても不安定になるので、
不安定になったエネルギーとあいてのシールドエネルギーを混ぜることにより、暴発させようと思っています」
「なるほど、なるほど。新しいISの主武装はそのパイルバンカーってことか」
「あ、あの……」
二人の天才はシャルロットの存在を記憶の彼方に追いやってしまった。ランペイジと新しいISに穴が無いか探しだしたのだが、これがまた長い。ウサ耳ズが会話を始めて既に30分が経っているのだが、その勢いは留まる事を知らず、話はどんどんヒートアップして行くのであった。
◇
「それじゃまーちゃん、またね!」
「はい、それではまた」
「あっ……」
シャルロットの返事を待たずして束は元来た梯子を上って行った。そして何事も無かったかの様に閉じる天井。何時の間にそんな仕掛けが作られていたのやら。
時刻は既に夕方に差し掛かっていた。あれから二人の議論は更に白熱し、問題点を束が列挙、それに真琴が反論、束が論破、シャルロットがお茶くみ。と、忙しなく時間は過ぎて行った。
そしてようやく一段落つき、二人は居間でお茶を啜っていた時だったのだが、不意に連絡を告げるコール音が響いた。
山田邸の電話は、外線と内線とIS学園からの連絡でコール音を変えている。どうやら今回はIS学園からの連絡の様だ。
「ぼくがでます」
大抵は千冬からの連絡なのだが、万が一一夏達からの連絡だった場合シャルロットが応答してしまうと大問題だ。
「はい、山田製作所です」
『真琴君か? 私だ』
電話の相手は千冬だった。
「千冬さんですか? おつかれさまです」
『おう。今大丈夫か?』
「はい、だいじょうぶですけど……どのようなご用件でしょうか」
『実はな、一夏達一年の専用機持ちがそっちに遊びに行きたいらしい。大丈夫か?』
「えっと……う~~ん」
当然、問題ありだ。此処には色々な機密情報がある。万が一漏えいでもしたら、世界のパワーバランスが一気に傾いてしまう。
『真琴君が言いたい事は分かる。あいつらには「研究室には絶対に立ち入らない。情報を持ち出すこともしない」といった旨の誓約書を準備させている。それでも無理か?』
「それでしたら問題ありません。一応こちらでも研究室にはセキュリティをかけておきます。それで、いつごろになるんでしょうか」
『明日はデュノアの手続きがあるから無理とあいつらには伝えてある。明後日、つまり日曜日だな。何か予定とか入っているか?』
「日曜日……たしか簪さんが撃鉄弐式のメンテナンスにこちらに来るよていですが、とくに問題はないですよ」
実は、先日楯無から山田製作所に簪のISを見てくれないかと連絡が入っていたのだ。シャルロットの亡命云々が終わる日曜日なら大丈夫だと楯無には伝えてある。
『更識か……。まぁ、あいつらとは正式に同盟手続きを踏んでいるから問題はないか』
「はい。ですので、日曜日ならだいじょうぶですよ」
『分かった。あいつらには日曜日の午後からという連絡をしておく』
「わかりました。それでは」
『ああ、ではな』
真琴が受話器を置いてソファーに戻ると、シャルロットが心配そうにい真琴を見つめていた。
「真琴、此処に一夏達が来るの?」
「はい。シャルロットお姉ちゃんの亡命てつづきがおわってからですけど」
「あ、それなら大丈夫だね。明日とかだったら手続きに影響しちゃいそうだったから
ちょっと心配だったんだ」
「その点はぬかりありません。ところで話はかわりますけど、シャルロットお姉ちゃんにわたす予定のISの名前はきまりましたか?」
「あ、忘れてた。そうそう、篠ノ之博士が乱入してきてうやむやになっちゃったんだけど、ちゃんと決めてあるよ。……名前は、アンフィニ・オリゾン」
「えっと、フランス語ですか?」
「うん、フランス後で「無限の水平線」っていう意味。絶望の底に落とされていた僕だったけど、真琴や織斑先生のおかげで空を飛べる様になったんだ」
「……空からながめたふうけいということですね」
「うん。だから、ISのデザインについては僕にも口を出させて欲しいんだけど、良いかな?」
「それはもちろん。こちらからお願いをしようかと思っていたところですし、なんの問題もありませんよ」
「ふふ、ありがとう真琴。……さてと、それじゃ僕は晩御飯の準備に取り掛かるよ」
「わかりました。それじゃぼくは研究室にいますね」
こうして、シャルロットが新しく乗るISの名前が正式に決まった。
後は構想をISに反映して作成するだけとなったのだが、如何せん人手が足りない。恐らくIS学園の研究員を総動員してテストする事になるだろう。
ロールアウトはもうしばらく先になるであろうが、目を瞑れば、そこにはISに載って大空を駆け巡るシャルロットの姿が容易に想像出来た。
――これで山田製作所預かりのISは2機か
――さすが真琴さんですわ。一国家に匹敵する戦力をこうも簡単に集めるとは……