IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

5 / 50
5話 真琴とラファール

授業が始まってまだ二日目と言うことで、今日のカリキュラムは特別に一日ISフルコースとなった。正に鬼教官千冬である。それと言うのも、真琴のメンテナンスは一日作業になるからである。通常なら二コマ(2限)なのだが、それでは一般の研究員と同程度しかチューンアップすることはできない。というか、真琴に対して何気に甘いちーちゃんであった。

 

セシリアは教室移動をする間、ほぼずっと真琴を視界に納めていた。姉である真耶に手を引かれおずおずと歩く姿は気弱な小学生にしか見えない。真耶が手を離し千冬と授業について話始めた時、真琴が盛大にすっ転んだ。

 

どべちっ

 

 

10秒程うずくまってプルプル震えた後、血が出ている膝をそのままにして。皆に遅れないように必死にあるいていた。まぁ本人は必至なのだろうが傍から見たら○山動物公園のペンギンがよちよちと散歩しているようにしか見えない。さすがにこれを見て不憫に思ったのか、セシリアは助け舟を出してやることにした。

 

「ほら、擦り剥いた所を見せてごらんなさい」

 

「……だいじょうぶデス」

 

皆に迷惑をかけないように必死なのだろう。軽く涙目なのだが、セシリアは気づかないふりをすることにした。

 

「大丈夫ではありませんわ。こんなに血が出ているではありませんか」

 

よく見ると血は膝から足首近くまで垂れていた。これは痛そうだ。

 

「皆さん、先に行っていて下さい。わたくしは真琴さんの治療をしてから追いかけます」

 

「はいはーい。せんせー! セシリアさんちょっと遅れるそうです!」

 

……その伝え方はどうかと思う。すこし簡潔すぎやしないかい。

 

「セシリアさんがですか? えっとどういった用事で……あれ、まーくんどうしたの?」

 

「……ころんだ。」

 

「! ちょっと見せてね……あー結構深いなぁ」

 

「どうした山田君……ああ、転んだのか。どれ、見せてみろ」

 

教師や生徒などがゾロゾロと駆け寄ってくる。しかし、決して客寄せパンダなどではなく、皆のポケットに入っているティッシュや、教師陣が持ち歩いていた救急箱などを持ち寄り的確に治療していく。ISの授業では専用機持ちはともかく、汎用機ではいまだに怪我をする生徒が後を絶たない。真琴の擦り剥いた怪我は僅か1分程で治療された。

 

 

「ふむ、これでいいだろう。他に怪我をしたところはないか?」

 

「だいじょうぶです。ごめいわくをおかけしました」

 

ぺこぺこと皆に頭を下げる。そのまま上目使いでお礼をするもんだからもう、おねいさま方にはさぞかしクリティカルな一撃になっただろう。うっと鼻を押さえる生徒もいれば、顔を赤くして「かわえー・・・」などと呟いている生徒もいた。

 

「セシリアさん。ありがとうございました。」

 

「お気になさらず。これくらい当然ですわ。」

 

初めに手当てを始めてくれたセシリアにもお礼を言ったのだが、プイっとそっぽを向かれてしまった。その時のセシリアの頬は、ほんのりと赤くなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

痛かったぁ~……。泣きそうになっちゃった。次から気をつけないと。

 

 

今回はどっちの機体のメンテナンスを行うことになるのかな。打鉄かな? ラファールかな? う~っ、早くISに触りたい!

 

 

 

でも、なんでだろ。なんで織斑先生が僕の手を握っているんだろ?

 

「また転ばれてはかなわんからな。それに、私とてたまには癒しが必要なのさ」

 

……僕ってそんなに危なっかしく見えるのかなぁ。

 

それにしても、なんでみんな水着なんだろ? 僕も着てきた方がよかったのかな。ちょっと聞いてみよ。

 

 

「織斑せんせい。しつもんしていいですか?」

 

「なんだ。答えられる物と答えられないものがあるぞ?」

 

「えっとですね、なんでみなさんみずぎなんでしょうか」

 

「ああ、それは水着ではなくISスーツだな、ISスーツは量子変換された状態でISに登録されるんだ。ISを起動するとき自動的にスーツと服装が入れ替わる。ただこの機能はエネルギーを1割程消費してしまうんで、効率の関係からスーツを着用してからISを展開するのが一般的なんだ。まぁ、この機能は専用機だけだがな」

 

「どれくらいのしょうひになれば、じつようレベルになるんでしょうか」

 

ありゃ、なんか黙りこんじゃった。何か真剣に考えてるなぁ。

 

「そうだな……。10%の消費でシールドが600から540になるとして、痛手に感じないのは590。約2%まで消費が押さえられれば実用レベルと判断できる」

 

「わかりました。2%ですね」

 

「ふっ、早速仕事ができたようだな。まぁこれは専用機持ちじゃないと無理だからオルコットか織斑に協力してもらえ」

 

あ、早速お仕事もらえたみたい。でも協力してもらえる時間なさそー……。専用機かぁ、確か、一組ってセシリアさんしか専用機持ちいないんだよね。協力してもらえるかなぁ。

 

 

「あ、あとシールドバリアーについてなんですけど」

 

「どうした?何か不具合でも見つけたのか」

 

「あ、えっとですね、ふぐあいというわけではないんですけど・・・。せんようきをおもちのかたとかにいいとおもうんです。シールドバリアーはふつう、のっているひとをちゅうしんとしてボールじょうにてんかいしますよね?」

 

「ああ、そうだな。常に展開している。一応、宇宙空間でも活動することを想定しているからな」

 

「ぼくがいまかんがえているのはですね、ちじょうせんようなんですけどビームやじつだんなどをかんちして、ぶぶんてきにしーるどをてんかいできないかなぁと。これならエネルギーしょうひをおさえられるんじゃないかとおもうんです」

 

「……なるほど。まだ何処の国も宇宙で活動できるほど高性能なISは作れていないからな。部分的にシールドを展開することで一撃辺りの負荷を軽減させる狙いか。しかしそれだと、ISのスロットに空きが……そうか! だから専用機なのか!」

 

「あ、はい。せんようきならすろっとがいっぱいあるので……」

 

な、なんか織斑先生に撫でられてるんだけど。ほわ~……きもちいい……。

 

「君の発想力には脱帽させられっぱなしだな……。国枝には連絡をとっておこう。手が開き次第すぐに取りかかるといい」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

 

 

許可おりたー! 

 

 

 

 

一年一組御一行はアリーナに到着した。真琴はというと、早速パソコンを開き物凄い勢いでタイピングし始めた。アリーナに向かっている道中で研究所からパソコンが届いたので、早速先ほどの構想を形にし始めていた。

 

現在の専用機持ちはセシリアしかいないので、早速セシリアにお願いすることにした。

 

「あの、セシリアさん。ちょっといいですか?」

 

「なんですの?手短にお願いしますわ」

 

「あ、はい。えっとですね。もしきょうのメンテナンスでぼくをみとめていただけたら、これからあたらしくつくるそうびのテストパイロットになってほしいんです」

 

「わたくしが認めたという仮定の上に成り立つ話しですが……。そうですわね、装備の内容によりますわ」

 

「わかりました。げんざいせんようきもちがセシリアさんしかいないので、きかいがあったらよろしくおねがいします」

 

真琴はぺこりと頭をさげて作業へと戻って行った。

 

 

 

そして授業が始まったのだが、千冬は最初にセシリアにラファールと打鉄の2機あら好きな方を選ばせた。選んだ方のメンテナンスを真琴に行わせて、その評価をしてもらうという形だろう。

 

「さてオルコット、ここに汎用機が2種類ある。好きな方を選んでグラウンドを一周してこい」

 

「分かりましたわ。第2世代に乗るというのは気が進まないのですが、わたくしが言いだしたことですからね。……それでは、ラファールを」

 

その言葉を聴いた真琴は、心なしか目がキラキラしていた。

 

 

(うん、ラファールならまだ触ったことない! どんな構造になってるんろ~……。早く分解したいなぁ。)

 

 

 

そしてセシリアがグラウンドを一周して戻ってきた後、真琴はおもむろに作業に取り掛かった。

 

先ず取りかかったのは、打鉄と同じくレスポンスの向上である。細かい所は違っているが。基礎部分はどのISも同じなのでこの作業についてはさっくりと行われた。次に行ったのは、4枚のスラスターの出力調整とエネルギー充電速度の向上である。4つのスラスターから放出されるエネルギーの指向性を見直し、最適化を行った。一日でできる作業などたかがしれているので、これ以上の改善は後日行うことになった。

 

 次は充電速度と効率の改善である。充電する素子を見直し、回路全体と比較して最も良くなるであろう素子を100個の部品の中から選定。これを組み直して充電速度についての改善は終了した。

 

次に効率。じつはこれが最も苦労する部分である。効率というものは、回路上の色んな素子が悪さをし、入力100に対してどうしても出力は90とか95くらいまで落ち込んでしまう。ここで真琴はなんと、悪さをしているであろう素子を全て取り除いてしまったのである。そして入力方式を変換する部品を組み込み、その後に回路を組み直した。これだけで効率は95から98までUP。多分突き詰めれば99.9くらいまでいけるだろうが、限られた時間の中ではそうもいかない。既に時刻は午後2時を回っている。一度手を止めて辺りを見回してみると、そこには心配そうに昼食をもった真耶と、苦笑している千冬がいた。

 

「あ、すいません……。ついぼっとうしてしまって」

 

「いや、かまわんよ。それにしてもすごい集中力だ。私達が何回話しかけても全く気付く様子がなかった。それに、どうせ空腹感もなかったのだろう?」

 

「まーくん、ちょっと休憩挟もっか」

 

そう言いながら、真耶はオイルなどで汚れた真琴の顔をハンカチでぐしぐしと吹き始めた。目をつむっておとなしくしている真琴を見て、生徒達が和んでいたのはまた別の話。

 

 

「あ、ひょっとして、織斑せんせいとお姉ちゃんもごはんまだなの?」

 

「なに、技術者が一生懸命メンテナンスをしているのに私達だけ先に食事を取るのに気が引けただけだ」

 

「まーくんは気にしないでいいの。さ、ご飯にしよ!」

 

近くのベンチで3人は遅い昼食を取ることにした。

 

「さて、真琴君。現在の進捗状況はどうなっているんだ?」

 

「えっとですね。さすがにコアまでいじるじかんはないので、スラスターのしこうせいと、じゅうでんそくどのかいぜんと、ラファールぜんたいのこうりつのかいぜんをおこないました」

 

ここで、爆弾が投下された。コアを弄るという言葉を聞いて、千冬と真耶は霧吹きマシーンと化す。ああ、二人の顔の前に虹が見える。

 

「げほっげほっ・・・! ま、真琴君、今なんて言った?」

 

現在、コアというものは完全なブラックボックスとされていて、並みの研究者では手が出せない代物となっている。全世界に467個しかなく、コアの製作者である篠ノ之束はもうこれ以上コアは作らないと明言しているため、下手に触れないのだ。それをいじるといいだしたのだから、真琴の大物っぷりが伺える。

 

 

「ごめんなさい、じかんがたりないんでコアまではいじれなさそうです。もうちょっとじかんがあればなぁ」

 

「「……。」」

 

 

千冬達は信じられないといった表情で真琴を見つめていた。

 

 

 

 

さて、昼食も終わり作業再開といった所なのだが、作業中の真琴にセシリアが話しかけてきた。先の一件で話しがあるのだろう。

 

 

「真琴さん?ちょっとよろしいかしら」

 

「……。」

 

しかし返事はない。

 

「ん“ん”っ。真琴さん?」

 

「……。」

 

ひくくっ。セシリアの眉が引き攣った。このガキんちょわたくしを無視するつもりなのかしらと言わんばかりに。

 

「ちょっと真琴さん?」

 

声に怒気が含まれ始める。が、真琴は答えない。そんな様子を見ていた千冬はセシリアの元へ歩み寄って行った。

 

「オルコット。何をしている」

 

「織斑先生! 真琴さんに何かいってやって下さいな! わたくしの事を一方的に無視するなんて信じられませんわ!」

 

「ん? ああ、そういうことか。……そういえば対処法を聞いてなかったな。ちょっと待ってろ」

 

そういうと千冬は、生徒にISの解説をしている真耶の元へ歩いて行った。

 

「山田君、少しいいか?」

 

 

「あ、はい織斑先生。どうしたんですか?」

 

「集中して自分の世界に入ってしまっている真琴君を気付かせるにはどうしたらいいのかと思ってな……」

 

真耶は苦笑していた。確かに、対処法が分からないと何をしても意味がないだろう。

 

「えっとですね。ああいう時は甘い匂いのするお菓子とか飲み物を近くにもっていくと気づいてくれますよ」

 

「山田君も苦労したのだろうな。オルコットが一方的に無視されたと怒っていたところだ」

 

「いえいえ、可愛い弟ですから。苦労とは一度も感じたことはありませんよ」

 

「そうか、では私は何か飲み物でも用意するとしよう」

 

 

 

 

 

 

―――その頃真琴とセリシアはというと―――

 

(これは無視なのかしら?違いますわね。・・・物凄い集中力ですわ)

 

どうやらセシリアも異変に気付いたようだ。

 

(近くでしゃべっても気づかないものなのですね……。ち、ちょっと悪戯をしてみようかしら)

 

むにっ。試しにほっぺをつまんでみた。

 

(!! やわらかい……。すべすべぷにぷにですわ。ああ、気持ちいい……)

 

むに~。むいっ。

 

(むぅ、うらやましいですわね。どうしたらここまですべすべになるのでしょうか)

 

むにゅっ。スパァン!

 

「きゃうっ!」

 

「何をしている馬鹿物」

 

セシリアが振り返ると、そこにはエクスカリバー(出席簿)を振りぬいた鬼教官(織斑千冬)が佇んでいた。

 

「技術者で遊ぶな。……本当にこれで気づくのか?」

 

千冬はホットココアを真琴に近くへ持って行った。するとどうだ。今まで完全に無表情で目から光を無くしてパソコンのディスプレイにかじりついていた真琴がピクリと反応した。徐々に真琴の瞳に光が戻る。キョロキョロと辺りを見回し、千冬が持っているココアを見つけると物欲しそうな目でココアを凝視していた。千冬は試しにココアを右に左にと移動させてみると、それにつられて真琴の視線も移動していた。

 

 

「織斑先生、わたくしには遊ぶなと言っておきながら……」

 

「……真琴君、少し休憩をいれたらどうだ?ほら、差し入れだ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「それでは、私は生徒の指導に戻る。オルコット。もうすぐラファールのチューンが終わるみたいだ。試乗して驚くなよ?」

 

「楽しみですわ。それでは、ごきげんよう真琴さん」

 

 

 

 

 




―――あの子がISを改造したと言うのも眉唾物ではない様ですね……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。