IS《インフィニット・ストラトス》~やまやの弟~   作:+ゆうき+

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6話 魔改造はっじまっるよー

時刻は午後3時半。一日がかりでようやく真琴によるラファールのチューンが終わった。

社会人からしたらまだ半日だろとか突っ込みたくなるが、学生にとってはだいたい15時半くらいが終わりだろう。

 

 さて、いよいよラファール=リヴァイヴmk2(真琴命名)のお披露目である。外見的にはほとんど変わっていない。強いて言うなら4枚のスラスターの角度だろうか。しかし中身は全くの別物である。反応速度は実に30%UP。前日の打鉄の経験があってこその結果といえるが、格段に性能は上がっている。

 

 次にエネルギー充電速度である。急速な充電+大容量になったため、なんと第2世代のISにして4枚のスラスターが個別に連続瞬時加速(イグニッションブースト)が行えるようになった。

 

 エネルギー効率も98.2%を記録した。これはエネルギー充電速度に直結するため、最低でも98%を越えなければならなかったため、ギリギリ及第点という形で落ちついてる(真琴談)。効率が改善されたおかげで平均飛行速度も1.2倍になっている。

 

スロットについてもおまけで拡張領域を1.5倍に増やしている。最早ここまで来るとmk2などではなく外見も変えて全くの別機体にするべきではないか。全体的な性能をみても、すでに第3世代と肩を並べている。あとは個別の武装だが、そこはまぁ、ISに乗る人の好みということにしておこう。

 

とまぁ、ここまでオーバースペックになると最早一年生に扱えるレベルではない。試乗者はセシリア=オルコットという事になっているが、その後は2~3年生の代表候補生辺りに回されるだろう。

 

とまぁ、ここまでつらつらとラファール=リヴァイヴmk2の性能について述べたが、この説明と全く同じことを真琴は皆の前で行っていた。ぶっちゃけ、これはメンテナンスじゃなくなっている。いつの間にか途中から完全なチューンアップになっているが、まぁ、ほら、そこは誰も気がつかなかったということで。

 

この説明を聞いてセシリアを含む生徒達は顔を青くしていた。なんだこの馬鹿げた技術者は。たかが一日でここまで機体の性能を上げる事ができるのかと。

 

そんなセシリア達を横目に、千冬はニヤニヤと笑っていた。

 

「さて、真琴君の説明も終わったことだし、……オルコット。早速それに乗ってグランドを一周してこい。吹っ飛ぶなよ?」

 

「わ、わかっていますわ!」

 

言わずもがな。無理にイグニッションブーストを行い、ポンポンと空中でラファールに遊ばれるセシリアを皆は目にする事となった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これで真琴君の実力が実証されたと思う。一同、これからは敬意を払うように!」

 

HRが終わった後、真琴は研究所に戻ろうとしていた。そこに、空中でしっちゃかめっちゃかにされて髪の毛がボサボサになったセシリアがヨロヨロと真琴に近づいてきた。

 

「ま、真琴さん。少しお時間よろしくて?」

 

「あ、えと、はい。大丈夫ですよ。そのまえに髪の毛をなおされたほうが……」

 

「まぁ、小さいのにしっかりしていますのね。。小さな紳士(ジェントルマン)?どこかの猿(一夏)とは大違いですわ」

 

それを聞いてピクッと反応した一夏だったが、どうやら厄介事に巻き込まれると判断したのだろう。特に何も言わず箒と呼ばれた女性と会話を続けていた。

 

「あ、あの。ここでまっていますから……」

 

「ふふっ、それでは少々お待ちになっていてください」

 

 

(あれ? なんかセシリアさん優しくなったかな? 僕何かしたっけなぁ……。まいっか。これでセシリアさんが専用機見せてくれるといいんだけど……。今の内に打鉄のアイデアだしとこっと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 セシリアが髪を整えて教室に戻ると、そこには瞳の光を亡くし、無表情でパソコンを見つめながら物凄い勢いでタイピングをしている真琴の姿があった。周りにいる生徒達も次は何を作るのかと興味津津なようだ。声をかける生徒もちらほら見受けられたが、無視されたと勘違いして肩を落としていた。

 

 

「皆さん、それでは真琴さんは気づいてくれませんわ。彼の集中力は尋常ではありません。誰か、甘い匂いのするお菓子か飲み物を持っていませんこと?」

 

「あ、おやつで食べようと思ってたドーナツが余ってるよ。はい、セシリアさん」

 

(うふふ、今度はわたくしが真琴さんを呼びもどして差し上げますわ)

 

 そして、ひょいっと真琴の顔の横にドーナツを差し出すセシリア。すると先ほどと同じ様にピクりと反応し、ゆっくりと瞳に光が戻って行く。そしてキョロキョロと周りを見渡し近くにドーナツがあると分かると、食べたそうにドーナツと持ち主であるセシリアを見比べていた。

 

(ああ、癒されますわ……。こういうのを「癒し系」というのかしら。)

 

「……。」

 

 自分から決して催促はしない。まるで子犬の様な真琴を見て。クラスメイト一同は胸がきゅんきゅんしていた。

 

 しかし、ここで我慢しきれなくなったのか、真琴は差し出されたドーナツにパクりと噛みついた。そしてそのまま幸せそうな顔をしながらハムハムとドーナツを食べる姿を見て、一夏を除くクラスメイト全員が母性というか、庇護欲をかきたてられた。

 

「おいおい、手を離してやれってオルコットさん」

 

 そんな中一夏はさすがに真琴がかわいそうになったのか、苦笑しつつも助け舟を出してやることにした。悦に入って気付かなかったセシリアだが、さすがに今のお嬢様的状況を把握してハッと気づいて辺りを見回していた。

 

「……ハッ!申し訳ありません真琴さん。そのまま自分でお食べになって下さい」

 

 セシリアが真琴にドーナツを手渡すとコクコクっと頷き、汚れを知らない純粋な微笑みを浮かべ、ドーナツを両手に持ちながらハムハムと食べ始めた。

 

 

 

 ドーナツを食べ終わるまで、セシリアは真琴の隣の席に座り一部始終を見守っていた。口が小さいため、小刻みにドーナツを噛みちぎるその様はまるでリスそのもの。これで犬耳でも装着していたら間違いなくクラス中に黄色い悲鳴が湧きおこるだろう。

 

「ごちそうさまでした。セシリアさんありがとうございます」

 

 ぺこりとお辞儀する真琴を見て、セシリアは目を細めていた。

 

「お気なさらないで下さいな真琴さん。私も良い物を見させていただきましたわ」

 

 何を言われているのか分からないようで、真琴はまた頭の上にハテナマークを浮かべながら首を傾げていた。

 

「ふふっ、それでは、本題に入りたいのですが、いかがでしょうか?」

 

「あ、はい。どういったごようけんでしょうか」

 

 セシリアは驚いていた。まだ8歳だというのに丁寧な物腰、女性を気遣う優しさ。そして、研究を始めた時の彼の瞳。少しだけ見惚れていた。

 

 セシリアは弱い男は嫌いだ。その原因は彼女の幼少の頃に起因する。名家に婿入りした父。母には多くの引け目を感じていたのだろう。セシリアは将来「情けない男とは結婚しない」と決めていた。

 

 

―――そして出会った―――

 

 子供とはいえ、飽くなき探究心、何を考えているか分からないミステリアスな黒い双眸、そして

 

 

 彼が集中し始めた時の瞳の変化

 

 

 集中を始めた時、辺りの空気が一変するのだ。キィ―ンと、まるでカメラのレンズの様に瞳が変化する。そして、何者も寄せ付けない雰囲気。

 

 

 確かに、真琴は体力的には弱いだろう。成長してもこれは余り期待できない。しかし、セシリアが将来の伴侶に臨んでいるものは、心の強さ。セシリアに冷たくあしらわれても己の探究心の為に諦める事がない不屈の心。女尊男卑の世間で名家の跡取り娘相手にここまで言える物ではない(彼は知らなかっただけだが)。

 

 様々なファクターが入り混じり、セシリアは真琴を将来の伴侶にしてもいいかなと思い始めていた。実際、7歳しか離れていないのだし彼が18歳になった時セシリアは25歳だ。なにもおかしくはない。

 

 とまぁ、徐々に思考が危ない方向に進みつつあるセシリアであったが、少しずつ真琴に惹かれていった。もともとショタ気質が会ったのかもしれないが。

 

……話が逸れた。

 

 セシリアは、自分の専用機のメンテナンスとチューンアップをお願いすることにした。ラファールでさえあの変わり様だ、専用機で同様のメンテナンスを行ったらさぞかし性能が向上するに違いないと踏んでいた。

 

 この要望に真琴は

 

「あ、はい。分かりました。それじゃあですね、ぼくが考えたあたらしいパーツのテストもおねがいしてもよろしいでしょうか」

 

「かしこまりました。それでは、メンテナンスの後新しいパーツのテストという流れでいかがでしょう?」

 

「はい、わかりました」

 

 そう言って真琴は朗らかな笑みを浮かべた。天使の様な笑顔に思わずセシリアの鼻から愛が以下略。

 

 その後、二人は研究所に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「イギリス代表候補生、セシリア=オルコットですわ。本日はメンテナンスをお願いしに来ましたの。ああ、真琴さんの許可はいただいております。どうか、よろしくお願い致します」

 

 さすが、令嬢といった所か。堂に入っている。研究者たちも慌てて挨拶する。セシリアは研究者達を尻目に、真琴に割り当てられたデスクに移動し、早速打ち合わせを始める事にした。

 

 

「それではセシリアさん。あなたのせんようきのスペックをくわしく知りたいんですけど……」

 

「恐らく、学園のサーバーに保管されているはずですわ。……そう……一年一組のフォルダです……。! こ、これは違います! 見ないでください!」

 

 何故かセシリア=オルコットの専用機のフォルダに本人の詳細情報が記載されているファイルも一緒に入っていた。……結構あるんだな……胸。

 

「あ、これですか?すいません、ちょっと失礼しますね」

 

 

 

 

 

 15分後、真琴はスペックの確認を終えた。全長、重量、連続稼働時間、搭載武器、最高速度、などなど。

 

一通り見た後、セシリアに所感を述べた。

 

「えっとですね。申し訳ないんですけれど、このじょうほうだけではメンテナンスしかできないです」

 

「あら、どうしてですの?」

 

「この情報にはあくまでスペックしかのっていません。しょうさいな情報となるとこっかきみつなので、そう簡単にわたしてはくれないとおもうんです」

 

「……そうですわね。それでは、わたくしはイギリスの研究所と連絡を取ってきますわ。翌日、結果を報告いたします。」

 

「すいません。とりあえずメンテナンスだけはしておきますね」

 

「ええ、お願いしますわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(失念していましたわ。確かに第3世代は国家機密。確かにそう簡単にはチューンアップできませんわね……。契約書などを交わしたら……いやそうしたら真琴さんの身に危険が)

 

 セシリアは帰り道で何とか学園サイドで改造ができないかと考えていた。

 

 

(ああもう! どうしたらいいんですの!? とりあえず研究所に連絡を取ってみるしかありませんわね)

 

 セシリアは国際電話を手に取った。

 

 10秒ほどコールした後、女性の声が聞こえてきた。

 

「はい、こちらイギリス第3世代IS研究所です」

 

「代表候補生のセシリア=オルコットですわ。技術主任に繋いでいただけるかしら?」

 

「はい、少々お待ち下さい」

 

 

 こうして、セシリアの舌戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 翌日、真琴は授業には出席せず、朝から研究所に足を運んでいた。セシリアが来ているのではないかと予想していたからだ。

 

 

 

 

 

(セシリアさんどうなってるかなぁ。専用機、いじりたいなぁ……。でもなー……セシリアさんに迷惑かけちゃうのもちょっと。国枝さんにも相談してみようかなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 研究所のドアを開けると、案の定そこには授業をサボったであろうセシリアがいた。おそらく、体調が悪いから遅刻するとでも伝えてあるのだろう。

 

 

「お待ちしていましたわ真琴さん。時間がありません。早速ですがこちらの契約書を呼んでいただけませんでしょうか」

 

 そういうと、セシリアは一枚の紙切れをペラりと渡してきた。

 

 

・代表候補生セシリア=オルコットの専用機「ブルーティアーズ」の情報を開示する場合、バージョンアップした情報は全てこちらに最優先で提供すること。

 

・もし代表候補生セシリア=オルコットの専用機「ブルーティアーズ」の情報が漏えいした場合、ブルーティアーズにバージョンアップを施した研究者をイギリスの研究所に一年間所属させ、新しいISを開発すること。

 

・代表候補生セシリア=オルコットの専用機「ブルーティアーズ」にバージョンアップを施した研究者と、こちらの研究者の交流を持つこと。

 

・他の国と交流を持った場合、イギリスの第3世代のISの情報は開示しないこと。

 

 

(……? なんだこれ。用はセシリアさんの専用機の情報は厳重に管理すれば何も問題ないじゃん。あっちの研究者さんとお話できるのもちょっと嬉しいし、良い事ばっかりじゃん。これなら問題ないね! サインサインっと)

 

 

 

 真琴は契約書にサインした後、セシリアに返却した。

 

 

「これでいいですか?」

 

「本当によろしいんですの? 最悪、真琴さんはイギリスで一年間過ごすことになるんですのよ?」

 

「だいじょうぶですよ。このがくえんはいまだにハッキングされたことはないらしいですし、ブルーティアーズのじょうほうはスタンドアローンのたんまつにほぞんします」

 

「ならいいのですけれど……」

 

 セシリアはちょっと罪悪感を持っている。仕方の無い事ではあるのだが。しかし、目に隈を作っているセシリアを見て、夜遅くまであっちと交渉してたことが伺える。真琴は学園にはこの事を内緒にしておくことにした。

 

「ぼくは、世界中のISがしりたいんです。ほかの国のけんきゅうしゃとこうりゅうを持つことになんのはんたいもありません」

 

 あっけらかんと言い放つ真琴を目の前にして、セシリアはヘナヘナと椅子に座り込んでしまった。

 

「むしろいちねんだったらいってもいいかなともおもってます。かいがいっていったことないんですよね」

 

あまりのポジティブさにセシリアは笑い出してしまった。

 

「お強いですわね。真琴さんは」

 

「ぼくはお姉ちゃんがいないと何もできないですよ。それでは、そのけいやくしょをデータかしてイギリスに送ってください。ブルーティアーズのじょうほうがとうちゃくしたらすぐにかいせきにはいります」

 

「わかりましたわ。それでは、また放課後こちらに伺いますわね」

 

こうして、ブルーティアーズの改造計画は始まった。

 

 

 

 

 

 

 ブルーティアーズの情報が送られてくるまで、真琴は打鉄の改造を行っていた。先日反応速度の向上だけは行ったが、ラファールみたいな改造は施してなかったため、色々といじくることにした。

 

 反映した回路図とプログラムを見直し、更に改善点はないかと目を凝らしていた。あまり高いパーツを使ってしまうと汎用機としてコスト的にアウトになってしまうので、安価な素子でどこまで性能をあげられるか。正に研究者として腕の見せ所である。

 

 しばらくディスプレイとにらめっこしていたが、画期的な案は浮かんでこない。やはりラファールと同様のチューンを施すしかないか。と考え始めた時、

 

 真琴のメールボックスに暗号回線で一通のメールが送られてきた。用意周到なこって。

 

 ウイルスチェックをして早速メールを開封してみると、そこにはギガ単位の情報が入っていた。よくメールボックスパンクしなかったな……。

 

 現在午前11時。セシリアがこちらに来るのは恐らく15時半付近。……残り時間およそ4時間半。どこまで解析できるか時間との勝負となった。

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしました真琴さん。午前中にそちらに情報が行ったと思いますが、ちゃんと届きましたでしょうか?」

 

「あ、こんにちはセシリアさん。いま8わりくらい解析がおわりました。すべての解析がおわるまであと一時間くらいかかりますが、どうしますか?」

 

「それでしたら、わたくしはここで真琴さんが普段どのように研究しているのかを見学させていただきますわ。わたくしはイギリスの代表候補生ですし、ブルーティアーズの情報を見る分には問題ないでしょう」

 

 

「わかりました。それでは、そこに椅子があるんで、ちょっとまっててください」

 

 

 

 

 

 

 

 一時間半後、ようやく全ての詳細情報を見終えた真琴は、セシリアと打ち合わせを行うことにした。

 

 

「さすがこっかきみつですね。さんこうしょや、かこのISデータがなかったらわかりませんでした」

 

「それでも一人で解析できる時点でぶっ飛んでいますわ・・・。真琴さんはバグキャラだったのですね……」

 

「ばぐきゃら?」

 

「ああいえ、なんでもありません。それで、ブルーティアーズはいかがでした?」

 

「おおまかなところはほぼ完璧だとおもいます」

 

 

「ふふっ、わたくしの祖国は何事にも全力で取り組みますの。全て最高のパーツを使っているはずですわ。それで、大まかと言うことは、細かいところに改善の余地があるということですわね?」

 

「ええっと、それなんですけども。全部いちばんたかいパーツを使えばいいってわけではないんですよ」

 

「……詳しく説明をしていただいてもよろしくて?」

 

 セシリアは眉をひそめた。それもそうだろう。専門知識を持たない者からしたらとにかく高いパーツを用いれば最高の性能が出せると思うはずである。

 

「えっとですね。いま見たところ、すくなくとも5~6かしょ修正がひつようなかしょがあります」

 

「そ、それはどういうことですの!?」

 

 ガタッ! と立ちあがって真琴に詰め寄る。これに驚いた真琴はビクッっと肩を跳ね上げた後、ぺこぺこと謝りながらも的確に回答を返し始めた。

 

「ふぇ!? え、えっと、すいません。ISというものはですね。バランスが重要だとおもうんです。セシリアさんの専用機は、ラファールや打鉄とおなじく部品どうしがけんかをしちゃって、おもうように動かないぶぶんがあるとおもいます」

 

 さすがにまだISが確立されて10年しか経っていない。現代の家電みたいに性能的に限界。というわけではない。

 

 

真琴の指摘にセシリアは今まで稼働して疑問に思ったことを思い出していた。

 

「たとえばですね。セシリアさんの武器にビットをとばすタイプの物がありますよね? それを命令するぶひんがあるんですけど、それがですね、ISほんたいを動かす部品とけんかをしています。多分このままだと、ビットは3~4こがげんかいだと思いますが、じっさいつかってみてどうでしたか?」

 

 確かに、セシリアの専用機、ブルーティアーズにはビットが4機搭載されている。正式には虎の子の2機があるから6機なのだが、実際に飛びまわるビットは4機である。

 

「ええ、確かに4機が限界ですわ。それで、その問題点を解決するとどれくらいのビットを操ることができますの?」

 

「ん~……。セシリアさんの能力にもよるとおもいますが、いまのだんかいだと7~8機まであつかえるようになるとおもいます」

 

「お願いしますわ!すぐに修正してくださいまし!」

 

 くわっ! と目を見開いてセシリアは即答していた。それもそうだろう。ビットが2倍になるのだ。これを見逃すはずもない。

 

「わ、わかりました。……ここからはぼくの考えなんですが、ふやすビットはレーザーソードタイプなんていかがですか?」

 

「ソード……ですか?」

 

「はい、8このビットがいっせいに射撃を行うのもじゅうぶん脅威だとおもいますが、はんぶんがしゃげきタイプ、はんぶんがざんげきタイプになると、あいてはさらに対応しにくくなるとおもうんです」

 

 それを聞いて、セシリアの眉がピクっと動いた。どうやら、彼女の心の何処かに何か響く部分でもあったのだろう。

 

「ビットの形は変わらないんでの?」

 

「ええ、かたちを同一にすることにより、どのビットなのか分かりにくくねらいもあります。それに4こだけなら、本体が移動しながらでもビットをそうさすることができるとおもいます」

 

「その提案、乗りましたわ。それと、わたくしの主力兵器であるスターライトMkーⅢなのですが……そちらはどうにかできないでしょうか?」

 

「そうですね……。狙撃としてのきのうは満足しているわけですし。これいじょうぶきの性能をあげてしまうと、おそらくセシリアさんが使いこなせないんじゃないかとおもいます」

 

「……わかりましたわ。とりあえず、わたくしの腕が上がるまではビットの改善だけ、ということにしておきます」

 

 ちょっとだけ残念そうに肩を落としたセシリアだったが、こればっかりは納得してもらうしかなかった。身に余る武器は時として使用者本人に牙を向く場合があるのだ。

 

「すみません、一度寮に戻りますわ。しばらくしたら様子を伺いに来ますので」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 

 

 肩を落とすセシリアを尻目に真琴は早速作業に取り掛かるのだった。

 

 

 

 

 

 

 作業開始から三時間後、真琴はビットの複製に取り掛かっていた。ひとつだけビットを拝借し、それを元に他の研究者に手伝ってもらい新たに4つ作っていた。もちろん、守秘義務について契約を交わした上で、だ。

 

 

(んー……どうしよっかなー。射撃タイプにも剣タイプにもなれるように設定しとこ。スイッチ一つで切り替えられるように。元からあった4個は下手に弄れないから、セシリアさんが戻ってくるまで手は付けないっと。とりあえず複製した4つを改造すれば大丈夫かな。よし、後はおねいさん達にお願いするとして、とりあえずビットを増やすんだったら本体のレイアウトを変えなきゃ駄目だね)

 

真琴はCAD端末を立ち上げた。簡単にいうならお絵かきソフトである。恐らく、セシリアは見た目も重視するだろう。ここは妥協してはいけない点だと真琴は判断。自分で作成することにした。そのとき、来訪を告げるチャイムが鳴った。

 

 

「お疲れ様ですわ真琴さん。いかがでしょうか? 進み具合は」

 

「あ、ちょうどいいところに。えっとですねセシリアさん。ビットを増やすにあたって、レイアウトの変更をしなくてはならないんですけど。こんなかんじでどうですか?」

 

 

 真琴は試作したレイアウトをセシリアに見せた。一瞬彼女に笑顔が浮かぶが、直ぐに元に戻り、悩ましげな視線をディスプレイに送っている。どうやら、満足はしてない様だ。

 

「えんりょなく言ってください。かのうなかぎりようぼうには答えたいとおもっていますので」

 

「そうですわね……。それでしたら、もう少し全体のバランスを下寄りにしていただいてもよろしくて?」

 

「はい、わかりました。……これでどうですか?」

 

 CADとは便利なものである。ちょこっとマウスで操作してやるだけで全体のレイアウトが変更できるのだから。

 

「ええ……ちょっと行きすぎですわ。……そうですね、それくらいが丁度いいですわね」

 

「わかりました。ビットはレイアウトどうりにはいちしますね」

 

「ビットは ということは他にも何かあるのでしょうか」

 

「えっとですね。セシリアさんのブルーティアーズのかくちょうりょういきなんですけども、よゆうがあるみたいなのでいっこぼうぐをついかしたいのですが、いかがですか?」

 

「どのようなものでしょうか。防具といっても色々ありますし……」

 

「えっとですね。セシリアさんが全力でこうげきするとき。つまりビットを8こだすときですね。どうしても本体のうごきが止まってしまいますので、シールドのうんようをより効率的におこなうものなのですが」

 

「ピンときませんわ。もう少し詳しく教えてもらえないでしょうか」

 

 ここで真琴は、昼間千冬に話したのと同じ事を話した。それを聞いてセシリアは大喜びで了承してくれた。思わず真琴抱きしめるくらい。

 

「ふぎゅっ」

 

「すごいですわ真琴さん! それが実現できれば私のブルーティーアーズの弱点が一気に補えます! それもおねがい致します!」

 

「わ、わかりました……。セシリアさん、く、くるしいです」

 

「あっ……。失礼しました。それで、だいたいどれくらいで出来上がるものなのでしょうか?クラス代表選までには間に合わせたいのですけれど」

 

「えっとですね、このていどの換装でしたら……ん~……だいたい3~4にちいただければかんせいするとおもいます」

 

「ず、ずいぶんとお早いことで……」

 

「ただ、かいせきを完璧にするにはもう一日ひつようになるので、くらすだいひょうせんにはぎりぎり間に合うくらいになるとおもいます」

 

 

セシリアの笑みが引き攣った。天才にも程があるぞ、と言いたげだ。

 

「はは、おかげで私達はてんてこ舞いだよ。やりがいがあるからいいんだけどね」

 

 横から国枝主任が二人分のコーヒーを持ってきながらこちらに歩いてきた。目の下に隈が出来ているが、どこか充実している。

 

「あ、すいません。ぼくちょっとトイレにいってきますね」

 

 

 真琴がトイレに行ってる間、セシリアは国枝と二人で真琴について話をしていた。

 

「それにしても真琴さんは素晴らしい方ですわ。わたくしを悩ませていた問題点をどんどん解消していってくださるのですから」

 

「ははっ、彼はすごいよ。私達は真琴君が帰った後、彼が使った計算用紙やプログラミングなどを皆でみて勉強しているくらいだから」

 

「世界最高峰と言われるIS学園の研究者まで凌駕するというのですか真琴さんは……」

 

「正直な所、私は将来彼は篠ノ之束を超えるんじゃないかと思っている。あの年で妥協を知らない、ISが大好き、そして他の追随を許さない才能。将来が楽しみでしょうがないよ」

 

「ええ本当に……。わたくし専用の技術者になって欲しいくらいですわ」

 

「ははっ、それは難しいだろうね。既に学園が彼名義でISの基礎理論を提出している。もうすぐ世界中が彼に注目するよ」

 

「残念ですわね。でもそれで真琴さんが世界に羽ばたく姿は見てみたいですわ」

 

 その時、来客を告げるチャイムが鳴った。ピンポーン。予想外の来客にセシリアは焦った。なんせ、ブリュンヒルデこと織斑千冬が訪ねて来たからだ。

 

「お、織斑先生!? どうしてここに!」

 

「山田君から真琴君の様子を見てくるように頼まれてな。彼は今どこにいるんだ?」

 

「真琴さんなら今お手洗いに行ってますわ。そろそろ戻られるのではないでしょうか」

 

「そうか。それにしてもオルコット、お前がここに居るということは真琴君にメンテナンスを頼んだと見ていいのかな?」

 

 千冬はニヤニヤとセシリアを見ているが、ここで予想外の反応が返ってきた。

 

「ええ、それだけではなくイギリス政府に許可を取って全面的にブルーティアーズの改造をお願いしましたわ。彼の能力は本物です。このわたくしが保証致しますわ!」

 

 どどーん! と効果音が付きそうな感じだ。セシリアは腰に手を当て、いつものポーズを取っていた。対する千冬はドン引きである。恐らく、外交関係の事を考えているのだろう。

 

「お前……普通そこまでするか」

 

「なんとでも言って下さいな。織斑先生。クラス代表戦楽しみにしていてくださいな。わたくしのブルーティアーズ=カスタムのお披露目を致しますわ」

 

「名前まで変えるとは……本気だな」

 

「ええ、彼ならばきっと注文通りの仕様にしてくれるはず。皆の驚く顔が目に浮かびますわ」

 

「そうか、それなら何も言うことはない。真琴君に早めに切りあげるように言っておいてくれ。ではな」

 

「ええ、お疲れ様ですわ織斑先生」

 

 

その日、結局真耶が迎えに来るまでブルーティアーズの改造は行われた。

 




―――えっと、とりあえずビットのかいせきを始めないと……

―――ま、真琴君? お姉さん達ちょっと休憩してきてもいいかしら……?

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