仕事疲れと酒の勢いという名の酷いブーストが掛かった状態での執筆から始まった本作ですので、定期的な更新はお約束できませんが、もし更新されていたら暇つぶし程度にご覧ください。
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“世界中の事を知るよりも、自分自身を知る事のほうが遥かに難しい ”
そんな言葉を遺した著名人がいた。
自己という、世界から見れば小さな存在であるが、その内面を知る事がいかに困難な事であるかを簡潔に述べたものだ。
ならば、“彼”の場合は……?
これは、我々の住む世界とは違う場所で起こった不思議な出来事である。
雷鳴が轟き、豪雨が降りしきる夜の山中に二つの影があった。
雷雲からほとばしる光で夜闇の中を照らされた一つは人間の男。
……いや、正確には“人間だったもの”と言うべきか。
上半身を何か大きなものに押し潰されたらしく、もはや原型など残っていない。辛うじて元の形を保っていた下半身は赤い液体を大量に飛び散らせたままピクリとも動く気配はない。
その人間は既に事切れていたのだ。
そして、それを見つめるもう一つの影。
それは人間ではなかった。
人間と同程度の体格の、赤い人型の異形。そんな不思議な生物が人間の亡骸の前に立っていた。
仮面のような楕円形の頭部を持ち、人間ならば眼に当たる部分は鋭くも感情の見えない二つの眼球を備えていた。
赤を基調とした全身に、腿の側面、ふくらはぎ、顔の一部が青い配色が為されているその姿は、SF等に出てくる宇宙人を連想する者もいるかもしれない。
そして、その生物の胸の窪みから覗く水晶体は、自身の表皮と同じ様に“赤と青の二色に分かれて”怪しい光を灯していた。
しかしその生物の体は、何故か至る所のつくりがあべこべだった。
頭部左側面からは角張った器官が伸びているのに対して右側面はつるりとしているし、腕は片方のみ太くて青い触手が一本だらりと伸びているのに代わってもう片方は赤と青のツートンカラーで、人間の様に五本の指を有していた。
先細っている両の足で危なげなく立つその生物は、ただジッとその無感情の眼で人間の亡骸を見つめていた。
(きミハ、ダれダ)
赤い人型は言葉を発さない。しかし、心で呟くその問い掛けの言葉の中に確かな動揺の感情を見せていた。
だが、赤い人型の前に転がる骸は答えてはくれない。ただ静かに雨に打たれ、その身を濡らす事しかしてくれない。
(ジブんハ……だレ、ナンダ)
何故、どうしてここに居る?
それを知る術を、赤い人型は持ち得ていない。
激しい雨風に晒され、全身が濡れる事を気にせず赤い人型の生物はただただ人間の亡骸に視線を落とし、あらゆる疑問をこぼすばかり。
事実その生物は混乱の只中に遭った。
場所を知らず、ましてや自分の事すら分からない。何が出来て、何をすればいいのかすら分からないこの赤い人型は立ちつくす事しかできなかった。
しばし呆然としていた赤い人型がようやく動き出そうとしたその時、空一面に広がっていた雷雲が一際強い光と共に雷が落ちた。
その落雷地点は、奇しくも赤い人型自身。自失状態だった赤い人型は身を守る動作すら出来ず、その落雷をまともに受ける事となってしまう。
強烈な電流を流し込まれた赤い人型は、体をのけ反らせながら痙攣する最中に、あるビジョンが脳裏を駆け巡る。
――暗い宇宙の中を隕石に埋まったままひたすら飛び続けている“自分”。
だが別の方角から飛んできたもう一つ隕石に衝突し、隕石ごと自身も真っ二つに砕けてしまう。
その衝撃は砕けてしまった“自分”を猛スピードで地球へと吹き飛ばし、とある山の中へと墜落して行った。
ここでビジョンが変わる。
――嵐の中、山に落ちた隕石の落下地点へと駆け出し、泥塗れになりながら割れた青い水晶体を胸に抱えて下山していた“自分”。
しかし、ぬかるんでいた岩山が落石を起こし、自分の体よりも大きな岩が頭上へと落下して行くのを見てしまい、そして――
そして、再びビジョンが変わった。
――体の半分が砕けてしまい、既に生命機能が止まる直前だった“自分”は、体に生物の血肉が付着したまま岩肌に転がされていた。
そこで更に空から強烈な稲妻が迸り、自身へと降り注いだのだ。
そう、“今と同じ様に”。
(ア、あア……あアアアアあ……ッ!)
落雷の余波で全身に電流を迸らせながら、赤い人型は全て思い出した。
否が応でも理解してしまった。
自分は此処で死に、そして生まれたのだと。
「※¢%▼×Φ∑Χーーーッッ!!」
嵐の中、強風と豪雨、そして雷に包まれながら、一度は消えた筈の生命が新たな産声を上げた瞬間だった。
壊れた電子機器の様な金切り声を発しながら、赤い人型は痛みに身をよじる様に体を屈み、水晶体の収まっている胸を抑えた。当の水晶体は狂ったように輝きを増し、赤い人型が両手で押さえている指の隙間から溢れ出る程の強い光を迸らせる。
するとその直後、赤い人型に変化が訪れた。
赤い体表が突然沸騰した様に泡立ち始め、その肉体の形を変え始めたのだ。
ゴポゴポと音を立てながら肉体が溶け出し、かと思えば突然元に戻り、硬化を始めるといった現象が繰り返されていく。
己の肉を溶かし、されども再び体を再構築していくその光景は、さながら本来ならば硬い外皮を纏い、幼い生物が成体へと至る為の蛹の中身の様な様相を呈していた。
溶けた体組織が赤い人型の足もとにこぼれ落ちては雨風に流されていくが、赤い人型の体は内側から増殖して行く。
そんな状態であると自覚すら出来ない程に意識が錯乱している赤い人型は、ヨロヨロとおぼつかない足取りでその場から離れていく。
しかし今は嵐の中。そんな只中に居た赤い人型も例外ではなく、その体を強風にあおられてしまう。
まともに踏ん張れない赤い人型は風に飛ばされるがままに何度も岩肌を転がり、溶けた身体の一部を至る所に撒き散らしながら体を強かにぶつけていったのだが、途中で足場の無い空間へ放り出された。そこは、嵐で足場が崩れて崖となっていたのだ。
赤い人型は為す術もなく崖から落ちていく。悲鳴の様な、断末魔の絶叫を上げて。
これが、後に人間達の間でまことしやかに噂される謎の人型“ポケモン”誕生の起源だった。
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朝日の光が顔に差し込み、意識がゆっくりと覚醒する。
冷たくぬかるんだ感触に半身が浸っているのに“彼”が気付いたのは、目が覚めてから少ししてからの事だった。
うつ伏せ状態の体を起こそうと水気を吸って泥になった地面に“右手”を置き、ゆっくりと体を起こす。
「ヴ、ぅ……うア?」
ノイズ交じりの声で呻きながら立ち上がりはするが、意識がまだ朦朧としている。
はっきりしない頭を“左腕から伸びた触手”でぺちぺちと叩きながら“彼は”頭を振って、疑問に思った。
丁度足元までの長さだろうか。左肩から太く長い触手が生えているのだ。
黒ずんだ赤い外皮の表面に、白い硬質物が触手の動きを邪魔しない様に文節しており、更にその硬質物も各箇所に4方へ向けて刺の様な突起物が伸びていた。
それは人体で言う所の、背骨の様な形状に似ている。それがうねうねとくねり、さも当然のように“彼”は動かしていた。
左腕だけではない。体全体を見回してみれば全身が触手と似た様な構造をしている。
赤黒い肉体の至る所に白い硬質物が覆われており、ちょっとしたプロテクターの様に見えなくもない。
顔の輪郭を手でなぞれば、縦にだ円形の形をした頭部の左側面だけに角張った器官が伸びており、右側はつるりとしている。
そして特に“彼”の眼に留まったのは自身の胸部だ。
左右の胸から3対の合計6本の鋭い硬質物が飛び出し、肋骨の様に曲線を描きながら胸の中心部を守る様にして組まれている。
その隙間から覗くのは赤と青の2色に分かれた水晶体。“彼”の心臓であり、頭脳に当たる器官だ。
体を見回すたびに“彼”は違和感を覚える。はて、自分の体はこんな姿だっただろうか、と。
左腕のコレはこんな形をしていなかったし、白くて硬い物なんて無かった様な。体の色はもっと明るかった様な気がする。
いや待て、確か服を着ていた筈―――ッ!?
そこで、“彼は”昨晩の事を思い出した。
あの嵐の夜の事を。
あの“自分達”の最期の瞬間を。
二つの命が消えていく間際を“彼”はその身で以て憶えていたのだ。胸の水晶体からズキズキと鈍い痛みが走った“彼”は、無意識に右腕で肋骨の様な器官に覆われた自身の胸を抑えた。
片や落石に押し潰されて死に、もう片方はこの“星”に来る前から既に瀕死の状態で、自ずと死を迎える筈だった。
しかし、あの嵐の中降り注いだ落雷が全てを変えた。
死ぬ直前だった“水晶体の自分”は、流し込まれた大量の電撃で一時的に蘇生。落雷によって活性化した“水晶体の自分”は自身の細胞の活性化を促進させ、再生を試みた。
だが、“水晶体の自分”達の種族にとっては心臓であり、脳でもある水晶体を半分も失っている状態からの再生は限りなく不可能に近かった。
最早思考するという機能すら失ってしまった!水晶体の自分”であるが、生物としての機能は死んでいなかった。
それは、本能だ。“死にたくない”という意思は、考えずとも生きるもの全てがその身に内包する原初たる性質である。
“水晶体の自分”はそれの赴くがままに、生き延びるために近くにあった生物の細胞を無意識に取り込みながら再生を行ったのだ。
その取り込んだ細胞の基となった生物というのが、岩に潰されて死んだ“人間の自分”だった。
“水晶体の自分”が他種族の細胞を取り込み、足りない部分を補い、肉体を最適化して出来上がったのが今の自分なのである。
だが、そこに“水晶体の自分”の人格は存在しなかった。ましてや、取り込んだもう一つの“自分”のものだってありはしない。
ならば、今此処にいる自分は何だ?
虫食い状態の二つの記憶だけが残り、その本来の持ち主達はもうこの世にはいない。
そんなつぎはぎの自分だけがこの世界に生まれ落ちてしまったのは、何の皮肉だろうか。
なまじ互いの細胞の持ち主の知性が高く、一部の記憶も受け継いでしまった新たな人格たる“彼”は、突然生まれ落ちたこの世界で何を成せばいいのか分かりかねる。
未だ痛みが残る胸を抑えながら呆然と立ち尽くす彼の聴覚に、不自然な草木のざわめきを捉えた。
今“彼”がいる場所は落雷を受けた地点からそれほど離れていない森の中だ。嵐の影響で木から折れた枝等がぬかるんだ地面に散乱している。
“彼”が辺りを見回すと、奇妙な生物達が草木に隠れながら此方の様子を窺っているのが見えた。そのどれもが皆全く違う姿形をしていて統一感が無かった。
“彼”はこの奇妙な生物達の存在を知っていた。“人間の自分”の知識に彼らの事が記憶されている。
その生物達は、“ポケモン”と呼ばれるこの世界独特の種族。
この世界には、人間と動植物以外にもう一つ不思議な生物が存在する。“ポケットモンスター”。多くの人間達から“ポケモン”の略称で親しまれる彼らの中には、人間達の今の暮らしに密接に関係しているもの達も存在し、その種類は現段階ではまだ明確な数は確認されていない。
時に自然災害の一種として人類に牙を向ける時もあれば、人間達と力を合わせ、心を通わせる事の出来る彼らだが、その存在が認知されてから今も尚彼ら生態は謎に包まれている。
彼らはいつどこで、どのような起源の基に現れたのか。それを明確に知る者は誰もいない。
“彼”が此方を見つめるポケモン達を一瞥すると、慌てて草木の中に隠れてしまうが、視線を外せばまたひょっこり顔を出して見つめてくる。
ポケモン達の“彼”を見つめる表情は、その個体差から判別しづらい所もあるが、感情で表わせば大凡この三つだろうと“彼”は当たりをつけた。
警戒、怯え、そして好奇心だ。
敵意が無いだけまだ救いがあると分かった“彼”は、頭に念じた言葉を周囲のポケモン達に伝わる様に響き渡らせた。
『……君達ニ危害ヲ加エル心算ハナイ』
ノイズ混じりの低い声は、“彼”にとって初めて聞く様で、とても聞き慣れている様な感覚を覚えた。
テレパシー。己の思念を他者の頭に直接送る事で言葉を発するその力は、“水晶体の自分”が持っていた力の内の一つに過ぎない。
突然頭の中に響いた言葉に、茂みに隠れていたポケモン達が大きく動揺の声を上げた。
いきなり見ず知らずの者の言葉が頭に流れ込んでくれば驚きもするだろう。
『此処ハ君達ノ住処ナノカ。ナラバ勝手ニ足ヲ踏ミ入レタ事ヲ許シテ欲シイ。迷惑ナラバ、私ハ此処カラ去ロウ』
この森に住むポケモン達に迷惑をかける気も起きなかった“彼”は森から出ていこうとした。
“彼”の体がふわりと浮き上がった。これもまた、“水晶体の自分”が備わっていた力だ。“水晶体の自分”の記憶を一部受け継いでいた為に“彼”はその能力を使う事が出来る。もし人間の自分だけの記憶だけだったらこうはいかなかっただろう。
練習も無しに試してみたが、どうやら上手く使えた事に安堵した“彼”は、左腕の背骨の様な触手をうねらせながら徐々に高度を上げていく。
すると、先程まで隠れていたポケモン達が茂みから姿を出してきた。
特にこれと言って凶暴性の低い、小さなポケモン達だった。
ポカンと呆けた顔で此方を見上げるポケモン達のその姿が、まるで無垢な幼子の姿に見えた“彼”は目を柔らかく細めた。
森の木々を抜け、空へと飛び上がった先に広がる光景に、“彼”は目を見開かせた。
足元に広がる深く青々とした森の絨毯、地平線の向こうにそびえ立つ、霜の降った山々。空を見上げれば、嵐が過ぎ去ったためか雲一つ見当たらない青空に、その遥か彼方で輝く太陽がさんさんと光を降り注いでいた。
翼を持つポケモン達が群れを成して飛び立ち、聴覚を研ぎ澄ませば森のあちこちでポケモン達の鳴き声が聞こえてくる。
其処彼処に息づく生き者達の営みは、この大自然の恩恵にあずかってこそ成り立つものなのだろう。
此処は、本来人間が全く足を踏み入れる事の無い秘境と言っても良い。動植物やポケモンが、思い思いに暮らしている場所なのだ。
ならば何故、其処に“人間に自分”がいたのか。
答えは既に“彼”に残された記憶から読み取る事が出来ていた。
“人間の自分は”この美しい自然と其処に生きるポケモン達を見たいが為にあそこまでやって来たのだ。
そこで嵐に遭い、見つけた洞窟内で過ごしていた時に“水晶体の自分”が空から飛来してきたのを目にした。
嵐の中を濡れる事も気にせず山道を駆け、クレーターの中心に埋もれていた“水晶体の自分”を見つける。
発見されてから少しずつ光の明減が弱々しくなっていくその姿に、“人間の自分”はその不思議な物体を救おうとしたのだ。
――これは、生きている……まさかポケモン、なのか?
――いかん、徐々に光が弱くなっている。きずぐすりではどうにもならん。
――何とかして助けれれば良いのだが――――
“人間の自分”が最期に何をしようとしたのか、少しずつ思い出して来た。
自分が避難していた洞窟まで戻ろうとした矢先に落石が起こり、ぬかるんだ地面に足とられて大きな岩が我が身を押しつぶそうとしたその時、“人間の自分”は咄嗟の判断で“水晶体の自分”を落石の被害の被らない場所へと放り捨てたのだ。
“人間の自分”は、死に直面したあの瞬間の時まで“水晶体の自分”を守ろうとしていたのだ。初めて見た、生物かどうかすらも分からないのに。
“人間の自分”がどんな精神構造を持っていたのかまでは“彼”でも推し量る事は出来ない。しかし。
「……私ハ生カサレタノカ」
そう一人ごち、“彼”は目を瞑る。
己という自己が生まれた事については今もまだ困惑が尽きない。しかしそれが不幸かと言えば、彼は首を横に振るだろう。
“人間の自分”が守り、“水晶体の自分”が渇望したからこそ私は生まれた。
ならば、失ってしまったその二つの命の最期の願いを無駄にしない為に、この世界を生きてみるのも良いかもしれない。
だが、その前に清算しなければならない事がある。
その為に“彼”はその身に纏う力を操り、自身を鳥よりも早く大空へと飛ばした。
目指す先は、“彼”がこの世に生まれ、そして“自分達”が死んだ始まりの場所である。
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No???
???
???????
エスパー・???
たかさ 1.8m
おもさ 78.9kg
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むねのすいしょうたいが
たりないものをおぎなうために
にんげんのさいぼうをとりこんでうまれた
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◆後書き
ポケモンを始めたのは、小学生の頃に緑。
あの時は妙なCMが印象的でしたが、それが今や大人気ゲームに。
世の中って不思議。
ちなみに作者のトラウマは、ポケモン屋敷のフジ博士のレポートでした。