藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第8話 相合傘のやり方

 梅雨の時期が近づくにつれて、大きなイベントがある。

 

 湿度がだんだん高く、気温がだんだん高く。そうすると、自ずと不快指数や体感温度は上昇し、できる限り薄着でいたくなる。秀知院学園にも黒いワンピース型の女子制服があるが、夏用と冬用の2種類ある。

 

「皆さん、衣替えですね~!」

 

 四宮かぐやと藤原さんが並ぶと、驚異の格差を感じる。まあ、俺的には、半袖になったことで見える華奢でスベスベな腕の方が気になる。

 

「最近ジメジメしてますからねー、すっきりって感じですよ~」

「ええ……はい……すっきりですね。清々しいほど」

 

 四宮かぐやは胸の大きさにコンプレックスがある。

 

「さて、先の交流会は皆の尽力の甲斐あって無事成功した。ひとまずお疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした」」~!」

 

 校長のせいで大変だった。

 全部校長のせいで。

 

 前日の準備で、個性的なメンバーに指示するところが一番苦労した。

 

「今日は事後処理の予定だったが、石上会計が既にあらかた終わらせたそうだ。だから、特にやることはないな。よしっ、今日はオフにしよう」

「わーい!」

 

 残念ながら、オフか。

 四宮かぐやも少し残念そうな表情をしている。

 

「じゃあ、かぐやさん、お迎えの電話しなきゃですね」

「いえ。今朝、送迎の車がパンクしたということでお迎えは無いんです。なので、歩きで帰ろうかと」

 

 相変わらずの使いこまれたガラパゴス携帯で、メールを確認している。結局機種交換しないままで、LINEはインストールしていた。

 

「……え?

 大丈夫なんですか?

 誘拐されません?

 雨の日は証拠残りにくいから狙われやすいんですよ?」

 

 そうだよ。

 よく知ってるな、藤原さん。

 

「不安になるような事は言わないでください」

「いや、さすがに藤原書記の冗談を真に受けるなよ……冗談だよな?」

 

「冗談でしょう」

 

 会長にとってはフィクションでのみ起こりうることだ。実際のところ、作戦の時間制限があるが、街中でもそういう活動は可能だ。ヒーローの中で戦闘力のないメンバーは、囮か時間稼ぎを行うことが主流である。特に、サイボーグは次々と世代交代しているため、どうしても旧式の人たちはそういう役割に回るしかない。

 

 まあ、徒歩でも早坂愛が密かに護衛するだろう。

 

「単独行動するよりはマシでしょうから、この4人で帰りましょうか」

「おおっ! つくしくん、ナイスアイデアぁ!」

 

 今まで、この4人で同時に帰ったことはない。特に、四宮かぐやはそのような『偶然』が起こらない限り、送り迎えは四宮家の専属の送迎車だ。そう言えば、先日は珍しく、会長と2人乗りして朝登校していたな。

 

 本当に偶然か?

 

「こう見えて、誰かを連れて逃げるのは得意ですよ。もちろん、囮になるのも」

「そこは守ると言ってほしいものですね、川田さん」

「ですね~ちぎっては投げしそうですのにね~」

 

「まるでそういうことに巻き込まれたことがあるような……」

「気のせいでしょう」

 

 そんなことを話しながら、玄関までついた。

 今日は昼から雨が降り始めている。

 

 日曜日の記録的豪雨の影響もあるのか、今日は全体的に部活動を行っていないようだ。校門へ向かっていく生徒の中には、1本の傘を2人で共有する『相合傘』をするカップルや友人が見受けられる。

 

「あっ、帰る前に私トイレ行ってきますね~! わ~もれちゃうもれちゃう~」

 

 お可愛いこと。

 

 藤原さんがドタバタと走っていった。後輩の石上優からは本当に女子かどうか疑われるほど、彼女には恥じらいというものがない。 

 だから、スキンシップして勘違いしちゃう思春期男子が現れるんだ。俺含めて。

 

「しまった傘を忘れた」

「どうしましょう傘がありません」

 

 会長と四宮かぐやの声は、同時だった。

 そんなに相合傘したかったのか。

 

「お二人が忘れ物なんて珍しいこともあるものですね」

 

「ええ、普段は送迎があるのでうっかりしていました」

「いや、その、俺は天気予報を見損ねてな」

 

 嘘だろうな。

 暇つぶしに、駆け引きを見るけど。

 

「なぁ、四宮。雨が降った日に限って、車がパンクしたことは偶然かもしれない。」

「あら、何が言いたいのでしょう?」

 

 なんだか逆転裁判やってる気分だな。

 知ってるか、こいつら両片想いなんだぜ?

 

「今日は徒歩で帰ることが、朝にはすでに判明していたはずだ。お前ほど計画性のあるやつが傘を忘れる、なんて事あるのだろうか。」

「私も人間ですから、多少のミスはありますよ」

 

 会長関連にならないと、ミスしたところは見たことはない。

 

「それは家の人からも?」

「ええ。準備は私が行いますし、持っているものと判断されたのでしょう」

 

 早坂愛が尋ねないはずはない。

 護衛の彼女はすでに校門でスタンバってるし。

 

「計画性というならば会長も。先ほど天気予報を見損ねたと言っていましたが……」

「それがどうかしたか?」

 

 会長の主張の方が矛盾は多い。天気予報を見損ねたというミスが自発的原因すぎる。

 

「ええ。会長はいつも自転車で通学をしていますよね。でも、会長のママチャリが自転車置き場になくて、つまり今日は電車で来たと……」

「ほ、ほう?」

 

 四宮かぐや。貴様、見たな。

 自転車の有無を事前にチェックしたな。

 

「会長は自転車だと傘は差しませんし、雨合羽も好みません。だから、雨の日は電車で登校する。あら、今日の朝は晴れていましたよね?」

「電車で、来たし、晴れて、いたな」

 

 そこに生じたのは、矛盾だ。

 散りばめられた情報をもとに誘導された。

 

「この1日晴れかもしれないのに電車だなんて、節約趣味の会長が運賃を払うとは考えられません。計画性のある会長は毎日、天気予報を見ているのではないでしょうか?」

「そ、そうかもしれんが、何が言いたいんだ?」

 

 苦し紛れの返答である。

 それで相手の攻勢が緩まるはずはない。

 

「人間誰しも勘違いはありますからね。もしかしたら傘を忘れていると思い込んだだけかもしれません。……会長、鞄の中を調べてみては?」

 

 四宮かぐやはあえて、逃げ道を用意した。会長が荷物を調べるだけであるかどうか証明できることだ。彼女はまるで『計画通り』のような、勝ち誇った笑みを浮かべた。

 

「そ、そうだな。見てみようか……」

 

 晴れのち雨の天気、当日朝に起きた送迎車のパンク、自転車の有無の確認、そのすべてが四宮かぐやが立てた計画だった。さっき『天気予報を見損ねた』と思いついた会長と比べ、あらかじめ入念な準備をしていた。それは誇るべきことだ。見習おう。

 

 会長は自分の鞄を探るフリをする。

 

「か、傘……傘は……」

 

「傘、忘れたんですか~」

 

 イレギュラーが発生した。

 

「次から気をつけてくださいよっ!かぐやさんのうっかりやさん♪」

 

 びしって、決めポーズをしている。

 お可愛いこと。

 

「あ、あら、それでは藤原さんが濡れてしまうわ」

 

 藤原さんは傘を無理やり握らせている。対して、四宮かぐやは最大限のアドリブ力を発揮した。

 

「だいじょーぶです!つくしくんに入れてもらいますから!」

「……ん?」

 

 今、何を言った?

 

 ぴょんぴょん飛び跳ねるかのように近づいてきて、見上げてくる。

 

「あれ~、会長と相合傘の方がよかった?」

「………いや、全くそんなことはない。それならむしろ走って濡れて帰るまである。」

 

 キラキラとニパァって笑みを零して、『かぐやさんたちも一緒に帰ろう~』と気軽に告げた。やがて、俺たちの真似をするように、2人からそれぞれ歩み寄った。

 

「ま、まあ。傘はこの1つしかないからな」

「そ、そうですね。濡れるわけにもいきませんし」

 

 玄関から一歩踏み出すと、ポツンと雨音を立て始めた。

 

 身長差があり、どうしても俺だけが傘を持つことになる。我が物顔でルンルンと歩く藤原さんの右肩が少し濡れてきている。

 だから、少しそちらへ傾けると、口を尖らせて人差し指で『メッ』ってしてくる。

 

「相合傘なんてしたことないから、役不足かもな」

「いやいや~上手だよ~」

 

 これで上手いのか。

 ブラウスの半袖は透けてきている。

 

「私も男子とやるのは初めてだよ♪ 背、高いね!」

「ありがとう、と言えばいいのだろうか」

 

 ほんと、天然あざといこと。

 

 

「ねぇねぇ、どこかに寄り道とかしないの~?」

「しないからな」

 

 買い食いとかしたら叱られるだろう。

 『ぶ~ぶ~』と言いながら、不満そうな顔だ。

 

「そういうのはもう少し大人になってからだろうに」

「えっ、あっ……うん」

 

 不機嫌になったり、嬉しそうにしたり、俯いたり、なにかと忙しいな。いやはや乙女心はよくわからない。

 

 

 

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