藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第9話 箱入り娘たちのガールズトーク

 翌日、雨は上がり、1日晴れという予報だ。

 草木から垂れる雫は趣きを感じさせる。

 

 昨日のような相合傘イベントは登校でも下校でも起こるはずはない。家事としての洗濯をしているかどうかに依らず、普段から天気予報をきっちり確認している生徒会メンバーにとって、あらかじめ入念な準備をしていないと、傘を忘れるという前提条件が生じない。

 

 姉妹校の片付けを行った際の、いわゆる落とし物がこの生徒会室に運び込まれた。住所や案前を特定できるようなものはすでに選別済みで、つまり生徒会の方で処分するかどうか決定してほしいという物品だ。

 

「……まあ、これは生徒会室で保管がいいですね」

「そうするか」

 

 その中には、少女漫画や雑誌もあった。ある程度は校則が緩くなったとはいえ、堂々と落とし物コーナーに置くことはできず、この生徒会室で一定期間保管することになるだろう。

 

 箱入り娘である四宮かぐやや藤原さんにチェックしてもらうわけにもいかず、サブカルに詳しい石上会計は今日もいない。決して、俺や会長は思春期女子が普段読んでいる参考書が気になったわけではない。決してな。

 

「落とし物の本、どんなことが書いてあったんですか~?」

 

 しまった。

 じっくり読んでて気がつかなかった。

 

「ごほん。ご苦労だったな、2人とも」

「一度風紀委員へ預けてきましたが、他に持って行くものはありますか?」

「残りは、生徒会室で保管でいいでしょう。さて、これをどこに置きましょうか」

 

 すっと雑誌を机の上に置く。

 しゅぱっと藤原さんが手に取った。

 

「はわわわわ」

「藤原書記、読むの早いな!?」

 

 人はダメって言われたら、むしろ気になるものだ。今まで抑制されている分、好奇心旺盛な箱入り娘たちが気にならないはずはない。そして、ここには咎める保護者もいない。

 

「かぐやさんもいっしょに読みましょうよ~」

「ええ、構いませんが。これは女性向けの情報誌のようですね」

 

 四宮かぐやが『近い』と呟いているが、2人は密着している。同姓とはいえ、どうやったらそこまでのスキンシップを何も気にせずできるのだろうか。

 

 胸囲の格差すごいな(※童貞的見解)

 

 

「初体験……まぁー、嘘ですよね~ 高校生までに34%なんてあり得ないですよ~」

 

 3人に1人か。知り合い全ての下半身事情を把握しているわけではないが、そこまでの確率ではないな。

 

「こういう本を読んでる人がアンケートに答えてるだけですよね~、会長」

「そうだな。サンプルセレクションバイアスだ。実際にそう多くはないだろう」

 

 回答者の選び方で統計結果が変わる現象で、今回の場合は無作為とは言えない。

 

「そうですか? 私は適切な割合だと思います」

「えっと、かぐやさん、もしかして経験あるんですか~?」

 

「はい。だいぶ前に」

「ヴェええええ!?」

 

 そうなのか、四宮グループ。

 由緒正しい家系ならではなのだろうか。

 

「かいちょー なによんでるんですか?」

「ん? いやぁ、せかいはひろいなとおもってなー」

 

 今となってはあまり使われることのなくなった、タウンページをパラパラしている。

 

「高校生になれば、普通経験済みなのでは? 皆さん、ずいぶんと愛の無い環境で育ったんですね」

 

 家の教育ではなく、愛なのか!?

 四宮グループは一体どんな幼児教育をしたのか。

 

「へぇー大阪のこの辺りの市外局番って、へぇー」

「はわわ、私も早くヤった方がいいのかな……あーでもお父様は絶対に許してくれないしぃ~」

 

 ぼそぼそと言っている藤原さんの頬は紅くなっている。なにそれお可愛い。

 

 蠱惑的すぎる。

 まじやばい(※童貞)

 

 そもそも、姉さんだって高校生だった時、何度か朝帰りだった。その時は、友達の家に泊まりに行くって言っていたから、いつも通り親友の麻美さんの家かなーって、当時の俺は思っていた。次第に、いろいろと疑問が芽生えてきて……

 

「あら、会長や川田さんも経験がないのですか?」

 

 ないよ。

 会長も童貞仲間だよ。

 

「会長には妹、川田さんには姉、だからガンガンしていると思っていました」

「「するかぁ!?」」

 

 藤原さんとか、『うわ、こいつらまじ?』みたいな目で見てるから。

 

「現に私は生まれたばかりの甥っ子としましたよ」

「うらや……けしからん! ていうか、狂気すぎない!?」

 

 会長どんまいである。

 そこまでヤるのか、四宮グループ。

 

「う、生まれたばかりの男の子と、はわわわ」

「しかも甥っ子、か……」

 

 そりゃあ、幼い時は俺にも『ムラッ気』が付いてた気がするけれど、もちろん今もたまに『ムラッ気』が発動するけれど、血の繋がっている実の姉だということで理性は十分に保つ。いや、まあ、中学の頃、彼氏さんに野球勝負を挑んだくらい、姉さんのこと好きだけどさ。

 

「藤原さんだって、飼い犬としょっちゅうしているでしょう?」

 

 飼い犬ってたまに写真送ってくるペスくんか。

 雄犬だったか。

 

「犬としょっちゅうシてるの!?」

「シてないから!? てか、つくしくん、顔すごいことなってるよ!?」

 

「だって、犬が人間になるオカルトだってあるんだぞ!?」

「何の話!?」

 

「ふぅ……落ち着け、2人とも」

 

 会長が重々しく声を出すと、生徒会室が静まり返った。

 

「四宮、初体験とはなんだか理解しているか?」

「馬鹿にしないでください。淑女としてそれくらいの知識はあります―――キッスのことでしょう?」

 

箱入り娘

紛らわしいこと

この上ない

 

「任せてください。私が、かぐやさんの人生のママになりますから!」

 

ごにょごにょ

ぼそぼそ

かくかくしかじか

 

「そういうことは結婚してからです!『夫婦の合意の元』と法律で決められています!?」

「もう少し勉強させろ! 四宮グループ!?」

 

 やれやれ。

 俺も珍しく動揺してしまった。珍しくだ。

 

 

「と・こ・ろ・で~?」

 

 ニマニマと藤原さんが近づいてくる。

 

「もう1冊あったよね~?」

「……そうだったか?」

 

 背中に回って、ムフフ~と動いている。

 

「どこかな~どこかな~」

 

 さすがに理性が飛びかねない。下手すりゃ手を出して、責任取って駆け落ちするまである。

 

「あれれ~いつもの切れ味がないぞ~このこの~」

 

 肘で脇腹を軽くトントンしてくる。

 

 むしろ心地いいレベルの感触だ。

 ヤバい。抑えられない。

 

「……机の下に落ちたような気がする」

「お~ 少女漫画だ~」

 

 早速読み進めている藤原さんを横目に、俺は『ふぅ』と深呼吸した。ギリギリだった。

 

「すみません。隠し通せませんでした、会長」

「あれは仕方ない」

 

 生半可な思春期男子なら一瞬で堕ちる。

 知り合いに年上の女性多くてよかった。

 

「こういうの読んでいるのバレたら大目玉なんで、内緒ですからね~」

「ええ。四宮の名に誓って」

 

 四宮かぐやも『私、気になります』と好奇心を持って、覗き込み始めた。2人にとって未知の領域だろう。

 

「あれ、このページとか開きやすくなってるんですね~?」

「この本を読んだ人が特にそのページを読んだのでしょうか?」

 

「最初からでしたよね、会長」

「ああ。生徒会長として誓おう」

 

 さすがに皺が付くまでは読まない。

 じっくりとは読んだけど。

 

 

 

~~箱入り娘たち熟読中~~

 

 

 

「はわわわわ、かぐやさん、この本、えっちですよ~!」

「わ、わたし、えっちぃのは嫌いです、次に進みましょう、藤原さん」

 

 だから、読ませなかったのに。

 顔が茹蛸状態だ。

 

 R-15で2人にとって合法的とはいえ、少し過激なページがあった。2人とも少女漫画というもの自体が初めての箱入り娘なので、保健体育の授業で習ってきた範囲を超えているだろう。

 

「でも、えっちなのはさっきのページくらいでしたね~」

「ええ。あまりえっちではありませんね」

 

 えっち連呼するのが、えっちだよ。

 

 よく男子の前で読むよね。

 俺と会長は、青空をぬぼーっと見上げていた。

 

「これはなかなか良いんじゃないですか?」

「えー、イヤホンを2人でですか~?」

 

 それ、この前会長とやったな。男子トイレで。

 

「かぐやさん、こういうのが好きなんですね~可愛いですね~」

「いえ。まずはこういうところからですね」

 

 その言葉に、会長が目ざとく反応する。後日、そういう駆け引きが起こることが確定された。

 

「ですが、なんだか高圧的で女を物扱いする男の人が多いですね。こういうことはあまり勧められたことではないと思いますが……」

「なくはない、と思います……わたしは所有されたい、です……」

 

 まじか!?

 いつでも所有するから、言ってね!

 

「目を醒ましてください!こんな無理やり、ききき、キッスを迫るような男ですよ!?」

「いや、でも、リードされたいというか……それがイイというか」

 

 なるほど。

 よくわかった。

 

「そういうかぐやさんは違うんですか?」

「わ、私はやはり、大切にしてもらい、たくて……」

 

 ふむふむ

 

「あーもう、鼻血出ていますから。化粧室行きますよ」

「わ~、まだ途中なのに~」

 

 いってらっしゃい

 

 四宮かぐやがティッシュで藤原さんの鼻を押されながら、生徒会室から出ていった。四宮かぐや自身も未知の領域によほど動揺しているようだ。俺たちが近くにいることも意識外のことになるほどらしい。

 

 俺たち、途中から空気だったな。

 この後も生徒会室に戻ってきて読むのだろう。

 

「ふぅ...よしっ、帰るか」

「...そうしましょう」

 

その後。

帰宅してすぐ自室に籠った。

 

 

 

 

 




 
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