生徒会庶務の仕事は雑用係。
個人的には特に、会長からは命令されず、フリーに動いている。他役員のサポート及び、仕事に漏れがないためにある役職だと思っている。暇なときはとにかく暇だし、忙しいときはとにかく忙しい。日常的に行っているのは掲示物の交換や各施設の点検だが、学園で働く用務員も多くいる。
ともかく、学園の広い敷地をぐるりと一周することが日課だ。昔から単独行動は得意なので、情報収集を行いながら、何か問題がないかを確認している。ついでに最近、学園で流行っているポケモンGOをやっている。
イーブイ、ゲットだぜ。
だから、生徒会室に戻ることにした。
「石上、今日は生徒会に参加しないのか?」
「うわ、驚いた。川田先輩、あんた忍者ですか」
石上会計はわざわざ生徒会室から引き返してきたようだ。何か思うところがあったのか、最近はよく生徒会室に来るようになっていたのだけれど。
「あー、なんか今日不吉なことが起こりそうなんで、帰りますね」
「不吉ねぇ。それなら、もし帰り道にイタチの人形を見つけても、拾わない方がいいぞ」
首を傾げながらも帰っていく。
まあ、そんな冗談は置いておいてだ。
「生徒会室に何か用でしょうか、早坂愛さん」
サイドポニーテールにしている金髪の地毛、全体的にギャル風なコーディネートをしている。海外系の血が混じっているため、ギャルでありながら清楚な美人であることも感じさせる。普段は、その口調や雰囲気もギャルにしている。
「会長は無事か?」
「……無事とは言い難いのがなんとも」
その早坂愛が、生徒会室へ入ることを阻むべく立ち塞がっている。
「いくらあなたでも、ここは通しませんよ」
「ずいぶんと高く見られているが、俺なんてまだ人を殺めたこともない三流以下だ。実際、生身同士で戦えば五分五分だと思う」
「ご謙遜を。そもそもヒーローは不殺を掲げているのでは」
「それってよく勘違いされるんだが、努力目標なんだ。律儀に守っている人が多いけれど」
「……まあ、会長さんはただのカフェイン不足ですよ。かぐや様の肩を借りてスヤスヤ眠ってます。こっそり見ますか?」
「いいのか?」
物音を全く立てないように中の様子を見ると、まさしくその通りのようだ。四宮かぐやの肩を借りている会長が、寝ているのか、生きているのか、それはシュレーディンガーの猫だけど。
「それで、誰もここを通すなと頼まれました」
「どんまい」
とうとう四宮グループが実力行使を行ったのかとヒヤヒヤしたが、いつもの恋の駆け引きの延長か。実際のところ、四宮グループが会長のことをどう認識しているのか掴みかねている。
四宮グループにかかれば、今の会長では『プチッ』だ。
「ありがとうございます。かぐや様にはいつも苦労させられていまして」
「それだけ気を許しているんだろうな。その分、人使いが粗そうだが」
早坂愛は四宮かぐやの幼馴染である。
いわゆるメイドであり、同時に工作員かつボディーガードでもある。同い年であることが選ばれた理由なのかまでは分からないが、幼い頃から彼女の側付きとして人生を懸けていた。その生活も、早坂愛なりには満足しているらしい。
「あーっ、つくしくんと早坂さんだ~何話してるの~」
早坂愛の顔が強張った。
視線でこちらへ救援を求めているが、視線でムリだと返す。戦闘のプロよりも、こういうド天然でまるで行動が読めないタイプは、生半可に訓練を積んでいる俺たちにとって天敵だ。
「書記ちゃんじゃーん、どしたし~?
生徒会に用事~?」
さすがの演技力だな。
すでに、一つの人格でもあるのだろう。
「あのですね。頭のリボンを落としちゃったんです」
「リボン? 頭に付いてるじゃん?」
今やトレードマークになっている黒いリボン、それはアクセサリー的に前髪に付いている。少し色が薄いな。
「確かに、いつもと違うな。スペアか?」
「うん、一応持っててよかった♪」
「いや微妙すぎてわからんし!なんで川田はわかるの!?」
よく自撮り画像送ってくるし、寝る前に必ず画像フォルダ見てるし。(※思春期男子)
「でもそれあるならよくない?」
「私はあの極黒リボンじゃないとダメなんです!」
そういう名前だったんだ。
極悪高校? 混黒高校?
「そっか~、それじゃあ川田と探してくれば~?」
「うん!まずは生徒会室から探すよ~!」
ピンチ。
どうしてこう、いつもいつも、一番弱いところにダイレクトアタックしてくるのか。純粋無垢な瞳からわかるように、これを意図的にやっていないのだから、末恐ろしい。
「今日書記ちゃんが行った場所を~最初から順に探してみれば~?」
「おおっ、早坂さんナイスアイディア!」
探検隊出発かのようにグイグイ俺たちの背中を押してくる。もちろん、早坂愛の口元がヒクヒクしているのは、俺からしか見えない。
「それでさ~ここに来るまで何してたの~」
「えっと~、部活に行って~あとは学園の中をふらふらかな~」
ゆるゆるだな、この会話。
藤原さんがたぶん歩いたらしいルートを通って、ふらふらとする。早坂愛からすれば、時間稼ぎさえできればいいから、好都合だろう。
「部活に行った後って、今日はテーブルゲームじゃなくてか」
「うん、ピカチュウ探してたの!」
「ポケモンGOすんなし! 校内でスマホゲームは禁止でしょ!」
ツッコミ属性高いな、今の早坂愛
それにしても、真っ黒なリボンは見つからないな。送ってきた最新の自撮りは、ニワトリと撮った画像でその時は極黒リボンを身に着けている。
「おや、何か探し物ですか?」
「あっ!校長先生、こんにちは!」
「こんにちは~」
スマホ片手に、学園の敷地を歩いている校長と出会った。
「よう、校長」
「ちょっ!態度!? あの時のことは謝ったでしょう!」
もうしないとは誓っていない。
どうせまた、会長を試してくる。
「ごほん。それで今、生徒会室は開いていますか?」
「どうでしょう~、生徒会室に何か用事でもー?」
今、生徒会室をガードする人は誰もいない。
早坂愛は内心焦っていた。
「いえ、生徒会室の方にピカチュウがいるようで」
「校長もやってんのかし!」
「生徒会室ではポッポですよ。育てやすいポッポは個人的にはオススメですが、ピカチュウでしたら、体育館の方にいますね」
「お前もやってんのか!? てか、詳しいし!?」
礼を告げて、校長は急いでポケストップまで走っていった。学園にはポケストップがいくつもあるから、放課後はスマホ片手に歩いている人が多い。
「う~ う~」
藤原さんは四つん這いになってまで黒いリボンを探している。よほど大切にしているものなのだろう。ところで、パンツの色は思春期男子なら気になる。
白か
黒か
それともピンクか
さあ、決着つけようか。
「うわぁ……えぇー……」
「しっ、黙ってろ」
早坂愛には引かれたが、直接聞かれるのとどっちがいいというのだ。一般人でないとはいえ、女子である早坂愛に金を渡して、女子更衣室で調査してきてもらうのは、思春期男子のプライドに関わる。
ん?
スカートの裾が極黒だ。
「藤原さん。寝転がってニワトリたちにつつかれる自撮りした直後、何かしたか?」
「えっと~、3階から飛び降りて青空をバックにした自撮りがつくしくんから来て……」
「ちょっと待って、あんたらいつも自撮り送り合ってるの!? しかもどっちも意味不明な内容だし!?」
う~う~と藤原さんが唸っていることの方が重要だ。まあ、四宮かぐや経由で、早坂愛も『謎自撮り』を見ているのだろう。
「あ~!リボン食べられそうだったから! スカートの内側に付けたんでした!」
「あ~そう~よかったね~」
「ああ。よかったな」
スペアから極黒リボンに付け替えて、シャキーンとした。やっぱり黒いな。
「じゃあ!私は部活に戻りますね~!」
「ポケモンGOやる気じゃん!? 携帯片手に言うなし!!」
嵐のような女子だよな、ほんと。
ぐったりとした早坂愛といっしょに、生徒会室の前まで戻った。一度覗いた様子から、会長と四宮かぐやは全く変わっていなかったけれど。