藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第14話 第2回テーブルゲーム@生徒会室

 生徒会室にはいつもの4人、というわけではなかった。

 

「いやー、昨日は雷すごかったですね~」

「台風でしたからね。僕はさっさと帰っていてよかったです」

「まあ、昨日はそれが正解だったな」

 

 『おへそとられるぅ~』と泣き叫んでいた千花さんを俺がタクシーに乗せて、家の玄関まで送ったのは、すでに昨日のことだ。会長と四宮かぐやは駆け引きで忙しかった。俺としては、箱入り娘の意外な一面を見れたので、夕立でもいいからまた雷鳴らないかなと期待してしまう。

 

「あの後、眠れたのか?」

「はい、姉妹3人で寝ましたから!」

 

 仲が良いことだ。

 ……姉妹も巨乳なのだろうか。

 

「あれ、四宮さんって今日は来ないんですか? いや、別に来てほしいわけじゃないですけど」

「かぐやさん、今日風邪で休んでいるんですよね~」

 

 おかげで朝から、御行会長はかなりテンションが下がっている。

 

「そうだな。先生に頼まれたプリントを届けに行かなきゃならん」

「あっ、私がお見舞い行きます!ぜひぜひ!!」

 

 健康的な腕をいっぱいいっぱい伸ばしながら、挙手している。

 

「ずいぶんと行きたがっているが、理由はあるのか?」

「ええ。一度だけお見舞いに行ったことがあるんですが、風邪を引いたかぐやさんってすっごく甘えんぼさんになるんです!」

 

 モチモチの頬に両手を当てて、その時の四宮かぐやの魅力をきゃーきゃー語り始めている。抱きしめることも容易で、むしろ抱きしめてほしいと懇願するらしい。なにそのギャップ萌え。

 まあ、『おまかわ』なんだけど。

 

 御行会長はごくりと息を飲んだ。

 

「千花さん、そろそろ風邪引かない?」

「えっ、なんですか急に?」

 

「冗談、気にしないで」

 

 石上会計が『なんだこの変態』みたいな腐った目で先輩の俺を見てくるが、男は度胸なのだと先日学んだのだ。ここまでやってもド天然には躱されるし。

 

「そうだ、みんなで行きましょうよ! かぐやさんも絶対喜びます!!」

「四宮副会長も喜ぶだろうな」

 

 話を聞く限りだと、今は早坂愛が大変な目に遭ってそうだし。

 

「病人のところに大勢で押しかけるのは非常識じゃ?」

「まあ、一理あるな」

「う~、じゃあ私が行きます~」

 

 千花さんが伸ばした机の上のプリントは、すっと横取りされた。

 

「生徒会長として俺が行こう。これは責務だ」

「いえいえいえ、ここは書記の私が!」

 

 書記は関係あるのだろうか。

 むしろ、庶務の仕事な気がする。

 

「まあ、待て。藤原書記が行ったら余計悪化するだろうが」

「えー、しませんよ~! 私をなんだと思ってるんですか~!」

 

 朝帰りしそう。

 四宮かぐやを寝かせないレベルで。

 

「むぅ~、それなら誰が行くか神経衰弱で決めましょう」

 

藤原千花はゲーム好きである。

 

 トランプを使ったゲームではメジャーな部類だ。伏せられた1~13の数字までのトランプ、合計52枚の中から、1度に2枚ずつめくって、それが同じ数字であるならば獲得でき、再び2枚めくれる。

 

「まあ、お見舞い行くかどうかはともかく。参加しますけど」

「ゲームには手を抜きそうにないもんな、お前」

「手加減したら四宮副会長に言いつけよう」

 

 慌てる石上会計に、『冗談だ』と言っておく。

 千花さんはトランプを机の上で混ぜ混ぜしている。

 

「補足ですが、ジョーカーは使いません。あとカード曲げるとかイカサマ行為はなし。露見した時点で-5ポイントです」

 

 運と記憶力が大いに試されるゲームだ。

 あまり策を出せるような場面がない。

 

「じゃあ、ゲームスタートです!」

「千花さん、ドーンだYO!」

 

 ディーラー以外は。

 

「言い換えるなら、ダウト、アウト、イカサマ、お可愛いこと」

「なななな何のことですか!?」

 

 顔の前で手を振っている。

 誤魔化すの下手だな!?

 

「藤原書記、イカサマが-5点だったか。そこに疑問が湧いた。なぜ即時失格ではないのか。俺はそこでようやく警戒した」

「俺は最初から何か仕掛けてくるなと思っていた」

 

 御行会長が四宮かぐやと駆け引きしているように、四六時中、俺は千花さんと駆け引きしている。

 

「うわ、よく見たら、このトランプ!?」

「そうだ、石上会計」

「神経衰弱はディーラー以外、イカサマを仕掛けにくいゲームだからな」

 

 今回の場合、トランプの裏面に数字が隠されている。よく注視しないとわからないが、疑ってかかれば、トランプ同士を見比べていると、しっかりと見えてきた。

 

「藤原先輩せこっ!姑息!周到な準備しておいて速攻バレるとか恥ずかしすぎる!あー、恥ずかしい!!」

「まあ、その辺でいいだろう。千花さんもルール上は-5ポイントって言っていた」

「だな。それでいいか、藤原書記」

「……はい」

 

お可愛いこと。

 

 

「さ、さぁ! 仕切り直しですよ!!」

「まずトランプの確認からな」

 

 次に用意されたのは、珍しい絵柄のトランプだった。基本的にトランプは蔦のような模様であることが多いが、今回のものは、『肉とフォーク』が描かれている。食いしん坊の千花さんらしいチョイスとはいえ、いまだ何かを企んでいることは明白だ。

 

 俺たち3人のチェックも無事に通り、ゲームが開始された。

 

「意外と当たらないものですね」

「こればっかりはな」

 

「やった~もう1枚~!」

 

 基本的に、1枚目を捲って、その数字に合うカードを記憶から呼び起こし、適する2枚目を捲る。2回目のチャンスが与えられても、すでに判明されているカードの中に適するものがあるとは限らない。

 

「御行会長もなかなか姑息ですね」

「おいおい、偶然だろう?」

 

 2枚目でわざわざ運試しをする義務はない。むしろ後続にチャンスを与えないように、すでに判明しているカードから引く選択肢がある。ゲームの進行速度は下がるが、勝つ可能性は高くなる。

 

 ガチで勝ちに来ているな、この人。

 

「まあ、偶然ですね」

「うっわ、川田先輩カード入れ替えたぞ。もっと姑息だ!? しかもすげぇ速かったし!」

 

 記憶に関して、場所とその数字が何かを組み合わせて覚えている人が多い。会長と同じく、当てずっぽうを避けて、すでに出ている候補から選ぶのだが、わざわざその2枚の場所を入れ替えてやることで、記憶の混濁が起きる。

 

「会長~そっち置きますね~」

「うおい!?」

 

 千花さんは、あまりカードのないところへ避難させた。

 

 さっきのは13か。

 それは、扱いに困る数字だったな。

 

「ところで石上、今何時だ?」

「ん? あー、17時前ですね」

 

 千花さんはビクッとした。

 お可愛いことだ。

 

「さあ! 会長の番ですよ!!」

「急かすな。いっぱいいっぱいなんだ」

 

 まあ、イカサマには抵触しない技を抜きにしても、今日は運がいいのか千花さんはポイントが高い。すでに16(-5)ポイントだ。俺が12ポイントであることに対して、残り2人は10ポイントにもまだ達していない。

 

 特に、慎重行動を行っていた会長は焦りを見せる。

 

「むふふ~何を持っていきましょうかね~食欲あるのかな~」

「あれだけ濡れてましたし、結構酷そうですよね」

「四宮が? あいつ、昨日車で帰るって言ってたが……」

 

 俺や千花さんが帰った後、また無茶をしたのか。

 

「いえ、俺はたまたま見かけただけです。校門の前で傘差して、誰か待っていたんですかね」

「元々身体が丈夫ではない四宮副会長だから風邪を引くのも無理はないな。また無茶をする」

 

 候補としては早坂愛もあり得る。

 まあ、その場合わりと放置して帰りそう。

 

 そこまでして待っていたのは。

 

「13と、5……う~」

「攻め急いだな、藤原さん」

 

 残り枚数的に勝負に出たが、はずれ。

 彼女は13を遠くに、5は角度を付けて手元に。

 

「なるほど。だから筑紫は、さっき石上に時刻を聞いたのか」

「えっ、あれって意味があったんです?」

 

 そこからは、御行会長の追い上げが始まった。タネさえわかれば、2人分の情報力が一気に入ってくる。自分が引いたカードを憶えなくて済むように、わざわざ千花さんは手元に置いているからな。

 

「すごい!会長が連続で当てている!」

「時計の時刻だ。トランプを置く角度で1~12までの数字を表すことができる。場所移動戦術かのように思えたのは、13のカードの扱いに困っていたからだ。2度行ったのは運が無いな、藤原書記!」

 

 たぶん、指摘されていろいろと記憶が飛んだと思う。

 恥ずかしそうな顔はお可愛いこと。

 

「せこーーーっ!姑息! しかも利用されるとか超恥ずかしい!」

「だって、お見舞い行きたいだもん! ゲームに勝ちたいんだもん!」

 

 藤原千花はゲームになると、なんでもやる。

 腕をぶんぶんして主張した。

 

「これで!俺の、か、ち」

「残念」

 

 さっき雑談を挟んだ時に、既出カードを入れ替えておいた。まあ、2枚を同時に引いちゃったから、偶然だよね。

 

「筑紫ぃ!貴様ぁ!!」

「せこーーーっ!姑息!鬼畜! どこで買えるのその図太さ!!」

 

「情報屋から買うといいよ」

 

 会長が与えたヒントを加えて、勝ち筋はすでに見えている。そもそも、いろいろと仕掛けるくらいの余裕さが俺にはあった。

 だって、自分の手元であえて1つずらした『時計の針』戦法を使っているのだから。残った1で困ったら石上会計のところへ混ぜ込んでいた。

 

「まけ、た……」

「絶対他にも何かやってるよね! この先輩!!」

 

「心外だな。まあ、1人で行くことは決まってないし、2位の御行会長も……」

 

 そこで、メールの着信が入った。

 差出人は、野崎維織

 

「姉も風邪を引いたらしく、そちらへお見舞い行ってきますね。だから2位の御行会長が行ってあげてください」

「お、おう……」

 

 『風邪引いた、来て』と書いてあった。

 たった1人の弟としては行くしかないだろうが。

 

 

「じゃあ!私が行きます!」

「いや、いろいろやって負けたあんたは諦めろよ!?」

 

 

 

****

 

 こういうときに限って、赤い風来坊は海外で仕事か。

 

「言われた通り来ましたけど、結構元気そうですね、維織様」

 

 背中まで届く髪、相変わらず無表情だが凄まじい美人だ。まさしく高嶺の花と呼べるべき人で、姉だと認識していなかったら、ここまで近づくことさえ躊躇うだろう。実際に姉と呼ぶのは照れるけれど。

 

「じゃあ、起きる」

「怒られますよ、いろいろな人に」

 

 再び、『浮き輪物語』という本に視線を戻した。

 また難しそうなよくわからん本だ。

 

「おかゆ作ってきたんで、食べさせますから」

「ん」

 

 風邪を引いていることで、最近は潜めていたらしい『めんどくさい星人』が発症している。誰かが世話をしないと、飲まず食わずで読書を続けるくらい、生活に無頓着だ。

 

 この人は『あーん』なんて言わなくとも、むしゃむしゃ食べるから、ドキドキがない。むしろベッドにいる姉にドキドキしたらヤバいけれど。

 

「お姉ちゃんって呼んで」

「風邪が治ったら呼びますね」

 

 目を見開いて、『頑張って治す』みたいな決意をしている。子どもか。

 

「眠れない……暇だから、学校のこと聞かせて」

「それが呼んだ目的ですかね。まあ、結構楽しくやってますよ」

 

 一筋縄ではいかないな、こっちの姉も。

素直じゃないというか。

 

「どんな選択でもお姉ちゃんは、良い。つくしが幸せになる選択をして」

 

「妹離れも弟離れもできないお姉ちゃんが何を言っているんだか」

 

 

 

 

 

藤原千花は……

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