秀知院学園の敷地は広く、中等部と高等部の校舎はかなり近くにある。そのため、知り合いの先輩や兄弟姉妹に会うために、中学生が高等部に訪れることは珍しくない。
その逆は下手すればロリコン扱いされる。
生徒会室には珍しく中学生たちが来ていた。
「中学生の来客とは、めずらしい、な……」
なぜここで、犬井さんの後継者が紅茶を飲んでいる。
彼は大神の名字を持っている。大神グループといえば、4大財閥ほどではないけれど、世界的企業の1つだ。むしろ、複合企業だからこそ、構成人数が多いこともあって、現在は世界一の武力を保有していると言っても過言ではない。最近はかなり縮小しているらしいが、世間を騒がせた事件の時は、最大の抑止力となっていた。
「初めまして、大神灰里さん」
「川田……筑紫だったか」
大神の武力について、実権を握っていたのは側近の犬井さんだ。刀1本で最新型のサイボーグを数百体単位で倒せる世界最強候補だった。そして、今は亡き彼と同シリーズ、その最後のアンドロイドとなった、大神灰里。
つまり、めっちゃ強いめっちゃ怖い。
「えっと……?」
もう1人の来客の女子が困惑している。
容姿端麗、彼女は同年代より少し大人びており、少し痩せ気味な彼女のスタイルは抜群だ。身長が平均より少し高めということもあって、この2人がもし制服を高校のものにすれば中学生とは分からないだろう。
「私は中等部の生徒会会計、白銀圭と申します」
実際に見てみると、よく似ているな。
「生徒会庶務、川田筑紫です。いつもあなたの兄をお世話しています」
「それはご丁寧にどうも……あれ?」
「川田さん、予算案会議はどうでしたか?」
生徒会室に残っていたかぐやさんが、2人の対応をしてくれていたようだ。
「釘を刺して、あえて退出してきた。それに、四宮家のご令嬢が姿を見せないことに何人か動揺していたな」
「あら、今回の予算案会議も無事に済みそうですね」
この学園には多数の有力者がいる。その最たる例が、四宮本家のご令嬢であったり、大神の義理の息子であったりするだけだ。その他にも、陸上自衛隊、指定暴力団、宗教法人、警視庁、経団連、政治家一家、ガルダン・アーサラム王国王族、ヒーローといった、様々な組織に属している『家』の子どもが在籍している。
庶民である生徒会長は、彼ら彼女らに立ち向かわなければならない。
「兄は大丈夫なのでしょうか」
「ええ。大丈夫ですよ。四宮の名にかけて何があっても、私が会長をお守りします」
あの事件以降、世界最大の勢力の解体もあって、いまだ情勢は不安定だ。この学園の構成する生徒も『家』の影響で諍いが起こることがある。
まあ、四宮と大神の影響が大きかったり、去年は風紀委員を中心にしてあれこれやったり、だから今のところ、学園内では表立って衝突は起きないだろう。
「それで、本日はどのようなご用件で?」
「生徒総会の配布書類のチェックをお願いしようと思ってきたんです」
それにしても、かぐやさんが何かを企んでいる。たぶん、御行会長の妹さんの好感度を上げて、外堀りから埋めようとしているのだろう。
「それで、大神さんはどのようなご用件で?」
かぐやさんが妹さんとほんわかムードで話し合っている横で、俺は格上の狼に立ち向かわなければならない。年齢の差による先輩後輩だなんて、実力の世界においては無意味だ。
妹さんがいる以上、裏の話はしないと思うけれど。
「付き添いです。白銀が1人で高等部に行くことは不安だということでしたから」
「それなら、ゆっくりしていってください」
付き添いねぇ。
竹刀袋に入れた刀を持参してまで。
「……ハピネス」
彼に生徒会室の隅まで呼び出され、ボソッとそのキーワードを呟いた。
~(パワポケ関連・ネタバレ注意の話)~
※後半にあります。
「こんにちは~!」
生徒会室にやってきたのは、千花だった。予算案会議で部長がいないこともあって、部室で遊んでいたはずだが。
「あー!
圭ちゃんだ!
こんにち殺法!」
「あ!
こんにち殺法返し!!」
なにそれ超かわいい。
両手で狐作って、こんにち殺法している。
「遊びに来たの~?」
「ううん、お仕事だよ」
キャッキャッしている
そうか、平和な世界はここにあったのか。
大神灰里は疑問を浮かべながらも、その謎の行動を注視している。特に意味のない行動だ。だから、彼女たちの使っている殺法は暗殺術じゃない。
「あ、あの……藤原さんと白銀さん、お知り合いなのですか……?」
「そうですよ~ 妹の萌葉と友達だから、よくウチに泊まりにきてくれるんですよ~」
なにそれ羨ましい。
「そっちの男の子は圭ちゃんのボーイフレンド?」
「そ、そんなんじゃないって」
白銀さんは、頬を赤らめて訂正する。
えっ、待って。
この超堅物のどこに惚れたの。
「大神灰里です。中等部生徒会で庶務をしています」
「みんな憧れ生徒会、その書記のチカですっ!」
大神という名を気にする様子がない。
千花さんは、こういうところが長所だと思う。
「そうだ、千花姉ぇ。夏休みに萌葉と原宿に服を買いに行くんだけど、千花姉ぇも一緒に行かない?」
「うん、いくいく~」
敬語抜きにして、キャッキャウフフだな。
「藤原さん、あなたという人は……」
かぐやさん、殺気漏れているから。
俺たち姉弟ほどではないけれど、白銀家も兄妹で似ていることもあって、会長を取られたかのように思えるだろうが、落ち着け。
「かぐやさんも一緒に行きましょうよ~」
「うん! いくぅー!!」
あっ、急にアホっぽく子どもっぽくなった。
百合百合しいな。
「……意外だな」
四宮かぐやが、だろう。
もっと白銀さんに注目してあげて。
「男が女のすべてを理解しようとするなんて傲慢、らしいですよ」
恋する乙女は強しってことだ。
それにしても、女子の服を買いに行くという話題に何も興味を示さない男に惚れてしまうとは、白銀さんを応援したくなる。ちなみに、俺は『あれ、千花さんって俺のためにおしゃれな服買いに行くんじゃね?』くらい超意識してるから。
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~(パワポケ関連・ネタバレ注意の話)~
※読み飛ばしても構いません。
世間話か恋バナかを始めるのかと期待していたのだが、裏の話をしてきた。確かに、それについて最近はきな臭い話が出てきていることはわかる。
ご丁寧に翻訳機を渡してくれて、戦闘用高速言語まで使ってきている。
「はい。まあ、安くなっていますよね。完全に在庫処分価格ですよ、まったく」
「ああ。だから、手が伸ばせる組織が増えている」
麻薬みたいなものだと思ってくれていい。
もちろん、中毒性もある。
「これが一番聞きたいのでしょうが、すでにXもZも効果は出ませんよ。知り合いの能力者も全員が、あれ以来能力を失っています」
サイボーグやアンドロイドは大神の専売特許だが、超能力についてはジャジメントグループの専売特許だった。その研究機関が解体された以上、次に詳しいのはヒーローたちだ。
超能力については、ベクトルを操るだとか、天候を操るだとか、ワームホールだとか、エントロピーだとか、言葉で命令できるだとか、いろいろある。かつてその全てを使えた世界最強の殺し屋もいる。
「なるほど。しかしどうやら、いまだ諦めていない組織があるらしい」
ちなみにハピネスXは薬品で、ハピネスZは機械、そのどちらも超能力を目覚めさせる確率が非常に高いものだ。なお、寿命を確実に縮め、使える超能力に目覚めるかどうかも分からない。
だが、超能力の研究とその素材については大神やジャジメントが牛耳っていたから、匹敵する武力を持つためにはそれに頼る組織が少なくなかった。
「潰すのですか?」
「大神はあまり表立って動けない、とだけ言っておこう」
ツナミ及び新ジャジメントの片棒を担っていたこともある。特に、武力面については4大財閥からかなり厳しい目で見られている。あわよくば、その技術を奪おうとしているのだから、笑えない状況だ。
「頼めそうか」
「最近、暇している人も多いので、大喜びでその依頼を受けると思いますよ。ただ、こっちのやり方でやりますけれど」
不殺について律儀に守る人もいれば、守らない人もいる。現状は個人に委ねることになっているが、派閥ができそうな危うさがある。世界最強の殺し屋が『どっちでもいいじゃない』って言ってくれるおかげでなんとかなっている。
つまり、対象組織の構成員の生死について、依頼者から指定されてもすごく困るということだ。
「それは任せる。だが、相手はすでに近代兵器を持っているとも聞くが」
「超能力が無くなったおかげで、またそういうのが流行っていますよね。それでも、こちらは十分な戦力はありますから、ご心配なく」
超能力とは別に、具現化というものがある。それはご都合主義であったり、願いであったり、妄想であったりする。最近は発現しづらくなっていて、残っている『ポケレンジャー』のレッドとブラックとピンクも、まだ誰かに必要とされているからこの世に残っている。ラブコメ的な意味が強いけれど。
それ以外にも戦闘経験を積んできたアンドロイドやサイボーグ、そして武道家が、ヒーローに所属している。
全員が正義の味方とは言えず、統率も取れないから、寄せ集め感がある。その構成人数も決して多くはなく、様々な組織から抜けたならず者たちだ。決して、テレビやアニメに出ているような華々しい活躍をするヒーローではない。いつだって命がけで、汚いことでも手を染めてきた。
だからこそ、皮肉を込めて、ヒーローと呼ばれ始めた。
質問が遅れましたが、パワポケを知っているかどうか(匿名で投票できます)
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1~14のうち半分以上やったことがある
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いくつかはプレイしたことがある
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彼女攻略シリーズなど動画は見たことがある
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知らないことの方が多い
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まったく知らない