藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第18話 花火と生徒会とヒーローと(後編)

 取り壊し中のビルには夜間、人気はない。すでに半分ほどは瓦礫となっていた。それでいて、祭りのために工事は中断している。だから、隠れ家にするにはいい場所ということか。

 

 封鎖している壁をジャンプで乗り越えた。

 

「いるんだろう?」

 

 内心ホッとした。

 

 藤原さんが柱に縄で縛られており、ご丁寧に目隠しまでしている。そして、見た限りでは怪我をしていない。視界が塞がれているので、怖がった様子もなく、キョロキョロしている。

 

「あっ、つくしくんの声だ! ねぇ、これってなにかの映画の撮影~?」

「ええ。これはサスペンスですよ」

 

 その声の持ち主は銃を取り出し、こちらへ向けてくる。日本にいれば、どうしても目を惹いてしまうだろう金髪の女性だ。眼鏡をクイッとしている姿は、どこかクールさを醸し出しているが、話に聞いている限りでは、ポンコツらしい。

 

「一応聞くが、なんで一般人を誘拐した。暇なのか?」

「フフフ、本当の狙いは、ミスターツクシ、貴様を呼び寄せること……クシュン!」

 

「お姉さん、風邪なんですか~?」

 

 確か、プロフィール上では誰かを傷つけようとすると、くしゃみをする。それはプログラムの書き換えをされたことが原因らしいのだが、まさか本当だったとは。

 

「ええい、くしゅん、これは風邪ではない! くしゅん」

 

「やっぱり風邪じゃないですか!

 ちゃんと体調管理してますか!」

 

 風邪を引くことはない身体だとは思うけれど。

 

「それで、俺に用があるなら、直接呼べばいいのに。用件は何だ?」

「資金不足です。社長の弟であるあなたを取引材料にして、NOZAKIに交渉します」

 

 ん? それだけ?

 

 連絡が来たと、姉さんから10分ほど前に伝えられたが、それにしては到着が早いことにこの女性は疑問を持っていないのだろうか。

 

「えっと、そこにいる子は誰だか知っていますか?」

「あなたの大切なお友達でしょう? 人質にすればあなたが来るとわかっていました」

 

 千花さんも政治家の次女なんだけどな。

 調べていないのか。

 

「あー、うん……なんかどんまい」

「シャラップ!」

 

 それにしても、ペラペラ喋るだなんて。

 プロフィールにポンコツと書かれることも頷ける。

 

「後の予定もある。さっさと、囚われのお姫様を取り返しますので」

 

「くしゅん! こいつを捕らえなさい! クシュン!」

 

 背後から鉄パイプを持った男が襲ってくるが、その腹に蹴りを叩きこむ。鈍い音を立てて、ドサッと地面に倒れた。

 

「こいつは、戦闘用のサイボーグで……」

 

 普通の靴だったら、こっちの骨が折れていたな。

 それにしても。

 

「……えっと、お仲間はサイボーグ1体だけ?」

 

「かくなる上は、くしゅん!」

 

 くしゃみばかりしていて、隙だらけなので鉄パイプでその頭を思いきり殴った。ドゴッという音を立てて倒れたことからも分かる通り、この女性もサイボーグだ。手加減していられない。

 

 でも、まあ、さすがに、ここをスプラッタ劇場にするわけにはいかないか。

 

「縄も解くから、千花さん」

 

 かなりきつく絞められていたな。

 跡にならないといいけれど。

 

「なんで目を閉じているんだ?」

「眠れるお姫様は王子様のキスでしか起きませんから」

 

 冗談だろう。

 まあ、精神的に参っていないようで、何よりだ。

 

「なにをのんきに……」

 

 

 殺気を感じた。

 遅れて、くしゃみが聞こえた。

 

 

「……レーザー銃ってほんと心臓に悪いな」

 

 超能力がほとんどの可能性で消え去った今、意表をつかれる攻撃手段というのは少なくなっている。だからといって、化け物じみた強さはない俺にとって、レーザー銃というのは十分脅威だ。

 

 やっぱり、自分が平和ボケしてることを実感する。

 

「つくしくん、変身したの!?」

「変身ヒーロー!? さては貴様が野崎椿か!?」

 

 顔まで覆う青いスーツは、ちょっとしたレーザー銃から、衛星レーザーまで防ぐことができる。ヒーロー活動を行う際は、顔を隠す意味合いもあるが、相変わらずこの姿は目立つ。

 

「まあ、厳密には装着なんだが……」

 

 ルッカに答える義理もないので、再び拳で気絶させる。この女性のしぶとさだけは世界でも通じるな。わざわざ殺す価値がないと、殺し屋に思わせるレベルらしい。不殺を努力目標にしている俺も、もちろん見逃す。

 

 もちろん、上手く記憶を消してくれるだろう。

 

「どこか痛むところはないか?」

「ううん。ありがとうね」

 

 今度こそ囚われの身から解放し、立てるかどうかの確認をする。

 

「野崎って、維織さんの弟だから?」

「……いや、なんで知っているの?」

 

「いきなり車に乗せられて、いろいろ教えてもらったもん」

 

 どこかで聞いた内容だと思ったが、姉さんの親友である麻美さんの時と同じか。普段はぬぼーっとしているのに、急にやる気出してこそこそやるのが、うちの長女だ。そして、意味のないことはしない。

 

「どう思った?」

「えっ? 綺麗なお姉さんだと思ったよ」

 

 ずっこけそうだった。

 大神のことと言い、ほんと気にしないんだな。

 

「目とか似てるよね~」

 

 それでいて、こちらから話してもらえるよう促していたことが、何度かあった。今になってわかった。隠し事を知っていて、それでいて待ってくれていた。それは、簡単なことではないだろうけれど。

 

 

「ブラックさん、この後は任せてもいいですか?」

「任された」

 

 どこからともなく表れる黒いヒーロー。

 まあ、ヒロインなんだけど。

 

「わざわざ来てもらってありがとうございます。安心感がありすぎて、油断してしまいましたが」

「いいよ。おもしろいもの見れたから」

 

 何のことだ?

 

「囚われのお姫様って言ってた」

「わーわーわー! じゃあ、俺たち急ぎの用事があるので!!」

「きゃー!お姫様抱っこだ~!」

 

 みんなに言い触らされて、いじられる未来が容易に想像できる。

 

 

 

****

 

 やってきたのは、遠前町の河川敷だ。

 ピンクの軽自動車の横にバイクを停止させた。

 

「かぐやさん、良かった~!」

「藤原さん、無事だったのね!」

 

 親友がお互いの無事を祝って、抱き合う姿は見ていて微笑ましくなる。

 

「あはは……親友までヒーローだったなんて」

「あの人たちから少し聞きましたが、僕もまだ信じられません」

「いや、だって、ヘルメットが1つしかなかったから」

 

 変身ヒーローというのは、元々少年の願いによって生まれたらしい。一時はその存在が必要ではなくなり、この世界から消えたらしい。だが、再び数人がこの世界に現れて、今では3人のヒーローが誰かに必要とされて生き残っている。

 

「まあ、あそこで彼氏さんとイチャイチャしている桃井さんと違って、俺はただ皮を被っているというか、借りているというか」

「ああ。ブルーという人の話は少し聞いた」

 

 仕事だったとはいえ、NOZAKIを守るために敵に立ち向かったブルーさんは俺の目の前で殺された。そして残った身体は、世界的な事件の首謀者であるジオットの装備として使われたらしい。レッドさんが戦って取り返したこの装備は、俺に手渡された。

 

「じゃあ、先輩がたまに学校休んでいるのって」

「NOZAKI本社にちょっかいかけてくるやつの対応……あそこって、影響力のある人が多いから」

 

「はぁ~ 俺の知らないところで、そんな無茶をしていたのか」

「睡眠時間を削りすぎな会長には言われたくない、です」

 

「いや、命かけている方が心配になる」

「……まあ、程々に慈善活動をやっています」

 

 そう真剣に心配されるから、言いたくなかった。

 巻き込みたくはなかった。

 

「あと、先代社長の隠し子で、今の社長の弟だっけ?」

「あの人たち、ほんと口軽いな」

 

 別に口止めしているわけでもなかったけれど。

 

「学園の生徒のそういうのは、今に始まった話じゃないがな」

「なぜか他の国の王子とか、ここにも財閥のご令嬢までいますからね」

「……負い目を感じなくてもいいってことか?」

 

 彼らは大きく頷いた。

 会長も怒っているし、石上も怒っている。

 

「はい これで仲直り♪」

「「「おわっ!?」」」

 

 男子3人、背中から押し倒された。

 千花さんのせいでもみくちゃだな。

 

「花火……」

 

 かぐやさんがそう呟いた。

 

「草野球の試合の後の、ちょっとした花火らしいがな」

「それにしては、結構打ち上がっていますね~!」

「町おこしの意味もあって、張り切っていたな……てか重い!」

 

 ほんと重い。

 友情が重い。

 

「つくしくん、助けてくれてありがとうね」

「……どういたしまして」

 

 努力が報われた。

 花火は賞賛してくれているかのように思える。

 

「藤原さんも、皆さんも、ありがとうございます。私と一緒に花火を見てくれて……」

 

 俺たちは勝利した。

 トラブルを乗り越えて5人で花火を見れる。

 

「わわっ! またいっぱい打ち上がりましたよ!」

「たーまやー!」

「かーぎやー!」

「ブギウギ商店街がんばれー!」

「本来、花火を作るメーカーを讃える意味ですからね」

 

 学園の模範となり、秀才たちを纏め上げるのが、俺たち生徒会である。だが、そこに属するメンバーは思春期男子と思春期女子だ。たまには、ハジけて青春を過ごしたい時がくる。友情・努力・勝利があってこそだろう。

 

 やっぱり、王道が好きなのだ。

 

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