藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第21話 第4回秘密特訓@家庭科室

 調理実習。

 

 それは思春期男子にとっては、合法的に女子の手料理を食べられる授業だ。逆に、家庭的な男子や女子は、『料理できるアピール』をすることができる。いくつかの青春ラブコメの参考書漫画によると、ケーキやチョコレートを作ることがあるらしいが、この秀知院学園ではリアルな調理実習が課される。

 

 外食頼りになりがちな生徒のために調理実習は本格的である。

 

「わ~ お魚さんがいっぱいだ~!」

 

 そして、ここは家庭科室。

 

 調理部は休みだったため、運よく借りることができた。現在は生徒会メンバー以外、立ち入り禁止となっている。千花さんたちが生徒会室での用事を済ませている間に、頼まれていたものを用意していた。

 

「ちょっとした水族館みたいになっていますね」

「まあ、コイやハゼの仲間の小魚ばかりだ」

「ちっちゃくてかわい~」

「いやいやいや、どこからその大きい鯉を用意したの!?」

「なかなか脂身が乗っていますね」

 

 さすがに海まで行く時間はなかったため、この川魚全部が食べて美味しいのかどうかは分からない。まあ、まとめて天ぷらか素揚げにすればなんとかなるだろう。ソースは、とあるバラエティー番組でいろいろな野草を天ぷらにして食べている人。

 

 ちなみに、生の場合は新鮮であっても覚悟して食べなければならないレベルだ。

 

「藤原書記は筑紫になんて頼んだんだ?」

「えっと~ 『調理実習の特訓のために何か魚持ってきて♪』って伝えました!」

 

 我ながら、張りきっちゃったな。

 

「少し聞きましたが、2年で三枚おろしを調理実習するんですね」

「そうなんだよ……」

 

 石上に確認されて、御行は項垂れた。

 

 なぜA組とB組は別々の授業なのだろう。それは何度も認識せざるを得なかった。その時、千花さんの頼みとあれば、6限目の体育をサボって川まで行ってきた。これで、調理工程を含めて『料理できるアピール』をすることができる。

 

「しかも、去年は生け簀の魚を〆るところからやったらしい。今日は急ごしらえだけど、明日の朝までにアジやサバくらいの魚を釣ってくる」

「えっ、調理実習でそこまでやるんですか……」

 

 俺としても、かなり本格的だと思う。

 

「ああ……憂鬱だ……」

「会長、私も魚を〆るところからはやったことはないですから」

 

 エプロンではなく、かぐやさんは割烹着を着ていた。歴史ある名家のお嬢様であり、花嫁修業も積んできたらしい。普段のお弁当は専属料理人が作っているとはいえ、本人も料理スキルが高いだろう。

 

 俺も調理室にあった黒いエプロンを着る。

 

「まあ、どんな動物でも首根っこを押さえれば、大人しくなるから」

「あら、私もぜひ参考にしたいので実践してもらえます?」

「先輩たち、もう包丁なんか持って。やる気満々ですね!?」

 

 石上が『怖いです!』って訴えてくる。せっかく泥抜きをさせたのだから、早速調理して食べるに決まっているだろう。別クラスの俺たちが、好きな人に『料理できるアピール』できる貴重な機会だ。

 

 やる気はバッチリあるから。

 

「はぁ!? この魚、食べるために用意したのか!?」

「これは調理実習の特訓だしな。ちゃんと調味料まで用意している」

「さあ、会長! 美味しいお魚料理のために三枚おろしです!」

 

 涎拭けし。

 

 まあ、今日のところは会長ではなく俺がやることになるだろう。川魚で失敗すると、苦くなるだけではなく、毒を持っている部位は適切に取り除かなければならない。それに、必死に暴れる。

 

「まずは、素手で触るところから始めましょう!」

「俺の指、噛みちぎられたりしないか……?」

「いやいや、別にピラニアじゃないんですから」

 

 水族館気分を味わっている3人を横目に、かぐやさんと相談しながら、てきぱきと準備を整えていく。煮つけのための調味料を用意することに並行して、小魚の素揚げのために油をひいたフライパンを熱する。

 

 この間に、千花さんの指導の下、御行会長たちには魚に慣れてもらう。

 

「魚に触ることはできるな。だが、ここに刃を入れる、というのはな」

「それを今から習うんですよ~」

「でも。この鯉とか、すごく暴れますよ!?」

 

 小魚と水族館気分で触れ合っていたようだ。

 今は、大きな鯉に興味を示している。

 

「こんな大きい鯉を三枚おろしって、絶対血がぶしゃーって出るだろ!? 血だけはホント駄目なんだよ!?」

「会長、駄目なものだらけじゃないですか!」

 

 その間に俺とかぐやさんは、小魚をザルで一気に掬って、入念な水洗いを開始する。

 

「会長、私も血はだめですからね」

「じゃあ、ついでに俺も」

「じゃあって……四宮先輩はともかく、川田先輩は絶対平気でしょう」

 

 さっきまで生きていた小魚たちを何の抵抗もなく油に放り込んでいる、そんな俺とかぐやさんが言っても説得力がないな。

 

「あれ、小魚さんたちは……?」

「もうみんな油の中だ」

 

 順調に、キツネ色に変わっている。

 

「あと、魚は血がぶしゃーとはならないな。どろどろって感じだ」

「生々しい解説やめて!?」

 

 鯉の首根っこを押さえつけ、無理やり大人しくさせた。

 

「会長……私も魚を〆るの、こわくなってきました」

「それにしては、川田先輩の手つきに興味深々ですね」

 

 水中から引き上げたとはいえ、まな板の上の鯉は、ばちゃばちゃと最期まで抵抗する。布を被せて一度大人しくさせる方法もあるけれど、経験的にはあまり効果はない。

 

 すでにこの時点で、かぐやさん以外から引かれている。

 

「えー、僕も来年これやるんですか……」

「私、これからお魚、ちゃんと感謝して食べます……」

 

 本格的な調理実習は食材のありがたみを知ることのできる、いい授業なのかもしれない。魚を〆る作業と捌く工程は少しスプラッタなのだが、それを求められるなんて。

 

 付いてこれるやつだけ付いてこい。

 

「さて、ここからはサクサク行くので、見てられなくなったら目を閉じてください。俺もプロではないので、さすがに川魚相手だと1つ1つ工程を教えている余裕はないです」

 

「やっぱりスプラッタな光景なのか!?」

「ちょっとだけだ」

 

 この世のすべての食材に感謝を込めて。

 鯉の頭に向かって包丁を振り下ろした。

 

 

 

****

 

 あの時、御行会長は忠告通り、必死に目を閉じていた。かぐやさん的には、生きた魚を〆る方法を知れてどこか満足げな顔を、会長に見られなくてよかったのかもしれない。俺としては、千花さんや石上にちょっと引かれたことが、心がイタかった。

 

 小魚の素揚げと鯉こくの美味しさのおかげで、好感度プラマイゼロというところか。

 

「血の飛び散り方とかなかなかリアルですね。返り血も表現できている。まあ、あくまでこの曲とかー、彩度を低くするとかー、そういうことで普通より怖く見せているだけでしょうけどね」

「オーケー石上、結構こわいみたいだな」

 

 どこか早口で、石上はそう語った。

 

 魚を〆ることはともかく、魚を捌く過程についても、会長はついてこれなかった。だから、まずは血に対して耐性つけるところから始めることになった。それで、スプラッタ映画を選ぶとはなかなか荒療治だ。

 

 ちなみに、このスプラッタ映画は千花さんの姉から借りてきたらしい。彼女たちに過保護な父の胃痛が心配になった。

 

「この後、うしろからきますよ……ぶしゃーしますよ~」

「後ろ!?」

 

御行は、背中がぞぞぞっとする感覚を味わったようだ。

 

「上からくるぞ、気をつけろ」

「上!?

 いや、後ろじゃないか!? ぎゃああああ!!」

 

「きゃぁぁ! 会長がぁぁぁ!!」

「ぎぃぁ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 スプラッタ映画というのはなかなかいいものだ。怖いものが得意ではない場合、女子らしさや男子らしさを捨てて、反射的に好きな人に抱き着いてもらえるらしい。ちなみに、かぐやさんの悲鳴は会長が抱き着いたことによる、歓喜の悲鳴だ。

 

 

 

 その後、調理実習が始まるまでに、今年からは魚の切り身を焼くだけに変更したという情報が入った。学園内では否定的な意見が多く挙がっていたけれど、現高3の体験談によって尾ひれがついた噂だったようだ。

 

 元々、去年の脱落者続出を鑑みて、変更する予定だったことを家庭科教師は伝え忘れていたらしい。

 

 ともかく、今回の秘密特訓は中止されることとなった。

 

 

 

場合によっては注意書きの必要性が出てくるため、石上優のヒロインとしては誰派ですか?(この二次作品においては個人的にすでに決めさせていただいています。多数決というわけではありません)

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