藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第25話 打ち上げのやり方

 お月見の余韻に浸る間もなく、次の日からまた撤収作業に追われた。由緒正しい学園であるため、生徒会室に私物は置いていってはいけない。だから、1年を過ごした場所はもう、片付ければただの応接室だ。

 

 第67期生徒会は全活動を終えたことになる。

 

「えー、1年間お疲れ様でした

 かんぱい」

「「「「かんぱーい!」」」」

 

 俺たち5人はファミレスを訪れていた。

 

 ドリンクバーで注いだコップの音を鳴らす。活動の打ち上げでファミレスへ来て、飲み放題で味の薄いドリンクを飲みながら、おしゃべりしたり。

 

 なんとも普通の高校生っぽいことだ。

 

「肩の荷が降り立っていうか、ようやく学ラン脱げるな」

 

 生徒会長が学園内で常に学ランを着ている理由は、純金飾緒を身に着けていることにある。これは、戦時下から代々引き継がれてきたらしい。生徒会長はその最後の役目として、丁重に木箱に納めた。

 

「あ~ 後は、優秀なやつが後を継いでくれることを祈るばかりだ」

「御行の常に睡眠不足な目からして、立候補のハードルはずいぶんと上がっただろうな」

「みゆきくんの死にっぷりはなかなかでしたもんね~」

 

 この1年、御行は多くのお偉いさんと関わってきた。そして、庶民の出身であることをよく思わない生徒もいる。四宮のご令嬢が副会長とはいえ、その機に乗じてこそこそと動こうとするやつもいた。

 

「まあ大変だったな。だが、メリットも少なくはない」

 

 秀知院学園は、生徒会に入るだけで様々な特権が得られる。勉学の時間を削ってまで、生徒会活動をした報酬だ。エスカレーター式に内部進学する時に進学点が加算、自習室の利用、資格習得のための補助金などなど。

 

 さらに、生徒会長は理事会の推薦状が貰え、世界中の大学や研究機関へ優先的に合格することができる。

 

「石上は立候補してみないか?」

「ははは 僕が票を取れるわけないじゃないですか。僕と目が合っただけでクラスの女子に泣かれましたよ」

「まあ、それなりに人気もないといけないな」

 

 能力としては申し分ない。しかし石上が生徒会長に当選するには、まだ醜聞が残っている。その元凶がすでにこの学園にいないとはいえ、元不登校の石上はまだ中学時代のことを噂されている。

 

「そうですね~ 私が生徒会長になったら~」

「ははは 冗談言うなよ」

「藤原先輩 面白い冗談言いますね」

 

「こらこら~ そこの2人、殴りますよぉ~?」

 

 人気が高い千花さんなら、生徒会長になることも決して夢ではない。格式高い学園の雰囲気がゆるふわになりそうで、面白そうではある。イベントをどんどん提案するから、役員たちは、忙しい日々になりそうだ。

 

「じゃあ! つくしくんが会長になるのは~?」

「生徒会長のブラック度を知っているから気が進まない。それに俺もあまり人気があるわけではないし、正攻法で票を取れるとは思えないからな」

 

 御行がバイトと勉強の両立を、死ぬ気でやっていることも影響しているけれど、睡眠時間が『人のそれ』を超える可能性のある役職には就きたくはない。

 

「筑紫は昔から目立たないようにしているからな」

「それでも正攻法以外で、票を集めそうですよね」

 

 肩をすくめることで返事をする。

 評価が散々だな。

 

「その、会長は……」

「おいおい、四宮。俺はもう会長じゃないっての」

 

「じゃあ、しろ……うぅ」

 

 名前をうまく呼べないかぐやさんは、しゅんとする。伝えたいことが伝えられないというのは、なんとも歯がゆいことだろう。

 

「……飲み物を取りにいってきますね」

「あっ、私もいきます~ 2人で大丈夫だから!」

 

 2人でドリンクバーコーナーに向かっていく。

 

 5人分のコップを運ぶことは難しいので、声をかけようとしたのだが、その前に止められてしまった。女子同士だからこそ、話せることもあるので、千花さんに任せるしかない。

 

「ところで石上、1年で生徒会長に立候補しそうなやついないのか?」

「あー、すぐ思いつくやつが1人、いるにはいますけどね」

 

 石上は、煮え切らない答え方をした。

 

「ほう、有名なやつか?」

「1年で成績トップの伊井野ミコってやつです」

 

 宿敵の名前を吐き捨てるように、石上は告げる。

 

「あー、俺も名前なら見たことあるな」

「風紀委員に所属している1年女子だな。やんわりと言えば、かなり正義感が強いかなと」

 

 集団行動はあまり得意ではタイプだ。

 

「いやいや、口うるさいわ、真面目すぎるわで、あと大勢の前では緊張して話せない、そういう感じのクソ女っすよ。混院の先輩たちは知らないでしょうが、中学の時は毎回落選しています」

 

 厳しい公約を掲げていて、融通が利かない超真面目、さらには上がり症らしい。優等生とは言えない石上だから、私怨を含んだ人物評価だけれど。

 

「それはまた難儀な後輩のようだ」

「もし当選しても、苦労しそうだな」

 

「どうせ当選しないから大丈夫ですって。どうせなら、立候補しなきゃいいのに」

 

 これは、お互いに拗らせているな。

 少し緩和させておくか。

 

「そう言えば、石上が生徒会に入った直後の苦情なんだけれど、知り合いだってことで伊井野さんが対応したはずだ」

「……いや、そんなこと、あり得ないっすよ」

 

「俺も、今の風紀委員長から、世間話程度に聞いたくらいだけどな」

「生徒会に入る前、筑紫は風紀委員だったな」

 

 1年生たった4人でスタートした生徒会に入るにあたって、風紀委員はやめた。もちろん、石上の過去を調べるために風紀委員に出向いた以外にも、定期的に情報収集がてら世間話に行っている。

 

「なになに、ラブコメですか~? 恋バナですか~?」

「石上が、クラスの女子のことが、心配らしい。オーケー?」

 

 オーケー!って目をキラキラさせながら、納得してくれた。

 ラブ探偵チカは恋バナがお好き。

 

「ちょっ! 違いますからね!」

「え~ 違うんですか~?」

 

 焦ると、逆に誤解を解くのは大変だ。

 まあ、恋バナとは程遠い話のようだけれど。

 

「次の生徒会長で誰になるのかという話だったな」

「それで、1年から立候補しそうな人がいるかどうか、石上に聞いて」

「藤原先輩たちは知っているでしょうけど、毎年落選しているやつですよ。上がり症の」

 

「あー、あの娘かぁ……」

「もう2年前になりますが、私も記憶に残っていますね」

 

 エスカレーター式に内部進学してきた人にとっては、生徒会選挙は名物となっているのかもしれない。千花さんたちは少し心配そうな顔をしているが、特に現1年生を中心として、笑い話としている人が多いのだろう。

 

 あまり、面白くはない話だ。

 

「まあ、まだ今年も立候補するかはわかりませんよ。そろそろ懲りていればいいんですけど」

 

「来年の、生徒会ねぇ……

 どうなることやら……」

 

 御行は、少し声が沈んでいった。

 

 俺たちの生徒会という関係性は終わってしまった。これ以降は、同僚としての関係は消えて、友達としての関係だけが残る。そして、俺たち2年は高校生活の半分が終わりそうだ。進路のことを考え始める時期である。

 

 だから、そろそろ別れる覚悟と、未来に進む準備を始めなければならない。

 

「でもでも!

 またこうやって集まりましょうね!」

 

「……定期的にな」

 

 御行が目線を下げて、そう答えた。

 平日ほぼ毎日ではなくなることはわかっている。

 

 

****

 

 ここ数日、千花さんの荷物を持って、一緒に帰ることが多い。

 

 よくもまあ、ここまで貯めてきたなというほど、持ち帰るべき物が多かった。しかもテーブルゲーム部に置いた物以外だ。とうとう演劇部から譲られた数々の被り物や、持参したクッション、その他雑貨類などなど。

 

「みゆきくん、もう1年やらないかな~」

「来年度は受験勉強もあるからな。あいつの睡眠時間が『人のそれ』ではなくなる」

 

 わかってます~という風に、唇を尖らせた。

 かぐやさんから似たようなことを言われたのだろう。

 

「じゃあ、私かつくしくんが生徒会長をやってね!」

 

 目を輝かせて、見つめてきた。

 

「かぐやさんや石上くんも呼んで……」

 

 千花さんも、そして俺も、まだ終わってほしくないと思っている。1年限定という生徒会役員という関係はいつか終わることは道理だ。だが、忙しくも充実した日々が思い起こされ、『まだこのぬるま湯に浸かっていたい』という我儘が頭に浮かんでしまう。

 

「えーっと、1年生も誰か呼んで……

 それから、みゆきくんも呼んで……」

 

 千花さんは、人並み以上に、大切にしている関係が崩れることを恐れていると思えてきた。

 声は尻すぼみになっていく。

 

 俺も、御行が生徒会長でない生徒会は想像できない。それほど、互いが互いに大きな存在となっていた。深く掘り下げた関係は、それを失うことを恐れてしまう。全てを拾い上げることなどできず、人はどうしても関係性に優劣をつけてしまうのだろう。

 

「御行も、これで終わりにはしないと思う」

 

 ここ最近、御行は生徒会選挙の募集要項用紙を、何度か眺めていた。御行は、かぐやさんの横に立てるように秀智院学園の生徒会長という実績を残すことができた。報酬として、世界に通じる学園の推薦状が手に入った。

 

 だから、これ以上、無理する必要はない。

 それでも。

 

「どうしてわかるの?」

「親友の勘だよ」

 

 スマホの通知音がして、『あと1年、付き合ってくれ』とメッセージが入った。そして、その画面を千花さんは覗き込んでくる。

 

「これっ!」

「ああ。続投だ」

 

 『そういうセリフは好きな人に言ってほしいものですけれど』、送信っと

 

 

 

 

 

 

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