藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第2話 おかず交換のやり方

 昼休みにも生徒会室にはメンバーがよく集まる。忙しい時には昼食を食べながら、仕事をする場合もある。まあ、生粋のお嬢様な四宮かぐやはそのような『はしたないこと』は家の教育上できないだろう。

 

 四宮かぐやの昼食は専属料理人が作ったできたてのものが届けられる、それが当たり前なのだ。彼女専用の部屋に行き、ただ従者と共に高級料理を黙々と食べる。そして、『豪華なランチ』の後にこちらへ合流する。

 

 だが、今日は違った。

 

「会長はいつもお弁当なのですか?」

 

 会長は家庭的男子である。その複雑な家庭事情から昔から家事は彼とその妹が分担してやっているらしいし、会長に至っては睡眠時間を削ってまで飲食店バイトもやっている。そんな彼が、お弁当を作ることくらい造作もない。

 

「妹や筑紫が作ってくれる時はあるがな」

 

 そんな会長には及ばないが、俺も料理はできる。会長はバイトから帰った後に勉強を始めるし、そこにお弁当づくりまでやるとただでさえ短い睡眠時間が『人間のそれ』ではなくなる。だから、アルバイト明けくらいは俺が作ってきている。

 

「まあ、会長もバイトの日くらいは……」

 

 四宮かぐやの冷酷な赤い瞳がこちらを向いたような気がした。その血筋からも、『覇王色の覇気』を持っていてもおかしくはないけれど。

 

「はい、藤原さん」

「今日もありがとう~」

 

 落ち着いて視線を逸らし、今か今かと昼食を待ちかねている藤原さんにお弁当を渡す。彼女は気分屋で、1週間に何度かお弁当を頼んでくる。それ以外は、菓子パンをむしゃむしゃと食べている。

 

「1人分も2人分もあまり変わらないし、ですよね会長」

「まあな」

 

 俺は母親と実姉に、会長は父親と妹さんに、家族のためにお弁当を作る。そのついでだ。

 

―――ついでが本命だ

 

「またトマト入れてる~」

「好き嫌いは直さないと」

 

ここまでがテンプレ。

 

「う~、えいっ!」

 

 トマトを口に押し付けてくるが、抵抗はしない。

 そして、呆れた表情を見せながら咀嚼する。

 

「それじゃあ、いたただきま~す!」

 

 このやりとりのためだけにヘタをあらかじめ取っている。これはもう欲望がバレない頻度で数回やっていることだが、いまだ内心のニヤニヤが止まらない。もちろん、その感情を表情には出さない。

 

「やっぱりタコさんウィンナーだよね~」

 

 これは会長のお弁当から学ばせてもらったことだ。元々は彼の妹が喜ぶという理由らしいが、藤原さんが会長から『あーん』してもらった次の日からすぐ真似した。ついでに実姉のお弁当にも入れたが、不評だった。

 

 ともかく、四宮かぐやは口元を抑えている。彼女は『自分も会長に食べさせてもらいたい』そう思っていることだろう。

 

 だから心の中で告げよう。

 まだまだだね、と。

 

 四宮かぐやの悔しそうな顔を今日も拝むことができた。

 

 

「そういえば。四宮、今日はここで食べるのか?」

「ええ。今後はそうするつもりです」

 

 あれって、伊勢海老だよな。

 しかも湯気たってる。

 

「わ~、かぐやさんのお弁当なんかすごい!」

 

 高級幕の内弁当なんて、初めて見た。牡蠣は確かに会長の好物であるが、お弁当に入っているのを見るのは初めてだ。四宮かぐやなりに策を立ててきたのだろうが、むしろ会長はお弁当の格差に引いている。

 

 藤原さんは……

 食いしん坊なだけか。涎拭けし。

 

「美味しそ~」

「へ、へぇ、美味そうだな」

 

 四宮かぐやの鋭い視線に、冷や汗をかきながら会長は目を逸らす。

 

「ええ。うちのシェフが腕によりをかけて作ってくれましたので」

 

 会長のお弁当はお可愛いですこと、という意味が込められているのような発言だった。

 

 そして、蒸し牡蠣を見せつけるかのようにお箸で1つ1つ食べ始める。実は四宮かぐやは『おかず交換』したいだけであるが、会長は格差を感じて自分のお弁当を呆然と見つめていた。

 

「こちらを見て、どうかされましたか?」

「……いや」

 

 ますます会長がいじけている。

 しょうがない、ここは俺がフォローを……

 

 

 だが、一手遅れた。

 

「あ! 会長、それって味噌汁ですか~」

「まあな。温かい味噌汁と冷や飯の相性は抜群に良い」

 

 保温性のある魔法瓶の水筒から注がれているのは、たぶん朝食の残りだろう。お弁当に汁物があるだなんて、食いしん坊が興味を示さないわけがない。会長が四宮かぐやに見せつけるがごとく、美味しそうに食べているから殊更に。

 

「試してみるか」

「はい!」

 

 目の前で繰り広げられる青春ラブコメ。

 おそらく、俺と四宮かぐやは似たような表情をしていることだろう。

 

―――間接キス!?

―――間接キス!?

 

 お弁当を気になる異性に食べてもらうために、策を重ねてきたのだ。相手の好き嫌いをあらかじめ理解した上で、『あーん』を心理的に促す策を講じた。手作りお弁当から発展する『なんでも言うことを聞く』について策を練るために、心理学の論文を読んだのに。

(参考文献『中川 朝美,「手づくりお弁当テクニック」による好意獲得と説得効果」, 日本説得交渉学会』)

 

だがしかし。

無自覚に会長と書記は『あーん』の一歩先を行った。

無自覚に会長と書記は不純異性交遊をした。

無自覚に間接キスした。

 

 

「美味しいです!会長は天才です!」

「ははは、そうだ、ろ、う……」

 

同じ箸、同じ容器、しかも異性。

 

その優しさで無自覚に乙女心を刺激し、純真無垢な藤原さんや妹さん、年下キャラから懐かれる。学園では恋愛百戦錬磨などと噂されるが、ヘタレな童貞だ。さっさと四宮かぐやの尻に敷かれてしまえばいいのに。すでにべた惚れさせている世界的な美少女を我が物にした後はR-18的な展開まで夢見ている。したがって貴様はモテたい男子の敵だ。

人の姿をした家畜。プライドが無く他人に依存することにばかり長けた寄生虫。さっさと川田筑紫に飼われてしまえばいいのに。胸ばかりに栄養が行っている脳カラ。無自覚に男共を誘惑するサキュバス、雌悪魔。よもや会長までその毒牙にかかるとは。ああ、貴女はなんておぞましい生き物なのでしょう。

((今だけは、絶対に赦しはしない……))

 

 

 だから、四宮かぐやは同志だ。

 視線を交わし合った。

 

(あなたにチャンスをあげますわ)

(今回は策に乗ろう、四宮かぐや)

 

 その天才的な頭脳で出した策に、持ち前のアドリブ力で上手く合わせるだけだ。

 

「川田さん、こちらのお弁当食べてみませんこと?」

「では、お言葉に甘えて」

 

 綺麗な手に持って、突き出してきたのは伊勢海老。

 

 甘んじて、餌付けされるがごとく振る舞う。

 てか、美味いな。

 

(川田筑紫、貴様ッ!!)

「う~、エビ、私も食べてみたかったのに~」

 

 もうひと押し。

 1人だったなら、ここで身を引いていた。

 

「あらあら、藤原さんも食べたいのかしら?」

「美味しいですよ。会長も懇願したらどうですか?」

 

―――勝ちましたわ

―――勝ったな

 

 

「食べかけだけど、問題ない?」

「うん!全然平気!」

 

 餌を待つ小鳥のようなその口に食べかけの伊勢海老を食べさせ、美味しそうにモグモグしている姿をじっと見つめる。俺はその姿をカメラで撮影することを必死で抑えていた。

 

「ウィンナーしか返せるものがないが、その蒸し牡蠣を食べさせてくれッ!」

「いいですわよ。おもしろい形のウィンナーですこと」

 

 四宮かぐやは自分が使ったその箸で牡蠣を食べさせ、爪楊枝に刺さったタコさんウィンナーを対価にもらう。四宮かぐやは心の籠ったお弁当という未知の領域に踏み込んだ。

 

 

そして。

 

―――これが間接キス!?

―――これが間接キス!?

 

「「お外走ってくる!!」」

耐えられなかった。

熱くなった顔を隠すために慌てて廊下に出る。

 

 

 

藤原書記はのほほんと告げる。

「かぐやさんとつくしくん、仲いいですよね~」

 

白銀会長は慌てて心配する。

「まさか牡蠣や海老でお腹壊したのか?」

 

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