藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第27話 選挙と前期生徒会と挑戦者と

 マスメディア部は、なぜか、先日のことを新聞に大きくは書かなかった。2人が付き合っているか付き合っていないかについて、有耶無耶になったまま、各々の青春が進んでいく。

 

 そして、最新号には、今話題の生徒会選挙の事前予測が載せられていた。

 

「会長ぶっちぎりじゃないですか」

「だいたい2倍ですよ!」

 

 石上や千花も嬉しさを隠せていないようだ。

 千花は指先で、棒グラフをなぞった。

 

「しかもここには、『白銀 優勢か』ってでっかく♪」

 

 そもそも、混院の高校1年でありながら、生徒会長に当選して、1年間無事に務め上げた実績と信頼がある。だから、これを覆すとなると、凄まじい人望または権力が必要になってくる。 2年生と3年生を中心として票を集めている御行は投票率58%と、過半数を超えていた。

 

 権力についてはこちらにはかぐやさんがいるし、この1年間で他のVIPの人たちも味方に付いている。

 

「2年の本郷君はともかく、1年の伊井野さんはかなり票を集めていますね」

 

 混院であり、女子にモテモテであり、かぐやさんといい雰囲気だ。だから、そんな御行をよく思わない人や、もしくは女子のお可愛い生徒会長が良いという人が、3年生を中心として、伊井野ミコに票が流れているのだろう。

 

 それにしては、予想していたよりも1年生の票が集まっている。

 

「伊井野さんは同学年の期待が大きそうだな、意外と」

「たしかに、意外ですけど……」

 

 これはあくまで事前の予測だ。

 だから、冷やかしの選択ということもあり得る。もちろん、同学年として、彼女の頑張りを知っている人もいるはずだ。

 

「ともかく、これはあくまで予想だ。

 お前たち、油断は禁物だぞ」

(いやもうこれ完全に勝っただろ!)

 

 心の声がわかるくらい、御行は声が少し上ずっていた。

 

「は~い!」

「気を引き締めましょう。万が一のこともありますから」

 

 かぐやさんは右手で左頬を触りながら、冷静に告げる。

 キリッとカッコいいこと言った御行の横顔に耐えられなかったため、『ルーティン』をしているようだ。『ときめき状態』から、普段の精神状態に強制的に戻る技を土日を使って訓練してきたらしい。

 

 いまだ、かぐやさんは御行に告らせたいらしい。

 

「石上の言っていた通り、伊井野さんも出てきたな。それに、退く姿勢も見せない」

「……まあ、そうですね」

 

 御行が再び立候補したことはすぐさま広まったので、署名は集めたけれども、立候補することを諦めた人もいるらしい。だから、誰も立候補せず、信任投票の可能性は高かった。

 それでもなお、競いにくる2人がいる。

 

「よしっ、少しその顔を拝んでやろうか」

「あら。会長も意地が悪いですね」

「毎日ビラ配りしているから、見つけやすいだろう」

「おっ、牽制しておきますかぁ?」

 

「わー この人たち、悪役みたいだー」

 

 千花が最後の良心かもしれない。

 

 

 そして、声がしている方向へ行けば、校門付近ですぐに見つかった。

 帰っていく人にビラ配りをしながら丁寧なお辞儀と挨拶をしている。それに加えて、歩きスマホや髪型について細かく注意する。美少女に話しかけられて喜ぶ思春期男子もいるが、全体的にあまり良い印象は与えられていない。

 

 選挙活動を手伝っているのは、幼馴染の女子1人だけだ。

 

「……ちょっといい? 」

「……石上」

 

 俺たちよりも、石上が先に話しかけた。

 

「何の用?

 見ての通り、私は忙しいの」

「いや、その……」

 

「あんたみたいな不良に構っている時間はないんだけど」

「……僕じゃなくて、用事があるのは先輩で」

 

 女子の平均よりも背が低く、150㎝ないだろう。御行が長身であることもあって、ますます小さく見える。地毛の茶髪をお下げに結んでいて、スカートの丈も少し長めだ。

 そんな彼女は、身長差をものともせず、凛とした表情で御行と相対した。

 

「君が伊井野ミコか?」

「はい。初めましてでしょうか、白銀前会長」

 

 前、というところをかなり強調した。

 圧倒的不利な状況で、立候補しているだけのことはある。出会い頭に、最も優位な相手に対して、ライバル宣言したようなものだ。むしろ前会長の御行の方が動じているまである。

 

「君の評判は聞いているぞ。

 1年の学年1位だってな。

 だが俺も2年では」

「はい。入学以来ずっと1位です」

 

 御行がかぐやさんに勝てるくらい勉学の努力が実り始めたのは、1年3学期からだ。つまり、彼女は入学時にすでにその実力を持っていたということになる。

 したがって、御行の心は動じた。

 

「だが、勉強だけが全てじゃない。バイトや資格といった社会経験も大事なんだからな」

 

 耳元で『みゆきくん、1年女子にライバル心燃やしてない?』と千花にぼそぼそと言われたが、無言で頷くしかないだろう。

 

 だって、千花の声と息がえっちぃもん。

 

「前会長こそ、選挙も間近だというのに、選挙活動らしい活動をしていないようですね。王者の余裕というものですか?」

「お、おう……」

 

 最近の御行は、当日の演説の準備を徹夜で行っているくらいだ。あと、恋煩い。

 

「私から見たら、ただの怠慢ですけど」

 

 御行は押し黙るだけだ。選挙予想の結果に最も慢心していたのは自分だったことに、ライバルによって気づかされた。

 

「いや、選挙活動なんて所詮単純接触効果を期待した票集め、普段の実績があればそんなまやかし必要ない。それに、さっきの伊井野たちのビラ配りだって」

「それが怠慢だと言うのです。生徒たちに政策について考える機会を与えてこそ、健全な学園運営に繋がるという発想に、あなたたちは至りませんか?」

 

 お互いに早口で持論を展開した。

 石上がフォロー及び助言を入れようとしたが、伊井野ミコの幼馴染によって論破されてしまう。恋の駆け引きに限らず、遠回しでは、伝えたいことは伝わらないものだ。

 

「私たちは、この秀知院がより健全で、尊いものになるよう努力を重ねているだけです」

「ほ、ほう。なかなかの理念を持って臨んでいるようだな」

 

……努力ねぇ

 

 努力が空回っている感じが否めない。友情を求めることは『うまくやる』ことが必要になってくる。プライドが高いことで、伊井野ミコはいろいろと損しているように思えた。

 

 犬猿の仲である石上としては、気になって仕方がないことなのだろう。後輩の為にどうにかしてあげたいが、本人が変わる気がない。そもそも、誰かの性格や考え方を変えるだなんて、容易なことではない。

 

「この想いを、選挙活動を通して生徒たちに伝えたい。単なる票集めのつもりはありませんから!」

 

 1年生だと思って舐めてかかったとはいえ、御行は完全に論破された。これは選挙当日も、仮に相手が実力を発揮できたのなら、御行の苦戦は免れないだろう。

 

「ふっ、なかなか弁の立つ小娘だな」

 

 耳元で『小娘だって、みゆきくんがなんか小物っぽい』と千花にぼそぼそと言われたが、無言で頷くしかないだろう。

 

 いや、ほんと、声と息がえっちぃ。

 

「どんなに立派な理想を抱いていようと、所詮は理想にすぎない」

「投票日が楽しみですね。現実の厳しさをその身で知ることになるでしょうねぇ」

 

「理想なき思想に、意味なんてないというのに」

 

 御行や石上がムキになっている。

 これでは、完全に悪役みたいだな。

 

「そこのあなたは、何も言い返さないんですね」

「いや、御行の自業自得だろう」

「うっ……それは、そうだが」

 

 それに、御行は堂々としてくれていた方が、俺やかぐやさんが動きやすい。適材適所というやつだ。

 

「まあ、御行は俺たちを信頼しているからな。広報活動については元生徒会庶務の俺に、一任されている」

 

 御行から『えっ、そうだったの?』みたいな視線が向けられるが、どうか堂々としておいてほしい。それに、御行の本気は、選挙当日に発揮されうるものだ。

 

「ですが、ビラ配りをしているところは見たことはありませんね」

「それは、一体どんなやり方で……」

「あー、敵に塩を送るわけにはいかないが、後輩の2人がどうしてもって言うなら教えるけれど。これでも、元風紀委員だからな」

 

 石上から『うわぁ……この人が一番悪役似合ってる』という視線が向けられた。彼は悪意に触れてきたこともあって、かなり捻くれているけれど、意外に夢見がちで優しいところがある。

 

「……先輩方から聞いた以上の人のようですね、川田筑紫先輩」

「人物評価というのは、実際に会うことで肉付けされるものだ。今日、2人のことをもっと知れてよかったと思うぞ」

 

 風紀委員でいろいろとやった弊害か。

 

 裁判官の父親に誇りを持っている彼女のやり方は、俺のやり方とは相容れない。彼女の父親は、その輝かしい正義でどれだけ多くの人を救ってきたのだろう。伊井野ミコ自身はその理想に振り回されているけれど。

 まあ、光があるから、影ができる。

 

「ごめんね~ 男子共が伊井野さんをだいぶ意識しちゃってるみたいで」

「藤原先輩……」

 

 伊井野ミコは、さっきから千花をチラチラ見ていた。同じ純院の生徒であるが、中等部からの知り合いというわけではなさそうだ。

 

「あの、私が生徒会長になった暁には、藤原先輩が副会長になって頂けませんか!」

「えーーっ!」

 

 引き抜きとは、許せないことだ。

 

「待て待て、なんでよりにもよって藤原なんだ!?」

「この人を知ってたら、絶対出てこないセリフですよね!」

 

 御行や石上は慌てて伊井野ミコを止めて、かぐやさんに至ってはぬぼーっと無表情となった。

 この1年間、生徒会副会長を務め上げたのに、目の前で相応しくないと言われたようなものだ。だから、来年度は御行が自分を副会長に選んでくれないかもしれないという乙女的な不安を抱いたかもしれない。

 

「論理的に考えて、藤原さんは副会長に相応しいでしょう」

「論理的!?」

「どういう論理だ!?」

「こらこら~ 2人とも~?」

 

 さっきから動揺している御行の代わりに、フォローしておくか。

 

「論理的か……副会長には他にも相応しい人がいるだろうに」

「むっ! あなたこそ藤原先輩の何を知ってるんですか!」

 

 伊井野ミコはこちらに噛みついてきた。

 人数差すらものともしない気概があるようだ。

 

 さて、千花の食べ物の好き嫌いは熟知している。それに、スラングを含めたマルチリンガル、音痴じゃない男性がタイプ、歌声が綺麗、趣味のピアノが得意、アナログゲーマー、たまにずるいところがある、普段はド天然、あと実はちょっと襲われたい系女子などなど。

 最近は、下着の色を調査中。

 

「まあ、それなりには」

「藤原先輩はピティアピアノコンペで全国大会金賞を取ったんです。5か国語を操るマルチリンガルだし、あとこの秀知院学園でも普通の成績を誇ります!」

 

 学年1位の後輩にそう紹介されて、千花はむずむずとした表情で一喜一憂した。伊井野ミコは千花の凄さを語り、俺たちはその凄さを理解していないのだと伝えたいのだろう。

 

「俺は音痴だ」

「……それが何か?」

 

 いまだ克服できていない『弱さ』であって、千花の求める男性像に反している。

 

「校歌の特訓に付き合ってもらえた。その時、趣味にしているらしいピアノを聴かせてもらった。ピアノも、歌も綺麗で、なんだか魂が籠もっていた」

 

 なんて抽象的な表現なのだろう。

 でも、そこに惚れ直した。

 

「あと、姉妹校との交流会ではフランス人相手にペラペラだったし、スラングにも対応できる」

「むふ~♪」

 

プロフィール上のことだけではなく、自分の目で俺は千花を見てきた。

 

「それに、成績が下がったことでお小遣いを減らされるって、テスト前に泣きついてくる。特に理系科目」

「それは言わない約束!!」

 

 この1年で、俺は見てきた。

 魅せられてきた。

 

「議事録をまとめることが上手だと実感させられた。前期の生徒会ではムードメーカーで、意見を進んで発言してくれた」

「えへへ~ そうかなぁ~」

 

「そして、普段から人の話を親身になって聞いてくれる」

 

 これが、俺の主観的な人物評価。

 好きな女子の、好きなところだ。

 

「だから俺は、俺たちは。

 藤原書記は書記がいい」

 

 俺たちは千花の『人となり』を間近で見てきた。

 この1年間が無駄だったとは言わせない。

 

「あくまで個人の主張だ。気にしすぎないでほしい。伊井野さんにも、千花を副会長にしたいことに理由があるのだろう?」

「……私は、藤原先輩には副会長が相応しいと思っています」

 

 ここで意見を曲げるのなら、そこまでの相手だったな。

 

「じゃあ、本気で勝たせてもらうから」

 

 白銀前会長、という出会い頭のライバル宣言にそう返してやった。

 昨年度に混院の1年でありながら、他の立候補者を退け、御行は生徒会長の座についた。彼が率いた生徒会メンバーが誰1人欠けることなく、再選に協力してる。1年前とは違って、石上が加わっている。そんな俺たちが、本気を出してしまうことになる。

 

 御行も、目つきが変わった。彼が副会長に相応しいと思うのは、かぐやさんだけなのだから。

 

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