藤原千花を独占したい   作:ヒラメもち

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第29話 白銀御行と伊井野ミコ

 少し古びていて、歴史を感じさせる体育館だ。

 

 週初めの朝礼のように、高等部全校生徒が集まっていた。御行の控室となっている部屋には、元生徒会役員がいる。義務ではなく、生徒会を続けたいのだという我儘の実現のため、再選を求めている。

 

「うぅ~ 私がなんだか緊張してきました」

「あなたも毎週の指揮をやっているのだから、慣れているでしょう」

「それに、藤原先輩は僕たちと裏方でしょう」

 

 生徒会長になってからの1年で御行は大きく変わった。何度も格上の相手とその言葉で立ち向かってきた。もうやさぐれたり、荒れたりはしないだろう。強いて言うなら、かぐやさん関連でそうなるくらい。

 

 ヒーローやヒロインに憧れた頃より、つよくなった。

 あれからもう1年半か。

 

「御行は、緊張していないな」

「当たり前だ。この1年、どれだけ前に立ったと思うんだ」

 

 御行は『磨穿鉄硯』の文字が書かれた扇子を使って、涼しげな表情で扇いでいる。伊井野ミコとはたった1歳の差だが、それが大きい。ちなみに去年はめちゃくちゃ緊張していた。

 

「ああ。よく知ってる」

 

 御行はいつだって本気で臨む。

 アドリブ力が彼の最大の長所だ。それは、テスト本番で実力を発揮できることにも表れている。常にその鋭い目で周りを見て、誰かの力になる。そして、傲慢とも言える自信や誇りは、常人を超えた『努力』が積み重なって、成り立っていた。

 

「かぐやさんも私の分までがんばってくださいよ!」

「期待してますよ、先輩方」

 

 それに、最近わかったことがある。

 御行もかぐやさんも褒められて伸びるタイプだ。

 

「ええ。わかったわ」

「お前ら、そんなに俺らを緊張させたいか。ほら」

 

 御行が、手を前に出した。

 4人の手のひらがその上に重なっていく。

 

「勝つぞ!」

「「「「おーーっ!」」」」

 

 とはいえ、こういうノリは普段しない。

 おかげで、全員照れくさかった。

 

「私たち、先に行きますね!」

「俺たちは俺たちのできることをやる。だから」

 

「ああ。伊井野ミコは、俺に任せておけ」

 

 運動神経が悪いし、戦うことはできない。

 それでも。

 

「ああ、任せた」

 

 御行はもうヒーローで。

 俺やかぐやさんをとっくに超えていた。

 

 

 

****

 

 伊井野ミコの幼馴染である、大仏こばちが応援演説をしていた。

 

「伊井野ミコは、とてもまっすぐな女の子です」

 

 真の意味で本気で勝ちにいくためなら、本来ここでも俺は行動を起こすのだが、今はじっと見つめるだけだ。たった1人の幼馴染として、この学園で1番の理解者として、伊井野ミコの魅力を語る彼女の邪魔をしたくはない。

 

 それでも。

 みんなに、思いが伝わるわけではない。

 

「ざわざわしてるね」

 

「じっくり考えて練習してきたようだが。

 主観的で、堅い話だ」

 

 語りかけるような内容も、含んでいる。

 魅力をわかってほしい感情が滲み出ている。

 

「私は好きだけどな~」

「さすが、聞き上手」

 

 中等部からの風紀委員での活動を中心として、その真面目さと正しさを、前面に押し出した。だが、それは伊井野ミコの長所であると同時に、疎ましく思われているところだ。自分が好きなものを、好きになってもらえるとは限らない。

 

「……ご清聴、ありがとうございました」

 

 俺たちは手を少し強めに叩いた。

 まばらな拍手は、形式的とはいえ伝搬していく。

 

『続きまして、白銀さんの応援演説です』

 

「あっ! かぐやさんだ!」

「きれいだよなー」

 

 こんなところか。

 

 ざわざわしていた雰囲気が、『わいわいがやがや』へ変わっていく。四宮の名がまず有名であり、そこに本人の人気とカリスマ性が加わる。前年度の生徒会活動の実績においても、決して生徒会長の陰に隠れることはないようだ。

 

「む~」

「千花も人気とカリスマあるから、な?」

 

 不機嫌な表情で唸っていたので、フォローする。

 これから一仕事あるというのに。

 

―――キーンッ

マイクのハウリング音が、響いた。

 

 雷なども怖がる千花も、びくっとした。

 事前に伝えられておいたとはいえ。

 

「白銀御行会長候補の応援演説を務める四宮かぐやです。こんにちは」

 

 何度もできるわけではない切り札を使い、静寂の中でかぐやさんの演説が始まった。まずは前振りとして、秀知院学園の生徒会の運営には、他学校より大きな責任が付き纏うことを説明する。

 

「我々前生徒会は、白銀御行会長の下、それらを実現できていたと自負しております」

 

 体育館の照明が落とされ、石上が作ったスライドが大きく映し出された。誰もが、かぐやさんから視線を変えて、思わず見上げてしまう。そして、『前生徒会長 白銀御行の実績』というタイトルに釘付けになる。

 

 誰もが、今この時、四宮かぐやではなく、白銀御行が主人公なのだと、自然と理解させられた。

 

 

「白銀って外部だろ」

「聞こえているぞ」

 

 耳元でぼそっと話しかけて、すぐにその場を退く。

 

 照明が落ちていることもあってキョロキョロするだけだ。反白銀派というのは、あらかじめ大体把握した。特に3年に多いこともあって、集団の背後だ。もし奇抜な髪形や髪色のような特徴を持っているなら、後ろからでも目立っている。

 

 中央に座っているやつらも、周囲の雰囲気に呑まれていた。去年同様、何人かサクラを頼んでいるが、それ以上にかぐやさんの演説ぶりに魅了されているようだ。まあ、サクラと言っても、普段からノリのいいウェイ系たちに、あらかじめ楽しい内容にすることを伝えたくらいだ。

 

「最後に、今後の活動方針を映像でご説明いたします」

 

 映像といっても、BGM付きで自動スライドショーが流れるだけだ。もちろん、スライドの移り変わりはできるだけ独創的になっている。修学旅行、文化祭、外部講師、そういった前期中に寄せられた生徒の希望に対して、この場で回答した。

 

「ご清聴ありがとうございました。前生徒会役員を代表しまして、白銀御行に清き一票を」

 

 自然と拍手が巻き起こる。

 

 かぐやさんは戻る途中で、ニコッとした。

 男女問わず、ハートにズキューンである。

 

 応援演説の短い制限時間の中で、濃縮された時間だ。活動実績や活動方針も、この時点で前面的に押し出してきた。つまり、生徒会長からはこれ以上の情報開示が行われると、期待されることになる。

 

『続きまして、伊井野ミコさんの立候補演説です』

 

 そして、伊井野ミコはこの雰囲気の中で話さなければならない。

 

 

「私の、なまえは……」

 

 使う予定のなかったはずのカンニングペーパーを開いたようだ。

 

 事前予想から圧倒的に不利であり、当日も含めて、完全にアウェイの戦いになる。先日、俺やかぐやさんの交渉を受けても、噛みついてきた伊井野ミコならば、練習してきたことを貫けただろう。

 

「うぅ~」

 

 千花のように、心配する人の声もちらほら聞こえてくる。

 それがかき消されるほど、1年生を中心とした冷やかしの声が聞こえ始めた。笑っているようだけど、それは嘲笑というものに入る。

 

 伊井野ミコの『努力』が認められない。

 それは王道じゃない。

 

「もー いいだろ。

 時間の無駄だ」

 

 それは多くの人にとっての代弁だ。

 御行はルールを破って、壇上へ立った。

 

「こんなアホらしい公約掲げて、票を取れると思っているのか、伊井野」

「アホらしい……?」

 

「アホらしいだろ。今の時代に強制坊主とか。

 みんな嫌がってると思うぞ」

「だからそれは……」

 

「どうした。反論があるなら、俺の目を見て話すことだ。」

「私が……」

 

 

「私が言いたいのはっ!!」

 

 

「ん

 言ってみ」

 

 

 伊井野ミコは、設置されたマイクを外した。

 

「この公約は全然アホらしくはありません!」

 

 彼女も負けじと、スライドを映した。

 近年のブランドイメージの低下の数値で訴え、他学校や近隣住民からの評価が下がっていることを伝えた。『偏差値だけ良いボンボン共』というキーワードには、グサッとくる言葉だろう。

 

「ほう、具体的には?」

「例えば、文化祭でのキャンプファイヤーは3年前まで恒例行事でしたが、深夜まで居座る生徒やポイ捨て問題がSNSに取り沙汰され、夜間活動に町内会の許可が下りなくなりました!」

 

 教師陣が頭を抱えたり、深々と頷いていたりしている。

 

「風紀の乱れが引き起こした問題の1つです! 周囲の不評は校則緩和の時期と符号します! ルールはモラルを育てるのです!」

「だけど。それだけのために坊主頭にするのはやりすぎだろ」

 

「ロン毛よりカッコいいでしょ!ボウズ頭!」

「お前の好みかよ!?」

 

 秀知院学園の威厳を取り戻そうとしている。

 新しい風であり、革命だ。

 

「今こそ! 『風紀のある秀知院』というイメージ改革が求められているのです!」

 

 大きな声ではっきりと、全校生徒に訴えかける。

 

 今はまだ、たった一瞬のことだったけれど、御行から視線を逸らした。その後は、先日に俺やかぐやさんに立ち向かったように、御行相手に一歩も退くことはない。彼女に感心し、そして白熱する論争から誰もが目を離せない。

 

 彼女の頑張りを認める人が、増えていく。

 この生徒会選挙で、伊井野ミコは確かに大きく成長しようとしていた。

 

 

 

 

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